今回は、第20回東京フィルメックス(2019/11/23~12/1開催)コンペティション部門出品全10作品+VR上映1作品を扱います。(含再掲1作)
なお特別招待作、特別上映作は次々回ふぃるめも129にて。
→ふぃるめも129: https://tokinoma.pne.jp/diary/3634
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第127弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■第20回東京フィルメックス・コンペティション部門
https://filmex.jp/2019/
※以下、日本語タイトル横へ例外的に原題・英題を表記しているのは、日本ロードショー時に高い確率で日本語題が変わるためです。
『気球』"气球" "Balloon"
輪廻転生のチベット仏教世界を生きる夫が、市場経済の波に攫われた困窮のもと堕胎を迷う妻に「爺ちゃんが生まれるんだぞ、殺す気か」と迫る。けれどチベット映画をリードする多産型巨匠と化したペマツェテンが真にヤバいのはやはり映像美のほうで、独り稀有の進化系を辿りだしてる感パない。
"气球" "Balloon" https://twitter.com/pherim/status/1204600987584843777
※第20回東京フィルメックス最優秀作品賞受賞作
『水の影』 “Shadow of Water”
マラヤーラム映画問題作。古びたジープの雨がちロードムービーから急転、一切予測不能の密林展開が神話的。能書きだけの愛で縛ろうとする男より、暴力/レイプで従わせる男を本能で選んでしまう女のサガ、という動物学学士&元弁護士の監督が表す人間観にインド的抑圧の現在をみる思い。
"Chola" "Shadow of Water" https://twitter.com/pherim/status/1201345451598893056
女性主人公が茫然自失としながら河原で石積みにとり憑かれる場面、上映後Q&Aでの「心のバランスを取り戻す作業で宗教性はとくにない」という監督の発言は少し面白い。山奥の川で為される性の営みにアピチャッポンも想起されたけど、本作は暴虐性に優り
『ブリスフリー・ユアーズ』の湿潤性はないかな。
『昨夜、あなたが微笑んでいた』 "Last Night I Saw You Smiling"
プノンペンの歴史的集合住宅の最期を見届ける。そこで育った監督による血肉化した目線が捉える団地風景は、どのカットにも愛情や追憶の奥行きが感じられる。風や光の通り具合がよく映し撮られており、記憶遺産的価値も高い。モリヴァン建築にを巡り後日連ツイ予定↓。
"Last Night I Saw You Smiling" https://twitter.com/pherim/status/1201711047377244160
リティ・パン
『紙は余燼を包めない』“Paper Cannot Wrap Up Embers”(’09)舞台の娼館も、『昨夜、あなたが微笑んでいた』主役の団地建築“ホワイトビルディング”に存在した。風通しに富むコンクリ意匠、壁の剥落具合や一部ツートンカラーのペンキに「あ、同じだなぁ」と何度も。
『紙は余燼を包めない』:https://twitter.com/pherim/status/906849474672078849
https://twitter.com/pherim/status/907036053365604353
https://twitter.com/pherim/status/907058075919462400
※第20回東京フィルメックス学生審査員賞&スペシャル・メンション
『評決』“Verdict”
DV訴訟を通し、フィリピン裁判制度へ疑義を呈する意欲作。傷だらけの母娘を誰もが目前にしながら、誰かの意志でなくシステムの不備から暴力夫へ有利な状況が作られる様に呆然。メンドーサ作品と言われて観たらそう信じられるほどブリランティズムに貫かれ、肉感描写の歯応え充分。
"Verdict" https://twitter.com/pherim/status/1206785896994885633
監督Raymund Ribay Gutierrezは、メンドーサ助監督出身。本作はアカデミー賞外国語映画賞のフィリピン代表へ選出の模様。
ブリランテ・メンドーサ連ツイ『ローサは密告された』『アルファ、殺しの権利』『AMO 終わりなき麻薬戦争』他:
https://twitter.com/pherim/status/1150715223172452352
ところで本作の東京フィルメックスにおける邦題『評決』は、語の慣用的には誤り。原題"Verdict"直訳の意図ないしポール・ニューマン主演
『評決(The Vertdict)』の流用だろうけど、合議制裁判でなく裁判官個人の裁量であることがストーリー的にも意味をもち、かつ終盤で法外の懲罰も加わることから、シンプルに直訳狙うなら『裁決』や『判決』より『裁き』とかが適当かも。
『ニーナ・ウー』"灼人秘密"
