今回は、9月28日~10月12日の日本公開開始作から12作品を扱います。(含再掲2作)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第96弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■9月28日公開作
『クレイジー・リッチ!』
オールアジア系俳優&スタッフのハリウッド映画として全米ヒットをかました画期作。彼氏が実はシンガポール大富豪の御曹司だったというシンデレラ物語。華僑社会の掟や価値観の世代間格差が巧く描き込まれ、プラナカン衣装やポストコロニアル建築も逐一眼福。すべてが秀逸な娯楽傑作。
"Crazy Rich Asians" https://twitter.com/pherim/status/1045882275164971008
『クレイジー・リッチ!』、バンコクでの公開初日(8/23)に観たけれど、劇場内が少し常ならぬムードで華僑系観客が多く世代幅も広かった。華僑層で結構な関心を集めている様子。白人の偏見を見返す冒頭場面で、「ああ日本はかつてロックフェラーセンターを買収しても、これができなかったんだよな」と。
この意味でも、国内配給で原題
"Crazy Rich Asians"から「アジア」を除いた意識の低さはかなり残念。《アメリカのショービジネスでアジア人がやり通したぜ》の筋で売らないと、大した客入りが見込める作品になってないと思うんだよね。
『クワイエット・プレイス』
音を立てたら即死のサバイバル・ホラー。盲目の老人が最恐だった
『ドント・ブリーズ』の緊張感を、一軒家から終末SF世界へ拡げた感。窮地を凌ぐ工夫の連続は手に汗握るし、徐々に近づいてくる出産予定日の切迫感たらもう。エミリー・ブラント演じる母の強さにひたすら震撼。
"A Quiet Place" https://twitter.com/pherim/status/1045499581914464257
『かごの中の瞳』
バンコクで視力回復手術を受ける女性が主人公のサイコサスペンス。医療ツーリズムの現場描写が興味深く、カタルーニャへと舞台転換し過去と向き合う後半との対照も鮮やか。回復した視覚が触れる色彩に対する感動、音楽/聴覚との連環、性差によるすれ違いなど諸々構成の見事な秀作。
"All I See Is You" https://twitter.com/pherim/status/1044444534443171840
『かごの中の瞳』("All I See Is You")で主人公は、視覚が回復した後“色を楽しみたい”と言い、夫はバンコク近郊の水上マーケットへ連れていく。このとき通る摩天楼やチャオプラヤ川の大橋が、見慣れた自分にも新鮮に映った不思議。あと再度視覚を失いかける際の血流ヴィジョンが、自身過去に体験したものと同じで驚いた。
年明けバンコク鑑賞時tweets(ふぃるめも90): https://twitter.com/pherim/status/950655543399469062
(※主演ブレイク・ライブリーの周辺話題込み)
■9月29日公開作
『愛と法』
弁護士ゲイカップルの日々。コテコテの大阪下町を熱くしなやかに生き抜く二人の暮らしをユーモラスに映しだす。失望と落胆が続々と押し寄せる現実に、互いを励まし立ち向かい続ける魂の肉弾戦のような日常。担当弁護士の視座を通した“君が代不起立”や“ろくでなしこ”裁判の模様も興味深い。
"Of Love & Law" https://twitter.com/pherim/status/1046280413121896449
『運命は踊る』
現代イスラエルでわが子を前線へ送る心境、パレスチナ住民へ銃口を向ける日常の虚脱感。生真面目なラビの醸す軽薄さや、軍による隠蔽の素早さが出口なしの現在を物語る。建築家である父宅の内観や、時が沈み込むような辺境検問でのダンスなど、視覚的な洗練度の点で今年観たベスト作。
"Foxtrot" https://twitter.com/pherim/status/1047436115370684417
『太陽の塔』
岡本太郎作品の万博公園「太陽の塔」と渋谷駅壁画「明日への神話」をめぐるドキュメンタリー。テンポ良く進行する関係者・識者らのやや気色ばんだ語りや、『猿の惑星』調に時代を超越させた挿入ドラマに前のめり姿勢な関根光才監督の主張が滲む。歴史考証よりも未来への問いが重視されてる感。
"Tower of the Sun" https://twitter.com/pherim/status/1048768767151431681
『黙ってピアノを弾いてくれ』
音楽家チリー・ゴンザレスの鬼才。その強烈なカリスマの裏には幻滅があり、激しいパフォーマンスの底には哀しみがある。後半の、すべてを押し切った挙げ句に訪れる諦観にも似た静謐と、怯えるように、一音一音確かめるように再び動き出す指先を映しだす場面は心に響く。
"Shut Up and Play the Piano" https://twitter.com/pherim/status/1049272440168185857
■10月6日公開作
『僕の帰る場所』
在日ミャンマー人家族の物語。子は日本語しか話さず、父は難民申請を弾かれ入国管理局に拘束される中、母が決断する。故郷へ帰るのだと。社会背景を説明的に描くことなく、家族各々の心模様を見つめ続ける丁寧さが素晴らしい。少年が“異国”の街ヤンゴンを彷徨う場面は殊に秀逸。
"Passage of Life" https://twitter.com/pherim/status/1047770697756422146
昨今の日本社会における移民問題、不寛容・他者排斥の風潮などにからめて書きました。↓ 少年カウンの目線によるヤンゴン都心部の描写には、恐らく監督自身の体験が重なってるなとも。
試写メモ46「異境としての日本の孤独」:
http://cloudcity-ex.com/?m=pc&a=page_fh_diary&tar...
『LBJ ケネディの意志を継いだ男』
ウッディ・ハレルソン演じる米大統領リンドン・ジョンソン。ケネディ暗殺により閑職の副大統領から念願の座を手にしたあとの変貌をめぐる、説得力ある演出が見応えあり。南部出身で当初から否定的だった公民権法案に対する翻意にドラマを集約、97分に抑える構成も良い。
"LBJ" https://twitter.com/pherim/status/1047072943803645959
『あまねき旋律』
北東インド辺境州ナガランドの農村歌。即興的に変化する歌声が、耕される土くれや風や流れる水の立てる音とアンサンブルを奏でだす。詩情豊かなそのポリフォニーは、外来のキリスト教賛美歌にすら適応する。現代になお歌が自然と一体であるという奇跡を捉えた秀作ドキュメンタリー。
"Up Down & Sideways" https://twitter.com/pherim/status/1048080687822123008
試写メモ48「なぜあなたと歌うのか」: https://tokinoma.pne.jp/diary/3071
■10月12日公開作
『アジア三面鏡2016 リフレクションズ』
フィリピンのブリランテ・メンドーサ、カンボジアのソト・クォーリーカー、日本の行定勲によるオムニバス。ペナンのプラナカン住宅を舞台とする行定作
『鳩 Pigeon』は、故・津川雅彦と永瀬正敏演じる父子のズレが切な可笑しい。今後の継続に意義を感じる試み。
"Asian Three-Fold Mirror 2016: Reflectioms" https://twitter.com/pherim/status/1049655643353812995
極寒の北海道・帯広のばんえい競馬の牧場で働く不法滞在者のフィリピン人男性を描くブリランテ・メンドーサ
『SHINIUMA Dead Horse(死に馬)』の、視覚的訴求力の強さに驚く。
ブリランテ・メンドーサ『ローサは密告された』(ふぃるめも68):
https://twitter.com/pherim/status/889123911438184448
カンボジア・日本友好橋の建設に携わった日本人社長とカンボジア人女性の、内戦時の過去をえぐり出すソト・クォーリーカー
『Beyond The Bridge』は、恐らく監督の意図する以上にバブル期日本人の「金で解決」姿勢を皮肉る内容に。
ソト・クォーリーカー『シアター・プノンペン』(ふぃるめも38):
https://twitter.com/pherim/status/747627279140806656
昨夏鑑賞時tweet(ふぃるめも70): https://twitter.com/pherim/status/904286941062905858
『バーバラと心の巨人』
逃避のための空想ではなく、現実を受け入れるための幻想を少女は生きる。少女バーバラのファンタジー世界を彩るギミックや、ロケ地アイルランドの霧深い森の描写が目に心地よい。姉や転校生少女やカウンセラーなど、主要人物が皆女性なのも隠喩的で全編の寓話性を高めている。
"I Kill Giants" https://twitter.com/pherim/status/1050185210413740032
おしまい。
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