• 
• 
• 

　
　

　今回は、12月3日～16日の日本上映開始作など10作品を扱います。（含再掲2作、配信ドラマ1シーズン）

　タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第290弾です。強烈オススメは緑、超絶オススメは青で太字強調しています。（2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。）


　
■12月3日公開作

『メンゲレと私』
6つの強制収容所を経験したダニエル・ハノッホは、当時幼かったためその証言が長く軽視されてきた。
少年がみた人間の真実。人体実験を行うナチス医師ヨーゼフ・メンゲレに気に入られて生き延び、昨年90歳を迎えた語りの驚異的な鮮度。
パレスチナへ渡った戦後の体験も興味深い。

"A Boy's Life" https://twitter.com/pherim/status/1737086782242730220

『ユダヤ人の私』https://twitter.com/pherim/status/1461908317459165186
拙稿「神はアウシュヴィッツを赦しうるか」https://www.kirishin.com/2021/11/30/51683/

『ゲッベルスと私』https://twitter.com/pherim/status/1009265307708416000
拙稿「アウシュヴィッツの此岸」https://www.kirishin.com/2018/09/06/16812/

『ファイナル アカウント　第三帝国最後の証言』https://twitter.com/pherim/status/1551904889030135808
拙稿「カルト、抵抗、不可能性。再監獄化する世界(6)」https://www.kirishin.com/2022/08/29/55942/




■12月8日公開作

『Winter boy』"Le lycéen"
父を衝突事故で失った17歳の少年が過ごす冬。
ジュリエット・ビノシュによる、すり切れそうな心を義務感だけで支え、気力をふり絞る母役のやつれた表情演技が凄まじい。
あとエルヴァン・ケポア・ファレ、黒人ゲイ青年の“典型”を演じ切る姿勢が鋭い風刺性を帯び出色。

"Le lycéen" "Winter Boy" https://twitter.com/pherim/status/1734131204914569435

『5月の花嫁学校』https://twitter.com/pherim/status/1397030754169724930
『パッセージ』※後日URL追記




『VORTEX ヴォルテックス』
批評家で心臓病を抱える夫と、元精神科医で認知症の進む妻。
ギャスパー・ノエが夫妻の終わりを“凝視”する。2元画面を駆使する奇抜な手法が、老衰を物質的に映しとる。サディスティックなまでに、惨めさすら飽和する。
80歳で初主演のダリオ・アルジェントがまた名演。

"Vortex" https://twitter.com/pherim/status/1737795378911887798

『ダークグラス』https://twitter.com/pherim/status/1642896054856323073
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』https://twitter.com/pherim/status/1614124120891088897




『ファミリー・ディナー』
痩せたい少女が、ダイエットの著書もつ叔母の家で過ごす悪夢の1週間。
イースター当日へ向け、叔母一家の奇怪さが露わになるごと恐怖の深まりゆく食餌ホラー。兎の解体からの後半展開に驚く。
特異な価値観に囚われた閉鎖空間の仕上がりに『マザーズ』も想起された。

"Family Dinner" https://twitter.com/pherim/status/1731527122752299119

『マザーズ』https://twitter.com/pherim/status/1499223885211844609
『ミッドサマー　ディレクターズカット版』https://twitter.com/pherim/status/1238658264977440768




『終わらない週末』Netflix
突如孤立し、崩壊しゆく現代世界。
自動運転テスラの大量玉突き恐しくも笑う。
サム・エスメイル監督作まじ待ってたし、イーサン・ホークほか少数精鋭キャスト&オバマ夫妻+Netflix製作でアクセル踏み抜いてくれ超満足。
にしても不敵な端役ケヴィン・ベーコンの利きっぷりよ。

"Leave the World Behind" https://twitter.com/pherim/status/1735499402540962105

『Mr. Robot』『COMET／コメット』https://twitter.com/pherim/status/1730969922682093667




■12月9日公開作

『最悪な子どもたち』“Les pires”
養護施設の子供を主人公とする映画の撮影現場に渦巻く混沌を通じ、社会の権力構造を炙りだす。
子の泣き顔を喜んで撮り、頑固な子と喧嘩さえ始める中年男性を監督本人と思い込めるほどに徹底したモキュメンタリー形式が鋭く鮮烈。実際には女性2人の共同監督作。

"Les pires" "The Worst Ones" https://twitter.com/pherim/status/1739050508508377171　

『12か月の未来図』https://twitter.com/pherim/status/1112640074380804096
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』https://twitter.com/pherim/status/1234592506035109888




『王国（あるいはその家について）』2018
稽古場風景。違う。読み合わせをする主人公とその友人夫妻、に見えてくる。不穏の錯綜。罪と救済。
感情移入を主題化するメタ構造が、そのまま物語内世界へ熱量のある輪郭を与える点で、『聖なる証』を4年先取る草野なつか監督作。

"Domains" https://twitter.com/pherim/status/1601547048213708801

『聖なる証』Netflix https://twitter.com/pherim/status/1593800163168247809




■12月15日公開作

『きっと、それは愛じゃない』
見合い結婚を決めた幼馴染を撮るドキュメンタリー監督が、戸惑い迷い恋わずらう。
語り口は軽快ながら、南アジアのお見合い文化を多面的に見せる構成の巧さは、さすが『エリザベス』のシェカール・カプール監督新作。母役エマ・トンプソン快演↙、結婚式場面など絢爛。

"What's Love Got to Do with It?" https://twitter.com/pherim/status/1739836430757834890

『エリザベス:ゴールデン・エイジ』https://twitter.com/pherim/status/1569914502661156865
『ラスト・クリスマス』https://twitter.com/pherim/status/1211952699412860929




■12月16日公開作

『香港の流れ者たち』“濁水漂流”
路上に暮らす多国籍ホームレス集団が行政の横暴を訴える、李駿碩/ジュン・リー新作の質実重厚さにたまげる。そして呉鎮宇ら名優陣の静かなる超沸騰。
8年前に失踪し、失語症に罹った青年。賠償を蹴り謝罪を求める人間の誇り。李駿碩が放つこれら隠喩の深さ気高さよ。

"濁水漂流" https://twitter.com/pherim/status/1738548604682543364

『濁水漂流』、役者陣がガチ入魂。
呉鎮宇/フランシス・ンやベトナム難民翁役/謝君豪らの練熟に、蔡思韵/セシリア・チョイや柯煒林/Will Orら若手が体当たりで応える。
香港俳優がリアリズム志向の役を望む傾向にQ&Aで製作/文佩卿が触れてたけど、士気の高さが半端ない。柯とかユ・アイン級のオーラ痺れる。

香港・深水埗のホームレス所有物強制廃棄をめぐる実話ベースの本作、Q&Aではテーマが地味との評も幾度か聞かれたけど、いやこの李駿碩/ジュン・リーの激烈さは凄まじい。
反政府デモよりずっと深くへ潜る決意、そこに俳優/製作陣が強く共振した結果の骨太作。
昨年渾身の記事↓を李駿碩の言葉で締めたけど、この展開は胸熱すぎる。

　拙稿「香港の心のゆくえ」http://www.kirishin.com/2021/11/06/51385/

　『瀏陽河』2017 https://twitter.com/pherim/status/1165583135972552704
　『翠絲』“Tracy”2018 https://twitter.com/pherim/status/1166198914870984704
　『吊吊揈』“My World”2019 https://twitter.com/pherim/status/1168085723053842432
　



■VOD配信/TV放映作（非劇場公開作）

『この動画は再生できません』 シーズン2
バディの鬼頭が幽霊になっちゃった理由を探る第1話に始まる4話構成で、シーズン1の驚かし&賑やかしに比べストーリー重視へ落ち着いた感。
とはいえ謎明かしだけに焦点化する思い切りが鮮烈だった初期の勢いが失速した印象は否めず。シーズン3の挽回に期待。

"" https://twitter.com/pherim/status/1739262883580760150

『この動画は再生できません』https://twitter.com/pherim/status/1599018646244061184




　　
　余談。次回「ふぃるめも291 《A24の知られざる映画たち》」にて新出11作を扱うため、今回は“含再掲2作、配信ドラマ1シーズン”としました。





おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh