今回は、8月上中旬(8月4日~18日)の日本公開作と、
日本公開未定作を中心に。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第93弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■8月4日公開作
『祈り』
ジョージア(グルジア)映画、テンギズ・アブラゼ監督1967年作。コーカサス山中で対立するキリスト教徒とムスリムの村の双方で、敵方に知己を見出し異教徒に敬意を払う男が村の排斥論理と対峙する。宗教レリーフがもつ無音の荘厳さを宿すミニマルな風刺構図は、不寛容の覆う今日を貫き透す。
"Vedreba" https://twitter.com/pherim/status/1023924200736616450
テンギズ・アブラゼ『祈り』('67)
『希望の樹』('76)
『懺悔』('87)の《祈り三部作》が岩波ホール創立50周年記念企画として8月4日より全国順次公開とのこと。揺るぎなく岩波ホール的。
『希望の樹』他作tweets: https://twitter.com/pherim/status/770415644986609664
『2重螺旋の恋人』
双子、鏡像、螺旋、倒錯。フランソワ・オゾン新作は、洒落てクールな監督作イメージを利用しつつ自ら喰い破る。澄明とグロテスクの往還極まる舞台内装が逐一眼福。精神分析的極限状況に、妊娠による増殖と寄生、食人メタファーを直に絡めて駆けあがる螺階の果てへ開ける官能の、超絶。
"L'amant double" https://twitter.com/pherim/status/1023395969147133952
■8月10日公開作
『追想』
シアーシャ・ローナン主演新作は、性の抑圧が未だ強い60年代初期英国のある新婚初夜を描く。監督ドミニク・クックも相手役ビリー・ハウルも生粋の英国演劇人とあって、課した制約により昇華を目指す画作りの全体が良質の舞台を観るよう。原作者イアン・マキューアン自身による脚本も秀逸。
"On Chesil Beach" https://twitter.com/pherim/status/1027388148987224064
イアン・マキューアン『初夜』
小説の核心は、新婚初夜の数時間の内に二人が生きる時代と社会変化の全体を封じ込める手腕の冴えにある。とりわけ心理描写。各々の思惑とか駆け引きの解説などでなく、なぜそうならざるを得ないのかという宿命的なすれ違いをとても切なく描き出す。映画『追想』の原作。
■8月17日公開作
『タリーと私の秘密の時間』
幼児2人を育てながら出産に挑む母親の気忙しい日々に、ふと舞い降りたベビーシッターのタリーがもたらす奇跡の時間。18kg増量して本作に臨んだシャーリーズ・セロンの女優魂炸裂する育児モノ会心作。ミドルクライシスに戸惑う女性が軽やかな20代女性に導かれる構図は新鮮。
"Tully" https://twitter.com/pherim/status/1028931000502431744
■8月18日公開作
『ゲンボとタシの夢見るブータン』
青空に響くチベタンベルと風にたなびく五色のタルチョ(祈祷旗)。古寺を守る一家の兄ゲンボと妹タシが、将来や性の悩みを抱えつつ今日も朗らかに駆け抜ける。スマホの現代と伝統との断絶を若きバイタリティで乗り切る様は万国普遍だなと。父親の舞楽面を愛おしむ表情がまた素敵。
"The Next Guardian" https://twitter.com/pherim/status/1026063038380617728
試写メモ41「踊るブータン、笑う仮面」:
http://tokinoma.pne.jp/diary/2941
『チャーチル ノルマンディーの決断』
ノルマンディー上陸作戦へ反対し続けたチャーチルの96時間。前作が泰緬鉄道の捕虜を描く
『レイルウェイ 運命の旅路』のテプリツキー監督による、質実な人間ドラマという観。アイゼンハワーと対峙する男の双肩に、ダンケルクから4年という時の重みがのしかかる。
"Churchill" https://twitter.com/pherim/status/1027807129179062272
『レイルウェイ 運命の旅路』(ふぃるめも9):
