今回は、7月18日~7月24日の日本上映開始作と、EUフィルムデーズ2020配信作(3回目)を中心に10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第145弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■7月18日公開作
『ぶあいそうな手紙』
ウルグアイ移民の翁が、見ず知らずの放浪娘に手紙の代読を頼むことから始まるゆったり人情劇。ブラジル南部の町ポルトアレグレの穏やかで葡語西語ごった煮の風俗描写や、夜の路上で詩を朗ずる若者達に混じった翁の故国詩暗唱は感動的。『苺とチョコレート』のセネル・パス脚本協力。
"Aos Olhos de Ernesto" "Through Ernesto′s Eyes" https://twitter.com/pherim/status/1284771460314099712
『誰がハマーショルドを殺したか』
激動の生と言葉の静謐とのギャップも鮮烈なハマーショルドの映画、と歓喜し観たら予想外の内容で衝撃的な不思議展開。熱血国連事務総長の謎の墜落死を追う中、暗殺説を遥かに超え露見する事態の途方も無さに言葉を失うし、この絶妙な虚実混濁グルーヴは癖になる。
"Cold Case Hammarskjöld" https://twitter.com/pherim/status/1283957868882833408
『誰がハマーショルドを殺したか』の“アフリカ”描写と、映画ではほぼ扱われない哲人皇帝マルクス・アウレリウスの敬虔なる現代クリスチャン版のごときハマーショルドの軌跡など含め、後日追記+記事化予定。
試写メモ82:近日更新
■7月24日公開作
『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』
1937年ウィーン。ナチス嫌いの煙草屋で働き出した田舎育ちの青年フランツが、店の常連フロイト翁に恋路の助言を求める成長譚。隣の肉屋が親ナチスで、オーストリア併合後の立場逆転描写が生々しい。ブルーノ・ガンツ最晩年の悠揚な演技は心に沁みる。
"Der Trafikant" "The Tobacconist" https://twitter.com/pherim/status/1285407111065726976
『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき 空と木の実の9年間』
Xジェンダー小林このみの来し方。性同一障害の診断が、幼少期からの不満と不安を一掃する歓喜の一幕は印象深い。音大の学部長退職後に性転換手術を受けた八代みゆき(95歳)さんの迫力、こうした先人が無数にいたろうことへの想起を促す点も好感。
"" https://twitter.com/pherim/status/1250980199501447168
ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき 空と木の実の9年間』、ようやく明日公開。0か1か、男か女かでは割り切れない性自認の奥深さを、9年をかけ己の足跡で体現する説得力。Xジェンダーの先達として苦労を語りながらも、あっけらかんと笑ってみせる中島潤さんの明るさも印象深い。
『プラド美術館 驚異のコレクション』
ゴヤ、グレコ、ベラスケスの世界最高コレクションを舐める高精細映像は無論、知られざる女性画家クララやボッシュ巡る解説も秀逸。カール5世の遍歴語るジェレミー・アイアンズ自身の放つ哲人皇帝オーラと、要所で決めるノーマン・フォスター卿のラスボス感素敵。
"The Prado Museum. A Collection of Wonders"
■日本公開中作品
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
四姉妹が走り抜ける快活さ。名作文学の映画化は考証の精確さや衣装美術が売りになりがちだけれど、シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソンらの躍動に目が奪われ、息をもつかせないまま終幕へ疾走する監督グレタ・ガーウィグ本領発揮にただ唸る。
"Little Women"
『若草物語』の時系列シャッフルによる換骨奪胎が極めて効果的に利いていて、『風と共に去りぬ』が上映禁止となる今日性への秀逸な応答作といえる側面も。(後日追記用メモ)
■EUフィルムデーズ2020 ③ (コロナ禍によるオンライン開催, ①②ふぃるめも前々回+前回にて)
https://eufilmdays.jp/
『頑固じいさんとしあわせな時間』(Finland'18)
孤独に終活を進める翁のもとへ、家出した孫娘が訪れ良タッグを組む北欧コメディ。険悪な息子や奇抜な隣人、サウナに松茸と各種ギミック楽しす。森に暮らすタイ人労働者達が翁の窮地を救う場面は今日的でありつつも、その佇まいがもののけ姫の木霊のようで和む。
"Ilosia aikoja, Mielensäpahoittaja" "Happier Times, Grump" https://twitter.com/pherim/status/1284315113281875968
『ヨハンナ・ドーナル 女性大臣・フェミニスト』
オーストリア政治史に、女性の権利をめぐり鮮烈な刻印を残したヨハンナ・ドーナル格闘の軌跡。密な私生活描写のあとDV防止法などハード面へ移る構成の妙。無自覚の女性蔑視を逆手にとる筋金入りの強靭さは、RBG卿を想起させた。
"DIE DOHNAL - Frauenministerin/ Feministin/ Visionärin" "JOHANNA DOHNAL - Visionary of Feminism" https://twitter.com/pherim/status/1288977395567874048
『RBG 最強の85才』 https://twitter.com/pherim/status/1126306118957797376
『フリア IST』 “Júlia ist”
バルセロナからベルリンへ留学した女性の孤独と前進。異文化下での焦りや不安を、若気の至りを積み重ね乗り切ってゆく描写は、うまくいくことより振り返れば黒歴史となりそうな展開の連続で生々しい。主人公が建築専攻ゆえの、都市の喧騒から距離をとった視線の冷たさも印象的。
"Julia ist" https://twitter.com/pherim/status/1285763736267980801
留学した女性を主人公とする『フリア IST』は、EUフィルムデーズ2020の枠内では主人公女性が留学した彼氏に取り残される『ルーザーとしての私の最後の年』との対照で観たひとが多そう。コロナ禍で今は、これらともまた別種の孤独や焦りに苛まれる留学生が世界中にいるのだろうけど。
『ルーザーとしての私の最後の年』 https://twitter.com/pherim/status/1277966222609412098
『ビッレ』 “Bille”
ラトビアの大作家べルシェヴィツァの幼き日。
貧しい少女の暮らしは、母の罵声やかましく父は酒浸りで幸せから程遠く映るが、直面するつらさ厳しさが感性の根を育み後年の開花を予感させる丁寧な描写が終幕まで飽きさせない。ナチスドイツとソ連に挟まれ逼塞する戦間期の描き込みも良い。
"Bille" https://twitter.com/pherim/status/1285042543063789568
余談。
サウジアラビア初 裁判所が女性に1人で住む権利を認める
https://jp.sputniknews.com/life/202007197624977/
女性が自転車に乗ることさえ不謹慎とされ、『少女は自転車にのって』(’12)は国内上映禁止となったサウジアラビア。2年前には、女性に初の自動車免許が発行された報道もありましたね。元が酷すぎとはいえ良い流れ。
『少女は自転車にのって』 https://twitter.com/pherim/status/484115096273043457
『少女は自転車に乗って』のハイファ・アル=マンスール監督新作『完全な候補者』ツイート紐づけ。↓
『完全な候補者』 https://twitter.com/pherim/status/1210789934086291456
戦って権利を勝ち取っている爽快さが、↑記事の女性に近しく。この変化への気運は興味深いですね。サウジの抑圧をトンデモ扱いするのは簡単、けれど女性医師への蔑視は日本でも聞く話。
おしまい。
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