今回は10月第3週の日本公開作と、《国連UNHCR難民映画祭2017》上映作等から計十作品を扱います。
《国連UNHCR 難民映画祭 2017》 http://unhcr.refugeefilm.org/2017/
(↑名古屋10/21-22、大阪11/28-29、福岡11/4-5、広島11/11-12開催。東京、札幌終了済)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第75弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■10月20日公開作
『女神の見えざる手』
天才ロビイストの絶え間ない奇策連環にチームは翻弄され議員は怒り、社会が揺れる。銃規制をめぐり策謀渦巻く、信条も仁義も不要のコンゲーム。硬質の映像展開が極上で、殊に睡眠障害を抱えた主人公演じるジェシカ・チャステインを包み込む、冷たく張り詰めた深夜の質感は珠玉。
■10月21日公開作
『鉱 ARAGANE』
自転公転を続けるこの地上から取り残された坑道の奥でそれは滴り、それは煌めく。闇へ作動音を響かせる重機群、蠢く坑夫の肉体群。坑内深部へ女性監督が分け入ることの珍しさも、ボスニアの炭鉱で日本人の若手が撮ることの新奇さも吹き飛ばす映像と音の胆力にただ圧倒される。
旧国鉄の雰囲気が残る、新橋のガード下にある古い試写室で観られたのも個人的には良趣。地の底を少し想った。
『我は神なり』
ダム湖に沈む予定の寒村へと忍び入る宗教詐欺の触手、その尖兵として利用される牧師の真実。ソウルなど都市部へ目線を集めがちな韓国映画の傾向自体が、地方崩壊が叫ばれる韓国社会の反映なのだと気づかされる。『新感染』を生んだヨン・サンホ監督特異のダークな世界観が冴える一作。
『婚約者の友人』
フランソワ・オゾン新作は、モノクロ基調の眼福極まる珠玉作。互いへの敵愾心くすぶる大戦後の独仏を鏡像として映しだし、仄かな明るさへと着地させる技巧。ふいに蘇る色彩の奏でるリズムに感情の在り処を描く探究と挑戦の痕跡。『羅生門』を想わせる構成の秀逸。全てに感服の一編。
『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』
実在した元高級娼婦の作家の生涯。36歳で自死を選んだ彼女は書く。命が私を駆け抜けていった。愛が私を殺す。セックスが私を殺す。言葉通りに、心の内に自らの居場所を失う過程を映画は描く。絢爛な暮らしの中で、彼女は次第に砕かれた鏡の破片そのものとなる。分裂し疎外されゆく描写に不思議な圧と余韻のある良作。
『ソニータ』
テヘランで暮らすアフガニスタン難民のソニータはラッパーを目指すが、母は結納金欲しさに娘を地元の中年男へ嫁がせようとする。イラン国内の支援者組織や人権活動家の現況も活写する良質ドキュメンタリー。YoutubeでのPV公開が彼女の夢を繋げる展開はベタながら爽快かつ熱い。
にしても彼女は姪っ子に再び会えるのか。『ソニータ2』で会える日を観られることを願うばかり。
■国連UNHCR 難民映画祭 2017 http://unhcr.refugeefilm.org/2017/
『アフター・スプリング ~ザータリ難民キャンプの春~』
『アフター・スプリング ~ザータリ難民キャンプの春~』
ヨルダン・ザータリ難民キャンプへたどり着いた二組のシリア人家族と支援組織の職員達。厳しい状況の下でも最善を尽くそうとする二人の父親、テコンドー道場を完成させる韓国人職員などの働く姿を、恒常性を伴う生活目線で描く質実さに感銘。
『神は眠るが、我は歌う』
母国イランでファトワーが発令され、どこであれ命を狙われる身となった歌手シャヒン・ナジャフィ。シャルリエブド事件やケルン暴動を経て襲撃リスクに怯えた仲間が次々と去る一方、水面下での人気は益々高まる。暗殺の危険を覚悟し聴衆に身を晒し続ける表現者の矜持と執念。
『神は眠るが、我は歌う』"When God Sleeps"上映後に監督Till Schauder&プロデューサーSara Nodjoumi夫妻のトーク。本作を撮るか否かは、二人にとっても人生の大きな決断だったと。新作では在独イラク&シリア難民学生のムスリムリベラル活動を追う。
『シリアからの叫び』
いまや数多いシリア内戦を扱う作品中でも、アサド父まで遡り内戦の全貌を収める点、ロシア軍による授業中の学校への爆撃現場を詳細に撮る点に、
『ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い』のロシア人監督エフゲニー・アフィネフスキーの気骨が看取される秀作。
■フランス・ドキュメンタリー映画 その遺産と現在@アンスティチュ・フランセ東京
『コンゴ川 闇の向こうに』
ザイール消滅後の情勢不安定なコンゴ流域を遡る、コンラッド『闇の奥』を地で行く試み。遡るごと変容を遂げる人々の風貌、河面と風景。語られるレオポルド2世や指導者ルムンバの記憶、独裁者モブツが残した王宮廃墟や大鉄塔の空虚。源流へ至ったカメラが映す無時間の閾。
余談。
「■10月21日公開作」として扱った5作品は、各々に突き抜けた良作揃いです。この意味では黒字表記の
『鉱 ARAGANE』、
『我は神なり』、
『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』も他に劣りません。黒字表記だとpherimの評価は低いのかと勘違いされることがあるので念のため。(緑字青字表記はあくまで並走する複数の評価軸の中の、やや通念的配慮へ傾斜した一つに拠っているに過ぎません)
おしまい。
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