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　今回は、2月1日～2月7日の日本上映開始作と、STUDIO VOICE vol.415 芸術特集号(現最新号)寄稿の香港若手監督取材関連作から14作品を扱います。(再掲1 短篇5作)

　STUDIO VOICE vol.415 芸術特集号(pherim寄稿)：http://www.studiovoice.jp/order
　香港滞在連ツイ（到着直後tw→）：https://twitter.com/pherim/status/1158270628710846464


　後半では、香港のアラサー新進監督＝陳小娟・黄進・李駿碩の、全過去監督作へ言及しています。日本公開日準拠を基本とするふぃるめも未掲載だったこれら作品群を、陳小娟『淪落の人』公開を機に取り上げました。

　タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第132弾です。強烈オススメは緑、超絶オススメは青で太字強調しています。（黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます）



■2月1日公開作

『淪落の人』
香港映画で初めてフィリピン人メイドを主役に据える本作は、アンソニー・ウォン扮する車椅子男性との交流を通し、従来の社会格差と香港のキツい現状を活写する。各々の家族問題や夢にタッグを組んで挑む様は『最強のふたり』ばりにスリリング。陳小娟(オリバー・チャン)長編デビュー作。

"淪落人" "Still Human" https://twitter.com/pherim/status/1221655891801337856

　　初見時ツイ：https://twitter.com/pherim/status/1161799556767477761

『淪落人』“Still Human”の監督・陳小娟の来し方や過去短篇作への言及本稿後半にて。

ちなみに香港人名優アンソニー・ウォン(黃秋生)は、’14年雨傘運動を支持したため中国資本と一体化した商業映画界から干されていたが、低ギャラ出演した本作で完全復活。’19年香港電影金像奨主演男優賞獲得。めでたい＼(^o^)／

　 『インファナル・アフェア』(無間道)ウォン警視飛翔場面：
　　https://twitter.com/pherim/status/1162556844167946240

アンソニー・ウォン(黃秋生)といえば、『インファナル・アフェア』(無間道)でのウォン警視。本作で彼は香港電影金像奨最優秀助演男優賞を獲得。なお彼の同最優秀主演男優賞獲得は、『淪落人』“Still Human”↑で20年ぶり3度目。昨今の被抑圧ムードを吹き飛ばす大復活劇でした。




『アメリカン・ドリーマー』
デニス・ホッパー。この強烈な個性が同時に、頭から爪先まで時代の所産そのものにしか見えない不思議。ニューメキシコで迷走するホッパー監督の製作現場を訪れた若者2人の野心がホッパーに撹乱され、虚実不定の深みへカメラが放り出されるこれはもう『地獄の黙示録』中米版。

"The American Dreamer" https://twitter.com/pherim/status/1222709338323607552




『どこへ出しても恥かしい人』
フォークシンガー友川カズキの日常。生活費を競輪の大穴に賭け、別居中の息子らとの接点も競輪というロクデナシ男が、ライヴに立つと豹変する鮮やかさ。ヴィンセント・ムーン映画で見せた本物感が気になってたけど「生まれた時から途方に暮れてる」と微笑む素敵なダメ加減、痺れる。

https://twitter.com/pherim/status/1224246121683271685

　 『ヴィンセント・ムーンの世界 アジア』(ふぃるめも13)：
　　https://twitter.com/pherim/status/513844399453634561

　 『友川カズキ A Take Away Show #98 - Part 3』: http://vimeo.com/7212435




■2月7日公開作

『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』
施設を脱走したダウン症青年と、徒党に追われる飲んだくれ漁師のバディ物ロードムービー。舞台となるテキサスの沃野は眼福で、レスラーに憧れるダウン症の主人公役ザック・ゴッツァーゲンの「弱者への配慮」なんて御託を吹っ飛ばす体当たり演技がひたすら圧巻。

"The Peanut Butter Falcon" https://twitter.com/pherim/status/1224527183445553152




『静かな雨』
小雨降る住宅街の階段道へふと射し込む木漏れ日のような一篇。衛藤美彩演じるたい焼き屋主人のこよみが丹念につぶあんを練る姿に『あん』を想起していたら、当の河瀨直美が母役で登場しのけぞる。川瀬陽太、村上淳、古舘寛治らが脇を固めるとそれだけで醸される質実空気はけっこう好き。

"Silent Rain"

