今回は10月13日~10月27日の日本公開開始作から10作品と、オマケ2作品を扱います。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第97弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■10月13日公開作
『エンジェル、見えない恋人』
透明人間の少年と盲目少女の恋。誰からも見られない孤独を、見えないゆえに真を見通す心が溶かす関係が、視力回復手術により試練を迎える。独特の幻想美に目を奪われ、二人の行く末に心掴まれる展開の底に、他者を存在“させる”ほどの力を愛に込めた構想の妙が光る珠玉作。
"Mon ange" https://twitter.com/pherim/status/1051436766400413696
女の視力回復を男が恐れる、という構図に
『かごの中の瞳』(ふぃるめも96)との通底を感じ、これはまた意味深なと。この生々しいほどの、視線による制圧力とでもいうべきベクトルのかこつ怯えは、ホラー秀作
『ドント・ブリーズ』(ふぃるめも49)や近作
『クワイエット・プレイス』(ふぃるめも96)にも通じている。The horror. The horror...
『ドント・ブリーズ』tweet: https://twitter.com/pherim/status/806465089918205953
『アンダー・ザ・シルバーレイク』
ゲームやロックンロール、都市伝説をこよなく愛する男が、疾走した女の消息につながる暗号や符牒を求めLAを駆け回る。『イット・フォローズ』のデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が世界のリアルを開示する。そこで虚構と現実は錯綜し浸透し合う。超越的怪作。
"Under the Silver Lake" https://twitter.com/pherim/status/1050755560511918082
『アンダー・ザ・シルバーレイク』、全ての元サブカルキッズに“一般受けはせずとも自分のための物語”と思わせる巧さがある。かつて心酔するように憧れたポップカルチャーのイコン・シンボル群が、暴走する不安を枠に嵌める型であり、むきだしの欲望を制御する枷であったことへ思い至らせてくれる一作。
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督によるデビュー作
『アメリカン・スリープオーバー』が現在ネットフリックスで観られます。→
https://goo.gl/jyGYiU (Netflix)
この監督が何に力点を置き、どういう巧さをもつ作家なのか、『アンダー・ザ・シルバーレイク』に関心のある人には予復習に最適の一作です。
また、世紀の怪作
『イット・フォローズ』が、現在アマゾンプライムで視聴可能になっています。→
https://goo.gl/qAfNcq (Amazon Prime)
未見のあらゆる人にお奨め。問答無用の面白さ&怖さで迫ってくる、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督による不朽のホラー傑作です。
『ヴァンサンへの手紙』
自ら命を絶った親友ヴァンサンへ語りかける形で、ろう者の視点から今日の社会をとらえるドキュメンタリー。自身ろう者であるレティシア監督の切り口は明解で、様々な立場や主張を通し、流れるような手話の所作が独自の文化を伴う一つの言語として徐々に伐り立ってくる良構成。
"J'avancerai vers toi avec les yeux d'un sourd" https://twitter.com/pherim/status/1052734564265648128
■10月20日公開作
『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』
ドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマンが切り取る、人種宗教言語のるつぼNYジャクソンハイツ地区の今日。シナゴーグやカトリック教会、モスク、ヒンドゥー寺院が共同体の核として機能する様、大資本による分断の脅威を巡る住民らの議論など全場面が刺激的な189分間。
"In Jackson Heights" https://twitter.com/pherim/status/1051659069134532608
『テルマ』
異能少女の覚醒物語。北欧の凄味ある映像美が冒頭から連続し、祝福と呪い、抑圧と支配を知らず知らずのうち生きる人間の核心へと迫る。また恐怖も喜びも超越した覚醒へと向かう中盤以降の演出は、まさに神懸かり的。ホラーの閾値を逸脱したトリアーによる解像度の高い手つきに圧倒される。
"Thelma" https://twitter.com/pherim/status/1053151648250359808
良いことが起きたとき、その偶然を人は喜ぶ。しかしそれが幸運などでなく、不可知の力の発現であったとしたら。とかね。
試写メモ49「蛇の飛翔、雛鳥の夢」: https://tokinoma.pne.jp/diary/3083
