↑バンコク⇔東京で使うスーツケースは小中大3種あり、写真は中サイズのもの。毎回重量制限ギリまで書籍を運ぶため、感覚でほぼ精確な重量がわかるように。今回はかなり余裕あり。(写真で約15kg)
・メモは10冊ごと、通読した本のみ扱う。
・くだらないと切り捨ててきた本こそ用心。
※詳細は「よみめも 1」にて→ [ 後日掲載&URL追記予定 ]
1. 野崎歓 渋谷哲也 夏目深雪 金子遊 編 『国境を超える現代ヨーロッパ映画250 移民・辺境・マイノリティ』 河出書房新社
国民国家の枠組みが揺らぐさなかにあっては、国境を越える枠組みもまた揺らぐ。EUからの英連邦離脱と英連邦そのものの危機、ISやプエルトリコの破綻など昨今情勢は慌ただしいが、その根本を占めるのは言うまでもなく《人》の移動だ。このとき移動した《人》の撮る映画を国に所属させることは可能だろうか。かつてはフランス映画、イタリア映画、ドイツ映画という言葉が各々独特の色彩と文脈を以って機能し参照されたけれども、今後はどうだろう。映画発祥の地は今日も依然「映画」を牽引する。こういう面白さはまさに無上で、『シン・ゴジラ』も悪くはないがこれに比べれば桁2つほど喜びに劣ってしまう、と声を大にして言わないのは共感者が桁3つほど少ないのを承知しているからで、けれど道筋はこっそり残しておく。たどってみるか否かはあなた次第だ。
編者四名の他、十数名の書き手による構成。池澤夏樹、管啓次郎、四方田犬彦など参加。
※ふぃるめも42にて、本書にて言及される映画のうち十作品を扱った。
関連tweet: https://twitter.com/pherim/status/765575247097585664
2. 森田真生 『数学する身体』 新潮社
記号的な計算は、数学的思考を支える最も主要な手段の一つであることは間違いないが、数学的思考の大部分はむしろ、非記号的な、身体のレベルで行われているのではないか。だとすれば、その身体化された思考過程そのものの精度を上げる――岡潔の言葉を借りるなら「境地」を進める――ことが、ぜひとも必要ということになる。
「境地が進んだ結果、ものが非常に見やすくなった」というとき、岡の念頭には芭蕉のことがある。
数学を学ぶのではなく「数学する」。脳ではなく身体が「数学する」。
世界的にも特異な達成をなした数学者・岡潔の思想はシンプルだ。そして充たされている。道元、芭蕉、漱石に私淑する孤高の数学者、のその思想に近づくための、格好の案内書が本書となる。
森田真生講義日記: http://tokinoma.pne.jp/diary/1711
この6月に著者と話す機会があり、直前に図書館で借り行きの機内などでまずざっと読む。その後10月にも再会の機会があり、その間に通読。渾身の本作から受けとるべきものを精確に受けとること、が彼との関係性においては最前提になるとの心持ちで読む。
旦那衆・姐御衆よりご支援の一冊、感謝。
[→ 後日掲載&URL追記予定 ]
3. 増谷文雄 梅原猛 『仏教の思想10 絶望と歓喜<親鸞>』 角川文庫ソフィア
親鸞聖人。とても、ヤンキーっぽいです。
簡潔に述べるならそう感じた。梅原との対談で増谷文雄は、親鸞と法然とを比較するなかで、
「法然という人は、その意味では悲劇の人だったと思うのです。自分で知ってますよね。一文不知の愚鈍の身になりきれない人なんだ。だから、ときどき、愚鈍な身になって念仏をいただきたいという。こんど生まれ変わるときは、ああなりたいという」 p.244
と述べている。親鸞は法然に比べれば情感の人で、法然が勢至菩薩の生まれ変わりなら親鸞は観音菩薩の生まれ変わりだという親鸞の妻恵信尼の夢を引く梅原の言及を受けてのものだけれど、実際『教行信証』にはおかしな漢文や解釈も混じっており当時の教養人には理解できず、けれど親鸞の語る教えに対する庶民の共感は異常値ってこれ感性がヤンキー的。念仏唱えれば全解決な方向性は猪木的、要するに人生は気合なんだぜ絶対他力の本願寺。
旦那衆・姐御衆よりご支援の一冊、感謝。
[→ 後日掲載&URL追記予定 ]
4. 立野泰博 『被災地に立つ寄り添いびと』 キリスト新聞社
東日本大震災時の、被災地への半年にわたる逗留を含む二年半に及ぶ支援活動が綴られている。海外に本部をおくキリスト教会組織の日本事務局長という珍しい立場と視点から語られる震災後日本社会の諸側面は示唆に富む。大切な近親者を失った人々へ直に接する震災直後の凄惨な状況に、聖書からの引用句が都度都度挟まれていく日記パートの迫真性は震災後文学として高水準、もっと広汎に読まれて良い一冊。
著者・立野牧師はその後出生地熊本の教会へと赴任し、熊本地震に見舞われる。ぼくはその熊本地震後立野さんの運転する車で熊本~阿蘇を案内していただいたのだが、本著を読むのがキリスト新聞社より派遣されたライターとしての取材後という、ふつうに考えてあり得ない順序になってしまったことが今更ながら悔やまれかつ恥ずかしく申し訳ない。良著。
キリスト新聞社よりご提供の一冊。
5. 和田竜 『村上海賊の娘 下』 新潮社
下巻は専ら第一次木津川口の戦いを、村上武吉の娘景を軸に描く。上巻は村上家を中心とする社会情勢や人間関係の描写が面白く、「海からみた歴史」の点では今秋北九州でAsOさんと観た『宗像・沖ノ島 大国宝展』
[pherim tweeted: https://twitter.com/pherim/status/792885428860825600 ]にも近しい興味を覚えたが、下巻で主軸となる海戦描写は正直イマイチ。和田竜の陸戦描写、攻城戦は本当に読みごたえがあるので、ここは今後テコを入れてほしいところ。
上巻[よみめも31]: http://tokinoma.pne.jp/diary/1122
6. 中野信子 『あなたの脳のしつけ方』 青春出版社
著者ご本人と数時間にわたり私的にご一緒する機会を得たので、予習読み。
『情熱大陸』にも出演し、美人でカツラの脳科学者としてネットでも有名らしいこのかたの本著、タイトルにもある通り集中力や記憶力、努力やモテ力等々を「この自分」から「脳」という一器官へと対象化することで望みを叶えようというスタンスに貫かれた一冊。この「望み」もまた脳由来の仮構ととる仏教的視座よりは大分世俗的な方向性が人気の秘密ではあるのだろう。
幼児の迷う姿がかわいい「マシュマロ」実験、がまんできた子のほうが、成人後の追跡調査で社会的経済地位が有意に高かったという言及は説得力があるとともに、なんだかほんのり諦観の境地にも。
東大医学→フランス国立研究所というスーパーエリートだけれど、実際はとてもかわいらしいかたでした。
7. 中野信子 『脳科学からみた「祈り」』 潮出版社
震災後の「幸福観の見直し」から「共感細胞」(ミラーニューロン)、「一流アスリートがライバルの成長を祈る例」の心理的合理性を説く流れは秀逸。
自己犠牲的行為を、「ヘルパーズハイ」による幸福感の高まりと置き換えるといった読みの作法はそれ自体の妥当性云々よりも、既存の言説にまとわりつく手垢の醸す無意識への抑圧に対するバランシングを利かせる意味でとっても有効だと思える。意図的乖離から本来性の回復へ。
なんにしても「この自己」の捉え直しが先決なのだが、こういう話は通じない相手には徹底して通じない。自己変革は自己否定の契機を伴うため、不必要に愚鈍であり続けることは、それが自傷的な水準に届く場合ですらある意味では楽だからだ。当人はIQ148とかで「通じない相手」を「相手にしない」世界を軽々と生きることもできたろうに、そこの断絶を架橋する言葉を紡ぐ道を選んでいること自体に敬意を表したい。
8. 加藤嘉一 『われ日本海の橋とならん』 ダイヤモンド社
