pherim

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pherimさんの日記

(Web全体に公開)

2019年
12月11日
22:13

ふぃるめも126 魔術師の不在と乾いた夢

 
 

 今回は12月6日~12月14日の日本上映開始作と、アテネ・フランセ文化センター《ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス監督回顧》上映作、国際交流基金アジアセンター《格差を包む信仰 映画が描く東南アジアの赦しと救済》上映作から12作品を扱います。(含再掲2作)


 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第126弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■12月6日公開作

『アルファ、殺しの権利』

本物のSWAT部隊を登用し、フィリピン麻薬戦争の現場へ肉迫するブリランテ・メンドーサ新作。傑作『ローサは密告された』のエンタメ+音響強化版といった自己模倣感が濃いものの、汚職警官を軸としドゥテルテ政権の武力攻勢を背景に置く映像は、細部の迫真性が目を飽きさせない。

"Alpha, The Right to Kill" https://twitter.com/pherim/status/1150715223172452352

  初見時ツイート:https://twitter.com/pherim/status/1150715223172452352

 ※今夏『東南アジア映画の巨匠たち/響きあうアジア2019』上映時↑
 
 
 

■12月7日公開作

『リンドグレーン』

長くつ下のピッピやロッタちゃんなど、元気で強気な子供達の由来も納得の、児童文学作家アストリッド・リンドグレーン波瀾万丈の一代記。厳しい戦間期にシングルマザーで働き子を育てる姿は応援したくなるし、心が離れかけたわが子との絆を彼女の“おはなし”が回復しゆく様に感涙。

"Unga Astrid" "Becoming Astrid" https://twitter.com/pherim/status/1197348766040252418




■12月13日公開作

『ある女優の不在』

イラン当局抑圧下の名匠ジャファル・パナヒ監督新作。自殺動画を残して消えた少女の謎を監督と女優が追うなか、トルコ語圏アゼルバイジャン州の僻村が不気味さを増し、果てはイラン映画史の悲劇まで顔を覗かせる。師匠筋キアロスタミからの借景も意味深な、真の映画史的怪作来れり。

"Se rokh" "3 FACES" "Three Faces" https://twitter.com/pherim/status/1200988434304626689

  パナヒ前作『人生タクシー』https://twitter.com/pherim/status/852829527315144705

イランは現役の優秀な亡命監督を多く輩出している国でもありますが、故国に留まり政府の禁制(製作禁止30年の処分etc.)を出し抜いて奇作傑作を生み出しつづける彼のバイタリティたるや。




『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達夫の夢』
アウトサイダー・アートの至宝として著名な理想宮作者の伝記映画。生真面目すぎる郵便夫また頑固すぎる父として、家族や共同体に優しく包摂され穏やかに暮らす主人公の姿がそのまま、病院送りにして事足れりとする現代への鋭い風刺となる。ラストが殊に秀逸。

"L'incroyable histoire du facteur Cheval" "The Ideal Palace" https://twitter.com/pherim/status/1200253143260352512




『家族を想うとき』
闘士ケン・ローチ監督の粋極める一作。みなベストを尽くしてるのに、心から思いやっているのに日々擦り切れ、ひび割れる家族の絆。リーマンショックから立ち直れず沈み込んでゆく一家に対する慈愛に充ちた、しかし安易に救いを描けば嘘になると知る目線の、底なしの深さに圧倒される。

"Sorry We Missed You" https://twitter.com/pherim/status/1200606075638046720

原題のダブルミーニングをまったく活かさないだけならともかく、代わりに供される含蓄も皆無で余韻も引かないこの邦題は、一見無難そうなぶん余計に日本の配給会社が陥ってる迷妄が端的に表れてるし、まぁ酷い。

それとは逆に、俳優インタビューの訳文は珍しくとても良い。なのだわ文体、なんだなのさ文体という非常にキモい映画配給仕草をやめてくれてる。これは貴重。




■12月14日公開作

『つつんで、ひらいて』

広瀬奈々子監督新作は、装丁家・菊地信義の日常を撮る。衰退気味な日本の書籍カバー文化がもつ奇特さの内で、75歳の菊池が見せる最長不倒距離への到達感ある仕草の記録はガチ貴重だし、言い知れない何かがそこかしこに映り込んでる。ちなみに分福製作、この流れ今後気になる。

https://twitter.com/pherim/status/1199544675486457856




『エッシャー 視覚の魔術師』
幾何学不思議図絵により、“絵で考える”をガチで実践しつづけた生涯。「私は数学者だ」と芸術家としての評価を受け入れなかった真意が精彩かつ丹念に示される。アニメとなってエッシャー迷宮を自在に走り回り、車輪化するダンゴ虫《でんぐりでんぐり》がやたらかわいい。

