pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2020年
08月29日
23:07

ふぃるめも148 空を飛びたいシルエット

 
 

 今回は、8月28日~29日の日本上映開始作と、シネマテーク・フランセーズ&ボローニャ復元映画祭共催特集、mubiインド名作選などから11作品を扱います。(含短編2作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第148弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
 
 
 
■8月28日公開作

『オフィシャル・シークレット』

スパイである私は何のため働くのか。政府か、国民か、家族か。
嘘に基づくイラク戦争開戦の気運の下、己が責務に逡巡しリークへ至る英国諜報部員演じるキーラ・ナイトレイの、繊細な声音と強靭な瞳に惹き込まれる。法の使命を体現するレイフ・ファインズの迫力圧巻。

"Official Secrets" https://twitter.com/pherim/status/1298090835351756800

  映画評 by pherim 「敵対と猜疑のゆくえ 再監獄化する世界2」:
  http://www.kirishin.com/2020/08/28/44943/





『ふたつのシルエット』
別々の人生歩むかつての恋人同士が、海沿いの町での7年ぶりの鉢合わせから船出する、束の間の心の旅路。
《そうであったかもしれない時間》との交錯、気づけば入れ替わる心模様の影姿を、ふたりが共に生きた時代の服装との往還で表現する冴えたミニマル演出の、鋭い切なさ。

"" https://twitter.com/pherim/status/1297730327033475073




『シチリアーノ 裏切りの美学』
コーザノストラ初にして最大の改悛者ブシェッタと仲間達が描く格闘の軌跡。牢獄化した異様な大法廷と仁義なき抗争との並行展開は手に汗握る。
ゴッドファーザーなど多くのマフィア映画がモチーフとしてきたファルコーネ判事暗殺の再現場面は、全ての過去作凌ぐ衝撃。

"Il traditore" "The Traitor" https://twitter.com/pherim/status/1297420717789605890

『シチリアーノ 裏切りの美学』は、“情緒性豊かな『甘き人生』他のマルコ・ベロッキオ新作”という期待値からは、やや意外感のある硬質な味わい。
とはいえ、個人の道行き描く良ドラマの背景にイタリア現代史を澄明に響かせる周到さにおいて名匠ぶりはしかと健在。重厚安定。

  『甘き人生』:https://twitter.com/pherim/status/884021926313607168

前作『甘き人生』での主人公へ向けた神父の言葉「星も人も、存在はみな光なのだ」を想起すると、史実ベースでマフィア描く娯楽作の体裁ながら『シチリアーノ 裏切りの美学』で言外に表現される美学の内実は、ことのほか豊かなことが感覚される。ref. https://twitter.com/pherim/status/884673199794814976




■8月29日公開作

『マロナの幻想的な物語り』

最高にキュートなアニメ表現。捨てられたワンコの漂流する“犬生”を描くのだけど、次々変わる飼い主への愛情表現が健気で、容赦なく訪れる別れは毎度切ない。
パステル水彩+切り絵調の混成画面が流れるように動き続け、随伴するBGMも情感豊か。劇団イヌカレー以来の衝撃。

"L'extraordinaire voyage de Marona" "Marona's Fantastic Tale" https://twitter.com/pherim/status/1298452729220628480




■国内過去公開作(含映画祭上映作)

『空を飛びたい盲目のブタ』

華人女性同士の卓球試合をみて少年は囁く「インドネシア代表はどっち?」と。花火筒をパンに挟み食す少女、華僑出自を唾棄する少年。助手に懸想する歯科老人はゲイのマフィアに犯され、キリスト教からイスラムへ改宗する。のち開花へ至る全てが詰まったエドウィン2008年作。

"Babi Buta Yang Ingin Terbang" "Blind Pig Who Wants to Fly" https://twitter.com/pherim/status/1259582027327696896

1998年5月インドネシアでの華僑やキリスト教コミュニティを襲った虐殺は個人的に薄く縁があり、かのエドウィンが事件を基に十年後『空を飛びたい盲目のブタ』を撮っていたことに驚き納得する。エログロを譲らないのも彼らしく、むしろそこが芯だとも。他作も通して観てみたい。

『アジア三面鏡2018:Journey』: https://twitter.com/pherim/status/1238836077261021185




■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)

“Il sud è niente”
(South is Nothing, 2013)
南イタリアの寂れた港町で魚屋を営む父娘。兄の死を信じない娘に手を焼く父もまた、息子の死を受け止めきれない。性同一障害+ボーダー気味の娘のかこつ、浮遊しつつガサつくリアル感覚が、娘へ想い寄せるチャラ男や頑固な父へ浸透しゆく様に沁み入る。

"Il sud è niente" "South is Nothing" https://twitter.com/pherim/status/1260902528591355905

南には何もねぇ、って題名の一刀両断ぶりも清々しい“Il sud è niente”、印象的なのが父娘の働くパステルブルーの魚屋描写で、タラっぽい白身をぶった切り干物を戻したり。個人的にベネチアで美術学ぶクロアチア娘に連行されたタベルナ魚料理の極旨下町味も思い起こされ。父の忍者好きを力説された夜。画像→https://twitter.com/pherim/status/1267598894726148102