副題は「内から見た中国、外から見た日本-そして世界」。習近平との交接や反日教育の実際など諸々興味深く拝読。中国での学生生活のなかでどんどん注目を浴びてしまう過程の記述はとくに面白い。民主党政権下での尖閣における船長拿捕に反応した中国政府によるレアアース輸出停止カードの内幕や、四川大地震の復興プランを省や都市ごとに競わせたというのも。
さいきん消えたよなと思って今wikipediaをみて、経歴詐称を週刊文春にすっぱ抜かれてハーバードへ私費留学して雲隠れという流れを把握。残念すぎる。きっとこれほど成功するとは思いもしない駆け出しのタイミングで付した虚飾を、ズルズルと引っ込められなくなったんだろうなと。再起楽しみにしてますよ。
9. 小田尚稔 『「簡単な生活」〝Les vies simples〟』
演出家・小田尚稔による、スピノザ『エチカ』をモチーフとする上演台本。10月の一時帰国時、新宿で観た彼の舞台がとても良かったので他作もと購入したが、いやはや何とも、本作を読む時間はとても良いものだった。役者の身体を通じた現代口語の台詞と、超越的な抽象思考との往還により個別具体の生を際立たせる持ち味が良く、これが今観たい演劇なのだと唸らされる。
小田尚稔関連の連続ツイート: https://twitter.com/pherim/status/802117522560430080
10. 『CROSSCUT ASIA #1 魅惑のタイ 2014』 国際交流基金アジアセンター
国際交流基金アジアセンター発 × 東京国際映画祭の共催アジア映画特集企画の2014年はタイ映画で、本冊子はその関連ムック&総合プログラム。全編日英併記で限られた紙幅ながら贅沢な内容。浅野忠信、角田光代、高野秀行、アピチャッポン・ウィーラセタクン(カンヌパルムドール受賞)等々へのインタビューから四方田犬彦x石坂健治対談、タイ現代文学を代表するプラプダー・ユンの寄稿、ウィスット・ポンニミットの漫画まで。
とはいえタイ映画の潮流に関しては正直微妙な感覚を持っているので、何か言うのはまず一定量は観てからにせにゃぁなとぞおもふ。
▽コミック・絵本
α. 高浜寛 『凪渡り』 河出書房新社
良すぎる。この艶やかさ、この緊密で昭和な空気感。疼くような切なさと浅い描線。自伝的小話もあり、高浜寛ファンなら必携書なんだなと読後知る。はい、すでにずぶずぶのファンになりました。(高浜寛『四谷区花園町』よみめも31)
旦那衆・姐御衆よりご支援の一冊、感謝。
[→ 後日掲載&URL追記予定 ]
β. 五十嵐大介 『ディザインズ』 1 講談社
あいかわらずの垂涎シャーマニック作品世界。一見感性ベースのようでいて、実のところ構築性も相当に高いため足腰に堅固さも具わるのが五十嵐作品の特徴だなと。作品名が『ディザインズ』なのは、『デザインズ』だと画集だと思われるからかな。創造物としての生命と、人間が創造者となる世界の破れ。
旦那衆・姐御衆よりご支援の一冊、感謝。
[→ 後日掲載&URL追記予定 ]
γ. 諫山創 『進撃の巨人』 17 講談社
δ. 羽海野チカ 『3月のライオン』 9 白泉社
ε. 弐瓶勉 『NOiSE』 講談社
博多の漫画喫茶で読んだ。旅行中に徹夜前提の耽溺行為をするのも考えものだが至福なので仕方ない。一応3冊で寝ておいた。
今回は以上です。こんな面白い本が、そこに関心あるならこの本どうかね、などのお薦めありましたらご教示下さると嬉しいです。よろしくです~
m(_ _)m
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コメント
12月04日
03:10
1: a.k.a.ツネヤス
『凪渡り』、自分も高浜寛作品で最初に手に取ったのはこの作品で、そのあと遡っていったんですけど、購入の決め手になったのが、オビに「ユーリ・ノルシュテイン絶賛!」って書いてあったからっていうのは覚えてますねー。