pherim

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pherimさんの日記

(Web全体に公開)

2018年
07月30日
23:54

ふぃるめも92 スパイウインド・ソシアルクラブ

 


 今回は7月下旬の日本公開作と、〈ソクーロフ傑作選〉企画上映作、日本公開未定作から10作品を扱います。


 タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第92弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■7月20日公開作

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』

誰もが知る代表曲“チャンチャン”の、古都サンチアゴ・デ・クーバからハバナへの労働者の旅路を歌う言葉が、演奏するメンバー達の生き道そのものを象徴する構成に泣かされる。前作から18年、続々召命されゆくレジェンド達への人生賛歌は、底抜けに明るく哀しい。

"Buena Vista Social Club: Adios" https://twitter.com/pherim/status/1018132868080361472




■7月21日公開作

『人間機械』

途方もなく豊かな南アジア染織文化の深淵に覗く、全貌不可視の巨大機械の轟音が支配する色なき宇宙。その奥底を伏し目がちにうごめく男達の姿に言葉を失う。ただ映画によってのみ可能な表現を、一切の説明なしに成し遂げる。それは声高に告発しない。だからこそ観る者の世界を変える。

"Machines" https://twitter.com/pherim/status/1018858685093646338




■7月27日公開作

『ウインド・リバー』

白銀の森に横たわる少女の死体。発見者のハンターとFBI女性捜査官による捜査は、土地の因習と閉鎖性を前に難航する。対峙する獣達や厳格な自然の淡々とした描写が全編で凄味を醸す、『ボーダーライン』の脚本テイラー・シェリダン初監督のクライムノワール秀作。沈黙する森の圧力。

"Wind River" https://twitter.com/pherim/status/1020660175810674693

ちなみに本作『ウィンド・リバー』、最近では『Marvel パニッシャー』主演で気を吐いたジョン・バーンサル(Jonathan E. "Jon" Bernthal)が出ている。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作『ボーダーライン』の脚本Taylor Sheridan機縁の客演だろうけど、短いながら非常に重要な役柄でファンには垂涎シーンも。(画像tw↓)

  "Wind River"昨年末バンコク鑑賞時tw: https://twitter.com/pherim/status/945493572815425538




■7月28日公開作

『ヒトラーを欺いた黄色い星』

大戦下ベルリンに潜伏しつづけて生き延びた1500人のユダヤ人。ナチスのユダヤ人排斥を背景とする映画は数多いなか、本作は生還者4人の隠遁生活に焦点化。衣装からセットまで作り込まれた再現ドラマの迫真性を、インタビューによる本人語りの生々しさが際立たせる良構成。

"Die Unsichtbaren" https://twitter.com/pherim/status/1021553924774318080

  試写メモ42 「ホロコーストの此岸」: 近日投稿予定




『沖縄スパイ戦史』
敗戦間際、沖縄・八重山各島へ配置された陸軍中野学校の兵士達が仕掛けた裏の戦争。本土決戦を遅らせる駒として児童スパイを量産し、住民を消費する戦術の一貫性に震撼。ひめゆり隊など沖縄戦の主なイメージをなす本島南部の惨劇とは別種の壮絶を、多数の証言からあぶりだす意欲作。

https://twitter.com/pherim/status/1021022625114480641




『国家主義の誘惑』
フランスリベラル視点からの、日本現代社会への通史的理解を概観できた感。その独特の距離を置いた観察による、明治から戦後の高度経済成長期までを扱う前半概括部が興味深かった一方、後半はその目線の遠さゆえむしろ主張がかなり渇いた印象。日本向け再編集あっても良いかなと。

"Japan, La tentation nationaliste" https://twitter.com/pherim/status/1021939258813083648




■特集上映〈ソクーロフを発見する「権力の4部作」+傑作選〉@シアター・イメージフォーラム http://www.imageforum.co.jp/theatre/movies/1397/

