今回は7月前半の日本公開作を中心に、新文芸坐シネマテーク上映作、日本公開未定作など10作品を扱います。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第91弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■7月6日公開作
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
1973年テニス女王ビリー・ジーンが、元世界王者の男に挑む。映像再現とエマ・ストーンを楽しみに観始めたら、既得権益層の男達を大向うに回した闘いが、痛烈な格差批判へ転じLGBTの権利運動にも及び、終始笑わせつつも熱すぎる展開に目頭が。第一人者の勇壮と孤独。
"Battle of the Sexes"
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、"キング夫人"の名でも知られるビリーが女性解放運動の核となりLGBTの闘いを背負う終盤での、名優アラン・カミングのサポート演技は、彼が端役でも出た意味を深く納得。敵役の元世界王者を演じたスティーブ・カレルの、笑わせつつホロリとさせる演技幅も大変見もの。
■7月7日公開作
『エヴァ』
イザベル・ユペールの瞳の奥には時おり誰もいない感じがして、そんな役者は彼女だけなので、彼女あっての映画が撮られ続ける。盗作により若くして成功した作家がある娼婦に翻弄され失墜の道へ嵌り込む新作『エヴァ』は、還暦を過ぎたイザベルの凄まじき妖艶さ薫りたつファム・ファタール類稀作。
"Eva"
■7月13日公開作
『グッバイ・ゴダール!』は、ゴダール2番目の妻アンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝小説が原作。フラジャイルな佇まいと強い視線をもつステイシー・マーティンがアンヌを好演、ゴダールの奇行に対し拗ねたり怒ったりする反応が逐一魅力的。五月革命や『中国女』周縁、ジガ・ヴェルトフなど諸々興味深い。
"Le Redoutable"
■7月14日公開作
『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
雨傘デモに参加したごく普通の若者たちが、路上で出会う初対面の人々と率直に意見を交わし手をとり合う。真剣さに裏打ちされたその楽天性が記憶の中の香港人たちそのままで惚れてしまう。幾つも観た2014年の香港を撮る映画の中で、親しみや近しさを一番感じたのは本作。
"乱世備忘""Yellowing"
『乱世備忘 僕らの雨傘運動』に登場する学生達にとって、メディアで脚光を浴びる黄之鋒や周庭といった学生リーダー達は「雲の上のまぶしい存在」という描かれ方をしていたのが新鮮だった。そう、誰かカリスマの声に従ったわけではなく、名もない学生が自分にできる最善の選択を個別に考え実行した結果があの占拠行動となり、香港社会の実像があぶり出された点こそ雨傘の成果だった。今振り返れば北京政府は明らかに甘くみて失敗してた。
pherim雨傘現地見聞: https://twitter.com/pherim/status/544904098638622720
黄之鋒+周庭@東大駒場: https://twitter.com/pherim/status/875176322217066500
雨傘関連香港映画群他: https://twitter.com/pherim/status/856275009177702401
『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』
海外音楽家として北朝鮮で初のライヴを行ったロックバンド。ナチ風衣装で全体主義的パフォーマンスを行う彼らが、特異すぎる環境下でプロ意識を貫こうと格闘する。かみ合わない交渉、監視役との緊張、未知の音景に目をむく聴衆の呆然顔など諸々楽しい。
"Liberation Day"
■新文芸坐シネマテークVol.22 ミケランジェロ・アントニオーニ特集
@新文芸坐・池袋
http://indietokyo.com/?page_id=8222
『愛と殺意』(1950)
