今回は、11月30日~12月15日の日本上映開始作を中心に10作品を扱います。
当ふぃるめも記事シリーズ、
ついに第100回を迎えました。\(^o^)/
100回=1000作品到達をめぐる余談を、末尾にて。
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第100弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■11月30日公開作
『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』
ディケンズ31歳時の『クリスマス・キャロル』誕生秘話。父との確執や自費出版を迫られる苦境など再現ドラマが新鮮で、好々爺クリストファー・プラマー扮する守銭奴の小説主人公スクルージ出ずっぱりという面白設定。人は誰でも誰かの重荷を軽くできる!
"The Man Who Invented Christmas" https://twitter.com/pherim/status/1066597532204056576
『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』、劇中作としてディケンズ『クリスマス・キャロル』のセリフも多くそのまま登場するので、観に行かれる方は時間があれば読んでおくとより楽しめるかと。日本語字幕が新潮の村岡花子訳にけっこう忠実だという印象も受けました。気のせいかもだけど。
指は墓から彼の方に向けられ、それからまた元に戻った。
「いいえ、幽霊さま! ああ、いやだ! いやだ!」
指はなおもそのままだった。
「幽霊さま!」
(文:ディケンズ『クリスマス・キャロル』村岡花子訳 新潮文庫,
画像:『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』より)
■12月1日公開作
『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』
ソ連崩壊で宇宙ステーションに置き去りにされた宇宙飛行士と、経済破綻下のキューバで悶々と過ごす大学教授が、アマチュア無線で知り合うことから奇想天外な救出作戦が始まる。随所に風刺が利き、怪優ロン・パールマンの脇役光るファンタジックコメディ良作。
"Sergio and Sergei" https://twitter.com/pherim/status/1068132710806245376
『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』、マニアックすぎて誰も言及しなさげだけど、実はキューバ文学へのオマージュも各所に色濃く『夜になるまえに』など想起され。フロリダへの気球脱出とか奇想による難局打開の底抜けな明るさは、中南米のマジックリアリズムそのもの。
中南米文学&映画連ツイ: https://twitter.com/pherim/status/802433968637296641
『彼が愛したケーキ職人』
ある男の死をきっかけに、ベルリンで彼が愛したパティシエとエルサレムに暮らす妻とが出会う。ユダヤ教の食物規定コシェルが鍵となり、流麗な音楽が情感の浸透圧を高める良作。ドイツ人の同性愛者がイスラエルで身を忍ばせることの史的な暗喩性が、リアルな隠し味として効く。
"The Cakemaker" https://twitter.com/pherim/status/1066850817888538624
『彼が愛したケーキ職人』 をめぐり、ひさびさにキャス対談しました。
レビ先生(テルアビブ大学)との雑談キャス:
https://twitcasting.tv/pherim/movie/509651883
イスラエル映画とユダヤ文化、食物規定コシェルやエルサレムにおける「ドイツ人」などを巡って。ともあれ物語としても良い映画ですね。音楽がやりすぎではというほどはじめ扇情的に感じられましたけど、気づけば全感覚的に押し流される感じに身をゆだねてました。
試写メモ50「禁忌のあじわい」: https://tokinoma.pne.jp/diary/3091
『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』
稀代のバンドネオン奏者&作曲家アストル・ピアソラの特異な足跡を、息子ダニエル視点で振り返る。タンゴに革命を起こして命すら狙われアルゼンチンから去る不遇の季節を、結束して克服した家族が栄光の時代へ入るや崩壊する悲哀。過去の自作楽譜を焼き捨てていた逸話に震撼。
"Piazzolla, los anos del tiburon" https://twitter.com/pherim/status/1067698077576785920
映画では、ブエノスアイレスの博物館での大回顧展(2017)を息子ダニエル・ピアソラが訪れる場面も印象的。非視覚的な表現分野の作家展示として手法が新鮮に映りましたが、スペイン語能力不足もあり良画像検索できず。ref.→
http://www.noticiariobarahona.com/2017/03/se-inauguro-la-...
