今回は、7月10日~7月17日の日本上映開始作と、EUフィルムデーズ2020配信作(2回目)を中心に10作品を扱います。(含ネット配信ドラマ1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第144弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■7月17日公開作
『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
神父の小児性愛スキャンダルを、名匠フランソワ・オゾンが十八番の幻惑演出を封じ質実に映画化。複数の被害者視点が遷移する展開自体に、個の内面にはとても落とし込めない傷の深さが表現され、対峙する役者たちの絶えず両義的な表情演技に胸締めつけられる。
"Grâce à Dieu" "By the Grace of God" https://twitter.com/pherim/status/1283016948138164225
試写メモ81「沈黙を破ること、その代償と得がたき果実」:
https://tokinoma.pne.jp/diary/3884
『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』で最も唸らされるのは、“あの”フランソワ・オゾンが自らの作風を封じてまで作品化した覚悟と、熱演による役者たちの応答。実在する当該の神父から、現代フランス映画を牽引する監督新作に対し上映差し止め訴訟さえ起こされた事実が示唆するものは考えるほどに重い。
『パブリック 図書館の奇跡』
大寒波で行き場失うホームレス70人が図書館占拠、職員が擁護へ回る胸熱展開。2018年作だが“○(≠Black) lives matter!”の台詞が叫ばれる先見性あり、公共の使命と都市生活者の孤立化を問う意欲作。スターより求道者の道選んだ監督&主演エミリオ・エステベス勇躍の感。
"The Public" https://twitter.com/pherim/status/1282162945116344321
『悪人伝』
マ・ドンソク映画の最長不倒距離更新。韓国ノワールの色彩とり込み、はみ出し刑事とのバディ展開に花街カーチェイスを加味する妙趣。清濁併せ呑む巨躯放つ強烈な重量感で全編を震わせつつ、もはやマドンソク自身がジャンル化したその勢いで一直線にラストへ突貫するスピード感がもうたまらん。
"악인전" "The Gangster, The Cop, The Devil" https://twitter.com/pherim/status/1267654449054355461
■7月10日公開作
『WAVES/ウェイブス』
崩壊から再生へ向かう兄妹の物語に、雲間から降り注ぐ光芒の温度を感じる。
Animal Collective, Frank Oceanなど煌めく楽曲に全編が充たされ、ルベツキの下で磨かれた30歳監督による映像的挑戦が目に楽しい。現代ハリウッドの尖兵A24新作への期待に十全と応える光響の一篇。
"Waves" https://twitter.com/pherim/status/1280697253439537152
『WAVES/ウェイブス』製作時30歳の監督トレイ・エドワード・シュルツ/Trey Edward Shults、前作『イット・カムズ・アット・ナイト』ではどういう監督かまだ測りかねた。が本作では、その履歴で一際目立つテレンス・マリック&ルベツキ作への撮影助手参加の影響がよく窺われる。
『イット・カムズ・アット・ナイト』 https://twitter.com/pherim/status/1063762952233246720
殊にテレンス・マリック監督&ルベツキ撮影作品中でも“Song to Song”(2017, 日本未公開)は、映像と音楽の両面で『WAVES/ウェイブス』のほぼ前継作といえるグルーヴ構成。
これはもう、シュルツ監督が意図してどうという水準以上の血肉化を感じます。
“Song to Song”: https://twitter.com/pherim/status/933164612849057792
■日本公開中作品
『AKIRA 4Kリマスター』
圧巻。
「宇宙だ!」と博士が叫んで以降の五輪スタジアム戦闘など躍動する鉄雄の腕、金田の跳躍、超能力キッズが起こす旋風いずれも脳幹シビれ通し。幼少のみぎり台詞丸暗記の儀に及びし作品ゆえの怖さもあった4K版、素朴に感動。IMAXレーザー鑑賞、細部に新発見が多かった。
"AKIRA 4K" https://twitter.com/pherim/status/1286527642351484928
■ネット配信ドラマ
『呪怨:呪いの家』
