今回は、9月4日の日本上映開始作と、ジブリ作BESTIA上映など10作品を扱います。(含再掲1作/短篇2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第149弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■9月4日公開作
『mid90s ミッドナインティーズ』
“俺の人生は最悪だと思うけど、スケボーがあるから他の奴よりマシに思える。だろ?”
A24製作により’90年代のLAストリートカルチャーが緻密に再現された、名脇役ジョナ・ヒルの慕情溢れる初監督作。主人公少年の仲間演じる、演技未経験のスケートボーダー達の佇まいが沁みるほど良い。
"Mid90s" https://twitter.com/pherim/status/1298817354365718528
拙稿「疾走する魂と割れる社会」:http://www.kirishin.com/2020/09/02/45044/
失墜し分断されゆく世界の下、一枚のボードと向き合う若者たちを軸に、『mid90s ミッドナインティーズ』『行き止まりの世界に生まれて』『ガザ・サーフ・クラブ』(ふぃるめも151前後予定 )をめぐり書きました。
『ガザ・サーフ・クラブ』(ふぃるめも152予定):
https://twitter.com/pherim/status/1297021191459188737
『行き止まりの世界に生まれて』
スケボーを飼いならし滑走する瞬間、全てから解放される。
だが逃れがたい現実は日々残酷に襲い来る。逼塞する米国ラストベルトに暮らす青年が友人達を撮るドキュメンタリー。その中で失墜し、諦め、受け入れ大人へなりゆく各々の姿は、切ないほどにまぶしく力強い。
"Minding the Gap" https://twitter.com/pherim/status/1299651007433981956
拙稿「疾走する魂と割れる社会」:http://www.kirishin.com/2020/09/02/45044/
『ファナティック ハリウッドの狂愛者』
ジョン・トラボルタ主演新作は、惨劇起こすストーカーへと変貌しゆく純真な映画オタクを熱演、ハリウッドの狂瀾を鋭く風刺する。
偏愛する当人の前で挙動不審となり警戒されるコミュ障あるあるは物悲しく、正常/異常を巡る終幕の着地点は不思議と清々しい。
"The Fanatic" https://twitter.com/pherim/status/1300351909023244288
『世宗大王 星を追う者たち』
15世紀、奴婢出身の天才科学者と、ハングルを創始した世宗との友情。チェ・ミンシク&ハン・ソッキュの対峙が熱い。
王の輿が破損した史実より創出された、明を後ろ盾とする高官の陰謀から老将の巻き返しまで、大活劇の振り幅が圧巻。また渾天儀の開発過程は目に楽しい。
"천문: 하늘에 묻는다" "Forbidden Dream" https://twitter.com/pherim/status/1299178389241176065
『海の上のピアニスト イタリア完全版』
この完全版は凄い。トルナトーレ監督の充溢は全編尽きることなく、モリコーネの音楽も中弛みが一切ない。
一番嬉しかったのは、眼福極まる客船機関部や貨物/船員室場面の充実。’99年の日本公開版より45分長く4K修復された鮮明170分作品、本当に短く感じた。
"La leggenda del pianista sull'oceano" "THE LEGEND OF 1900" https://twitter.com/pherim/status/1296642459825393666
『海の上のピアニスト』上映情報修正。
《4K修復版》121分 8/21~
《イタリア完全版》HDリマスター170分 9/4~
の2種(同一館での併映あり)との由。トランペット吹きの語り役プルイット・テイラー・ヴィンスの揺れる瞳の演技や、ヒロイン役メラニー・ティエリーの楚々とした立ち姿も印象的でしたね。
『海の上のピアニスト イタリア完全版』で、機関部や貨物室・船員室などバックヤードをこれでもかと映してくれたこと。この点は『タイタニック』初見時の感動を想起せずにいられなかった。
十代バンコク『タイタニック』鑑賞ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/850674688971886594
https://twitter.com/pherim/status/1028931000502431744
ちなみに淀川長治さんが生前、「『タイタニック』は機関部の場面がとにかく凄いんだ。せっかく本物の客船を造ってあそこまで再現したのに、ロマンスに時間幅を取られたのはもったいなくて仕方ない」と仰っていたのを聴き、そうなんだと安心した記憶。
淀川長治講義の記憶:https://twitter.com/pherim/status/761752948279959552
『パヴァロッティ 太陽のテノール』
なんとハリウッド娯楽映画の帝王ロン・ハワードが、ルチアーノ・パヴァロッティの生涯追う質実作を監督。
