pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2020年
08月13日
23:22

ふぃるめも146 終わりの大地と秘密の舞

 
 

 今回は、7月31日~8月14日の日本上映開始作から11作品を扱います。(含再掲1作・超長篇2作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第146弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
 
 
 
■7月31日公開作

『剣の舞 我が心の旋律』

ハチャトゥリアンが世紀の名曲《剣の舞》を8時間で書き上げるまで。ショスタコーヴィチ、オイストラフと3人で呑み交わす屋外場面は、ソ連当局の抑圧下を生きる芸術家の情念ほとばしり胸熱。私的な葛藤からアルメニア人としての苦悩を経て創意炸裂へ至る終盤のうねりが見事。

"Tanets s sablyami" https://twitter.com/pherim/status/1287001707046567936




■8月1日公開作

『東京裁判』

瞬く間もない277分作品4Kリマスター。天皇責任の追求志すウェッブ裁判長と、マッカーサーの密命帯びる主席検察官キーナンによる、東條英機らへの水面下工作を伴う熾烈な対決など見どころ無数。編集による思想傾斜を懸念したが小林正樹監督他、50万フィート超の記録を丁寧によくぞと感服。

"東京裁判" https://twitter.com/pherim/status/1156398221905686528

『東京裁判 4Kデジタルリマスター版』明日より全国順次公開。
昨夏初公開の本作、8月決め打ちでのかなり規模の大きな再公開の試み。映画は連ツイ↑の通り、意外な展開や見せ場の連続で4時間半飽きるところなく気づけば終幕へ。遅れて登場のパール判事含め、見応えありますよ。




『大海原のソングライン』
台湾からポリネシア、ラパヌイからマダガスカルへ広がる南洋時空を歌で紡ぎだす試み。ソングラインの語からまず想起される、目に見えない歌の道筋たどりアボリジニの魂描くチャトウィンの沈着な筆致とは対照的に、波のうねりから声の編み目を浮かばせる大らかさが心地よい。

"Small Island Big Song" "小島大歌" https://twitter.com/pherim/status/1287596828590870528

※関連の川面歌唱You Tube動画ツイ追記予定。




『死霊魂』
残された者の声音から死者の証言を引き出す試み。
8時間をへて足下の荒野より蘇る、飢餓収容所の阿鼻叫喚に言葉を失う。ウイグル/香港、米中対立といった現在の時間軸を遥かに超え、国家による統治の本質自体を考えさせる骨太の構えに、唯一無二のドキュメンタリー作家王兵の覚悟をみる。

"死靈魂" "Dead Souls" https://twitter.com/pherim/status/1288315693822164994

  【映画評】『死霊魂』 憑依する肉声、再監獄化する世界。
  http://www.kirishin.com/2020/08/13/44713/
 
  王兵(ワン・ビン)作品別ツイート・ツリー進行中です↓
  https://twitter.com/pherim/status/1288315693822164994





■8月7日公開作

『ジョーンの秘密』

80代の老女がスパイ容疑でMI5に検挙された、2000年英国の実話ベース作。
ジュディ・デンチの、熱愛ありハニトラありな波乱万丈を振り返る表情演技の多彩さ妖艶さに痺れ、若き日演じるソフィー・クックソンの瑞々しさに見惚れる。広島原爆報道を観て心を変える場面は胸熱不可避。

"Red Joan" https://twitter.com/pherim/status/1291562472722243584

※監視社会テーマの新作映画まとめ的記事執筆予定、後日追記。




■8月8日公開作

『もったいないキッチン』

オーストリアのフードアクティビストが“もったいない”をキーワードに日本各地を巡り、食品ロスの現状と展望を探る。駆け足すぎて雑駁な印象を残す点もったいないが、冒頭部に暗闇ごはんの青江覚峰和尚を置いて味覚と伝統へ接続し、LAWSON重役に笑顔で斬り込むなど鋭い一面も。

"Mottainai Kitchen" https://twitter.com/pherim/status/1290531920992858112




『おもかげ』
幼い息子が失踪したフランス西部の浜辺へ移り住んだスペイン人の母親に訪れる、ある少年との十年後の出逢いと再生。
失踪直前の6歳児からかかる電話に対し、遠くにいて何もできない母の恐怖描く冒頭部の緊迫と、中盤以降の意外な心模様への展開とのコントラストは切なく眩しい。