　　初見時ツイ(ふぃるめも127):https://twitter.com/pherim/status/1205319157182369792




『３７セカンズ』
出生時37秒の遅れがもたらした脳性麻痺を抱え、母の過保護に汲々とする女性ユマの、解放の兆しへの畏れと渇望が瑞々しい感動作。心に傷負う母役・神野三鈴ほか渋川清彦や渡辺真起子ら熟練の脇役陣が、ユマ役佳山明の熱演を力強く支える。夜の東京から陽光のタイへの転回は爽々しい。

"37 Seconds" https://twitter.com/pherim/status/1224894445344002048




『ハスラーズ』
リーマン・ショック後の苦境を生きるストリップ嬢たちが、結託してウォール街の男たちへ逆襲開始。『クレイジー・リッチ！』のコンスタンス・ウーも嵌り役だが、それ以上にポールダンスを自在にこなし美貌美脚披露し放題な50歳ジェニファー・ロペスに呆気にとられ続ける110分。妖魔的。

"Hustlers" https://twitter.com/pherim/status/1213099005430779907




▽STUDIO VOICE vol.415 芸術特集号 香港若手監督取材記事 by pherim
　http://www.studiovoice.jp/order

▼陳小娟(オリヴァー・チャン・シゥクエン Oliver Chan SiuKuen)
　https://twitter.com/pherim/status/1161447141912350722
　
陳小娟(オリバー・チャン)監督インタビューだん。来し方、香港での労働移民、障碍者など少数者への焦点化と性愛表現を巡る今日性など聞く。女性監督として中国語圏映画全体の中で稀有の業績を残す許鞍華(アン・ホイ)への幾度かの言及が印象的。濃密なあの系譜はこうして継承されゆくのかと。よい笑顔。

　※陳小娟長編デビュー作『淪落人』(Still Human 淪落の人)については本稿冒頭にて↑。

『三個金幣』
陳小娟(Oliver Chan Siu Kuen ↑)は、父の出奔により母子家庭の経済的苦境を味わう。学業優秀でビジネスエリートの道へ進むが、母の病没を機に映画製作へ転身。『三個金幣』(’13)、映画を学び始め2年目でこの精度。父の過ちと、金融のフェティッシュを下地に敷く表現性の確度。

"三個金幣" "3 coins" https://twitter.com/pherim/status/1161212848170651649




『啊囉哈！』
陳小娟(オリヴァー・チャン・シゥクエン)香港浸會大學メディア芸術コース卒業時2015年の短篇作。『淪落の人』への注目で低予算製作主体の社会派監督と目されがちな陳小娟だが、実はそれが状況由来の選択に過ぎず、エンタメ商業路線への興味も才覚も十分あると窺わせる、金花獎國際電影節ほか入賞作。

"ALOHA"




▼黄進(ウォン・ジョン Wong Chun)
　https://twitter.com/pherim/status/1158673628306661378

黄進(ウォン・ジョン)監督インタビューだん。香港一軽妙なバイプレイヤー曾志偉(エリック・ツァン)から、かつて見たことのない重厚な情感演技を引き出した新進監督は、飄々と現れ質問の一つ一つを吟味するスナフキン感覚のある好青年でした。香港の劣化する住宅事情を反映する新作、を反映するポーズ。

『誰がための日々』
介護うつに陥り、痴呆の母を殺す青年。目を背けてきた父。信仰へ救いを求める婚約者。双極性障害を発症した青年の瞳は映しだす、英題“Mad World”そのものを。原題“一念無明”の深い闇。それは'88年生まれの黄進(ウォン・ジョン)監督が捉えた、行き詰まる香港社会の精緻な肖像だ。

"一念無明" "Mad World" https://twitter.com/pherim/status/1158968687396737024




『三月六日』
拘留された学生と刑事との会話メインで、雨傘運動以前の2012年作ながら、現在の香港での騒擾に対し外野が抱く疑問や理屈の全てに答える内容です。20代で撮った『誰がための日々』(16)で、香港映画の今後を担う存在へ躍進したのも納得の前史。

"三月六日" "6th March" https://twitter.com/pherim/status/1158557988614889472




『Good Take!』
ポルトガルから中国へ返還された1998年のマカオを舞台とするブラックコメディ、黄進(ウォン・ジョン)2016年作オムニバスの一篇(第ニ話)。民家へ侵入した強盗2人組が、己を遥かに超えた悪の偏在に直面する。リアリスティックな方向性と相反する表現主義的な色相転換が『誰がための日々』↑に通底。

