pherim

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pherimさんの日記

(Web全体に公開)

2021年
08月02日
00:09

ふぃるめも182 香港七月、白色台湾、宇宙最凶。

 
 

 今回は、7月30日~31日の日本上映開始作と、第2回香港インディペンデント映画祭上映作から22作品を扱います。(含短篇15作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第182弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■7月30日公開作

『サイコ・ゴアマン』

銀河最凶宇宙人が、宝石の呪いにより8歳少女ミミへの服従を強いられる。
ミミ一家のおバカ日常に翻弄される地球の運命と怪人たち。戦隊モノなど日本製特撮へのリスペクト全開な抱腹絶倒コメディで、脇役怪人の声を黒沢あすかが演じる無闇な贅沢さ始め、確信犯的B級感が楽しい。

"Psycho Goreman" https://twitter.com/pherim/status/1420579425712689153

トロマ味全開にして、地味におバカ家族と最凶怪人のやり取りが機知に富んでたりする意外さとか。

  『悪魔の毒々モンスター』他トロマ・エンターテインメント連ツイ:
   https://twitter.com/pherim/status/1266219938886283266
   ※この時期もっと色々観てるんだけどツイートしてなかった。





『返校 言葉が消えた日』
白色テロ下の台湾を舞台とするホラー悲話。
サイレントヒルばりの闇展開による、学校から出られなくなる悪夢演出の全体が、監獄化した台湾島の隠喩となる。
原作ゲームに比べ、宗教要素が薄れ圧政描写が強化された背景に、香港の変容を見守る人心の反映を感覚し戦慄する。

"返校" "Detention" https://twitter.com/pherim/status/1419995335535988736

タブー化された直近の現代史をテーマとする試みは、『悲情城市』『牯嶺街少年殺人事件』以来となる。両作と本作との20年の空隙に台湾を襲った変容は、白色テロの描かれかたにも俄然影響を及ぼすはず。そこに留意しながらいずれ再見してみたい。(とこの文脈で書くとサイチェンになっちゃうなり)

※ゲーム版、ネトフリドラマ版との比較など後日追記予定。実はゲーム版、昔ニコ動実況でクリアまでながら見してしまった過去がある。当時はまさかドラマ化映画化するなんて思ってなかったし、そもタイ移住も学生時以来の映画漬けな日々の再来も、台湾再訪の機縁が数年後に生じるとも予想だにしておらず。




『アウシュヴィッツ・レポート』
絶滅収容所のユダヤ系スロバキア人が、その実態を世界へ知らせるべく脱走、結果12万人の移送を防いだ実話劇。
既存のホロコースト作と比べ、アウシュヴィッツの地勢やナチス傀儡下の小国模様、虐殺認知に鈍重な赤十字が描かれる点は新奇。終幕の醸す今日性が衝撃的。

"Správa" "The Auschwitz Report" https://twitter.com/pherim/status/1420214891839823873

※対ナチス反撃市民物めぐり後日追記するかも。

  拙稿「アウシュヴィッツの此岸」 http://www.kirishin.com/2018/09/06/16812/




『パンケーキを毒見する』
左派視点で綴られる菅政権検証ドキュメンタリー。
全く興味がなかった菅義偉の来歴や武勇伝の他、学術会議問題の検証や赤旗編集部など気になる映像は多い。それだけに、言葉尻をあげつらい茶化し個人を吊し上げる底の浅いノリが全面化している点、惜しい。出演陣は豪華。

"" https://twitter.com/pherim/status/1419494941818978306




■7月31日公開作

『フィア・オブ・ミッシング・アウト』

薄いカーテンをすり抜ける風、失われた光の追憶、誰もいない公園に薫る湿り気、変わりゆく表情の記憶、夜の道を流れる車の明かり、今この瞬間に深まりゆくもの、消えゆくもの。
不在の部屋で幻燈機が映しだす世界の素顔。遠くで揺らめく灯し火の、幽かな熱量。

"Fear of missing out" https://twitter.com/pherim/status/1420560183466467329
 


“IMAGINATION DRAGON”
子どもの想像力が見透かす世界のリアル。
河内彰監督短篇。
普段であれば興醒めする子役の棒読み台詞ないし過剰に大人びた演技のやらされてる感が、ここでは風刺的に活きていて面白い。一見放課後の小学校のようでありつつ現代美術を施された廃校醸す歪んだ並行宇宙感も良い。

"IMAGINATION DRAGON" https://twitter.com/pherim/status/1421111507576713224

(河内彰監督新作『フィア・オブ・ミッシング・アウト』同時上映短篇)



 
■2021年 第2回 香港インディペンデント映画祭 2021初夏 大阪・京都・名古屋 ( 2021冬以降東京の可能性)
 https://jphkindie.wixsite.com/2021

『理大囲城』(理大圍城 / Inside the Red Brick Wall)
2019年11月香港理工大学での、11日間に及んだ学生と警察との攻防。
千人以上の逮捕者を出したこの騒動、内部で何が起きていたかを直に捉える映像は、その物量で報道由来のイメージを破壊してくる。窮して籠絡されゆく仲間を見送る影姿の孤独。

"理大圍城" "Inside the Red Brick Wall" https://twitter.com/pherim/status/1412285678801494029




『あなたを思う』(看見你便想念你 / I miss you, when I see you)
豪州へ移民し心を病んだ青年と、香港で家庭を築こうとする青年。かつて苦い別れを経験した2人が再会し、一時的な同居を始める。
プロの俳優らが脇を固めるなか、主人公役ジュン・リー/李駿碩(後述)の醸す朴訥とした存在感が活きる。

"看見你便想念你" "I miss you, when I see you" https://twitter.com/pherim/status/1416774132604174338 
 
続)李駿碩/Jun Liには、’19年夏デモ騒乱下の香港でインタビューした。https://twitter.com/pherim/status/1167669359453593605
いまや香港新世代監督の旗手だが、日本軍占領下の九龍描く短篇『1944年の秋』(四四年秋/Days of Fall,後述)も実は彼の作ではと憶測。(未確認)
図星なら公表監督名Fisherは、暗黒啓蒙のMark.F由来だろう。
 
  李駿碩『吊吊揈』“My World” https://twitter.com/pherim/status/1168085723053842432

  マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』(よみめも57) https://tokinoma.pne.jp/diary/3655 第4項目


李駿碩にはケンブリッジ留学期があり、専攻は哲学メイン、国際関係論サブ、香港政情に対するこの数年の身振りを考えても、2017年の自殺までロンドンを中心に活動したマーク・フィッシャーから影響を受けているだろう蓋然性は高い。憶測が図星か否かは別として。




『2019年 香港民主化デモ 傑作短編集』
’19年夏の沸騰を学生目線で撮るドキュメンタリー5篇。
台湾ひまわりに続けと立法院を占拠した7月から、警察拘留所の前で獄中の仲間達へ応援歌を送る9月まで。
この連ツイ自体19年8月の香港滞在記がメイン、2日違いで起きた空港占拠を描く掌編など胸熱すぎた。

"佔領立法會" "試行錯誤" "缺一不可 No One Less"他 https://twitter.com/pherim/status/1420926302513614851




『逆さま』(對倒 / Tete-Beche)
警察官の兄と、反中デモを闘う妹、ベテラン新聞記者の父。家庭での相克と、現場での衝突模様。
現役警察官の葛藤という今日の香港では検閲を免れない題材を、高水準の劇映画へ結実させる稀有の達成。父役ベン・ユエン/袁富華の懐深い演技と、鮮烈な終盤展開が忘れがたい。

"對倒" "Tete-Beche" https://twitter.com/pherim/status/1421667696496709637

『逆さま』の父役で魅せた袁富華/ベン・ユエン、トランスジェンダーの京劇役者を演じた李駿碩監督作『翠絲』(Tracey,当連ツイ既述↑)も印象深い。
で、なんと呉明益『歩道橋の魔術師』(天橋上的魔術師)ドラマ新作に出演、滅茶高評価。台湾他でNetflix配信中、これは観とう。

