今回は8月下旬~9月初旬の日本公開作と、日本公開未定作を中心に。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第94弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■8月24日公開作
『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』
スタジオポノック短編劇場。米林宏昌監督作
「カニーニとカニーノ」は、宝であり呪縛でもあるジブリの存在をキャラクター造形に感じるあたり前作
『メアリと魔女の花』を思わせたけれど、水流の表現などに
『崖の上のポニョ』を超える気概も感じ楽しめた。
百瀬義行監督作
「サムライエッグ」は、食物アレルギーの子供が味わう苦難と、母親の大変さとを重くなりすぎず共感的に表現。アレルギー症状に襲われる描画に驚嘆。山下明彦監督作
「透明人間」はアート系秀作という雰囲気、後味が清々しい。
"Modest Heroes"
■8月25日公開作
『テル・ミー・ライズ』
演劇界の鬼才ピーター・ブルックによる1968年作品で、カンヌにて上映取消しされたベトナム反戦物、と聞いて即ガチ期待する層にも十二分に応える歌劇作。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの面々が苛烈なまでの反米風刺をやってのけるこの沸騰にきょうびの欠落を看取する。
"Tell Me Lies"
『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』tweet(ふぃるめも15):
https://twitter.com/pherim/status/520052697932632064
■8月31日公開作
『判決、ふたつの希望』
ベイルートの下町で起きた些細な諍いが、国論を二分する法廷劇へ。マロン派キリスト教徒で身重の妻をもつ自動車修理工と、不法就労で糊口をしのぐパレスチナ難民の土木監督。勢いで吐く一言がお互いの全人生を否定する。個の悔いや赦しを置き去り妖怪化する社会対立の不気味。
"L'Insulte" "The Insult"
二人の対立の背景には、周辺国の社会状況が凝縮されているので、中東現代史を整理する良い機会にもなった。
『アントマン&ワスプ』
マーベル映画の中ではダントツに視覚効果が面白い。極小のクマムシ泳ぐ量子世界と日常空間のめくるめく往還や、物体のサイズ変幻能力を駆使した格闘がユニークで笑える。スケール自在のヒーロー譚を散々楽しんだ挙げ句にいたる、恒例のエンドロール後おまけ映像はゴクリ戦慄。
"Ant-Man and the Wasp"
ちなみに『アントマン&ワスプ』は、マーベル・シネマティック・ユニバース20作目にして、女性の主人公が初めてタイトル採用されたケース。すでにイスラム女性を主人公に据えた
『ミズ・マーベル』“Ms. Marvel”の制作が発表されているけれど、そこへ向けた地ならしとも言えますね。
『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』
テニス史に残る伝説の試合。報道の過熱をよそに、全てが対照的だからこそ通じ合える精神極限での格闘を二人は闘い抜く。破裂寸前の重圧、ヒリヒリするような緊張感、支える人間達の苦悩、コート上での孤独。それら演出の逐一が速度感をもって透徹し切る秀作。
"Borg/McEnroe"
■9月1日公開作
『きみの鳥はうたえる』
こういう映画が存在してくれることに、心からありがたさを覚えた一作。函館の町角に流れるありふれて濃密な時間、滔々と過ぎ去ってゆく季節。奇を衒うでなく、声高に唱えるでもないささやかな描写の連なりが、しかし奥行きをもった豊かな残響を聴くように心へ沁み入ってくる。
※函館では8/25公開。""
『ディヴァイン・ディーバ』
ブラジル軍事独裁下の60年代を生き抜いたドラァグクイーン第1世代が、70歳到達を機に再集合し舞台へ上がる。レジェンドたちの今を通して現代史を振り返る“ブエナビスタ”的構成がきちんとハマり、一人ひとりの背負う陰翳の厚みが丁寧に写しとられた映像の豊かさに息を呑む。
"Divinas Divas"
『寝ても覚めても』
今まで記憶のない種の衝撃。情感演出が抜群なだけでなく、単なる主題利用に留まらない“震災後”の本格映画表現をようやく目にできた実感。濱口竜介による柴崎友香原作の採用がもつ秀逸さも十分に合点がいく。
『ハッピーアワー』の卓越性が、商業映画の枠組みへしっかりと着地した。
"ASAKOI&II"
■日本公開未定作
"Adrift"
実話ベースの海洋漂流譚。シェイリーン・ウッドリー気を吐く熱演。
『エベレスト 3D』や漁師海難物を過去に撮った監督作だけに、凶悪ハリケーン・遭難・身体変化・捕食などディティールに見応えあり。ラストの仕掛けは極限描写の定番ながら、孤絶感覚の演出に今日性も感じられゾクゾクきた。
"Adrift"
"The First Purge"
『パージ』シリーズ4作目は、政府に封鎖されたNYスタテン島の貧民区で、KKKを偽装する謎集団に黒人ギャング達が立ち向かう。弱者排斥の頽廃描写でトランプを風刺した前作の流れから、黒人若手監督を起用した本作はさらにキレを増す。主演女優&男優のシュッとした顔立ちに見惚れた。
"The First Purge"
『パージ』4作目でNYスタテン島の黒人居住区を舞台とする前日譚。弱者排斥促進のディストピア描写によりトランプ政権風刺へつなげた前作までの流れから、過去全作の監脚ジェームズ・デモナコが脚本のみに退き黒人若手監督を起用、キレが増した。
『ブラックパンサー』人気を巧く捉えた感。
『ディーパンの闘い』(ふぃるめも28): https://twitter.com/pherim/status/694714165835931648
余談。
"The First Purge"、後日シリーズ前作にからめて追記します。
本項で扱った日本映画の原作、
佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』と
柴崎友香『寝ても覚めても』、興味あるのでおそらく読みます。数回のちのよみめも掲載のながれ。
おしまい。
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