今回は、
《国連UNHCR 難民映画祭 2017》上映作から十作品
(次回残り三作)を扱います。衝撃と感動の連続。期待値以上の良作揃いでした。
国連UNHCR 難民映画祭 2017: http://unhcr.refugeefilm.org/2017/
札幌、名古屋、大阪、福岡、広島にて、11月12日まで
(東京は日程終了)。事前申込のほか当日券配布もあり。基本的に当日券で入れるかと
(トーク日除く)。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第7弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■国連UNHCR 難民映画祭 2017 http://unhcr.refugeefilm.org/2017/
『希望のかなた』
地獄の黙示録風に黒塗り顔で現れるシリア人の男。石炭貨物に潜った越境場面に始まる本作は、難民問題に発する欧州の諸問題と正面から向き合いながら当代一流のユーモアを忘れず、笑いのなかに綺麗事では済まされない現代のメランコリックを忍ばせるアキ・カウリスマキさすがの快作。
試写メモ: 後日追記予定
『はじめてのおもてなし』
ミュンヘンに暮らす富裕な一家が、母の発案で難民を一人受け入れる。選ばれたナイジェリア青年は、偏見やボコハラムから受けた傷に苛まれつつ新生活への適応に務めるが。ドイツの世界の諸問題を反映させた膨大なテーマ群を、気楽に笑えるコメディへまとめ上げた巧さに感心。
『はじめてのおもてなし』、主人公であるナイジェリア青年の体験と心境変化を巡る描写もさることながら、率先して難民を受け入れるメルケル政治に対する一般ドイツ人の心情や、保守的でヒトラーの地盤ともなったミュンヘンの地域性まで諸々戯画化されており興味深い。難民映画祭オープニング作品。
『ナイス・ピープル』
スウェーデンの田舎町で、ソマリア難民による氷上スポーツ「バンディ」の国代表チームが結成される。異境に馴染めず住民から敬遠される彼らが、特訓を通じ成長を遂げていく。ユーモアと真剣さの交錯、ドキュメンタリーとは思えないほど秀逸な展開に惹き込まれる。
日本代表との試合も登場。ある国代表からは得点を巡る裏取引を押し付けられ、メンバーの誇りを傷つける。個性的な人物群の中でもひときわ目立つ香港人移民の酒場店主がシベリアの会場へ駆けつけ、意気消沈のチームへ檄を飛ばす姿はもう最高。「今こそ余所者扱いを受ける我々も、同じ人間だと示す時だ」
この香港人店主の控室での咆哮、移民として生きた彼の数十年の苦渋が濃縮された、実は本映画祭屈指の名場面かと。画角や編集から恐らく監督も意識したと思えるけれど、小太りの中年男が突如
『エニイ・ギブン・サンデー』のアル・パチーノに変身します。
Al Pacino's motivational Speech:
『とらわれて ~閉じ込められたダダーブの難民~』
世界最大の難民キャンプに暮らす、ある家族の希望と現実。公式35万、推定50~60万人のソマリア難民が暮らすケニア・ダダーブキャンプを多角的に紹介する点も興味深い。先の見えない生活の中、映画撮影に活路を見出す青年の後ろ背は心に残る。
『アレッポ 最後の男たち』
市街戦の激化するアレッポで、爆撃地へ日夜急行し生存者を救うホワイト・ヘルメットの男達。良き父であり真面目な学生であった彼らの素顔と、突如訪れた余りにも残酷な日常。終幕のテロップで、それでも映画に希望を前提する自分の昏さ蒙昧さを知った。観られるべき秀作。
『私たちが誇るもの ~アフリカン・レディース歌劇団~』
暴力やレイプに晒されてきた歌劇団の一人は問う。「なぜつらい過去を思い出すようなセリフを言わせるのか」問われた劇作家は呻吟する。そう問い糾す団員が、しかし息子の洩らした言葉により舞台の真価に目覚める場面の凄味。表現は解放する。
『シリアに生まれて』
子供の視点に立つと政治は遠のき、半径5mの生活が迫り来る。家族との別離、郷里の喪失、窮屈なテント。シリア生まれの子供達が様々な境遇から、ふとカメラを見つめ上げるその瞬間、観客席の己が問われているものの厚みに慄く。音楽ガブリエル・ヤードの荘厳が全編を包摂する。
それにしても。Gabriel YaredのCDは実家に何枚もある。映画音楽の巨匠中でも、モリコーネよりハンス・ジマーより好きだった。
『シリアに生まれて』で、初めてYaredの綴りを意識した。レバノン出身、今はヤレドと表記されると知る。
『市民』
ブダペストで暮らすナイジェリア難民ウィルソンは、ハンガリーの市民権獲得のため試験勉強に励んでいる。ある日転がり込んできたイラン人の妊婦を匿ったことから、彼の日常に波瀾が生じだす。異国に馴染むことの困難が、どこであれ孤独な人間の本質を一層鋭く伐り立たせる。
『ノーウェア・ トゥ・ ハイド ~あるイラク人看護師の記録~』
イラク中部の町ジャローラに暮らす看護師ノリ。「米軍侵攻前とは扱う傷の種類が変わった。米軍撤退後は混迷が深まるばかりだ」ISの脅威から家族を守るため町を捨てた彼の目に映るその混迷の、渇き切った無意味の意味を考える。
『カイエ・アフリカン ~暴力の記録~』
中央アフリカ共和国、バンギ。ある一冊のノートに、300人もの女性への暴行を巡る証言が記されていた。女性たちの訥々とした語り口と、語られる凄絶とが生むコントラストに言葉を失う。流れる映像の静謐に耳を澄ませる。非言語的な質感の厚みに充ちた秀作。
『カイエ・アフリカン ~暴力の記録~』"Cahier Africain"は、52分の中編ながらHeidi Specogna監督が7年をかけた重厚作。声高でないこの質実さは、《国連UNHCR難民映画祭2017》全作中でも異彩を放つ存在。女性監督ならではの繊細で情感ある映像が深い。
余談。難民映画祭、初回上映後にはいとうせいこさん
@seikoito、サヘル・ローズさん
@21Sahelのゲストトーク。人寄せに有名人を呼ぶ打ち上げ花火かと若干舐めていたのが大間違い。お二人とも極めて真摯な語り、本気で難民問題に関わる覚悟が感じられすでに実践も重ねられており、終始熱かった。
冒頭作
『希望のかなた』(12月公開)については、主演のクルド人俳優シェルワン・ハジへのインタビューも行ったので、後日試写メモ投稿予定。
おしまい。
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