ザンスカール地方
(チベット文化圏インド側秘境域)滞在のため更新遅くなりました。今回は、9月7日~9月22日の日本公開開始作と『モアナ~南海の歓喜』公開記念企画上映作、日本公開未定作など11作品を扱います。(再掲1作含む)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第95弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■9月7日公開作
『500ページの夢の束』
ダコタ・ファニング演じる自閉症の少女が、スター・トレックの脚本コンテストのため旅に出る。大通りを渡ることすら勇気のいる少女を襲う試練の数々。聴覚過敏が人との関係性を狂わす描写は迫真的で、愛犬ビートやクリンゴン語を話す中年警官など脇役も良い。元気の出る成長譚。
"Please Stand By" https://twitter.com/pherim/status/1037651287754461184
『ブレス しあわせの呼吸』
幸福の絶頂期にポリオ由来の全身麻痺となった青年と、彼を支える妻を巡る実話ベース立志伝。呼吸装置の故障後2分で死ぬ状況下で夫を退院させた妻の英断と格闘が社会を変えていく。『沈黙』『ハクソー・リッジ』のアンドリュー・ガーフィールドによる首上だけの熱演に刮目。
"Breathe" https://twitter.com/pherim/status/1036612535867207682
"Breathe" 昨秋鑑賞時tweeted@バンコク:
https://twitter.com/pherim/status/928433663271772160
『MEG ザ・モンスター』
サメ映画の進化がとまらない!今回襲い来るのは体長70mに及ぶ太古の巨大海獣メガロドン、受けて立つジェイソン・ステイサムのシリアス顔が大写しになるたびジワるし、歴代サメ物の定番シーンを抑えつつ、海底探検要素や海洋SF要素もてんこ盛りでアイデアが逐一楽しい娯楽大作。
"The Meg" https://twitter.com/pherim/status/1036986677368053760
あとダイビング経験者的視点で見ても、IMAX3Dの海底擬似体験の訴求性はなかなかのものでした。
■9月8日公開作
『1987、ある闘いの真実』
またも韓国映画の本気をみる。ソウル大生の拷問死に端を発する民主化闘争。検事や刑務官、記者や学生らの命を賭けた選択。無名の市民達による打算でない行動の奇跡的な連鎖が、軍事独裁の絶対権力へ風穴を穿つ過程の克明な再現に息を呑む。冷えた今の空気への痛烈な風刺ともなる傑作社会劇。
"1987" "1987: When the Day Comes" https://twitter.com/pherim/status/1037866854830620672
『ヒトラーと戦った22日間』はソビボル絶滅収容所で起きた反乱の経緯を描く。反乱の首謀者であるユダヤ人のソ連兵アレクサンドル・ペチェルスキーを主人公に据え、彼が収容所へ移送されてから一斉蜂起へと至る22日間が迫真的に映し出される。各地から集められ互いに異なる言語話者のユダヤ人収容者達によりバベルの塔と化した収容区内の模様や、ナチス親衛隊将校に取り入るカポ(ナチスに協力的な監視役)とゾンダーコマンド(数ヶ月の延命と引き換えに虐殺の実務を担う)の人物造形、ガス室の阿鼻叫喚をかき消すため飼われた数百匹のガチョウの群れなど細部のギミックに至るまで再現描写が生々しい。
"Sobibor"
試写メモ43 「ホロコーストの此岸」:
http://tokinoma.pne.jp/diary/2964
■9月15日公開作
『リグレッション』
悪魔崇拝の儀式に子供達が供されるという疑惑を、イーサン・ホーク演じる刑事が追う。個の現実という虚構の視覚化こそアレハンドロ・アメナーバル監督作の核心なのだとあらためて思わせる。“Regression=退行”のやるせなさと恐さとを、エマ・ワトソンの唇の幽かな歪みが絶妙に体現する。
"Regression"
『モアナ 南海の歓喜』