"Good Take"




▼李駿碩(ジュン・リー Jun Li)
　https://twitter.com/pherim/status/1165583135972552704

この、軍隊の不在が齎す“香港人”性(↑)について教えてくれたのは1991年生まれの新鋭監督、李駿碩(Jun Li)。ケンブリッジ留学時に国際関係論を学ぶ中、その欠如の重大さに初めて気づいたという。短編《瀏陽河》’17が鮮浪潮大賞を獲得、デビュー長編《翠絲》’18が今注目を集める香港新世代監督の一人だ。

　　『瀏陽河』予告動画：https://twitter.com/pherim/status/1165583135972552704




『翠絲』“Tracy”
女の心を抱える50代男性が主人公の香港発LGBTs映画。家族の葛藤や価値観の衝突を理知的に描く前半から、老練の粤劇役者が夜街蘭桂坊で己の真性を開花させる中盤を経て、情感烈しい怒涛のクライマックスへ至る構成の妙。香港新浪潮の魂を正しく継承する、李駿碩28歳時のデビュー長編。

"翠絲" "Tracy" https://twitter.com/pherim/status/1166198914870984704

『翠絲』“Tracy”には、自身ゲイで英国にてジェンダー研究を修めた李駿碩(Jun Li)監督当人の苦闘が凝縮される。現英国で認められる同性婚が現香港では違法ゆえ恋人の灰を空港から持ち込めない冒頭部など、今日情勢を想わせも。この主題歌歌う陳蕾Panther Chanは息子の恋人=Tatoo職人役で出演。↓1:31-36

李駿碩(↓)は、言葉に精確さを期する話法と外見の精悍さとのギャップも印象的で、上記“構成の妙”や遺灰を巡る読みは彼によれば幸福な誤読、『翠絲』は反省点も多いと。そして、ぜひこれを観てと彼のPCで再生しだした短編『吊吊揈』´18がカルト級傑作(後述)。ちな取材場所は監獄を改造したカフェ@蘭桂坊（本人写真：https://twitter.com/pherim/status/1167669359453593605）




『吊吊揈』“My World”
李駿碩27歳時の短編。ここに溢れる十代男女の性のおおらかさは、中華のそれというより格段に南シナ海からポリネシアへ連なる南洋性のそれであり、理知的表層とマグマのような情動のせめぎ合う波濤の尖端で像が紡がれゆく様は、香港が湛えてきた熱源の特殊性を精確にトレースする

"吊吊揈" "My World" https://twitter.com/pherim/status/1168085723053842432

実際90年代生まれの李駿碩が撮る『吊吊揈』に映りでる「香港」は精強だ。短期の政情などとうに見透かし、腰の据わった土着性と独自の気風がそこには看て取れる。外野の想像を遥かに凌ぐ彼らの感性が統治の膂力に潰され切るはずもなく、一国両制残りの28年を超えどう振る舞いゆくのか楽しみで仕方ない。

と、以上つづけてきた香港最新映画連ツイ、9/20発売『STUDIO VOICE vol.415 特集「次代のアジアへ──明滅する芸術／We all have Art」』の取材滞在でした。ちなこのツリーに被る言及は拙記事本文の数％ほど。いま初めて目次(↓)みたけど、これは狂気。関われて良かったです。





　余談。
　
　本ツリーで扱った『淪落人』“Still Human”、日本公開’20年2月1日との告知。邦題は『淪落の人』、微妙ですがTIFFの『みじめな人』より改善。主演の黄秋生/アンソニー・ウォン @PerryChsu 、警察批判の立場全開。香港電影界の巨人にしてこの姿勢は救われてる人も多いでしょうね。

　『淪落の人』監督の陳小娟/オリヴァー・チャン、8月取材時にはマタニティ姿でしたが、先日無事赤ちゃんを出産めでたや。写真は彼女の公式FBより。FBのID=黒円は抗議デモ連帯の意思表示。https://facebook.com/CSK.Productions/

　　陳小娟&ご家族写真ツイ：https://twitter.com/pherim/status/1196688874228969472

　ちなみに上URL先右写真↑は初夏のjoke投稿。この子のためにも、一日も早い香港の安定化を祈ります。

　



おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh