今回は、8月6日~8月20日の日本上映開始作から10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第183弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■8月6日公開作
『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』
見渡す限りオーシャンな遭難飛行中の小型機を、ほぼ全編の舞台とする高空サバイバル。
パイロット急死により、不意の一夜を熱く過ごした元カレとの生存戦略いざ開幕。嵐雲突入、高度障害でハイになり酒を燃料に接ぎやっと中盤。火事場の馬鹿力体験映画。
"Horizon Line" https://twitter.com/pherim/status/1422038532080640002
■8月7日公開作
『オキナワ サントス』
ブラジル南東部の港町サントスで起きた、
日系移民強制退去事件。
体験者が続々鬼籍へ入る中、強制収容者名簿を探し当て、沖縄人と内地人の確執や日本人コミュニティ内のテロ抗争など、タブー視されてきた移民史の暗部を炙りだす構成の秀逸。何よりお爺お婆の表情に見惚れる。
"" https://twitter.com/pherim/status/1423124588846714880
『オキナワ サントス』、画作りや取材の手つきはまるで異なるものの、チリ製紙工場の労組工員虐殺描く秀作『十字架』の渇いた静けさが想い起こされる。
事件発生時は子供だったおじいやおばあ。南米の空にうちなーぐちを響かせる語りはあらゆる感情を含み込み、そして優しい。
『十字架』 https://twitter.com/pherim/status/1333413320213204996
沖縄本土よりもうちなーぐち(沖縄語)をきれいに残し、標準日本語は話せずポルトガル語で暮らす彼らの姿に、「日本人移民が味わった」と一口にはとても語れない苦難の深さを垣間見る。「沖縄の人に多く取材されているようなので」と、内地人関係者から一切の取材継続を拒絶されるくだりは衝撃的。
『カウラは忘れない』
豪州内陸の町カウラで起きた、近代史上最大の捕虜脱走事件。日本兵捕虜1104名の脱走理由は逃亡でなく、撃たれて死ぬため。241名の死を招いた同調圧力に慄える。
生き恥晒せば家族を苦しめる。死にたくないが空気に逆らえなかった。生存者証言と“生きて虜囚の辱めを”の今日性。
"" https://twitter.com/pherim/status/1423482092059447296
満田康弘監督前作『クワイ河に虹をかけた男』連ツイ:
https://twitter.com/pherim/status/768276886459854848
『カウラは忘れない』(パイロット版か)のカウラでの上映会の際、いまだ日本人とは言葉も交わさないが、劇は観に来たという90歳女性の存在も印象深い。
日本兵の集団脱走時、彼らを保護し食事を与えた周辺住民の子孫も映画には登場する。人々の心は一様ではないし、歴史の真実はつねに多層的と改めて思い知る。
■8月13日公開作
『モロッコ、彼女たちの朝』
カサブランカの旧市街メディナで、臨月を迎えながら行き場をなくした女性サミアが、未亡人アブラの営むパン屋へ転がり込む。
道具の立てる物音ひとつにまで気遣う静謐さ、女性の生きにくさを主題としつつ訴求的ではない演出の抑制、そして陰翳極まる美しさ。充溢の時間。
"Adam" https://twitter.com/pherim/status/1422754616626741248
『ジュゼップ 戦場の画家』
スペイン内戦を闘い、強制収容所での虐待的な難民生活のあとメキシコへ渡った画家ジュゼップ・バルトリ。場面ごと移り変わる描線や色遣いが、画家の魂の旅路を象徴する。
“色彩を受け入れた時あなたは、恐怖を克服できる。”
愛人となったフリーダ・カーロの言葉が沁みる。
"" https://twitter.com/pherim/status/1424226426341916676
■8月20日公開作
『祈り 幻に長崎を想う刻(とき)』
灼け落ちた浦上天主堂跡から被爆マリア像を盗みだそうと集う人々。首謀者はカトリック女性ふたり。
昼は看護婦、夜は売春婦の女役・高島礼子と、詩を売る女役・黒谷友香の体当たり演技が見応えあり。説明過剰の演出ややダレるも柄本明、美輪明宏、田辺誠一ほか役者絢爛。
"" https://twitter.com/pherim/status/1424547192375693315
『祈り 幻に長崎を想う刻』の高島礼子、凄惨な現場で働く看護婦(師)の強靭さと性愛が絡む点で、増村保造1966年作『赤い天使』の若尾文子が想起される。
ただ『赤い天使』の鋭利極まる病床描写に比べると、『祈り 幻に長崎~』は名優陣と脚本に演出が遠慮しすぎの感は否めず。
『赤い天使』 https://twitter.com/pherim/status/1235395995057324032
『ドライブ・マイ・カー』
村上春樹短編群を、こう編み直すのかと感服の濱口竜介監督新作。
繰り返されるチェーホフの棒読みさえ病みつきになる。西島秀俊から脇役までみな出色、中でも運転手役・三浦透子の孤独は心に棲みつく。
広島の空と、手話含む9言語の心地よい風通し。
この時間体験は至福。
"" https://twitter.com/pherim/status/1416581620593688578
広島・聖地巡礼ツイ(広島市環境局中工場): https://twitter.com/pherim/status/1408739983389646855
『ドライブ・マイ・カー』舞台の広島で、一足先に聖地巡礼してきたなど。(RT↓先にて連ツイ)
脚本を担当した『スパイの妻』を含め、濱口竜介近作では、必ず震災や戦災が影を落とす。言い知れない不穏さが物語の底部に息を潜める初期作からの構図は、より鮮明になってきた。(続
濱口竜介作ツリー: https://twitter.com/pherim/status/859318925829349376
すこし突飛なことを言うようだけれど、濱口作品にみられる手つきの欠如こそ、近年の日本映画やドラマの凋落を自ら手繰り寄せる原因ではないかと思える。
Netflixの国内視聴ランキングが韓流ドラマとアニメで占められる現状は、ゆえあってのことだとも。
“Summer of 85”
フランソワ・オゾン新作は、
ある少年16歳の味わう歓びと痛みの6週間。
オゾン17歳時に衝撃を受けた原作とあって、
原体験のように素朴な光と感情。
永遠の別れを冒頭に描きながらそこに頼らず、瑞々しく輝かしくも穏やかな日常描写こそを研ぎ澄ませる、名匠ならではの巧緻に唸る。
"Été 85" "Summer of 85" https://twitter.com/pherim/status/1424930106271690755
“Summer of 85”、画作りの醸すテイストこそフランソワ・オゾン平常運行だけれど、『8人の女たち』から『2重螺旋の恋人』へ至るミステリアス演出が、前作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』に続き本作でも抑制された感はあり。この両作が、円熟期オゾンの嚆矢となるのかも。
『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』 https://twitter.com/pherim/status/1283016948138164225
『2重螺旋の恋人』 https://twitter.com/pherim/status/1023395969147133952
『婚約者の友人』 https://twitter.com/pherim/status/921211563066908672
『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』
重度の潔癖症男女が最強のカップルとなるも、
片方が治ってしまう奇想ラブコメ。
台湾映画の好趣充満。
変人扱いされてきた者同士が100%わかり合える幸せ描写が素敵すぎて、治癒が2人を引き離す中盤からの切なさ倍増。強迫観念めぐる映像表現も秀逸。
"怪胎/i WEiRDO" https://twitter.com/pherim/status/1426035746440323074
初めてのキスを試すにも、歯磨きほか入念すぎる準備を要し、実際してみた感想が「やっぱり汚いわね」「そうだね」って斜め上方向でわかり合える2人だからこそ、こんな幸せ続くのかって不安にもなる(�右下)。
コロナ以後作ならではの共感呼ぶ映像も多々。
あと『恋の病』、徹頭徹尾ネアカな傑作『1秒先の彼女』のダークファンタジー版という印象もつひとも多いのでは。
とりわけ関係性が急展開する際に2人の内面世界へ陥入する場面など、台湾映画に特有のファンシーな想像力炸裂。大陸/香港にも、韓国や日本にもない不思議な魅力。
『1秒先の彼女』 https://twitter.com/pherim/status/1406462731008417800
原題は“怪胎”。英題“i WEiRDO”は本作がiPhone撮影に拠る点にも依拠。
で、邦題。精確には潔癖症でなく強迫性障害がテーマで、窃盗癖など他の強迫症描写も多いからこそ、恋愛の本質突く『恋の病』は含蓄あって良いのです。それだけにこの副題ね、東京五輪閉会式並みに業界体質が露出し残念なことです。
『リル・バック ストリートから世界へ』
メンフィスの貧困区に生まれたストリート・ダンス《ジューキン》で台頭した青年リル・バック。
上手く踊りたい一心からバレエに取り組み、ヨーヨー・マに見いだされ昇華する姿は圧巻。“本物”を見据える彼の真摯さと、彼を支える体制の柔軟度の全てに見入る。
"LIL BUCK REAL SWAN" https://twitter.com/pherim/status/1425442104163983364
余談。
『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』、原題 "Horizon Line"。
『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』、原題 "怪胎"。
邦題に限らず、海外映画配給に際しての配給会社による作品私物化ムーヴはときに、目に余る傲慢さを露わにするものですが。売上ほか何らかの目的のため好きにタイトルを変える権利があるということは、他者の手になる表現の媒介者としてのモラルや矜持からの乖離をべつに伴わない。
ただアルバトロス・フィルムによるDVDスルータイトルくらいになると、二番煎じとか似たタイトルによるレンタルミス狙いのネタ感しかなかったりして、逆に面白かったりもします。
ちなみに“Summer of 85”、実は当初の舞台設定は1984年だったらしく。しかし“Summer of 84”だと、直近であるんですよね。『サマー・オブ・84』。
『サマー・オブ・84』 https://twitter.com/pherim/status/1155672647293734913
国内配給にしては珍しくカタカナにしないのも、このためかも。結果『サマー・オブ・84』はアメリカ映画で“Summer of 85”はフランス映画なのに英題採用っていうネジれが。とはいえカタカナタイトルで連打される「・」(中黒)、字面的にけっこうダサいので、いっそ一部で英字ママ流行しないかなって1mmほど期待してみたり。
おしまい。
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