今回は、1月29日~2月19日の日本上映開始作を中心に、11作品を扱います。(含再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第167弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■1月29日公開作
『天国にちがいない』
エリア・スレイマン最新作。故郷ナザレから旅する監督の見透す世界の向こうに、“パレスチナ”の真の相貌が立ち現れる。
パリとNYの今日的風景を明瞭に切り取ってみせる、諧謔と風刺際立つ手腕の鮮烈。四半世紀の洗練と、変わらぬ現状への静けき情熱。ガルシア・ベルナル良い味。
"It Must Be Heaven" https://twitter.com/pherim/status/1353895706109505536
エリア・スレイマン長編第一作(1996)『消えゆくものたちの年代記』:
https://twitter.com/pherim/status/1335140522810200064
エリア・スレイマン『D.I.』 https://twitter.com/pherim/status/1335140522810200064
『わたしの叔父さん』
デンマーク、伝統的な酪農家の日々。
獣医への夢、恋の予感、都会の光。しかしその全てより、老いて足の不自由な叔父との変わり映えしない暮らしを選び続ける女性の、熱情を秘めた双眸と静けき佇まい。
ユトランドの田園風景の下、酪農の営みを淡々と捉える目線に厳かささえ。
"Onkel" "Uncle" https://twitter.com/pherim/status/1356098888311005186
■2月5日公開作
『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』
神の手、スキャンダル、コカイン。
『AMY エイミー』『アイルトンセナ 音速の彼方へ』の監督が鮮烈に伐り出す、世の頂点を極めた男の栄光と失墜。
故郷の一族を支えた知られざる側面と、弱小のSSCナポリをセリエA優勝へ導いた7年間への焦点化は質実にして凄絶。
"Diego Maradona" https://twitter.com/pherim/status/1356882011428851712
■2月11日公開作
『すばらしき世界』
破格の役所広司が突き抜ける。
ムショ上がりで昭和の気風残すヤクザ心性が、型なし不寛容社会の空気を縦に割りまくる。
外国人労働、暴対法、介護福祉等々、現代日本のエッジ切り取る西川美和のバランス感覚。仲野太賀、長澤まさみ、北村有起哉、安田成美ら各々出色。重衝撃作。
"" https://twitter.com/pherim/status/1359107609886818307
『マーメイド・イン・パリ』
恋する男の心臓破る歌声もつセイレーンと、
心の枯れ切ったウクレレ奏者との出逢い。
シェイプ・オブ・ウォーターから遠くアンデルセンにも連なる、色形のない水だけがもつ浄化力の象徴語りとしての人魚物を瑞々しく更新する。絶望の底から放たれる煌めきと魔性の孤独。
"Une sirene a Paris" "Mermaid in Paris" https://twitter.com/pherim/status/1358621376706277377
『マーメイド・イン・パリ』主人公♂が、パリでトゥクトゥクを乗り回すヨソ者感、OP等のクレイアニメや魔術本“サプライザー”、老舗バー“フラワーバーガー”に漂う古き善き日々の残響など、細部まで一貫されたスタイルは趣深い。
万国旗調のカラフルな車体装飾が、よくみると経文だったりするのも最高。
[画像]→https://twitter.com/pherim/status/1361523060872896513
念のため。『マーメイド・イン・パリ』の原付三輪をタイ式に“トゥクトゥク”と表現したのは、主人公♂がそう言っているから。
車体は南アジア圏のオートリクシャー、経文はサンスクリット語だったので北インド~ネパールのものですね。
まぁ、パリの運河棲みな人魚姫にはどっちも同じでしょうけれど。
『春江水暖~しゅんこうすいだん』
都市という自然。その細部へ人生が溶け込みゆく。
絵巻物を眺めるように視点は水平移動し続ける。元朝の山水《富春山居図》を下地に、杭州に暮らす四兄弟の家庭が各々象徴する中国の今。出演者がほぼ親戚筋という’88年生まれの顧曉剛(グー・シャオガン)長編第一作。
"春江水暖" "Dwelling in the Fuchun Mountains" https://twitter.com/pherim/status/1357526291998674944