  呉明益『歩道橋の魔術師』(天橋上的魔術師)
  https://twitter.com/pherim/status/969823955065356288

上下で登場人物が反転し互いに鏡像関係をとる本作ポスター、下部では妹が女性警官の制服姿、兄が垂れ幕を背にする学生運動家といった風体なのは、作品本体の主旨をよく表す。後日追記するかも。




『僕は屈しない』(地厚天高 / Lost in the fumes)
香港本土派の活動家エドワード・レオンへの密着作。
議員立候補から実刑判決、収監まで。カリスマの所以も納得の朗らかさとバイタリティ。
亡命時の、失意と安息を同時に得たかに映る口調の穏やかさが、逮捕前提の帰国を選ぶその後想うに感慨深い。

"地厚天高" "Lost in the fumes" https://twitter.com/pherim/status/1423241353970917378




『「香港、アイラブユー」短編集— I Love Hong Kong Series』
2019年の騒擾以降に撮られた若手監督作8篇。
ジュブナイル、恋愛、家族物語から大戦物、SFまで。
危機感を背にしつつ抑制的に未来を眼差す方向性は、各国に派生作を生んだ傑作オムニバス『十年』にも通じる。(続
"尋人啟事" "四四年秋" "天暗亦明" "檸檬,牛奶"他

  『十年』 https://twitter.com/pherim/status/875160251636383745

「香港、アイラブユー」短篇集収録作:『初めての夜』(第一晚 / Blue Hour)


「香港、アイラブユー」短篇集収録作:『ラブレター』 (和你寫一封情書 / Loves, with Love)


「香港、アイラブユー」短篇集収録作:『暴動の後、光復の前』(暴動之後,光復之前 / After the Riots, Before the Liberation)


「香港、アイラブユー」短篇集収録作:『ホワイトナイト』(天暗亦明 / White Night)
http://vimeo.com/462421107
『天暗亦明』(ホワイトナイト)は、2020年初頭に台湾へ移住した若い女性が主人公。’97年返還前とは異なる転出者模様が諸々考えさせる。

「香港、アイラブユー」短篇集収録作:『レモン、牛乳』(檸檬,牛奶 / Lemon Milk)
主演・伍詠詩は『逆さま』(上述)の妹役。バーテン役盧鎮業は、短編『尋ね人』でも主演。李駿碩や袁富華もそうだが、なお分厚い香港映画界においてこうして頻繁に関係者が重複するのは、批評性をもつ作品へ関わること自体が今日では覚悟を要するから。


以上、ネットで拾える収録本編動画(公式)と予告編を並べてみた。が、個人的に最も衝撃を受けたのは動画不在の日本軍占領下香港(正確には占領下香港島の対岸・九龍が舞台)を描く『1944年の秋』(四四年秋 / Days of Fall)。これについては本稿『あなたを思う』の項で述べたように、開始1分でこれは李駿碩の監督作ではと思い至った。後日追記するかも。



 

 余談。かつては中国映画や台湾映画を遥かに凌ぎ、単体で日本映画や欧州映画と比肩するほどに隆盛を誇った香港映画の、この四半世紀のシュリンクは無惨というに余りある。当然ながらそれは中国本土市場への吸収拡散によるものだが、それでも依然香港映画は香港映画界と名指せるだけの個性と内実、地力を有している。(マカオ映画界とか、東京映画界という言葉は機能しがたい)
 
 にも関わらず、今回扱った作品を始め雨傘運動以降のインディペンデント映画に関係する映画人は、驚くほど限定的かつ重複する。言うまでもなく、こうした映画に関わることは重大なリスクを要する。ここからは早晩、台湾やカナダ、豪州や欧州等へ脱出した香港人による「香港電影」がひとつの潮流を生むことさえ予想される。土地ではなく人の心に存在し得る「香港」の可能性。外野の人間がそう言ってしまうのは、あまりにも不謹慎かもしれない。に、しても。





おしまい。
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