『マイ・プレシャス・リスト』
あらゆる言い訳を瞬時に組みあげる典型的コミュ障のヒロインが、目を背けてきた自身の課題へ立ち向かう。IQ185の切れを注ぎ込んだ自己正当化ロジックが、セラピストに渋々従うことでゆっくりほだされ、ほぐされていく流れに和む。NY描写も楽しいラブコメ自己受容の物語。
"Carrie Pilby" https://twitter.com/pherim/status/1052060574647955456
■10月26日公開作
『search/サーチ』
行方不明の娘を追い、父が娘のSNSへ潜入する。PC画面上で物語進行させる映画は過去にもあるが、本作はモニターフレームの縛りを貫徹しつつも、その映像の躍動感や緊迫感で驚かせる試みが新鮮。とまどうマウスポインタや、後戻りする文字カーソルで生理に訴える演出の洗練度は見事。
"Searching" https://twitter.com/pherim/status/1054701572423266310
■10月27日公開作
『嘘はフィクサーのはじまり』
リチャード・ギア扮するNYの自称フィクサーが、運良くイスラエル首相とのコネを掴む。セコい嘘を重ね宗教/金融界から期待され、法務省から裏世界での暗躍を疑われる自縄自縛ぶりが刹那可笑しい。スティーブ・ブシェーミやシャルロット・ゲンズブールなど脇役がまた妙味。
"Norman: The Moderate Rise and Tragic Fall of a New York Fixer" https://twitter.com/pherim/status/1055273529225097216
在米ユダヤ社会描写も面白い『嘘はフィクサーのはじまり』、
『運命は踊る』(ふぃるめも96)主演のイスラエル人俳優リオル・アシュケナージがカリスマ首相役を務める。リチャード・ギアと両優並び立つシーンは、コミカルでありつつ熟練の演者同士のぶつかり合いに煌めきがありなかなかの見もの。
『運命は踊る』tweet: https://twitter.com/pherim/status/1047436115370684417
『ライ麦畑で出会ったら』
冴えない文学少年ジェイミーが、自らの脚色による『ライ麦畑でつかまえて』舞台化の許可をもらうため、居所不明のサリンジャーへ会いに出かける青春ロードムービー。監督自身の高校時代の実体験に基いており、世間から隔絶して暮らすサリンジャー周辺の人物描写が生々しく鮮やか。
"Coming Through the Rye" https://twitter.com/pherim/status/1053988654031429637
『ガンジスに還る』
バラナシの「死を待つ人の家」をめぐるユーモラスな描写が楽しいヒューマンドラマ秀作。いぶし銀の俳優を揃え、直球勝負をやってのけたシュバシシュ・ブティヤニ監督24歳の早熟ぶりに感心。伝統的緩和ケアの模様、ヒンドゥーの死生観、世代間の価値観対立を悠々と澄明に映しだす。
"Mukti Bhawan" "Hotel Salvation" https://twitter.com/pherim/status/1053462547561496577
今回は、余談代わりにおまけ2作。劇場/試写鑑賞していないオススメ作をおまけ扱いにて。
『人狼』
南北統一後の朝鮮半島を舞台とする「特機隊」の暴走。現代韓国映画の良製作ラインがこの設定をパワフルに映像化。地下での銃撃戦などアクションも見応えあり楽しめた一方、押井守原作の実写化は、当分のあいだ日本では確実に駄作になるなと。押井作の醸す社会文脈的にはもう、主役タレントの深刻な表情が滑稽な画にしかならないからね。
"인랑" "Illang: The Wolf Brigade"
Netflix作品ページ→: https://www.netflix.com/title/80239666
『まぼろしの市街戦』
カルト大作の4Kレストア版が10月27日公開。ドイツ軍敗走直後、住民も避難し無人化したフランスの田舎町が、精神病院の患者たちによりつかの間パラダイスになるという。本当の狂人は誰なのか、さいきん「怪作」という表現をやや使いすぎてるなという自覚もありつつ、これは超絶もの凄い怪作です。
"Le Roi de Cœur"
ネットフリックスやアマゾンプライムの非劇場公開作はこれまで扱ってこなかったけれど、作品水準はもとより質の幅的にもすでに圧倒しつつありますね。実をいうとアマゾンは結構劇場公開の良作を出資製作してたりもして、ドキュメンタリーなど経済の厳しい領域を潤す可能性もあり、今後どうしようかなと。
あと『人狼』はNetflix製作ですらありません。映画館で観るにふさわしい迫力ある画なので、こういうところこそ日本の配給会社に負けてほしくはないのですけれど。
ref. 『ROMA/ローマ』 Netflix配給を巡って: http://indietokyo.com/?p=9743
当《ふぃるめも》記事シリーズも、第100回へ届いたら一区切りかなとは、50くらいから考えてたことなんですけどね。ま、ゆく河の流れは絶えずしてもとの水にあらずにゃり。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh