今回は11月17日~11月24日の日本公開作とアテネ・フランセ文化センター企画《エルケ・マーへーファー&ミハイル・リロフ監督特集》上映作から13作品を扱います。(含短編5作)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第99弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■11月17日公開作
『銃』
一丁の拳銃に始まる寓話的シンプルさと、モノクローム映像とがあざといほどハマった一篇。リリー・フランキー演じる中年刑事の抱える闇と、村上虹郎扮する学生の虚無との白昼の対峙が殊に圧巻。中村文則原作&武正晴監督新作。虹郎の実父村上淳の佇まいが“父”を巡る裏テーマを絶妙に具現化する。
https://twitter.com/pherim/status/1061590301700108288
『MAKI マキ』
夜の街を彷徨う女たちの孤独。イランの若手監督&製作による、イーストヴィレッジの日本人コミュニティ描写の距離感に妙味。盛り込み過ぎで空中分解気味ながら、闇の底を象徴する人身売買の軛から新たな命=解放へ向かう筋立ては良い。NYマンハッタンの深夜を撮る画の重さが余韻を引く。
"Maki" https://twitter.com/pherim/status/1063030175011459073
『おかえり、ブルゴーニュへ』
名門ワイン醸造所を相続した3人兄妹の葛藤と成長を、葡萄畑の四季映える珠玉の映像にのせ描く。名匠クラピッシュの腕が冴え、類似テーマの映画は多い中でも際立つ良作。醸造工程を丹念に豊穣なドラマへと醸し、葡萄を踏む足やグラスを透過する光のエロティシズムが魅せる。
"Ce qui nous lie" https://twitter.com/pherim/status/1062697316203679744
『いろとりどりの親子』
自閉症、ダウン症、低身長症、少年犯罪など周りと「違う」子供をもつ家庭に取材するドキュメンタリー。取材者は、ゲイであることを両親へカミングアウトし拒絶された過去をもつ作家。「違う」ことは本当に「病気」なのかという問いかけは真に深く、祝福に満ちた終幕が清々しい。
"Far from the Tree" https://twitter.com/pherim/status/1062151756405063681
■11月23日公開作
『イット・カムズ・アット・ナイト』
森の一軒家に、夜ごと襲い来る“イット”。一軒家での共同生活、ルール厳守など閉鎖系スリラーのお約束がしっかり詰まった一作。怪異の正体が不在の無形であり続ける一方、ひたすら構図や形にこだわる映像も面白い。壁のブリューゲル絵画が隠喩として何重にも効く。
"It Comes at Night" https://twitter.com/pherim/status/1063762952233246720
『イット・フォローズ』製作陣の関与が宣伝されてるけど、確かにジャンル継承の点では同監督次作
『アンダー・ザ・シルバーレイク』より正統的な作品。デヴィッド・ロバート・ミッチェルが才能弾けすぎ&ジャンル越境しまくりで、周囲の“次への期待”がついていけてない構図すら。
『イット・フォローズ』tweets: https://twitter.com/pherim/status/1051117409656963072
それはそうと予告動画、個人的には最後のタイトルカタカナ読みの奇妙さが全部もっていってしまいPRとして微妙な気が。
『エリック・クラプトン 12小節の人生』
親友ジョージ・ハリスンの妻へ横恋慕し続け、ヤク中アル中で聴衆に酒瓶を投げつけ、突然の解散をくり返す。穏やかな今日の風貌とは真逆の、ひかえめにいってクズな前半生を淡々とぶっちゃける本人語りが妙に浸れる。時代を象徴する名曲群を巡る逸話の数々に感銘。
"Eric Clapton: Life in 12 Bars" https://twitter.com/pherim/status/1064455539583676416
日本ではこの数ヶ月なぜか超集中的にミュージシャンのドキュメンタリーが連続公開されていますが、その中でも『エリック・クラプトン 12小節の人生』は映像のテンポ、音の切り返し、編集の点で優れたものを感じます。
周囲の無理解どこ吹く風のゴーイング・マイウェイぶりは12月公開の
『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』や9月末公開の
『黙ってピアノを弾いてくれ』、時代を画する登場人物目白押しの挿話にめまいしそうな点と自身の依存症を大きく扱う点では1月公開の
『ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー』に近しさも。(などとひっそり
『ボヘミアン・ラプソディ』を外してみるなど)
■11月24日公開作
『斬、』
凄絶の果て訪れる魂の静寂。塚本晋也監督新作は、刀鍛冶が玉鋼を鍛錬する冒頭から
『鉄男』の軋む金属音が響き続け、絶望と幽かな希望の衝突が
『野火』の沈黙を呼び起こす。ミニマルな手つきに
『羅生門』『用心棒』など黒澤明中期名作群の影をみる。池松壮亮の煩悶を蒼井優の絶叫が斬りつける。
https://twitter.com/pherim/status/1065599538579132416
『恐怖の報酬』
凄まじく全編ヤバい。少しの衝撃で爆発するニトログリセリンを、各国の落伍者4人がトラック輸送する。男達の面構え良し、南米奥地の油井掘削場を撮る地獄描写良し、嵐の中ジャングルの吊り橋にすら突貫するアクション超絶良しの、ウィリアム・フリードキン監督によるオリジナル完全版。
"Sorcerer" https://twitter.com/pherim/status/1065081326879961088
『エクソシスト』『フレンチ・コネクション』のウィリアム・フリードキン監督が、自身のベスト作品に挙げるのも納得の121分間。1978年の短縮版日本公開時は、前月公開
『スター・ウォーズ』沸騰の影で興行的にも無風に終わったという不運もまた伝説の内。
■エルケ・マーへーファー&ミハイル・リロフ監督特集 @アテネ・フランセ文化センター, 2018年10月6日 http://www.athenee.net/culturalcenter/program/ma/marhofer...
