今回は、香港映画祭2022(11/26~12/28, 大阪/京都/神戸/名古屋/東京)上映作16作品+αを扱います。(含短編12作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第289弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■香港映画祭2022 長編
https://hkfilm2021.wixsite.com/2022/films
『濁水漂流』(香港の流れ者たち)
路上に暮らす多国籍ホームレス集団が行政の横暴を訴える、李駿碩/ジュン・リー新作の質実重厚さにたまげる。そして呉鎮宇ら名優陣の静かなる超沸騰。
8年前に失踪し、失語症に罹った青年。賠償を蹴り謝罪を求める人間の誇り。李駿碩が放つこれら隠喩の深さ気高さよ。
"濁水漂流" "Drifting" https://twitter.com/pherim/status/1607931966103638016
『濁水漂流』、役者陣がガチ入魂。
呉鎮宇/フランシス・ンやベトナム難民翁役/謝君豪らの練熟に、蔡思韵/セシリア・チョイや柯煒林/Will Orら若手が体当たりで応える。
香港俳優がリアリズム志向の役を望む傾向にQ&Aで製作/文佩卿が触れてたけど、士気の高さが半端ない。柯とかユ・アイン級のオーラ痺れる。
香港・深水埗のホームレス所有物強制廃棄をめぐる実話ベースの本作、Q&Aではテーマが地味との評も幾度か聞かれたけど、いやこの李駿碩/ジュン・リーの激烈さは凄まじい。
反政府デモよりずっと深くへ潜る決意、そこに俳優/製作陣が強く共振した結果の骨太作。
昨年渾身の記事↓を李駿碩の言葉で締めたけど、この展開は胸熱すぎる。
拙稿「香港の心のゆくえ」http://www.kirishin.com/2021/11/06/51385/
『瀏陽河』2017 https://twitter.com/pherim/status/1165583135972552704
『翠絲』“Tracy”2018 https://twitter.com/pherim/status/1166198914870984704
『吊吊揈』“My World”2019 https://twitter.com/pherim/status/1168085723053842432
『風景』(第一部:始まりの終わり) 2016
2011年の香港オキュパイに始まる、若者達の道行きを通し“今”が前景化されゆく許雅舒/リタ・ホイ監督3時間大河作・前編。
盧鎮業/ロー・ジャンイップ/Siuyea Lo↘の当局を恐れない出演履歴、まさに“返還後香港景”を代表する役者と化した感。
"風景" "Pseudo Secular" https://twitter.com/pherim/status/1630393363110465536
盧鎮業言及ツイ『レモン、牛乳』(檸檬, 牛奶) https://twitter.com/pherim/status/1429798470173397003
北京へなびく金満経済の象徴として香港上海銀行ビルが登場。かつて占拠した屋外構造の地上階スペースから一般人を執拗に排除する警官たちとか、暴力装置と経済の両面から圧迫されゆく構図の類稀なる具象図とも。
『風景』(第二部:終わりの始まり) 2016
どんな騒擾も長くは続かない。香港人の1/3が街へ出たとされる反政府デモの潮流でさえ。
2016年作『風景』には、指導層/有力者があらかた逮捕/国外移住しコロナ禍続く現況を予見する不穏な静けさが横溢する。
“憂鬱之島”の雌伏する心たち。
"風景" "Pseudo Secular" https://twitter.com/pherim/status/1635849972750094342
『Blue Island 憂鬱之島』https://twitter.com/pherim/status/1535481191482085376
中弛み感がないではないけど、終わりかたがとても良い。
『ソク・ソク』“叔・叔”2019
高齢男性同士の穏やかな恋模様。
引退間近のタクシー運転手役タイポーと、退職済みシングルファーザー役ベン・ユエン/袁富華(翠絲↓)がいぶし銀の名演で魅せ、香港現代における同性愛模様も活写して飽きさせない。レイ・ヨン(楊曜愷)監督作。
"叔・叔" https://twitter.com/pherim/status/1743133855283114222
『翠絲』“Tracy”https://twitter.com/pherim/status/1166198914870984704
『逆さま』https://twitter.com/pherim/status/1421667696496709637