『精神の声』
アレクサンドル・ソクーロフによる、アフガニスタンへと出征するロシア人兵士たちを捉えた328分の長尺作品。映画というよりある種の夢へと没入する体験は、映し出される若者たちがほぼ戦死を遂げた事実も込みで唯一無二、いやこれ映像表現として凄まじく先行しているのではとすら。

"Духовные голоса""Spiritual Voices from the diaries of war/a narrative in five episodes" https://twitter.com/pherim/status/1022671291848040448

兵士たちがふざけあう声すらも遠景の一部となるような、考古遺物に先史の声を聴きとるような弱い感覚。自分の内を常に流れていながらふだん自覚のないその感覚自体を幽かな声として聴く体験。

『精神の声』
兵士たちがふざけあう声すらも遠景の一部となるような、考古遺物に先史の声を聴きとるような弱い感覚。自分の内を常に流れていながらふだん自覚のないその感覚自体を幽かな声として聴く体験。特集上映“ソクーロフを発見する「権力の4部作」+傑作選”@シアター・イメージフォーラムにて鑑賞




■日本公開未定作

"Human Flow"

世界の難民の現状に取材した艾未未(アイ・ウェイウェイ)監督作。中国当局に拘束された履歴をもつ世界的現代美術作家ならではの訴求力・特異性は影を潜め、淡々としかし旺盛に現場を撮り進める。難民の現場を「観光」している感が否めない点は素か露悪的に議論喚起を意図したか。

https://twitter.com/pherim/status/949651246671052801

艾未未(アイ・ウェイウェイ)"Human Flow"は、バンコク・パラゴンで開催された“UNHCR 7th Refugee Film Festival in Bangkok, Thailand”上映作の一。会期後本作のみシネコン系列で半月ほど全国公開された。彼のパフォーマンスをめぐっては、やはり意見が分かれるようですね。https://twitter.com/pherim/status/949655101051781120




"God’s Own Country"
ヨークシャーの自然描写が冴えわたる秀作LGBT映画。異邦者の到来に触発されたダメ息子の成長過程や二人の関係性、翻弄される家族の暮らしぶりがこの自然表現の基調を崩さないのは、音と映像の連なりに極めて精緻な演出の裏打ちがあるからだ。その先にひらける眩しき終焉は感動的。

https://twitter.com/pherim/status/1024250746890477568




"Marrowbone"
町の人々を避け、奥深い山里の古い屋敷で暮らす4人兄弟。彼らの両親にまつわる暗い過去が、やがて恐怖そのものとなり4人を襲う。外部からの目撃者であり救済者である少女の視点を通して観客心理をわしづかみにする、無用の編集介入的ラストを除けば通年ベスト級の極上サイコ・ホラー。

https://twitter.com/pherim/status/948785058432692224

アニャ・テイラー=ジョイ、正気の日常世界と狂気に満ちた怪異なる世界をつなぐ役柄を、『ウィッチ』『スプリット』に続き好演。ちなみに"Marrowbone"の次男役チャーリー・ヒートン(若手注目株!)とはマーベル新作"The New Mutants"でも共演。これもマーベルながらスリラーっぽい。

"Marrowbone"での4人兄弟の長男役ジョージ・マッケイ(George MacKay)は、『はじまりへの旅』でも6人兄弟の長男役を熱演。願望と責任、理想と現実の間を揺れ動くこの役柄で一皮むけた感。#2017年映画ベスト10 に入れる人も多い秀作でした。https://twitter.com/pherim/status/848099358281093120



 

 余談。

 日本公開未定作として扱った"Human Flow"、今年秋頃全国5都市ほどで観る機会あるかもです。昨年暮れ耳にした可能性の話として。『ウインド・リバー』、バンコクでの鑑賞時に日本公開未定作として当時のふぃるめもでも扱いましたが、再掲時の数調整込みで今回は10作品としています。(過去の超過分がまだ+1あったため)
 "Marrowbone"は、作品の質的にはミニシアター系配給水準をあらゆる指標で越えるのですが噂を聞きません。不思議です。




おしまい。
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