南太平洋サモア諸島の原住民を撮るドキュメンタリー。1926年の映像に、監督ロバート・フラハティの娘モニカ・フラハティが80年代現地録音したサウンドが付加された。失われつつある生活様式の全体を質実に映しだそうとするフラハティの息遣い染みわたる逸品。
"Moana" https://twitter.com/pherim/status/1052353283363205120
試写メモ45「フラハティ、精髄のドキュメンタリー」:
http://tokinoma.pne.jp/diary/3029
■9月22日公開作
『バッド・ジーニアス』
バンコク発の学園物クライムサスペンス傑作。庶民家庭に育った秀才の主人公が、富裕層の悪童達とカンニングの組織化を図る描写がとんでもなくスリリング。シドニーへ舞台を移す後半の展開は、海外留学を頂点とした学歴による新たな階層化が進む現タイ社会への痛烈な風刺でもある。
"ฉลาดเกมส์โกง""Bad Genius"
主演少女のぎこちなく硬い表情による演技が素晴らしく良い。タイ製娯楽映画にありがちな決めシーンの連続による飽和感が残るものの、この独特の存在感を放つ主演女優の醸す不安定さと意志の強さとのせめぎ合いがとにかく魅せて飽きさせない。
■日本公開未定作
"Someone From Nowhere"
プラープダー・ユン監督2作目。タイ政治文脈を離れてもウェルメイド怪奇譚として通用する作品水準だからこその、クライマックスでのタイ国歌採用がもつ重層性に震える。無自覚に為されたのだろう、アピチャッポン『世紀の光』との透過光使用や対照構造など各種類似も気になる
"มา ณ ที่นี้" https://twitter.com/pherim/status/1035132086816919552
プラープダー・ユン新作"Someone From Nowhere"、タイ王国という民族国家の正当性自体への懐疑がテーマで、実は超ヤバ目路線。“現れた男”の邦題にて昨東京国際映画祭へ出品されるも、気取った不条理劇との低評価多し。いや観客起立のタイ映画館でこれかかるスリル込みでだな。
■『モアナ~南海の歓喜』公開記念上映&シンポジウム ロバート・フラハティとドキュメンタリーの変容 @アテネ・フランセ文化センター http://www.athenee.net/culturalcenter/program/fl/flaherty...
『流網船』"Drifters"
流し網漁船の出港から荷揚げまでニシン漁の全過程を映し、“ドキュメンタリー”の概念型を準備したジョン・グリアスン監督1929年作。船内労働や回遊する鰊の群れを捉える映像など今の目にはフェイクとわかるが、制約の中で意図に沿った表現へと結実させる力は確かで見応えあった。
"Drifters" Grierson, 1929 https://twitter.com/pherim/status/1034080907768946688
『ルイジアナ物語』
あらゆる意味で想像を超えていたロバート・フラハティ晩年期1948年作。仏語を話し自然へ順応する父子と英語話者の油井掘削工達との対照による、呪術性と近代との鮮やかな交錯。鰐との格闘、アライグマの逃走。鋭い金属音が夜闇を切り裂き、異界への穴を少年は静かに見つめる。傑作。
"Louisiana Story" 1948 https://twitter.com/pherim/status/1033995779013206016
余談。ロバート・フラハティ1922年のデビュー作『極北のナヌーク(極北の怪異)』については、「ふぃるめも28」にて扱った。
『極北のナヌーク』tweet: https://twitter.com/pherim/status/678697917910147072
フラハティ『ルイジアナ物語』は、雄渾たる大河の懐に抱かれ暮らす少年の、自然と戯れるような描写ののち唐突に現れる、油井掘削の場面が殊に圧巻。陽光に照らされた河面をすべるように水平移動していた映像が突如、暴力的な叫びを伴う垂直運動へと切り換わる。魔術的時空の変容。
この『ルイジアナ物語』における油井掘削場面の動画を最後に。↓
"Louisiana Story (1948) - Oil rig"
おしまい。
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