鳴かず飛ばずの女優が、大役抜擢と引き換えに心を譲り渡して自己像と世界が分解し始める。斜に構えれば #Metoo に乗っかりデヴィッド・リンチ調の
『ネオン・デーモン』狙うあざとさとも受け取れるが、主演・吳可熙(ウー・カーシー)自らの脚本+ミャンマー出身監督ミディ・ジーの醸す距離感は好塩梅。
"灼人秘密" "Nina Wu" https://twitter.com/pherim/status/1206405278113001473
『春江水暖』 "Dwelling in the Fuchun Mountains"
元朝の山水《富春山居図》を下敷きに、映し撮られる都市という自然の細部へ人生が溶け込んでいく。カメラは絵巻物を舐めるように水平移動し続け、杭州富陽に暮らす四兄弟各々の家庭に中国の今が象徴される。出演者がほぼ親戚筋という’88年生まれ顧曉剛(グー・シャオガン)の長編第一作。
"Dwelling in the Fuchun Mountains" https://twitter.com/pherim/status/1203892856772952064
※第20回東京フィルメックス審査員特別賞受賞作
『波高 (はこう)』 Height of the Wave
再開発の金の匂いが人を狂わす孤島の限界集落へ降り立つ女警官とその娘。島の男たちに春ひさぐ少女の失踪。ブラックな水産工場で働く島外の訳アリ青年らの怒りが、枝葉の筋ながら効く韓流閉鎖空間系寓話劇。廃れた無神父教会から象徴としての浸水(バプテスマ)への流れ、日本では要解説かも。
"파고/Height of the Wave" https://twitter.com/pherim/status/1202430478160056320
余談ながら、「波高」原題“파고”(はこー)で検索すると“Fargo”関連が多く出てくる。“Fargo”公開時に音の連環から選ばれた訳題なのだろうけど、“Fargo”=“파고”前提に本作『波高』を考えると、また違った感興を催しますね。
さらなる余談だけどハングルって日本人だと2、3時間ほど勉強すれば7割半は読めるようになるし、何年放置しても意外に忘れません。旅行中や街なかで役立つこともけっこうあるので、韓流KPOP焼き肉その他興味ある人にはお奨めです。
『静かな雨』
小雨降る住宅街の階段道へふと射し込む木漏れ日のような一篇。衛藤美彩演じるたい焼き屋主人のこよみが丹念につぶあんを練る姿に
『あん』を想起していたら、当の河瀨直美が母役で登場しのけぞる。川瀬陽太、村上淳、古舘寛治らが脇を固めるとそれだけで醸される質実空気はけっこう好き。
※予告編見当たらず。2020/2/7全国公開のため近日挙がる見込み
"Silent Rain" "It Stopped Raining" https://twitter.com/pherim/status/1205319157182369792
※第20回東京フィルメックス観客賞受賞作
『熱帯雨』“Wet Season”
シンガポールで働く女性教師が、不妊治療に非協力的な夫の不倫を目撃し、男子生徒から猛烈アタックされスイッチオン。中国語教育の現状やマレー系/華僑系の力関係、ドリアン買い食い場面などさり気ない日常&背景描写が逐一良い。義父と男子生徒との、木漏れ日の温もり溢れる交流が隠し味。
"Wet Season" https://twitter.com/pherim/status/1202077934233833473
『つつんで、ひらいて』
広瀬奈々子監督新作は、装丁家 菊地信義の日常を撮る。衰退気味な日本の書籍カバー文化がもつ奇特さの内で、75歳の菊池が見せる最長不倒距離への到達感ある仕草の記録はガチ貴重だし、言い知れない何かがそこかしこに映り込んでる感。ちなみに分福製作、この流れ今後気になる。
"book-paper-scissors" https://twitter.com/pherim/status/1199544675486457856
※第20回東京フィルメックススペシャル・メンション受賞作
■第20回東京フィルメックス・VR上映
https://filmex.jp/2019/news/information/vrprogram
『戦場の讃歌』“Battle Hymn”
VR作品。イスラエル国防軍によるパレスチナでの拘束任務へ赴く一兵士への主観移入。捕虜がアラブ語で歌い出した讃歌へ、楽器とヘブライ語で兵士達が参入する。輪唱が鍵なだけに、視覚のみで音がHMDの動きと非同期なのは惜しいが、煙草吸う仕草など唇の反応を誘う没入感。
"Battle Hymn" https://twitter.com/pherim/status/1207871976724811776
余談。
記者証をとり映画祭の開催中毎日通い詰めるということを、久々にやりました。この規模の映画祭ではたぶん初めてで、思いのほか疲れたかも。なお特別招待作、特別上映作は次々回ふぃるめも129にて。諸々実りある8日間ではありました。
おしまい。
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