pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2019年
11月12日
22:27

ふぃるめも124 無限に夢をみる象

 
 

 今回は、11月1日~11月22日の日本上映開始作を中心に11作品を扱います。(再掲1作)


 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第124弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■11月1日公開作

『ジョージア、ワインが生まれたところ』

紀元前6000年に遡る、素焼きの甕を埋め地中で醸造するクヴェヴリ製法を受け継ぐ人々に迫る。芳醇たる伝統風俗描写と、職人気質宿す人々の語りが至福なうえ、ジョージア(グルジア)域内の精彩な多様性を浮き彫りとする構成の妙。ソ連の影、辺境の静かな格闘。

"Our Blood Is Wine" https://twitter.com/pherim/status/1186190554951872512




『ワイン・コーリング』
南仏ルーション地方に集う、有機農法の自然派ワイン造りを志す若者たち。朗らかに笑う気の良い彼らの言葉の端々に、自立的な社会思想がふと顔を覗かせる風土性。自然発酵に成果を委ねる難しさが鮮やかに描かれ、ネアカ哲人たちの張りある暮らしに浸る時間はひたすら眩しい。

"Wine Calling" https://twitter.com/pherim/status/1187925110482620416




『キューブリックに愛された男』
かつてF1レーサーを夢見たイタリア移民の男が、キューブリックの専属運転手となり老境へ至る。勤め上げ、故郷で余生暮らしを決め込むまで監督作を観たことがなかったという回想に、その徹底した庶民肌こそ愛されたのだなとしみじみ。稀代の天才と旦那を取り合う泰然自若とした奥様もかわゆす。

"S is for Stanley" https://twitter.com/pherim/status/1186541937626497024




『マイ・ビューティフル・デイズ』
演劇大会参加のため週末旅へ出る高校生3人と女性教師。生徒から猛烈直球アタック受け惑いに惑う29歳教師扮するリリー・レイブ出色。根暗で繊細ながら、演劇という表現形を得て雲上へ突き抜ける少年役ティモシー・シャラメの表情演技は破格で、その澄明度に畏れさえ。

"Miss Stevens" https://twitter.com/pherim/status/1189736784734769152




■11月2日公開作

『象は静かに座っている』
炭鉱町に蠢く魂たちの影。西洋資本主義の軛から遠く、究極の実験場と化した現代中国の灰空見あげる青年の諦念と、闇を見据える少女の覚悟。孤独に歩め、林の中の象のように。伝統様式の亡霊彷徨う狭間でそれは哭く。終幕後、29歳で自死した監督胡波の渇いた笑いを幻視する。

"大象席地而坐" "An Elephant Sitting Still" https://twitter.com/pherim/status/1189385025432588289

  試写メモ「」: 近日更新

胡波『象は静かに座っている』試写、234分上映にどうしようもなく惹き込まれる。窒息する街、崩れゆく世界。この衝撃は記事枠とか以前に書くことでしか乗り越えられないなと降参。本作完成後29歳で自死した胡波(HU Bo)、惜しすぎるよ。帰路、ホームに入線する地下鉄内の人々が、水槽の中を泳いでいた。https://twitter.com/pherim/status/1176799967718993921

胡波『象は静かに座っている』原作(新潮12月号)読了。
安定の藤井省三訳。映画と異なり主人公が台北士林へ旅したり、隠喩でなく象と対峙したりと炭鉱町の閉塞感はない。アンニュイさで共通し独特の疾走感さえあり、「我々より良い」というベテラン作家余華の評が世辞でないと納得。惜しい、惜しいぞ。




『少女は夜明けに夢を見る』
テヘランの少女更生施設。“夢は死ぬこと”と答える少女、父を殺してきた少女、叔父に犯され続けた少女らが、ふと声を合わせ歌い上げる。私達の痛みは四方の壁から染み出るほどと歌うその壁を抜け、雪積もる塀の彼方へ歌声はリフレインする。罪と安息が転倒する夢の彼方へ。

"رؤیاهای دم صب" "Starless Dreams" https://twitter.com/pherim/status/1190093731157827584

  監督インタビューしてきましたよ 「」: 後日更新

  取材直後ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/1176458315175350272

イラン映画『少女は夜明けに夢をみる』、メヘルダード・オスコウイ監督取材だん。7年かけ少女更生施設撮影を遂行した執念の人は、小津/タルコフスキー/キアロスタミへの愛を連発する熱血漢でした。宗教と芸術を巡る問いに問いで返され時間オーバーする展開、岩波ではイオセリアーニに次ぎ実は二度目。

『少女は夜明けに夢をみる』きょう公開。岩波ホールではオスコウイ監督の登壇が今週末あるようで、公式アカウントに早速その様子も。実は9月、監督に「君とはもっと話さなければならない」と言われてました。タイトな日程で叶うはずもなく、しかし後続の作品公開時には必ずや。




■11月15日公開作

『i-新聞記者ドキュメント-』

森達也、やっぱ画作りが面白すぎる。「官邸記者会見でバトってるツイートが読みにくい人」という望月衣塑子の印象が初めて更新された。ジャーナリスト魂欠くbot脳だらけの日本マスコミにあって稀有な存在、その本質は天性の狩人であり防人なのだと森の凝視が喝破する。

https://twitter.com/pherim/status/1194082652824973317




■11月22日公開作

『テルアビブ・オン・ファイア』

昼ドラ撮影現場で働く冴えないパレスチナ人青年が、脚本家のフリをする内あとに引けなくなる。というネタのベタ化そのものが主人公を成長させる流れの風刺性は見事。アラブ伝統料理フムスが、イスラエル士官との断絶を軽々と橋渡しする光景は微笑ましくも美味しそう。

"Tel Aviv Al HaEsh" "Tel Aviv on Fire" https://twitter.com/pherim/status/1191902626884907008

  監督インタビューしてきましたよ: 後日更新
 



『草間彌生∞INFINITY』
草間彌生の一代記。NY時代にウォーホールら抽象表現主義&ポップの大物達が草間から剽窃する場面に盛った感あるのはご愛嬌として、地元松本市でのバッシングなど日本人には撮りがたい距離感と鋭角性。観客心理を巧く抑えたウェルメイド語りは飽きさせず、日本公開待たれた秀作。

"KUSAMA: INFINITY" https://twitter.com/pherim/status/1192273375869095936

  バンコクにて初見時ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1116179062043504640




『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』
致命的事故を接点に交錯する複数の家族と世代。時代と文化圏の転換演出が感覚的に毎度爽快で、個人視点での悲劇が世代視点では幸福の起点にさえなるという筋立てに不思議な説得性を与えている。『バベル』『マグノリア』『クラッシュ』など運命論的群像劇の系譜継ぐ秀作。

"Life Itself" https://twitter.com/pherim/status/1193384041526902784




■日本公開中作品

『アド・アストラ』

宇宙を舞台としながら静謐に個人の内面を見つめるテイストが『ファースト・マン』続編のようで心地よい。強心臓のニール・アームストロング船長がSF近未来転生し『インターステラー』ばりに海王星へ、オイディプス的父殺しを完遂させる、かのような。心の闇と宇宙的無音の相似性。

"Ad Astra" https://twitter.com/pherim/status/1192632684633133057





おしまい。
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