“Il sud è niente”で父演じるVinicio Marchioniは、昨年の日本公開作『トスカーナの幸せレシピ』(Quanto Basta, ’18)↓でのシェフ役。訳あり人生を背負いつつ、特異な心性を抱えた若者と対峙する点とても近しく。娘役のMiriam Karlkvistは初見、抑圧下の日常とダンスによる不意の解放場面の鮮烈コントラスト。

  『トスカーナの幸せレシピ』: https://twitter.com/pherim/status/1180709309849600003




□インド名作映画 (mubi配信作)

『渡河』“पार (Paar)”
圧巻のクライマックス。ビハール貧村での農民虐殺からコルカタへ逃れた若い夫婦が、仕事へ就けず路頭に迷う。増水したガンジスに豚を渡す難事を引き請けた夫へ従い、生身で河へ浸かる妊婦扮するシャバナ・アズミの凄演に、不可触民の鮮烈な瞋恚を象るゴータム・ゴース1984年作。

"पार" "Paar" https://twitter.com/pherim/status/1266603987437903872




“Party”(पार्टी)
ムンバイのある晩餐会を主舞台に展開する、芸術の詩性をめぐる世俗の成功と求道的姿勢との鋭い対峙。劇作家Mahesh Elkunchwarの戯曲が演じられる劇中劇場面など、20世紀後半のインド富裕層における教養的空気の諸相が興味深い。Govind Nihalani1984年作。

"Party" "पार्टी" https://twitter.com/pherim/status/1256433410781802496

“Party”のゴヴィンド・ニハラニ監督は、インドの伝説的撮影監督V. K. Murthyの助手からキャリアを始め、シャーム・ベネガル作品(ref.『芽ばえ』↓)他の撮影監督を経て長編監督へ。こうしたつながりをみることも映画体験のひとつだなん。




『芽ばえ』“Ankur”
南インド農村での、メイド女性と地主息子とのならぬ恋。女性の夫が出奔し、息子の幼嫁が嫉妬に狂うなか、男の狡さに触れカーストの理不尽に覚醒、美しく研ぎ澄まされゆくヒロインの姿が圧巻。大女優シャバナ・アズミのデビュー作にして、パラレル映画の雄シャーム・ベネガル第1作。

"Ankur" "The Seedling" https://twitter.com/pherim/status/1262599792556781568




■シネマテーク・フランセーズ修復作企画“Henri”xボローニャ復元映画祭共催特集
 https://www.cinematheque.fr/henri/
 https://festival.ilcinemaritrovato.it/en/tag/il-cinema-ri...
 
“Ella Maillart : Double Journey”
この紀行、破格の極み。女性写真家エラ・マイヤール(1903-97)によるアフガン&インド探検記。1939年にスイスを発ち、黒海トラブゾンから陸路カフカス、ペルシャへ抜ける16mm映像&写真群は眼福すぎて昇天不可避。再び狂いだす欧州を鋭く対象化しゆく語りの激しい静謐。

"Ella Maillart : Double Journey" https://twitter.com/pherim/status/1276294041726935040

“Ella Maillart : Double Journey”は、↓にて6/28まで無料公開中。
https://cinematheque.fr/henri/film/144961-fuori-sala-3-an...

題名“Double”は多義的ながら、直接には旅の伴侶であり、旅先で別れたまま’42に夭折しアイコン化したAnnemarie Schwarzenbach↓(2枚目にエラも)を偲んで。

例えばGivenchyの’19春夏コレは彼女に捧げられた。VOGUE当該記事↓。“アンマリー・シュワルツェンバッハという聞き慣れない女性”って、web日本版とはいえVOGUEもやや矜持薄くなったかな。アンナマリって昔同学年にいたなぁ

  VOGUE:Givenchy'19SS: https://www.vogue.co.jp/collection/brand/givenchy/19ss-rt...




“Lu Tempu di li pisci spata”
メッシーナ海峡(シチリア~イタリア半島間)でのメカジキ漁を撮る短篇1954年作。漕ぎ手の人力で漁船が突貫し、夕闇が到来すると村人総出の宴が始まる様は、ガレー軍船の都市国家時代をも彷彿とさせ熱い。

"Lu Tempu di li pisci spata" https://twitter.com/pherim/status/1277081784308490240

エラ・マイヤール作品は公開終了済みながら、なぜか“Lu Tempu di li pisci spata”はまだ観られる。(24:05~)
https://cinematheque.tube/videos/watch/93c42081-7000-48c1...

ちなみにこの動画公開はシネマテーク・フランセーズとボローニャ復元映画祭の共同企画だったけれど、シネマテークフランス国旗の修復作公開は現在も継続中。https://cinematheque.fr/henri/ 




 
 余談。

 おととい、コロナ禍入り後、初の監督対面取材だん。場所がケイズシネマ上階だったけど、空族満員御礼ですってよ。典座にサウダーヂ、国道20号線。胸熱。(満員御礼写真:https://twitter.com/pherim/status/1298912614739714049

 なんかね、ようやく今年始まった感。でも2/3終わってるリアル。ひぇん。(冷)

 この日は心底疲弊して、けれど睡眠2時間に削られ出稿予定も取材準備も不調に追い込まれたこの他者による私領域侵害のままならさこそ、人生の本流という気もする朝焼け。
 朝5時半でやうやう街に日が差し込むの、秋の足音きこゆる心地。お早うございます。

 というところまでツイートコピペするのもどうかと思いますが。
 気塞ぎの日を過ごすと、思考も走らなくなるのだなぁとか。





おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
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