アントニオーニ長編処女作。情愛劇なのにルチア・ボゼーが美しすぎてマネキンのように冷たく、追跡時の車や階段での逢瀬場面で手前を上下するエレベーターの方に生々しさを看取。上映後大寺眞輔講義にて、非人間的光景の露出が持ち味と。2秒出演する子犬が全てを変えるサスペンス。
"Cronaca di un amore"
『愛と殺意』は、のち欧州三大映画祭で三冠を獲るミケランジェロ・アントニオーニの長編デビュー作で、彼の作風(任意空間を描く稀有な体験byドゥルーズ)のあらゆる萌芽があるとの由。個人的には、愛憎が描かれながら《人物が光景の部分として完璧》な画作りにやたらと惹かれた。今後観る他作が楽しみ。
『椿なきシニョーラ』(1953)
アントニオーニ監督初期作。ヴェネツィア&ローマ舞台の業界内幕物で、主演のルチア・ボゼーが物語から最も超越して見える"空虚な中心"感に眩暈する。人形のような彼女が意思を具えた人間になる瞬間の溌溂とした表情は素敵で、そう落とすんだという終盤の意外性にも引き込まれた。
"La signora senza camelie"
『椿なきシニョーラ』、上映後大寺眞輔トークにて余談的に語られたアントニオーニ幼少期の逸話が興味深く、美術音楽に長けた少年はなぜか家や門の絵ばかりを描く嗜好があったとか。エキストラの会話も鮮明に収録される余白への意識に、無人的ランドスケープへの執着とどこか通底するものを感じた。
■新文芸坐シネマテークVol.21 アンジェイ・ズラウスキー
@新文芸坐・池袋
http://indietokyo.com/?page_id=8219
『シルバー・グローブ』
ポーランド発宇宙SF、アンジェイ・ズラウスキー1987年作。政府に制作続行を禁じられ、ワレサ台頭後十年越しで完成された奇怪世界。人物の肉感と眼圧が物凄く、地獄の黙示録ばりのカオスや制作途上の苦渋すら映像が呑み込んで、破綻を恐れず暴走し切る膂力のゾクゾク感がたまらない。
"On the Silver Globe"
■日本公開中作品
『万引き家族』
湿りを帯びつつ、あっけらかんとする是枝作品の美点炸裂。安藤サクラの情感表現は怪物級にヤバかったし、樹木希林が最後に見せた表情演技はたぶん一生忘れない。嘘を許し合って生きる彼らの生活感覚は、社会と心の貧困化を肌で感じる今の観客にグサグサ刺さる。情景の眼福感も物凄い。
"Shoplifters""小偷家族"
『万引き家族』、ネトウヨの皆さんがもっと誇っていい秀作。話題の「日本の恥を見せるな」系の批判は、不当どころか真逆の誤りだと観ればわかる。格差化激しい没落社会でも、これだけ深い情感と鮮やかな色彩に溢れた暮らしがこの国ではあり得るのだっていう。この小津クラスとも言える哀愁溢れる愛国描写、他にあるかね。
たしかに松岡茉優のあれは、なるほどこれが日本の最新世界遺産かと。(※長崎です
https://twitter.com/camin/status/1013818844501049349
■日本公開未定作
『ベイルート』
内戦下レバノンの首都ベイルートを舞台とする外交スパイ物。ホラー&スリラーの名匠ブラッド・アンダーソン監督作とあって、テンポの良さや生理的な緊迫感の演出に見応えあり。ミュンヘン五輪事件との因縁やモサドの関与など、錯綜拡散する背景設定も良い。日本公開未定。
"Beirut"
余談。
『ベイルート』"Beirut"、国内映画館での上映をスルーし、先月からのNetflix公開を確認。以前ならアルバトロス他からDVDカット→レンタル屋のルートですね。日本特有の配給遅延を反映して、Netflixは国内上映開始前の映画も日本語字幕&国内公開なしとかで実は結構流してたりします。
→ https://www.netflix.com/watch/80195367
前回のふぃるめも(第90弾)で日本公開未定作として扱ったブレイク・ライヴリー主演作
"All I See Is You"、数日前に邦題決定の通知いただきました。
『かごの中の瞳』、9月公開となるようです。監督はマーク・フォースター、前々回ふぃるめも(第89弾)の余談で触れたユアン・マクレガー主演作
『プーと大人になった僕』の監督でもあります。制作年では2年の差がある同一監督による作品が、奇しくも同月の日本公開となりそうです。
おしまい。
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