■12月8日公開作
『マチルダ 禁断の恋』
限度を知らない超絶豪華ロケ&セットで、ロシア最後の皇帝ニコライ2世とあるバレリーナの禁断の恋を描く眼福作。エカテリーナ宮殿を駆け回り、ボリショイ劇場、マリインスキー劇場の舞台裏を自在に見せる映像はまさに垂涎。極めつけはニコライ戴冠式の黄金に輝くスペクタクル、圧巻。
"Mathilde" https://twitter.com/pherim/status/1068850854243913729
『マチルダ 禁断の恋』が更新する、ロシア経済復興を反映したロシア映画超豪華化の新潮流。検閲との格闘を経た質実怪奇のソ連期名作群とは様変わりしたゴージャス悶絶路線爆進中で、しかもCGよりロケ撮を好む大地愛好系露文学の血受け継いだ具象物フェチな妙味に素敵ときめく。
ref.『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの場合』:
https://twitter.com/pherim/status/1058990151643189248
12月現在『マチルダ 禁断の恋』と『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの場合』を同時に上映している映画館もあり。豪壮系ロシアンスキー劇場へようこそ。
■12月15日公開作
『マイ・サンシャイン』
'92年ロス暴動を舞台とする家族劇。ハル・ベリーとダニエル・クレイグの掛け合いがコミカルで愛おしい。『裸足の季節』のトルコ人女性監督デニズ・G・エルギュベン第2作は、血の繋がらない一家を暴動の渦中に追うカメラの奥向こうに、不寛容社会への痛烈な風刺が顔を覗かせる。
"Kings" https://twitter.com/pherim/status/1069963555867426818
試写メモ47「すこやかなる、まことの王たち」:
https://tokinoma.pne.jp/diary/3062
見どころを間違えると評価の難しい作品に見えてしまう危うさを孕みつつ、パリ暴動の時代性をも含みこむ良作です。
『宵闇真珠』
クリストファー・ドイル監督&撮影の香港映画。水上集落“珠明村”を見下ろす廃墟の洋館全体が、カメラ・オブスキュラとなって白色少女とオダギリジョー扮する謎の男を撹拌し、覚醒させる。かつて物語を置き去りにし観客を魅了した『恋する惑星』の浮遊、『欲望の翼』の愉悦蘇る映像の陶酔。
"白色女孩 The White Girl" https://twitter.com/pherim/status/1071727880458002432
『葡萄畑に帰ろう』
ジョージア(グルジア)映画。85歳エルダル・シェンゲラヤ監督新作は、我欲をもつ椅子に込めた権威主義の滑稽と、変わらぬ葡萄畑の豊潤との対照により官僚国家化した母国の現状を大らかに描きだす。アブハジア・南オセチアの民族問題を反映させた国内避難民を巡る報道場面は刺激的。
"The Chair" https://twitter.com/pherim/status/1072290524118142976
■日本公開中作品
『ボヘミアン・ラプソディ』
ライヴエイドにおける一体感を誘う映像表現が見事すぎてのけ反る。フレディ・マーキュリー役ラミ・マレックの全身をバネにしたような舞台上でのパフォーマンスや声量は、再現の域を超え出た何かに触れる感動すら。Dolby Atmosの劇場で観た数十作の中でも最高の音響体感でした。
"Bohemian Rhapsody" https://twitter.com/pherim/status/1074860781747920896
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』
戦慄する。幽かな柱の軋み、風に揺れるカーテンが生む幻。死者の淵から夫は見つめる。受け入れがたい現実を咀嚼する妻の姿を。一瞬の解放が呑み込む。無限回廊の片隅に立つ人の孤独を。愛の残滓が魂に与える温もり。切り詰められた幽霊表現の静謐。完璧。
"A Ghost Story" https://twitter.com/pherim/status/1073117521572581377
無慈悲こそ真の救いか。あまりにもストレートに心を撃ち抜かれ、『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』をめぐるどんな言葉も余計に感じてしまう。ここまでシンプルに昇華された幽霊の表現を初めてみる。後日再見のうえ連ツイ予定。
余談。
ま、やってみるものだなと。バンコク移住を機に始めた当《ふぃるめも》、第1回は2013年11月でした。バンコク都心の映画館は当時、慣れないタイ風土とタイ人気質に揉まれる日常から夜な夜な逃避できる憩いの場であり、最新設備整うガラガラの劇場は、内面バランスを取り戻すのに最適な心のオアシスでした。
映画館で観た作品について各々ツイートするようになったのは、記憶力減退への焦りも大きかったのを覚えています。いったん言葉にしておくことの、記憶を探る際のフックとなる効能は実際見逃せないですね。
500作超え時のツイート(2016): https://twitter.com/pherim/status/812478681603969024
さて、第50回=500作を迎えた当時、「何事も百やれば向き不向きがわかり、千やれば一人前になれる、ような気もする」と言ってました。なんの一人前かはともかく、実際「逃げ場」から「職場」に変わった面も少なからずあり。とはいえ映画館が憩える場でなくなるルートをゆく気は毛頭なく、しかし映画配給や映画宣伝の現場で働く同世代の知人・友人を持てたことは、ツイートしだした頃には想像しなかった意外な成果ですね。もちろん、海外の映画監督や出演俳優に直接インタビューし、各界著名人と狭い試写室で居合わせるような日々が来ることも予想外でした。
140字に何を込めるか。いまだに試行錯誤は続いてますが、色々つかんできたコツもあります。例えばある時期から動画添付をやめたことは比較的大きな変更でしたが、他にも《こうすればRTの数は増えるが、届けたい言葉からは遠ざかる》のでこの作品ではしないがこの作品ではちょっとやる、《これは本当に良いのでフォロワーからファボ(いいね)がもらえればいい濃厚さで》といった質の操作など。目下の課題はむしろ、劇場/試写室の外で観たものについてどうするかです。現状、ネットフリックスやアマゾンプライム、DVD等も観てはいるのに、余力の問題もありほぼ触れてません。触れずにいることの違和感がそろそろ反乱を起こす模様です。さてもさても。
100回到達を機に、というわけではないのですが、タイ宅撤収が本決まりとなりました。それゆえ仮に150回到達があるとしても、またそこそこ状況は変わっていそうな気配です。あと、いくつか新しい取り組みを始めます。すでに始めているものもあり、手応えもあり、そこはほんのり楽しみかな。
ともあれ、今後も淡々とつづける様子です。
よろしくおつき合いいただければ幸。
おしまい。
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