『プレンダス‐ンガンガス‐エンキソス‐マシーンズ{それぞれの部位は別の部位を何も言わずに歓迎する}』
エルケ・マーへーファー監督作、キューバ南東部ヤテラスにて撮影。残された古道具や生い茂る植物、息づく家畜の内に植民地支配の”別の”形を看取る試み。逃亡奴隷の集落を観られたのも個人的収穫。
動画(一部): https://vimeo.com/111720861
"Prendas - ngangas - enquisos - machines {each part welcomes the other without saying" https://twitter.com/pherim/status/1057198245162545153
『シェープ・シフティング』 "Shape Shifting"
『土、習慣、植物』 "Soils-Habit-Plants"
エルケ・マーヘーファー&ミハイル・リロフ監督短編2作。『シェープ・シフティング』における焼畑の火焔と黒灰とが見せる変容、『土、習慣、植物』の土くれに近接するボケ映像。感受性へのアクセスに関連し、意識ではなくいかに意志するかが政治的には重要、というリロフの製作を巡る言葉を反芻する。前提こそ逆手に看取れ。
https://twitter.com/pherim/status/1058583077193113600
『ジャン・ブリカールの道程』 "Itineraire de Jean Bricard"
ストローブ=ユイレ最後の作。ロワール河を下る船からコトン島を撮る映像が水平に流れ続け、生涯この地に生きたブリカールによるナチスの虐殺を巡る回想語りがそこに重なる。樹木と水と空、痕跡が見当たらない風景それ自体の訴求力を想う。
https://twitter.com/pherim/status/1060562205417005058
『湖の人びと』 "Gens du Lac"
ストローブ84歳の作('17)。舷側に腰かける男が、スイス人作家Janine Massardの同題小説を朗読する。当地の過去を語る声の他は、長閑な湖面のみが終幕の転回まで映される。レマン湖の“風光”は、そのようにして異化され抵抗される。『ジャン・ブリカールの道程』から十年の余韻。
動画(一部):http://blog.cinemadureel.org/film/gens-du-lac/
https://twitter.com/pherim/status/1062587166461636608
余談。
上記、興味をもって読んでくれる人のなかにも、「ストローブ=ユイレ最後の作」の次に「ストローブ84歳の作」とあることに「?」と首を傾げた人がいそうな予感がしたので追記します。そう、ストローブ=ユイレという個人がいると思った人には意味不明な文面なんですね。はい、夫婦です。知ってる人には言うまでもなく。Jean-Marie Straub and Danièle Huillet, 『ジャン・ブリカールの道程』はダニエル・ユイレ逝去(2006)の翌年に発表された作品でした。
いまや“誰もがもつべき教養”への焦燥ないし憧憬など消え失せたポスト・トゥルースの時代、おそらく「映画好きとか言いながらストローブ=ユイレも観てないとかありえねーだろ」なんて文言自体がすでにありえませんね。でもこれ、20歳の頃に実際に言われたセリフで、言われた自分もまぁそうかもねと思っていました。ああいう気風もいまやただ、惜しまれるのみですの。
もうすぐ劇場鑑賞ツイートも1000作に到達するとはいえ、自分をシネフィルとは到底思えない根っこもこのあたりにありそうです。
おしまい。
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