今回は11月22日~11月29日の日本上映開始作とポーランド映画祭2019上映作から16作品を扱います。(含短編5作/再掲2作)
※なお11月22日公開作中『テルアビブ・オン・ファイア』『草間彌生∞INFINITY』『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』は前回「ふぃるめも124 無限に夢をみる象」にて扱いました。→https://tokinoma.pne.jp/diary/3554
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第125弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■11月22日公開作
『ゾンビランド:ダブルタップ』
何が楽しいって前作から10年たって、同キャストを実現させたこと。20歳だったエマ・ストーンは風格漂わせ、でもウディ・ハレルソンの炸裂親父ぶり安定で超展開乱れ撃ち、しかも前作で死んだあの人が。作品内も10年経過して、ずっと4人で生き延びてた設定が胸熱すぎる。
"Zombieland: Double Tap" https://twitter.com/pherim/status/1195499138470670336
■11月29日公開作
『読まれなかった小説』
ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督至高の前作
『雪の轍』から演劇的抒情を薄め、文学的叙事性を高めた観。プライドに見合わない実力由来の姑息さ宿す青年と、すべてに対し卑屈な父との衝突が、敢えて低速で交わされる様式美。井戸の湛える象徴的冥闇を十八番の雪原描写が融解する。
"Ahlat Agaci" "The Wild Pear Tree" https://twitter.com/pherim/status/1196258412427743232
『雪の轍』: https://twitter.com/pherim/status/642172700778041344
『KIN/キン』
養子の黒人少年イーライが、廃墟で謎の近未来銃を手にするところから始まる冒険譚。光+音響演出にストレンジャー・シングスみあり、出所直後の兄とひた走る旅の途上、囚われの舞姫が仲間になるなどRPG感あふれるロードムービー&ジュブナイル貴種流離譚SFとごった煮過剰がそこそこ楽しい。
"Kin" https://twitter.com/pherim/status/1194804596209635329
■ポーランド映画祭2019 @東京都写真美術館
http://www.polandfilmfes.com/
『執事の人生』“Kamerdyner”
両大戦を生きたカシューブ人の物語。現ポーランド北部ポメラニア地方にあってナチスとソ連の侵攻に晒され、また「ポーランド人」たることを要求された苦難の下、仕事や恋愛、戦争や国家など何重にも引き裂かれながら気高さを捨てない貴族や使用人、農夫らの生き様が熱い。
"Kamerdyner" "The Butler" https://twitter.com/pherim/status/1193720972664139777
『死の教室』
劇作家タデウシュ・カントールの代表作を、アンジェイ・ワイダがアウシュヴィッツの気配ただよう最重量級のゾンビ映画へ昇華。ほぼ一幕進行のノリで、唯一素顔の指揮者役をカントール自身が演じながら、完成作に激怒した後日談も重畳。デジタル高精細による底冷え感&破壊力UPパない逸品。
"Umarłą klasę" "The Dead Class" https://twitter.com/pherim/status/1197717612215431169
『ワイダの建築へかける情熱』
ポーランドの古都クラクフにたつ、磯崎新設計の日本美術技術博物館MANGA(’94開館)建設を巡る物語。共産的気風残る下アンジェイ・ワイダが自作収益を充当、日本の労組も協賛する時代感。波濤状屋根の窓を立たせるワイダ提案を磯崎が歓迎する話など建築好きにも見所多し。
Youtube動画見当たらず Vimeo: https://vimeo.com/164916914
"Idea jest najwazniejsza" https://twitter.com/pherim/status/1195919232464125952
古建築並ぶ環境への配慮からも煉瓦壁の外観はつくりたいが、外光をとりこみたいという要請から、煉瓦色の回転可能な陶製パネルをすだれ状に吊るすアイデア眼福。教会ステンドグラスを現代建築へ取り込んだりする工夫が面白く、古都にどでんとモダニズム建築建てて気張りがちなドイツ圏への対抗心を深読みしたくなる一幕も。
『コメダ・コメダ』