"Madre" https://twitter.com/pherim/status/1291939654501986306


 
 
■8月14日公開作

『ディヴァイン・フューリー/使者』

幼い頃に父母を失って信仰に背を向け、格闘の道に生きてきた青年が、右掌に聖痕を宿し闇の司教と対決する。『梨泰院クラス』のパク・ソジュン扮する青年と、バチカン派遣のラテン語呪文で戦うエクソシスト神父演じるアン・ソンギ翁の寡黙コンビが渋く、悪魔地下祭壇のSFX眼福。

"사자" "The Divine Fury" https://twitter.com/pherim/status/1293387098402119680

『ディヴァイン・フューリー/使者』は『神と共に』のSFX陣製作で、初めの除霊場面が修繕中の教会という時点からエクソシスト系名作群へのオマージュ満載。主人公青年以前に神父の片腕だった元神父助手役のチェ・ウシクは個人的に好きな性格俳優なのだけど、主人公への彼の警告は回収されないまま終盤対決へ突入している観もあり設定が気になる。要は続編期待。




『ファヒム パリが見た奇跡』
バングラデシュのチェス天才少年が、パリで活路を探る直球の成長譚。
フランス語をすぐに覚え新たな友人に囲まれる少年に対し、孤立しゆく父親の描写は移民難民の困難をよく反映し切ない。クセの強い師匠役ジェラール・ドパルデューの醸す、粗野だが厚みある人間造形は流石。

"Fahim" "Fahim:The Little Chess Prince" https://twitter.com/pherim/status/1293017253353422848

『ファヒム パリが見た奇跡』で、フランス語も覚えられず不法滞在となり孤立する父親が、「エッフェル塔の前でバラを売る外国人」の一人となる場面にそこはかとない衝撃受ける。主人公の実在するチェス名人Fahim Mohammadに、棋聖となった藤井聡太少年が重なり色々想うなど。




『ポルトガル、夏の終わり』
イザベル・ユペール扮する大女優フランキーを中心に回る肉親群像劇。
風光明媚な世界遺産シントラの地を舞台としながら、交わされる台詞は常に内向的な浮遊感覚。立場が入れ換わりつつ孤独+孤独=孤独みたいな構図が延々続いたあと訪れる砂浜ラストカットの妙なる静けさ。

"Frankie" https://twitter.com/pherim/status/1294104183960793091

シントラ宮殿のある歴史と世界遺産の街が舞台、という方向性に手前勝手な熱を感じて臨んだが、『ポルトガル、夏の終わり』で描かれるシントラはリゾートとしてのそれだった。この意味で、主要登場人物の男女がガイドの歴史がたりを中断してまで己の人間関係に話題を執着させるカットになにか、空蝉の儚さを覚えた夏の朝。




『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
若き英国人記者が、恐慌下も堅調なソ連統治の謎を探り、ホロドモール(ウクライナ大飢饉)の惨状を目撃する。
潜入描写が凄絶。『動物農場』執筆中のオーウェルを語り手とする奇手や、スターリン体制に迎合し栄誉を得る西側記者(ピーター・サースガード)など印象的。

"Mr. Jones" https://twitter.com/pherim/status/1293741535620558849

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』の主人公は、ウェールズ出身の実在した記者Gareth Jones [1905-35]。
本作に描かれるホロドモール告発のあとソ連入国禁止となり極東へシフト、日本・中国・満州へ取材。日本占領下の蒙古国境域にて30歳で早逝。ソ連秘密警察による暗殺と言われる。との由。

※監視社会テーマの新作映画まとめ的記事執筆予定、後日追記。





 余談。前回からやや間隔があいてしまったのは、王兵各作回を挟む予定だったから。
 けれど9、8、4時間作等々のオンパレード走破をこなすのは存外に難しう。次々回くらい予定。
 
 など言いつつ海外ドラマ一気観も実はしてたり。ドラマアニメは別腹的な。(S.キングのアウトサイダー良かった)
 ま、やうやう。





おしまい。
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