今回は、9月1日~8日の日本上映開始作を中心に、10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第278弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■9月1日公開作
『福田村事件』
関東大震災後の噂を信じた村の衆が、讃岐弁を話す行商団を朝鮮人だと誤認のうえ虐殺した史実に、メディア/部落問題等を盛り込む怪作。
森達也監督劇映画デビュー作ゆえの不安も吹き飛ぶ、後半うなぎ登り放題な東出昌大/田中麗奈ら役者の気迫に圧倒される。水平社宣言の使い方が白眉。
"" https://twitter.com/pherim/status/1696093440801689666
『i-新聞記者ドキュメント-』https://twitter.com/pherim/status/1194082652824973317
『FAKE』https://twitter.com/pherim/status/738469124100083712
『私のはなし 部落のはなし』https://twitter.com/pherim/status/1527136579806187521
『福田村事件』で驚いたことの一つは絶妙な配役。柄本明や松浦祐也ら個性派名優を要として、意外性ある脇役が映える設え。
①コムアイ:村八分に遭う未亡人
②カトウシンスケ:警察からマークされる社会主義者
③水道橋博士:超右派自警団長
④木竜麻生:社の方針に抗う記者
画像→
https://twitter.com/pherim/status/1698329859465134524
コムアイ出演作《サタンジャワ》 https://twitter.com/pherim/status/1156885618917441537
『私たちの声』“Tell It like a Woman”
制作&出演を女性で固めた国際短篇企画。
杏演じるシングルマザーの忙しなき日常と奇跡の時間を描く呉美保監督作ほか、裏人格に悩まされる受刑囚、孤児、トランス等主題は様々。
Cara Delevingne扮する精神を病む浮浪者が心の鎧を脱ぐ様は鮮烈。(続
"Tell It like a Woman" https://twitter.com/pherim/status/1696765641238425985
“In My Room” [Miu Miu Women's Tales #20] https://twitter.com/pherim/status/1314036849174700032
『ペーパー・タウン』https://twitter.com/pherim/status/1600500978448482305
※インド作『私たちの場所』についてなど追記するかもー。
『私たちの場所』https://twitter.com/pherim/status/1650337583686352896
『復讐の記憶』
認知症の老人が、かつて戦時下に家族を失った恨みから周到な計画を準備、晩年を復讐に捧げる。
記憶にハンデ負う主人公が目的遂行に挑む“メメント”物で、認知症を扱う点が今日的かつ面白い。
毎度うろたえながらも挫けないイ・ソンミンの凄演は、ソル・ギョングも想起させ見入る。
"리멤버" "Remember" https://twitter.com/pherim/status/1695645478590050626
『殺人者の記憶法』https://twitter.com/pherim/status/955280957283553280
『KCIA 南山の部長たち』https://twitter.com/pherim/status/1354621936349843461
『工作 黒金星と呼ばれた男』https://twitter.com/pherim/status/1150243246230007808
『復讐の記憶』は主人公が認知症の老人で、大戦時の復讐を果たそうとする点がアトム・エゴヤン『手紙は憶えている』を想わせる。
人間ドラマ主体の『手紙は憶えている』に対し、『復讐の記憶』は純韓流エンタメながら、仇役がナチスと旧日本帝国協力者という構成も相通じる。
『手紙は憶えている』https://twitter.com/pherim/status/787119133179555840
『復讐者たち』https://twitter.com/pherim/status/1418414158622511107
『ウェルカム トゥ ダリ』
ベン・キングズレーが、全方位で浮世離れした芸術家ダリを演じ切る、メアリー・ハロン監督作(アメリカン・サイコ)。
エズラ・ミラー扮する若きダリの鋭い双眸も印象深い。強烈な妻ガラ、ある時期のミューズでトランスジェンダーのリア、70年代NY文化模様など見処多々。
"Dalíland" https://twitter.com/pherim/status/1695767366779687237
『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』https://twitter.com/pherim/status/1117640625279647745
『ある画家の数奇な運命』https://twitter.com/pherim/status/1311497317195759616
『バカ塗りの娘』
津軽塗り=バカ塗り職人の父の頑固さに苦しみながらも、漆の魅力に惹かれゆく娘。
穏やかな瞳の底に芯の強さみせる主演/堀田真由の熱演に見入る。坂東龍汰&宮田俊哉のカップル演技も良い。
塗りの工程を質実丁寧に見せる前半がラストの感動を準備する、鶴岡慧子監督(まく子)良作。
"" https://twitter.com/pherim/status/1697076034422943960
『まく子』https://twitter.com/pherim/status/1105299196360310785
■9月8日公開作
『ヒンターラント』
第一次大戦で敗戦、帝国崩壊後のウィーンで孤独をかこつ復員兵たちを、ソ連収容所の過去が襲う。
復興ムードに取り残された心情が、街景を文字通りにゆがませる。傾く壁面、たわむ石畳、忍び寄る闇。いかにも東欧的、象徴絵画のようなノワール演出に耽溺する。
"Hinterland" https://twitter.com/pherim/status/1697848348504633846
『サンセット』https://twitter.com/pherim/status/1105059975561240576
拙稿「翳りの鏡像、帝都の夢」http://www.kirishin.com/2019/03/04/23636/
『6月0日 アイヒマンが処刑された日』
イスラエルには律法上の禁忌から火葬設備が存在しない。ナチス重要人アイヒマン遺灰の洋上散布にあたり、火葬をどう実現するか。
アラブ少年も加わる焼却炉の急造から、1回限りの使用へ至る群像劇の密な16mm細部描写が宿す驚き。複雑な60sイスラエル状況再現も見処。
"June Zero" https://twitter.com/pherim/status/1698248694246822224
『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』https://twitter.com/pherim/status/816221956735307776
『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』https://twitter.com/pherim/status/721897251551842304
『ハンナ・アーレント』https://twitter.com/pherim/status/474359313780064256
『ヒトラーのための虐殺会議』https://twitter.com/pherim/status/1619208689298333697
拙稿「躊躇と遂行 『ヒトラーのための虐殺会議』」 http://www.kirishin.com/2023/01/19/58237/
■国内過去公開作(含映画祭上映作)
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
アライグマ“ロケット”の獅子奮迅。
アライグマの子供らを救いだすも檻中の他の動物達に気づき絶望する一瞬からの超展開とか神懸かり的。“仲間とは誰か”の深淵テーマさえ軽快に貫くジェームズ・ガンの天才ぶりに笑いつつ眩暈する。
"Guardians of the Galaxy Vol. 3" https://twitter.com/pherim/status/1697439786297147890
『トロメオ&ジュリエット』https://twitter.com/pherim/status/1290180719331782656
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』https://twitter.com/pherim/status/501203967867506689
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』https://twitter.com/pherim/status/866976188438167552
『壁あつき部屋』1956
巣鴨プリズンの囚人たちを描く小林正樹監督作。
安部公房脚本が秀逸で、端的な台詞の力に圧倒される。
BC級戦犯として収監され続けた名もなき男たちの屈託や、判決事由の戦場体験を丹念に追う一方で、監房細部や東條英機の処刑痕(Tojoと銘ある木杭は実物らしい)など見処多々。
[予告動画見当たらず]
"" https://twitter.com/pherim/status/1689107811257688064
『壁あつき部屋』では後半、一時出所を認められた模範囚が尾行を連れ帰郷する場面がある。
様変わりした郷里や家族に彼は馴染めず、混乱下で逃亡も難しくないが牢へ帰る。雑居房の仲間を選んだのだ。
東京裁判から東京物語へと至る、敗戦後の心を安部公房(脚本)が活写する。
小林正樹『東京裁判』1983 https://twitter.com/pherim/status/1156398221905686528
小津安二郎『秋刀魚の味』1962 https://twitter.com/pherim/status/1648454797438357504
『最後の決闘裁判』“The Last Duel”
中世ノルマンディの騎士/妻/従騎士が描く羅生門時空。
リドリー・スコットの歴史劇か……と後回しにしてたけど、演技もアクションも見応えあり、画作りが密で飽きない。
あとアダム・ドライバー、実直そうでセコい男役が十八番の性格俳優化しきった感。
"The Last Duel" https://twitter.com/pherim/status/1685842203661508608
『エクソダス:神と王』https://twitter.com/pherim/status/550148476122562560
『オデッセイ』 “The Martian”https://twitter.com/pherim/status/1609892864682778624
『ゲティ家の身代金』https://twitter.com/pherim/status/998176819558858752
余談。『福田村事件』は、森達也が劇映画初めてであることに不安をもつひとも多いだろうけど、杞憂です。異様という他ない仕上がりでした。隣接他分野ですでに名のある劇作デビュー監督作にありがちな序盤の演出不慣れモードから、後半うなぎ登り放題な役者の鬼気迫り様がもう異様。世潮をめぐっては都知事ほかによる公式キャンセルカルチャー推しの波が凄すぎてどん引きする日々ですが、相対的にはささやかにしてもこうして抗するさざ波のほうにこそ今後も着目いたしとう。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
コメント
09月04日
04:07
1: いなだ つつみ
福田村事件はツイッターでも毎日トレンドに上がってますね
NHKのクローズアップ現代でもやったし。
09月04日
08:38
2: pherim㌠
制作配給の太秦はけっこうな賭けだったと思うんです。劇映画初めての監督作にこれだけのキャストを揃えるだけでも。(衣装等はだいぶ低予算なのも観ればわかるのだけど)
べつに政府による禁止があったわけでもないのにオッペンハイマーが上映されない国であることと考え合わせても、実際にどれだけの動員が記録されるかは興味深いところですね。