『歩道橋の魔術師』(天橋上的魔術師) https://twitter.com/pherim/status/1422395480407896067
■オムニバス『少年たちの時代革命前夜』レックス・レン(任侠)短編集
https://hkfilm2021.wixsite.com/2022/films
『虫けら』“螻蟻/Even Ants Strive For Survival”2017
大量の蟻を飼う馬二が、冤罪で理不尽な尋問を受ける。一方、姓名廃止の法案可決で馬二は9032024に。
尋問での講官話=北京語強制と表記簡略化の簡体字諷刺、自慰器の生体管理が醸す怜悧なる醜怪。
任侠/Rex Ren短編(“少年たちの時代革命”共監)
"螻蟻" "Even Ants Strive For Survival" https://twitter.com/pherim/status/1608307913575260162
『9032024』2020
任侠/Rex Renによる“螻蟻”(↑)後日譚。
父の医療費捻出のため就職を望む馬二だが、逮捕拘束歴がそれを阻む。
プロカメラ撮影の前作に対し環境的制約からiPhone撮影へ、ゆえのツルっとした質感。など全体主義描写の政治諷刺とはべつに、コロナ禍の影響を否応なく覚える閉塞感演出。
"9032024" https://twitter.com/pherim/status/1609549739103784961
『夢遊』2021
閉鎖系夢幻時空でアップテンポに展開する言葉と光。
香港映画祭2022上映時には『螻蟻』と『9032024』の間に挟み込まれた、正直意識が遠のく任侠/Rex Ren短編2021年作。
『少年たちの時代革命』のスン・クワントー出演。
YouTube全編あり↓
"夢遊" "ACADANA DREAMING" https://twitter.com/pherim/status/1610848563927613441
“Goodbye HK cinema”2021
ヌーベルヴァーグ作品のオープニングを思わせる構成と色遣いで、今日の香港が端的に諷刺される任侠/Rex Ren短編。
挿入される手影絵カットに、“Abandoned Village”(ジョージア2020)監督Mariam Kapanadzeが所属する国立手影絵劇場の投稿動画↓も想起される。
[動画見当たらず]
"Goodbye HK cinema" https://twitter.com/pherim/status/1612695867877883906
“Abandoned Village” https://twitter.com/pherim/status/1333753920418574345
ジョージア国立手影絵劇場 https://twitter.com/pherim/status/1489462062455484423
『クイーンのワンペア』“一Pair囡”2021
ルームシェアする女友達のふたり遊びが、悩み相談に乗る形でまったり続く。
『少年たちの時代革命』監督/任侠の共同監督短編。同出演マック・ウィンサム/麥穎森+姚凱靈主演。
終幕の抜けの良さが好趣。
全編あり。↓
"一Pair囡" "1pair女" https://twitter.com/pherim/status/1617388162942390275
■オムニバス『少年たちの時代革命前夜』ラム・サム(林森)短編集
https://hkfilm2021.wixsite.com/2022/films
『オアシス』“綠洲”2012
工業ビルの一画をシェアする若者たちのスクワット感あるまったり日常。
『少年たちの時代革命』の林森監督作で、雨傘運動前の作品ながら鋭くもしなやかな視座は一貫する。
ヌードモデルで稼ぐ主人公を囲む画学生♂らが投資話に花を咲かす香港性。
[全編]
https://www.viddsee.com/video/oasis/4ye6l
"綠洲" "Oasis" https://x.com/pherim/status/1739111188729061680
林森2021『少年たちの時代革命』https://twitter.com/pherim/status/1600826312876515329
林森2022『星くずの片隅で』“窄路微塵”https://twitter.com/pherim/status/1678967903935401984
林森“綠洲”ED暗転時に流れるテロップ@2012年。
その後の香港を想うと切ない。
就如一些小草總會在石屎之間的裂縫中鑽出來,
照照陽光,透透氣...
like some kind of grasses,
they drill out from the crack of concret,
to get the sun, and to breath...