知られざる前半生、中国にオペラを普及させ3大テノール揃い踏みからダイアナ妃との交友まで豪華すぎる中盤、挫折知り深味増す終盤とダレない構成さすが。
"Pavarotti" https://twitter.com/pherim/status/1300634161921679360
■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)
“The Grand Bizarre”
奇抜なる染織トランス。色彩が港湾とは別次元のハブとなり、表層を解体し非言語の文学を編み上げる。アラブの繊維商、インドの仕立て屋、中国の生地問屋。町角風景の部分を構成する染織布の紋様だけが高速に切り換わりゆく映像は、経糸緯糸からなる多重宇宙のリアルを響かせる。
[Youtube等見当たらず]本編→https://mubi.com/films/the-grand-bizarre
"The Grand Bizarr" https://twitter.com/pherim/status/1260417501747392512
『ポパイと船乗りシンドバッド』(1936)
外洋の孤島で出逢ってしまった、“最強の航海者”を誇る者同士がつば迫り合う、フライシャー兄弟によるカラー版ポパイ第1作。
気の強いオリーブと太っちょウィンピー、ほうれんそう缶やくわえパイプなど完成された構成の鉄板感。オリーブの強制ダンス場面がやや衝撃。
"Popeye the Sailor Meets Sindbad the Sailor" https://twitter.com/pherim/status/1281058311576514561
かなり高精細のyoutube動画(字幕付)みっけ↑。のちのアニメ表現におけるクリシェの原型も多くみられ楽しいです。
『船乗りシンドバッドの冒険』など、複数ある既存の邦題を避けた掲載になっているのは、題名の著作権に配慮してかも。(1936年製作アニメ本体はパブリックドメイン)
■国内上映中/過去公開作品(含映画祭上映作)
『風の谷のナウシカ』 BESTIA上映
生きた風の谷へ分け入るような、想像超える体験。
例えばコルベットから見あげた雲間にキラリ光る物あれば、それはペジテのガンシップに決まっていて、んなこと百も承知なのに大興奮。
大地震わす王蟲の大群、剣豪ユパの跳躍、腐海の底の静謐。泣くと思わなかった。
"Nausicaä of the Valley of the Wind" https://twitter.com/pherim/status/1300991761230118912
姫さま、マスクを! マスクをして下され~!!
の新感覚。
(図→https://twitter.com/pherim/status/1301003422397734914)
そもそもね、『風の谷のナウシカ』を観客全員がマスクして観ている光景の腐海コスプレイベント感。客席が一席ずつテープ隔離された終末SF演出に加え、退場まで管理されるトルメキア専制支配演出。その全てが新しい。
『千と千尋の神隠し』 BESTIA上映
予想もしてなかった質の面白さ。鑑賞何度目かわからないのに受け取るものが全然違い、初見時より感動したかも。
とりわけ湯屋の絢爛豪華な多彩色、銭婆が操る式神やカオナシの憑依がもつ奥行きも全て名や言分けに関わるからこそ、あの配色が一層活きるのだなとか。
"Spirited Away" https://twitter.com/pherim/status/1301715050864848896
余談。
新出の長篇10作、がふぃるめも更新の基本構成で、短篇作は通常1/2本、再掲作は0本カウントなので、今回は実質8作回になります。数回先に予定する《王兵》回で1本4、8、10時間作など超長篇作が並ぶための調整意図もありますが、邦題の長大化、とくに副題の増加のため告知ツイートに10作しか入らなかったという些末因子も。
次回など、『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』という作品を扱います。が、無惨な事態と言わざるを得ませんよね。映画自体は質実な良作なので余計無粋に感じます。ラノベタイトルのように長さによる自虐や韜晦ニュアンスも一切なく、何のひねりも含みもない、顕名の責任主体が誰もいない日本社会の病んだ姿だけを表す副題になっている。
目先の「頭数」を気にするばかり自ら「間口」を狭めるこの流れに感覚麻痺させ染まらずに在ることが、すでに美徳とさえ見なされない時代とか。皮肉なのは、それこそ“The specials”の主人公らが対峙した者の正体なのだというあたり。
ジブリ作品の劇場再上映については正直舐めてました。これは『AKIRA』同様、かつて幾度観ていようと観る価値ありましたね。『もののけ姫』BESTIA上映を見逃したのは地味に痛いです。まぁそのうち。
あと、ジブリ作はIMAX撮影もDOLBY ATMOS収録も為されてませんから、単純に鮮やかさと音質を上げるBESTIA規格に最適なコンテンツだよなとも。
ナウシカはジブリ作品じゃないよ、というツッコミはもちろんアリです。よ。
おしまい。
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