今回は11月3日~11月16日の日本上映開始作と、第31回東京国際映画祭上映作、およびアテネ・フランセ文化センター特集企画《フレデリック・ワイズマンの足跡》上映作から
十作品を扱います。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第98弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■11月3日公開作
『十年 Ten Years Japan』
ディストピアとして十年後の日本を描くオムニバスで、若手監督5名による短編を是枝裕和が監修。各々コンセプトが興味深く、杉咲花・國村隼人・池脇千鶴らの演技も楽しめた。香港版に比べると、テーマと演出との温度差が否応なく目立ち、この不調和自体に諸々考えさせられる。
"Ten Years Japan " https://twitter.com/pherim/status/1056860832338857985
同コンセプトで香港を描いた秀作オムニバス
『十年』を契機として、日本版・タイ版・台湾版が製作された。香港版『十年』は、香港では若い層を中心に社会現象といっても良いほどの熱を以って観られたが、日本版やタイ版は各々別の意味で温度差を感じざるをえない。台湾版も機会あれば観たし。
香港版『十年』(ふぃるめも67) tweet: https://twitter.com/pherim/status/875160251636383745
タイ版『十年 Ten Years Thailand』: 本稿下記↓
台湾版『十年 Ten Years Taiwan』: 日本公開未定
■11月9日公開作
『生きてるだけで、愛。』
本谷有希子による原作を関根光才が映画化。東京の夜を駆け抜ける映像の爽快感、時すら沈殿させるような鬱い室内描写など、MV名手だけに緩急の巧みさが光る。擦り切れるような内面を呆けた唇で表す菅田将暉安定、過眠症で躁鬱質の女を演じる趣里の弾けっぷりはひたすら鮮烈。
https://twitter.com/pherim/status/1058711421305798656
『生きてるだけで、愛。』原作小説の単行本&文庫表紙。
表紙写真(北斎画装丁)&本文抜粋ツイ→https://twitter.com/pherim/status/1061481058963677184
北斎《富嶽三十六景》の波描写と、1/5000秒で撮る波の写真との一致をめぐる主人公女子の考察が冒頭にある。映画はこの「ドーパミンがドバドバあふれ」た姿を演じきる趣里の眩しさを、菅田将暉の闇が優しく包み込む良構図。意外なほど原作に忠実。
『体操しようよ』
草刈正雄主演新作。定年男がラジオ体操デビューする。木村文乃=娘、和久井映見=マドンナのベタな家族ドラマとラジオ体操のマッチングに菊地健雄監督の持ち味活きる。会社精神をそのままに体操マニュアルやユニフォームの導入を企み町内に抗争を招くあたりなど、身体を通じた統治と日本的空気の衝突風景がユーモラス。
https://twitter.com/pherim/status/1059391144218439680
「身体を通じた統治」とは言葉が堅苦しいけれど、この意味では『体操しようよ』のラジオ体操会会長きたろう(きょうもそこそこ元気に)と、副会長の徳井優(滑稽なほど権威主義的)のコントラストも味わい深い。今なら日本会議系の幼児教育とか、遠目にはナチス体操協会の香ばしさも人は案外易々と受け入れていくのよね。(含俺
■11月10日公開作
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』
ニコラス・ケイジどうしちゃったのと驚嘆、喝采、抱腹絶倒、茫然自失の奇天烈作。54歳にして出ずっぱりカラダ張りまくりのパフォーマンス、まさに地獄。かつニコケイにしか出せない切な可笑しみ炸裂の121分。しかも音楽がヨハン・ヨハンソンという謎絢爛。
"Mandy" https://twitter.com/pherim/status/1058196420342075392
『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの場合』
トルストイ古典名作を、不倫相手の将校ヴロンスキー視点から映画化。『アンナ・カレーニナ』の映像化作は多いが、日露戦争の戦地を舞台に加えた点、ロシア純正である点に新鮮味。美術衣装の豪華さ際立つ近年のロシア映画潮流における新たな極北また一つ。
"Anna Karenina. Istoriya Vronskogo" https://twitter.com/pherim/status/1058990151643189248
■11月16日公開作