夭折の作曲家クシシュトフ・コメダ。’60年代ポーランドにあって“敵性音楽”のジャズにどうしようもなく惹かれ、時代の抑圧をも跳ね返した天才の煌めきをワイダ、ポランスキー、スコリモフスキら巨匠や仲間達が愛おしく回想する。彼の死がなければ映画音楽史は違っていたろうことも納得の充溢。
"Komeda, Komeda" https://twitter.com/pherim/status/1194461717754863616
《ポランスキー短編集》
即興ユニット・シャザの生伴奏上映で
『殺人』『微笑み』『パーティーを破壊せよ』『タンスと二人の男』『ランプ』の5篇。本物の不良集団使う『パーティー~』(’57)は
『時計じかけのオレンジ』や
『ファニーゲーム』を想起。これが因でポランスキーは大学退学になりかけたとか。
"Murder" "Teethful Smile" "Let's Break Up The Ball" "Two Men and the Wardrobe" "The Lamp" https://twitter.com/pherim/status/1199910147096604673
ロマン・ポランスキー短編
『タンスと二人の男』"Two Men and the Wardrobe"(1958)は、あまりにも本や映画によく引用されるので観た気になってたが初見かも。いずれからもこの手の巨匠初期短編をめぐる評にありがちな「実験精神あふれる云々」というより遊び心の奔放さが感じられ、ほのぼのとして良かった。
『バリエラ』
イエジー・スコリモフスキ長編第3作(1966)。スターリン後の雪解け空気のなかにも多々横たわる社会/世代/男女間の“障壁(=バリエラ)”をテーマとする、都会風刺が楽しい即興作。他監督による頓挫企画の残り1/4資金を使い1週間でゼロから撮った、とQ&Aで明かした監督当人の若き血潮滾る一作。クシシュトフ・コメダ音楽。
"Bariera" "Barrier" https://twitter.com/pherim/status/1195179700491972608
『バリエラ』は勢いだけでつくった感も全開で、即興描写の繰り返しが後半正直ダレるのだけれど、前後の接続を犠牲にしても場面単体の表現性を研ぎ澄ませる方向性に
『イレブン・ミニッツ』の前景を観るようでなるほど納得の心持ち。(11/21上映あり@ポーランド映画祭2019)
『イレブン・ミニッツ』:https://twitter.com/pherim/status/765736958794436608
『人形』"Lalka"
19世紀ポーランドの退廃貴族社会描く歴史大作のノリに目蓋の重さを感じる頃、ふと気づけば彼ら貴族が一部マネキンへ入れ換わってる奇怪作。練り込まれた役者の動線設計で魅せるヴォイチェフ・イエジー・ハスお得意カメラパンが、主人公の心の流浪に優しく寄り添う。あるいは無慈悲に。
"Lalka" https://twitter.com/pherim/status/1196624385013993473
『イーダ』
自分がユダヤ人だと知らされた修道女が、見知らぬ故郷を訪れる。画作りで語りきる美学にキェシロフスキを感じ、ポーランド映画における一方の粋なのかとも。終幕で為される決断の切ないさり気なさに、小津映画へ通じる時代性をみる。鋭い静謐さと、モノクロなのにカラフルな余韻が印象的。
"Ida : Formerly Sister of Mercy" https://twitter.com/pherim/status/1197505806930853888
'15春初見時ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/585399163258449920
『COLD WAR あの歌、2つの心』
大戦直後のポーランドで恋に落ちたピアニストの男と歌手の女。西側へ亡命した彼と東に残った彼女との逢瀬の舞台となる’50年代ユーゴやパリの再現描写が興味深い。
『イーダ』のパヴリコフスキ監督が両親へ捧げる、時代や国家に翻弄された者同士の心の距離描く静かな秀作。
"Zimna wojna" "Cold War" https://twitter.com/pherim/status/1198591243841720320
'19春初見時ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/1141898951676665856
パヴリコフスキ監督前作
『イーダ』公開時のツイート紐づけ。'60年代の共産化進むポーランドで少女イーダは修道女への道を選ぶが、中盤で「あなたの実親は迫害されたユダヤ人」と明かす叔母と、『COLD WAR あの歌、2つの心』の女主人公ズーラとは人物造形において共鳴し合う。
『COLD WAR あの歌、2つの心』拙記事: http://www.kirishin.com/2019/06/14/25771/
おしまい。
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