https://twitter.com/pherim/status/468270555246768128
ゲイリー・オールドマン熱演の傑作
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』とは、あらゆる面で対照的。とりわけダンケルクの撤退作戦の決断でみせた勇猛果敢さと、本作で描かれる逡巡の落差たるやああん。
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(ふぃるめも84):
https://twitter.com/pherim/status/979540539090485248
『ポップ・アイ』
一頭の象と中年おやじによるバディ物ロードムービー。有名建築家のミドルエイジ・クライシスをハートフルに描く。都会的成功の虚飾と、出生地イサーン(タイ東北部)で犯した過ちへの悔悟を結ぶ物語はいかにも東南アジア的で、ニューハーフや浮浪者から警官まで脇役が皆切なく温かい。
"Pop Aye" https://twitter.com/pherim/status/1025189414392090624
■日本公開中作品
『ミッション:インポッシブル フォールアウト』
もはや称号《21世紀アクション界の寅さん》を授けたい。話の整合性など度外視するトム・ザ・サーカス・クルーズな展開に、メッカ+エルサレム+ローマ同時核攻撃の本来超絶過激なオープニングすら鑑賞後にはまるで霞んでるし、それで満足しちゃえる風物詩。
"Mission: Impossible - Fallout"
『カメラを止めるな!』
抱腹絶倒の傑作。ワンカット37分の試みがしっかり物語の核にもなっていて、デジタル編集時代に汗かいてもがくその手作り感がまたアツい。前半の駄目がすべて伏線回収される脚本の練度は驚異的で、低予算ゆえの工夫が社会現象化を生むというカルト作の条件を存分に満たす怪作。
"One Cut of the Dead" https://twitter.com/pherim/status/1029281534027608064
『カメラを止めるな!』、見知らぬ他の客大勢と映画館で観ることに“こそ”意義を感じる作品は久々だなと。個人的には超カルト作
『ロッキー・ホラー・ショー』の初鑑賞時に感じた莫大な謎熱量を、本作から初めて受けとる若い観客は絶対いるなとすら思わせる。すこし褒めすぎにみえるかもだけど。
あと、日本のマンネリ型映画宣伝ではアクセス不能な、観客側の潜在需要に応えた点で『カメラを止めるな!』は
『この世界の片隅に』にも通じる作品。予告編ではそこが伝わらないし、前半で席を立つ客がいるという話は聞いていたけど実際数人いたし、でもそういう怪奇込み社会的文脈込みで楽しめました。
アガンベン『実在とは何か マヨラナの失踪』に絡めた過去日記「ゾンビを止めるな!」:
http://tokinoma.pne.jp/diary/2967
■日本公開未定作
"Anon"
士郎正宗
『攻殻機動隊2』のハリウッド版変奏曲キタコレ。
『ガタカ』で衝撃デビューしたアンドリュー・ニコル監督の腕冴える哲学的近未来SF。夢も希望もない諦観の下、冷ややかに生を蕩尽し続ける謎の女を演じ切ったアマンダ・サイフリッドの射抜くような目線と凍てつく佇まいに見惚れる100分間。
"Anon" https://twitter.com/pherim/status/997075137286488065
さて余談。
『タリーと私の秘密の時間』、日本公開は8/17。ちなみにLIDOで観たおそらく最初の映画は
『タイタニック』。pherim少年、沈没と機関部の場面にかぶりき最前席で3度観ました。どっぱ~んて。
バンコク老舗映画館“LIDO”閉館 tweets:
https://twitter.com/pherim/status/1002006027989024769
それから
"Anon"、国内劇場公開の噂まだないので、Netflixスルーになりそうな。監督アンドリュー・ニコルだし、主演アマンダ・サイフリッド&クライヴ・オーウェン+攻殻機動隊需要で一定の興行収入は見込めそうなんですが。あと管見の範囲で無根拠だけれど、アマゾンプライムに比べるとネトフリ製作の国内映画館配給ってあまりない気がします。
おしまい。
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