三宅唱監督作と鑑賞後に知り、諸々納得。役者同士の間や色温度など、受けとる表現の密度がずっと安定する感覚。よって呪怨他作に比べ安い驚かしや不調和の醸す不安に弱く、じわりと吟味を要する怖さへ質変化を遂げた印象。物語は既視感先立つも、柄本時生の三宅作なじみぶり和む。
"JU-ON: Origins" https://twitter.com/pherim/status/1282510076192755713
『きみの鳥はうたえる』ほか三宅唱監督作連ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/1034633021956087808
■EUフィルムデーズ2020 ② (コロナ禍によるオンライン開催, ①③ふぃるめも前回+次回にて)
https://eufilmdays.jp/
『メルテム 夏の嵐』
ギリシャ系主人公とアラブ系&アフリカ系からなるフランス人トリオが、レスボス島でシリア青年と交錯する物語は、難民漂着の常態化を背景としつつ若者ゆえの葛藤と甘美さを捉えて巧い。義父の遺伝子講演や、老人の語る渡り鳥の逸話が映す今日世界を走り抜ける、青春の弾丸的一回性。
"Meltem" https://twitter.com/pherim/status/1275738861134471168
ランペドゥーサ島(マルタ島の西方沖)が舞台のドキュメンタリー良作『海は燃えている』を、手際よく青春ドラマへ翻案した進化感ある。
『海は燃えている』 https://twitter.com/pherim/status/829540157674057728
『小さな灯り』
山奥に夜ごと謎の灯りを見とめた翁は、探索のすえ古びた山小屋で孤独に暮らす少年の存在を知る。ミニマムに設えられた寓話を眺めるような光景の詩的静謐。老人ゆえの動きの少なさと遅さを通じ、その身に燻る冒険心と野生とを最小限の要素から立ち上げる表現の潔さが胸に沁みる。
[Vimeo動画] https://vimeo.com/ondemand/lalucina
"La lucina" "Distant Light" https://twitter.com/pherim/status/1278549457655611393
ちなみに『小さな灯り』(La lucina, Distant Light 2018イタリア)主演の老人は、原作者であるベテラン作家アントニオ・モレスコが演じる。とは知らずに観てたけど、あのぎこちなさはガチだったかと。
↑Vimeoで買えるっぽい、英仏独字幕つき。製作者配分多いだろうし、この流れはいいな。(自縄自縛な業界の中抜き体質はそれでもしぶとく残るだろうけど。)
『アルデンヌ』
犯罪から足抜けできない兄弟の物語。ベルギー側アルデンヌを舞台に、暗・ダル・重の3ダーク展開が延々続く。救いのなさに麻痺し、灰色曇天世界へ心地良さすら覚えだす頃さらに突き落とされゆくヤバいやつ。
しかも重低音の利かせ方が全編異様。洗車機の振動まで音割れ寸前という異様。
"D'Ardennen" "The Ardennes" https://twitter.com/pherim/status/1283234876733317122
『スマグリング・ヘンドリックス』
キプロス島の街なか貫く国境線(ギリシャ/トルコ)の“向こう側”へ走り去ったわんこをめぐるドタバタ珍種コメディ。対峙する南北の兵士とものんびり暮らす風で国連監視下の剣呑さは薄く、トルコ系住民心理の複雑さなど描写が諸々興味深い。あと小型犬愛好家狂喜の疾走ラスト。
"Smuggling Hendrix" https://twitter.com/pherim/status/1279249848865132549
と書いたが中型犬かもしれない。
余談。
昔やり込んだゲーム《大航海時代Online》では、キプロスと対岸の&ヤッファは異なる文化圏=経済圏=相場圏に属す良近距離交易ルートだったのだけど、幼少期に追い出された元住民と、親世代が占拠した元空き家で生まれ育った新住民とがどうしようもなく対立する『スマグリング・ヘンドリックス』の構図は対岸イスラエル/パレスチナの引き写しで、むしろこういうことの積み重ねこそ「歴史」なのだなとさえ感じられた。
で、話は映画から離れるけれど、大航海時代Onlineにはゲーム体験として「インド発見」は存在しても「奴隷売買」は存在しない。光栄の大航海時代初期作には商品としての奴隷が存在した。歴史教育に活用の流れが全国紙でも報じられたが、ここを隠蔽したバージョンで教育を施すことのほうが余程差別的だと思うので、そうはならない世の流れに難を感じるし、そういう感性のありようこそあらゆる局面で面倒な奴認定されるゆえなのだろう。それでよい。
おしまい。
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