『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』
ベニチオ・デル・トロ&ジョシュ・ブローリン気迫の熱演。監督が前作『ボーダーライン』のドゥニ・ヴィルヌーヴでなく特有の質感が消えたものの、他の要素は正統的継承作と言える内容。音楽も今年早逝したヨハン・ヨハンソンではないが、彼と長年協働したグドナドッティルが泣けるほどヨハンソン調を演出。
"Sicario: Day of the Soldado"
■東京国際映画祭上映作@六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほか https://2018.tiff-jp.net/ja/
『十年 Ten Years Thailand』
アピチャッポンの大トリ作がむしろ穏健に見える四話構成。香港&日本版よりのどかとの前評判も見たがとんでもない。軍人が写真展の撤去を命じる冒頭作、公安猫が人追い詰めるSF作の軍政批判は元より、女王が新興仏教率いて支配とかタイなら誰でもモデルがわかるヤバすぎ作
"Ten Years Thailand" https://twitter.com/pherim/status/1060724596192636928
『十年 Ten Years Thailand』は東京国際映画祭にて鑑賞。本作プロデューサー登壇の上映後Q&A概要こちら→
https://2018.tiff-jp.net/news/ja/?p=50982
ちなみに、政治的検閲同様に商業的選別を問題視する最後の良質問、実は会場にいたフィリピンのキドラット・タヒミック監督(『それぞれの道のり』『500年の航海』)による。『500年の航海』は3回先くらいのふぃるめもにて扱う予定。
『十年 Ten Years Thailand』、タイのシネコン最大手SF CinemaがYoutubeへ予告編を投稿。過去禁止されたアピチャッポン作など一切問題なく感じられるほど現政権や王室・仏教への風刺は批判性に満ちた作品だけれど、事はそう単純でない。脱軍政が権益回復になる財閥系の利用(略
『海だけが知っている』"只有大海知道"
台湾南東沖の離島《蘭嶼》を舞台とする少年成長譚。家では先住民言語のタオ語が話され、料理に風景に初めての見聞に充ちた一作。実際の島民達の演技は自然で、出稼ぎ先の高雄で心を荒ませる父との葛藤など筋立ても秀逸。貧しくも凛としたお婆の佇まいがまた良い
"只有大海知道" "Long Time No Sea" https://twitter.com/pherim/status/1061063247355240448
監督・俳優Q&Aの様子など後日tweet予定。
『ノン・フィクション』
ジュリエット・ビノシュ主演新作は、編集者と女優、売れない作家と政治家秘書の二組の夫妻による群像コメディ。裏で抜き差しならない不倫関係が進行しつつ、表ではデジタル社会の表現を論じ合う四人の真摯さが笑える。出口なしの逼塞を軽妙さの内に寓話化するアサイヤスの洗練。
"Doubles vies" "Non-Fiction"
■上映特集:フレデリック・ワイズマンの足跡 Part.1 1967年-1985年 @アテネ・フランセ文化センター http://www.athenee.net/culturalcenter/program/wi/wiseman_...
『エッセネ派』"Essene"
フレデリック・ワイズマン初期1972年作。ベネディクト会エッセネ派修道僧の日々。映し出されるのが瞑想と修行の日常であるよりむしろ、集団の規範と個の逸脱を巡る生活共同体が普遍的に抱える諸問題である点、いかにもワイズマンの手つき。それだけに終盤の真摯な懺悔は響く。
本編動画(一部)→ https://goo.gl/bGwAmg
"Essene" https://twitter.com/pherim/status/1056378071706611712
『エッセネ派』後半の独白が増えてくるあたりで、修道僧の一人が突如チベット仏教の「中有」概念を語りだしたのは極私タイミング的に新鮮だった。ザンスカール滞在もありチベット関連読書をしているさなかでしたので。瞑想的所作が普遍的に催す論理思考にみる、ある種の身体的拘束性の残滓とか。
余談。キドラット・タヒミックの長編『500年の航海』については後日また呟くけれど、フィリピン作品『それぞれの道のり』の3監督はブリランテ・メンドーサにしろラヴ・ディアスにしろ、商業映画が構造的に盲従するハリウッド的映画文法から外れた領域で膂力を振るう監督ゆえ、一層切実な「検閲」なのだなと。
おしまい。
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