今回は、7月19日~20日の日本上映開始作とアリーチェ・ロルヴァケル監督過去作、《台湾巨匠傑作選2024》上映作など13作品を扱います。(含短編4作/再掲2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第315弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■台湾巨匠傑作選/戦後79年のいま観るべき作品!ワン・トン監督≪台湾近代史三部作≫日本初上映 7月20日~
『村と爆弾』 1987
日帝下の台湾僻村。娘は夫を失い心を病み、牛は日本軍に徴用され、地主には売却を告げられた一家の畑に米軍の不発弾が。
王童/ワン・トン台湾近代史三部作の初編は、泣きっ面に蜂の連続をカラッと見せ、笑わせさえする。でも目が笑ってない、原題“稻草人”=かかしの含意に慄える。
"稻草人" https://x.com/pherim/status/1813208324084756623
『海の彼方』https://x.com/pherim/status/896202370496856064
『熱帯魚』https://x.com/pherim/status/1161849705837371392
『バナナパラダイス』“香蕉天堂”1989
幼馴染の青年2人は、国共内戦下の華北から南国台湾へ辿り着く。
身分を偽り職と家庭を得る門栓と、拷問で心を病む得勝の、各々に懸命な道行きが切ない。主演ニウ・チェンザー/鈕承澤による『軍中楽園』監督が4半世紀後と気づき胸熱。
"香蕉天堂/Xiang jiao tian tang/Banana Paradise" https://x.com/pherim/status/1814159506194260028
『軍中楽園』https://x.com/pherim/status/1000704947925626880
『The Crossing ザ・クロッシング Part I』https://x.com/pherim/status/1136965632769966081
『無言の丘』“無言的山丘”1992
日本統治下の台湾、村から逃げた小作人兄弟の目線で鉱山労働の現場や九份の娼館を描く、王童/ワン・トンの台湾近代史3部作終章。
日式娼館の内装など臺灣新電影の下地に史的蓄積も覗く重厚作。大和言葉話す琉球人娼婦の造形がとりわけ新鮮。
"無言的山丘/Hill of No Return"
『夫の秘密』“丈夫的秘密” 1960 https://x.com/pherim/status/1462350599144415240
九份ツイ https://x.com/pherim/status/326570476350611456
■7月19日公開作
『怪談晩餐』
スポーツジム都市伝説、SNS自意識崩壊物、学園物から貞子オマージュまで韓流ホラー6話オムニバス。
良い役者がB級演じる面白さってあるよねと観てたら、後半3話でぐんぐん昇華、ラスト少女大食い配信対決の幕切れにウワォってなった。互いに仮面の奥隠すグロテスク晩餐こそ今日的。
"괴담만찬/Tastes of Horror" https://x.com/pherim/status/1813481436659482967
『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』“失衡凶間” https://x.com/pherim/status/1728038430108721372
『スウェット』https://x.com/pherim/status/1459876367869231107
『墓泥棒と失われた女神』
遺跡をみつける才能をもつ異邦人の青年は、お宝に目がない盗掘仲間からどこか浮いている。
君なのか、僕が失った女性の顔は。生者のために彫られてはない女神が僕をみつめる。
アリーチェ・ロルヴァケル新作の、古代エトルリアの深淵から見あげる仕草に陶酔する。共振する。
"La chimera" https://x.com/pherim/status/1809053584287543650
拙稿「【映画評】 光の糸が導くもの 『墓泥棒と失われた女神』」 https://www.kirishin.com/2024/07/31/67682/
『墓泥棒と失われた女神』でロルヴァケルが、古代を召喚する意図は明瞭だ。
『天空のからだ』で信仰と孤独を、『夏をゆく人々』で伝統と文明を、『幸福なラザロ』で都市と農村を描いた彼女は、人が無意識に損得の奴隷と化す市場の罠からの、解放への道筋を仄かに炙りだす。
“Olanda” https://x.com/pherim/status/1244200744804159489
■アリーチェ・ロルヴァケル(Alice Rohrwacher, 1980年12月29日~)ほぼ全作総覧
『天空のからだ』“Corpo Celeste”2011
帰郷しカトリック風土に戸惑う13歳少女を描くアリーチェ・ロルヴァケル初長編。イタリア長靴の爪先レッジョ・カラブリアの風景描写が麗しい。
キリストの怒りを要所で説く神父の肉親役レナート・カルペンティエーリも利き、終盤の脱宗教的バプテスマに凄味。
"Corpo Celeste" https://x.com/pherim/status/1818085013428277690
『夏をゆく人々』 2014
トスカーナの養蜂一家に暮らす長女の、TV業界への素朴な憧れを描くアリーチェ・ロルヴァケル第2長編。
モニカ・ベルッチの醸す軽薄さが絶妙。ミツバチのささやきの少女視点フォーカス、ハニーランドの訪問者が齎す撹乱も想起される濃密時空。
"Le Meraviglie" https://x.com/pherim/status/1818437470645895240
『ハニーランド 永遠の谷』https://x.com/pherim/status/1276348663690694656
『ミツバチのささやき』https://x.com/pherim/status/1358425235066789893
『カンツォーネ』“Una canzone”2014
歌を映像人類学的にリサーチする。複葉機と気球のカットで終えるのがいかにもアリーチェ・ロルヴァケルな短編2014年作。
昔は歌いながら友だちを訪れたものだ/歌は歌えるが歌詞は思い出さない等の言及に“ぼくと魔法の言葉たち”も想起され。
"Una canzone" https://x.com/pherim/status/1819109643635118498
『ぼくと魔法の言葉たち』https://x.com/pherim/status/857419326491549696
“De Djess”2015
漂う浅瀬から“収穫”されたドレスが、セレブに着られパパラッチされる宿命を逃れ、着る少女を自ら選びとる。
修道女が市場経済の担うあたりアリーチェ・ロルヴァケル世界全開の、プラダの女性ブランド ミュウミュウが展開するMiu Miu Women's Tales 9作目。
"De Djess" https://x.com/pherim/status/1820822177782124837
Mati Diop“In My Room” [Miu Miu Women's Tales #20] https://x.com/pherim/status/1314036849174700032
『幸福なラザロ』2018
小作制度の廃止を隠し村人を働かせ続けた侯爵夫人の実話を元とする本作が放つ、芳醇たる映像感覚と濃厚な寓話性に圧倒される。一人の愛の告白を皆が分かち祝福するイタリア近世の農村風景から現代都市の殺伐への一気の滑落を、不可視の狼が静かに見守る。深い宗教的余韻に充ちた秀作。
"Lazzaro Felice" "Happy as Lazzaro" https://twitter.com/pherim/status/1117991307211751424
拙稿「【映画評】ラザロとは誰か 『幸福なラザロ』」https://www.kirishin.com/2019/04/19/24526/
『4つの道』“Quattro Strade” (Four Roads) 2020
『幸福なラザロ』のアリーチェ・ロルヴァケル新作短篇。
コロナ禍の今、私にできないことをレンズがしてくれる。そうして草道の奥へ独居する老人たちの手つきや奔放な子らに注ぐ陽の温もりを、古いカメラで期限切れフィルムへ映しとる知的に研ぎ澄まされた詩性の輪郭。
"Quattro Strade" "Four Roads" https://twitter.com/pherim/status/1403542537629966338
“Futura”2021
コロナ禍下イタリア各地の若者達へ取材して回ったドキュメンタリー秀作。
パゾリーニ“愛の集会”(1964)へ青年が言及し驚くが、シネマ・ヴェリテ式に素顔を写し撮る試みの下地に同作が息づくあたり、アリーチェ・ロルヴァケルの知性煌めく。共同監督3者の渋い組み合わせが機能した感。
"Futura" https://x.com/pherim/status/1825746940904300911
パゾリーニ『アッカトーネ』1961 https://x.com/pherim/status/1516764314958319621
『無垢の瞳』“Le pupille”2022
戦時下のカトリック系女子校を舞台に、クリスマスケーキへの少女らの欲望を描くアリーチェ・ロルヴァケル短編。
常に寓話調を纏うアリーチェ節が歌劇調に加速するも、とくに教訓もなく終わる抜けの良さ。嫌われ役修道院長を姉アルバが好演。
"Le pupille" https://x.com/pherim/status/1826731614115942409
『ローマで夜だった』https://x.com/pherim/status/1464563277267042311
余談。『墓泥棒と失われた女神』評を書きあぐねています。どちらかといえば外部要因によるのですが、あまり良くない流れなのでケリつけないと。まぁあと一両日もがくかなぁ。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
コメント
07月23日
20:29
1: いなだ つつみ
昭和20年まで日本だった台湾の、昔の風景というのは、私の子供の時、昭和40年50年代の鹿児島と共通したものがあり、服装も、南国ということで似ていて、でも登場人物は中国語。妙な感覚を覚えるのです
07月25日
21:24
2: pherim㌠
鹿児島と台湾って琉球列島の端と端ですし、無意識レベルで似たものを色々受け取れそうですよね。
今は中国語を話してるけど、中国語も日本語も余所由来のもの、何なら自分の家系自体もふつうに余所者、みたいな感覚を共有してる空気感は、日本人の感覚とかなり違うものを感じますね。