對、只是透透氣
就這様簡単
just that simple
yes, just to breath
『夏のブルース』“志強的夏”2019
フードデリバリー配達員として働く、香港生まれのパキスタン系青年による自転車を巡る冒険。
生活者目線を徹底する香港人監督ラム・サム/林森だからこその着眼点に唸る。
印僑の今日性感覚も抜群で『わたしはバンドゥビ』が強く想起され。
"志強的夏" https://x.com/pherim/status/1848922515902763014
『わたしはバンドゥビ』https://x.com/pherim/status/1652900091890659330
■注目新人女性監督特集 チャン・ハウザン(陳巧真)監督短編集
https://hkfilm2021.wixsite.com/2022/films
『32+4』2015
同じ建物の32階と4階に住む実父と実母の日々を撮る、新進女性監督・陳巧真/チャン・ハウザン。
孤独に暮らす父、再婚しながらも心すさむ母。カメラの暴力性。実父と継父が無言ですれ違う。カメラなしでは直視不能のリアルをみつめる瞳。天賦というしかない映像感覚の重厚さに見入る。
"32+4" https://twitter.com/pherim/status/1633377542517428226
『32+4』から、『行き止まりの世界に生まれて』でスケボーに打ち込む友らを撮る一方、母子家庭に育った自らの生い立ちに向き合う華僑青年ビン・リューの佇まいが想起された。
政治的騒擾とは異なる香港のリアル。
(『行き止まりの世界に生まれて』『mid90s ミッドナインティーズ』『ガザ・サーフ・クラブ』をめぐり書きました↓
「【映画評】疾走する魂と割れる社会」http://kirishin.com/2020/09/02/45044/ )
※『32+4』は香港映画祭2022《注目新人女性監督特集》にて鑑賞。以下スレッド化します。
『同じ下着を着るふたりの女』https://twitter.com/pherim/status/1657944805740249088
『失われた一部』“失去的部分”2022
《この社会というからだの一部》の変化がもたらす傷跡と記憶の断片描く陳巧真/チャン・ハウザン新作短編。
政情と無縁に掘り込む深さこそに圧倒された『32+4』の監督にして、発表の半年後一部削除を要求されたらしく、諸々想う。4枚目は監督肖像。(いずれ会う予感)
"失去的部分" https://twitter.com/pherim/status/1645798017742811140
■注目新人女性監督特集 チョイ・カーイー(蔡嘉儀)監督短編集
https://hkfilm2021.wixsite.com/2022/films
『7月の怪談』“7月燒衣”
蔡嘉儀監督作、ロー・ジャンイップ出演。鑑賞済、未ツイート。
"7月燒衣"
『雨の夜』
蔡嘉儀監督作。鑑賞済、未ツイート。
"夜雨"
『午後3時』“下午三點”
蔡嘉儀監督作。鑑賞済、未ツイート。
"下午三點"
■オムニバス『コロナ変奏曲』“動態Rolling”
https://hkfilm2021.wixsite.com/2022/films
『共に過ごした日々』“同渡”2022
コロナ禍で厦門へ帰郷できない祖母と、世話する孫の日々。
認知症を患い閩南語を話す祖母と舞踊家で溌溂とした孫との距離が、屋内へ逼塞するなか緩やかに変わりゆく。
稽古場面の挿入が、関係性と身体性の自然な連環を想わせ巧みな羅恩賜/ロー・ヤンチー監督作。
"同渡" https://twitter.com/pherim/status/1643041986855981056
『河の流れ 時の流れ』(河上變村) https://twitter.com/pherim/status/854826979110961152
『イサドラの子どもたち』 https://twitter.com/pherim/status/1308730321358057472
『四月の変奏』“四月的變奏”
独立開業するもコロナ禍で休業命令を受けたエステティシャンの孤独を描く郭頌儀/エリカ・クォック監督作。
故郷に帰れないフィリピン人メイド。香港の変化に鈍感でリアリティがズレゆく、帰国した男友達。筒井真理子の凄艶想わせる陳逸寧/イザベル・チャンの存在感重畳。
"四月的変奏" https://twitter.com/pherim/status/1648154897597222912
『ゴミ箱を探せ!』“阿才”
謎のダンボール箱廃棄を依頼された青年が、恋人に捨てられゴミ箱が撤去された街を彷徨う。
主演2人に半端なく惹かれ、
♂:李駿碩の傑作短編“吊吊揈/My World”
(https://twitter.com/pherim/status/1169409293189148673),
♀:本作監督周敬勤2020年作“天暗亦明”の各々主役と気づく。
https://twitter.com/pherim/status/1427605205500059656
"阿才" https://twitter.com/pherim/status/1670624470770548737
『一通目の手紙』“第一封信”
“夜”の透徹した孤立感覚。収監された親友マンへ手紙を書こうと呻吟するうち、自らも巨大な収容所に拘束されていると感じ始める。
《香港、アイラブユー》収録短編「町へ出よう(出去)」の姚敏堃/ジェイソン・イウ監督作で、内容的にも後継作。
"第一封信" https://twitter.com/pherim/status/1651216082525646848
姚敏堃“出去”(2020) https://twitter.com/pherim/status/1425046088742965249
余談。一年経ってしまった。短編をひとつひとつツイートしようとすると、長編新作でさえ追いつかない日々のなか後回しになり続け、結果として忘却の波とも闘うことになり良いことはなにもなく、短編は箇条書きとかより短文にまとめる習慣をつくろうとぞ思い立つ2023年末草々。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh