今回は、10月11日~10月25日の日本上映開始作と、新文芸坐シネマテーク上映作、マルグリット・デュラス特集@アテネ・フランセ文化センター、日本公開未定作などから11作品を扱います。(含短編2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第123弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■10月11日公開作
『トスカーナの幸せレシピ』
訳あり一流シェフが更生プログラムで訪れたアスペ青少年の支援施設で、天才的な味覚の持ち主と出逢うところから物語が転がりだす。胡散臭い権威型シェフも現れ、最も真摯に素材と向き合うのがアスペ青年という社会風刺の鋭いスパイスが利くバディ物ロード・ムービー。
"Quanto Basta" https://twitter.com/pherim/status/1180709309849600003
『第三夫人と髪飾り』
19世紀ベトナム。絹の里の富豪へ嫁いだ14歳少女の目に映る、底知れない性の奥行き。米国育ちの新鋭女性監督がつむぐ曾祖母の物語を引き立てる、渓谷の絶景と女優陣の穏やかなる凄艶美。トラン・アン・ユンの美術監修により、イメージ自体の流れが別の軸を生み全体を引き締める。
"Vợ Ba" "Trzecia zona" "The Third Wife" https://twitter.com/pherim/status/1183267472671006720
上記「イメージの流れ」に関連し、
トラン・アン・ユンの“スタイル”を巡り2年前来日時の連ツイ再掲。↓
https://twitter.com/pherim/status/900894608095272961
“ストーリーやテーマ以上のものを生み出すため(略)、作り手は己のエクリチュールを研ぎ澄ませ、適切な計算を施し、描きたいものを描いていく”
『英雄は嘘がお好き』
19世紀ブルゴーニュ舞台のロマン主義コメディ。戦地から婚約者が還らず失意する妹を見かねて嘘の返事を書きだす姉と、落ちぶれて生還しちゃった婚約者が巻き起こす喜怒哀楽。衣装や小道具眼福かつ、ナポレオン大陸軍の騎馬砲兵vsコサック騎兵の戦闘場面も意外なる見応え楽しす。
"Le retour du héros" "Return of the Hero" https://twitter.com/pherim/status/1181048773037789184
■10月19日公開作
『アダムズ・アップル』
ネオナチ青年が反抗心も猛々しく乗り込んだ更生プログラム先の教会で待っていたのは、常軌を逸した住人達だった。なかでもマッツ・ミケルセン扮する牧師の敬虔かつ純朴すぎる狂気が怪物的で笑えるブラックコメディ。アダムの林檎とヨブ記の突き抜けた換骨奪胎ぶりが凄まじい。
"Adams æbler" "Adamʼ s Apples" https://twitter.com/pherim/status/1183593953905373185
きのう午後は京橋にて試写2件。北欧の至宝マッツ・ミケルセンによる、あの崇高なる狂人キャラはこんな昔に確立されてたのかと知らされた
『アダムズ・アップル』(’05)。配給が非専業の有志らしく手作り感和む。自作のポスター看板、入れ替わりの配給会社の人が「ほんとはこういうのしたいんだよね」と。
(試写直後ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1169369940479987713 )
めげない現代版ヨブに扮するマッツを存分に堪能できる
『アダムズ・アップル』、10月19日公開。作品ツイートまた後日します。
観に行くかたは、せっかくなのでヨブ記の一読お勧めします。味わえるヤバさの深みも増しますので。
試写メモ: 後日更新予定
『ドリーミング村上春樹』
村上作品のデンマーク語翻訳者を追い、創作における翻訳の他者性に迫りつつ、『神の子どもたちはみな踊る』のかえるくんが存在感を上げる後半で空想的深度を増す意欲作。若手インド移民監督の孤立感が、世界的Murakami人気の由来を炙り出す。言葉との静かな格闘の烈しい轍。
"Dreaming Murakami" https://twitter.com/pherim/status/1185401815375892480
試写直後ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1148169646295490561
※本作と村上春樹をめぐり後日追記予定。
■10月25日公開作
『ゴッホとヘレーネの森 クレラー・ミュラー美術館の至宝』
その無名期からゴッホに着目した女性コレクターに焦点化しつつも、ゴッホタッチの進化解説が秀逸な一編。西洋美術物は従来、いかに4Kや3Dで気張ろうと根本が退屈な教養番組構成のため冗長さを常とした点、本作は’84年生まれ監督による所々演出過剰なまでの鋭気が飽きさせない。
"Van Gogh - Of Wheat Fields and Clouded Skies" https://twitter.com/pherim/status/1185768398837280768
試写直後ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1177163083103395840
■日本公開未定作
"The Sweet Requiem"
幼い頃の壮絶なヒマラヤ逃避行をトラウマに抱えるチベット人女性が、長じて因縁ある壮年男性と遭遇する。チベット圏から遠く離れた南デリーの難民居住区での暮らしや、インドへ潜入した中国政府スパイの脅迫、伝統習俗と若者文化を等しく受け入れる様など描写の逐一に驚かされる。
"The Sweet Requiem" "Kyoyang Ngarmo" https://twitter.com/pherim/status/1178160319161520128
"The Sweet Requiem" プロデューサーの一人Shrihari Satheさん @shrifilm は、2年前日本公開され評判を集めたパキスタン映画
『娘よ』(’14)にも参加。因習から逃れる母娘を救うためデコトラが疾走する異色作でした。未知の光景・風習の内へつかの間引き込まれるような演出の妙に通じるものあり。
『娘よ』: https://twitter.com/pherim/status/843982998684934144
※後日追記&別立て記事更新予定
■新文芸坐シネマテーク
『壁画・壁画たち』
LAのチカーノ(メキシコ移民)が描く壁画群。その圧倒的生命力と、たやすく排除・上書きされ得る脆さの内にアニエス・ヴァルダが聴きとる囁き。寄せては返す波のように、決して大文字の歴史などに回収されずざわめく街そのものとなって生起退行しゆくその光景の華厳、音無しの灼熱。
"Mur murs" "Mural Murals" https://twitter.com/pherim/status/1149875373900886016
『壁画・壁画たち』は新文芸坐シネマテークにて鑑賞。上映後の大寺眞輔講義にて仏題
"Mur murs"はmur=壁画の直訳の他、反響するチカーノや作家の声を象る"murmur(呟き:英)"が掛けられると。同1981年の双子作"Documenteur"も抜粋上映。両題にも現れる、既存の枠を越境するヴァルダ作品の軽快さ。
■マルグリット・デュラス特集@アテネ・フランセ文化センター
http://www.athenee.net/culturalcenter/schedule/schedule.h...
『オーレリア・シュタイネル メルボルン』
ユダヤ人への手紙、マルグリット・デュラス監督作、1979年。舳先から映し出される光景は、幾つもの橋をくぐりセーヌ河を滑り続ける。デュラスの声は淡々と、少女の手紙を読み進める。人影と静寂。水音に潜む死の余韻。文学の一典型としての映画、へと浸る時間。
"Aurelia Steiner, dit Aurélia Melbourne" https://twitter.com/pherim/status/1184005536565432320
『オーレリア・シュタイネル ヴァンクーヴァー』
水平移動する映像が不明瞭な語りを締めるメルボルン篇から一転、声が映像を牽引する本作ではユダヤ性がより鮮明となり全編へ滲みだす。デュラスの声は緩急をやや強める。材木場の廃墟、ノルマンディ、収容所、200095の文字。少女は呟く。私は書く、と。
"Aurélia Steiner, dit Aurélia Vancouver" https://twitter.com/pherim/status/1187662633110867968
■日本公開中作品
『ジョーカー』
観客なしには存在意義を失う道化師が穿つ、人間の心の空虚。笑いの痙攣により世界を裏返し快感原則と善悪の彼岸へ至る男が対決する、デ・ニーロ扮する司会者こそかつての道化師当人という筋立てが、テロ組織の親たる“アメリカ”的自意識の仮面を剥ぐ。アンチヒロイズムの今日的極北態。
"Joker" https://twitter.com/pherim/status/1187199233180356608
再見時ツイ:https://twitter.com/pherim/status/1186660881779720192
※主にクリストファー・ノーラン『ダークナイト』三部作、マーティン・スコセッシ『タクシードライバー』&『キング・オブ・コメディ』と絡め後日追記予定。
おしまい。
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