初見時ツイ@2019:https://twitter.com/pherim/status/1203892856772952064
胡波(フー・ボー)『象は静かに座っている』を軸とする拙記事↓で80年代生まれの監督達、『春江水暖』の顧曉剛(グー・シャオガン)や、『ロングデイズ・ジャーニー』の畢贛(ビー・ガン)など中国映画第8世代に言及しています。
中国、その想像力の行方と現代 | キリスト新聞社HP
http://www.kirishin.com/2019/11/27/39116/
■2月12日公開作
『秘密への招待状』
インドの孤児院運営に奔走するイザベルが、巨額寄付を申し出た女性実業家へ会いにNYへ。実業家夫の彫刻家やその娘と自身をめぐる“秘密”の渦に巻き込まれる。
孤児院の困窮とマンハッタンの豊満、全てが対照的な2人の女性を、ミシェル・ウィリアムズとジュリアン・ムーアが好演。
"After the Wedding" https://twitter.com/pherim/status/1357178129995866114
『秘密への招待状』の、南北格差を背景としつつも内向きへ収斂する物語に今日性を覚える。
『ナイロビの蜂』や『ブラッド・ダイヤモンド』に代表される、貧困の現実と欧米の富裕層を両映しに、意識高い系俳優が主演する一連の作品がもつお節介焼きの物語は、当事者性こそ尊ばれる現代では通用し難い。
『ナイロビの蜂』も『ブラッド・ダイヤモンド』も超好きだし、この頃はアンジェリーナ・ジョリー&クライヴ・オーウェン『すべては愛のために』とか同方向の映画はたくさんあった。
しかし近年に至っては、ハビエル・バルデム&シャーリーズ・セロン&ジャン・レノ主演でショーン・ペン監督作“The Last Face”が日本では公開さえされないこの風潮ね。たまたまそう見えるだけ、ではなかろとぞ思われ。
“The Last Face” https://twitter.com/pherim/status/926820186249760768
■2月19日公開作
『ベイビーティース』
末期癌に冒され心の行き場を見失う少女ミラと、どこへも行けるが孤独な魂かかえる不良青年モーゼス。
babyteeth(乳歯)の脆さそのままに、危うい均衡を保ち重なりゆく断片の一葉一葉がとても眩しい。『プリシラ』『シャイン』など豪州映画に時折現れる、光の質が飛び抜けた秀作。
"Babyteeth" https://twitter.com/pherim/status/1363683843543207937
『モンテッソーリ 子どもの家』
藤井聡太やアンネ・フランク、ジェフ・ベソスが受けたという教育メソッド。感受性と好奇心を導きに自主性を育む思想の徹底ぶりが興味深い。
監督のナレーションは進行役に留まり、マリア・モンテッソーリ自身の言葉が多く語られるのも良い。(声: 向井理, 本上まなみ)
"Le maitre est l'enfant" https://twitter.com/pherim/status/1362253084676689921
『ある人質 生還までの398日』
元体操選手で写真家を志すデンマーク人青年が、シリアでISの人質となった実話ベース作。
極限下での人質同士の互助や、精神の変容をめぐる描写の克明、家族の絶望。そして何より、信仰とは余りにもかけ離れたIS戦闘員個々の台詞に篭もる、強烈な憎悪の形に戦慄する。
"Ser du månen, Daniel" https://twitter.com/pherim/status/1362607840465022978
『藁にもすがる獣たち』
スネに傷もつ男女8人による、大金の入った1つのカバンをめぐる狂騒劇。
恋人の失踪、借金、倒産、家庭崩壊など各々人生のどん底からの一発逆転を夢みて、気づかぬうち獣へなりゆく殺伐世界に漂う、一抹の切なさと可笑しさ。曽根圭介の同題小説原作、名優達の競演が楽しい。
"지푸라기라도 잡고 싶은 짐승들" "Beasts Clawing at Straws" https://twitter.com/pherim/status/1360795273153314817
余談。
ふぃるめも更新滞留気味。劇場or試写で観たけど未ツイ案件、実は60作くらい溜まってます。。
って初めて数えてみたけれど、なかなか迫力ある数字。
映画さえも時間破産の波に攫われつつある一方で、客観的には「暇でいいね」と言われる人生なう。
(実際言われたしお寿司)
おしまい。
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