"Escher: Het Oneindige Zoeken" "M.C. Escher - Journey to Infinity" https://twitter.com/pherim/status/1202793281102368768




■《格差を包む信仰 映画が描く東南アジアの赦しと救済》国際交流基金アジアセンター
 https://jfac.jp/culture/events/e-konsei-asia-2019/

『グブラ』
ヤスミン・アフマド、凄すぎて泣ける。『細い目』から数年後の物語でオーキッドの夫の不倫と、娼婦姉妹とムスリム聖職者夫婦の織りなす悲話が並走する。和解した華人夫婦が廟へ祈る姿に、教会で聖句読むジェイソン兄と、コーラン諳んずる姉妹が重なる終盤からラストへの神懸かり転回に涙。

"Gubra" https://twitter.com/pherim/status/1161524004915691520

  今夏初見時ヤスミン・アフマド関連ツリー: https://twitter.com/pherim/status/1161524004915691520

上映後講演:『グブラ』の家族関係良図解、検閲介入で2家族の物語の筋が乖離したと山本博之先生、なんと。橋本彩先生のラオス映画再起動報告、想像を超える初発の萌芽感。今後タイvs中国資本のせめぎ合いが内容へ影響しだすに従い、検閲姿勢も軟化する予感。




『アット・ザ・ホライズン』“At the Horizon”
父の権勢に甘える富裕青年の高慢が、貧しいながらも充たされた一家の幸福を突き崩す。閉鎖系スリラーから密林廃墟への空間転回と、急速な格差化を風刺する都市描写の並走が飽きさせない。ラオス国内での製作に拘るアニサイ・ケオラ(Anysay Keola)監督作。

"At the Horizon" https://twitter.com/pherim/status/1198088993507700736




■《ブラジル「シネマ・ノーヴォ」の精神的支柱 ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス監督回顧》アテネ・フランセ文化センター
 http://www.athenee.net/culturalcenter/program/pe/pereiras...

『リオ40度』
ピーナッツ売りの黒人少年たちを軸として、灼熱のリオに渦巻く権勢と情欲の嵐を群像劇で映しだす。少年がトカゲを追い動物園に迷い込む場面と、サンバから鳥瞰視点へ移行するラストが神。1955年完成時“共産的”と検閲受け、上映を禁じられたネルソン・ペレイラ・ドス・サントス長編第1作。

"Rio, 40 Graus" https://twitter.com/pherim/status/1196985999265394690




『乾いた人生』
ブラジル東北部の荒野で難民化した一家が、干魃と搾取の狭間でどんどん“乾いていく”映画で物語に救いはない。しかしその一本調子ゆえにこそ、逐一強い各場面が全編で活き続ける、形式と内容のビタ一致したまさに傑作。飼い主に襲われた犬がリスを見つ め目を閉じていく場面の尖さ半端ない。ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス1963年作。

"Vidas Secas" https://twitter.com/pherim/status/1199175527321329665




『オグンのお守り』
かつて黒人奴隷の持ち込んだブラジル民間信仰ウンバンダ教の秘儀を授けられし青年が、ヨルバ族軍神に起源もつオグンの加護で不死身となりマフィアの抗争を勝ち抜いていく、ゴッドファーザー南米オカルト版。命奪い合う、仁義に厚くママに弱い男たち。意図せぬ笑いに充ちる奇怪作。

"O Amuleto de Ogum" https://twitter.com/pherim/status/1209302520859725825





 余談。
 
 ま、何はともあれケン・ローチ御大。全然枯れてないし引退撤回うれしいし、何ならあと5本は行けそうな。(切望




おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh

コメント

2019年
12月12日
19:41

 シュヴァルの理想宮は見に行きたいんですけどねー…
 年明けまで大阪で上映してくれたら希望はありますが、年内で終わってしまうなら難しいです…(TT)

2019年
12月12日
22:54

2: pherim

どちらかというとロードショー一巡後に、シネ・ヌーヴォや京都シネマなど名画座系に長く出回るタイプの映画です。ので年末年始まで生き延びてなかった場合でも、2月~3月頃に期待できるかと。:D

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