今回は、7月10日~7月24日の日本上映開始作から10作品を扱います。(含短篇1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第181弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■7月10日公開作
『東京クルド』
日本で育った十代の青年ラマザンとオザン。
生活のすべてに加え、思春期の悩みも将来の夢も“仮放免許可書”という一枚の紙切れに制約される。
映り込む在日クルド人社会の内幕、親族や知り合いの誰かが常に入管へ囚われの身となりつつ、助け合いなんとか今日を生き凌ぐ様は痛切。
"Tokyo Kurds" https://twitter.com/pherim/status/1413486560318660608
『東京クルド』は、3年前に短篇として一部がネット公開され話題となった。完成版は青年2人の全実人生および在日クルド人社会全体を視野に収めてより深化。
入管職員のゲスな発言は衝撃的だが、官吏当人は職務倫理の逸脱に無自覚どころか使命感の自認さえ確信され闇は深い。
2018年公開短篇『TOKYO KURDS 東京クルド』
https://twitter.com/pherim/status/980769257725116416
『片袖の魚』
水槽の販売とセッティングを仕事とする彼女の歩む街並みや、その瞳に映る人々の姿が不意に遠のく。
「ねぇ。もしかして、男性?」と、悪気ないひと言には心もなく、たやすくリアルの皮膜を引き剥がす。水槽のガラスは守り、幽閉する。光だけが透き通る。静かに燃える袖が揺らめく。
"" https://twitter.com/pherim/status/1413721674403352576
■7月16日公開作
『17歳の瞳に映る世界』
17歳の少女がみる世界は、
大人の瞳に映るそれとは違う。
誰にも打ち明けられない秘密を分かち合う田舎育ちの2人には、地下鉄駅さえ難解なNY市中で夜を明かすことが、酸素の薄い惑星の果てで息するほど孤立した試みとなる。
心の軋みと街の喧騒との醒めた隔絶、寄り添う光。
"Never Rarely Sometimes Always" https://twitter.com/pherim/status/1417054832993587203
拙稿「最果ての彼女たち」 http://www.kirishin.com/2021/06/13/49370/
『SEOBOK/ソボク』
高性能クローン人間と、護衛する元情報局員。
現代SFの最前線ゆく映像美。自身が争奪戦の的となるクローン役パク・ボゴムの超然とした佇まいと、余命を自覚する護衛役コン・ユの醸す人間臭さとの対照は鮮烈。ハリウッド名作群のいいとこ取りな脚本こそ韓流映画の今日的好趣とも。
"서복" "SEOBOK" https://twitter.com/pherim/status/1417316332299640832
『少年の君』
優等生少女と不良少年の出逢いとその後。
過酷な受験戦争+いじめ環境を、心を空にして生き抜く少女演じるチョウ・ドンユイ/周冬雨の、屹立する存在感は圧倒的。
単独監督第2作となるデレク・ツァン/曾國祥、謝辞捧げた前作より岩井俊二味増す仕上がりに、中国映画的感性の最前線を感覚する。
"少年的你" "Better Days" https://twitter.com/pherim/status/1417815421760114689
デレク・ツァン長編デビュー+チョウ・ドンユイ主演作『ソウルメイト/七月と安生』
https://twitter.com/pherim/status/1408610863716519938
■7月17日公開作
『サンマデモクラシー』
糸満の豪傑女将が、米国占領政治へ叛旗を翻す。
その名は玉城ウシ。
ウシ告発によるサンマの関税撤回争う裁判は琉球政府下の主婦層から強烈に支持され、“米軍が最も恐れた政治家”瀬長亀次郎を伴い祖国復帰運動へのうねりと化す。
進行するほど熱気増すこの現代史絵巻、圧巻。
"" https://twitter.com/pherim/status/1404994104157638656
■7月23日公開作
『最後にして最初の人類』
荘厳にして静謐。20億年をまたぐ時空の隔絶を、ティルダ・スウィントンの凛とした声が縫合材となり架橋する。
夭折の映画音楽家ヨハン・ヨハンソンが遺した、ステープルドン初期SFの映像化。旧ユーゴ共産期構造物群が抉り象る、精神の変容と太陽の消滅。宇宙的挽歌の震え。
"Last and First Men" https://twitter.com/pherim/status/1418023357274935297
『最後にして最初の人類』のように旧共産圏の廃墟が終末SF遺構として相応しく映るのは、それらが人間社会の夢を表現するからのみならず、美学的に《もう一つの世界標準》たり得たフォルムの卓越性を有するからだ。それは平行世界的であり、同時に裏世界的要素を兼ね具える。(続
『陽の当たる町』 https://twitter.com/pherim/status/878035710124609536
ここでいう《裏世界》とは“この現実”の裏側に存在する、例えば『コンスタンティン』や『ストレンジャー・シングス』等で主人公らが行き交う反転世界のことで、映像表現をめぐる今日的想像力が行きつくある種の一典型をそこにみるのだけれど以下後日追記。
《裏世界》系映画ツイ https://twitter.com/pherim/status/1382171398609588232
『復讐者たち』
妻子を強制収容所で殺された男が導かれゆく血の隘路。
終戦直後の混乱下ナチス残党を狩るユダヤ旅団から、一般ドイツ人の600万人虐殺計画を発動させた地下組織ナカムへ。
実話ベースの悲しき道行きを凄演するアウグスト・ディールと、場面ごと込められた演出の襞の厚みに戦慄する。
"Plan A" https://twitter.com/pherim/status/1418414158622511107
『復讐者たち』(’21)、監督名Doron Paz & Yoav Pazの字面にほよよと検索、なんとエルサレム地底ホラー良作“JeruZalem”(’15)監督だった。
このイスライリー兄弟(たぶん)、両作の間に“The Golem”(’18)があり日本ではDVDスルー経てVOD配信中。観なきゃリストが日々伸びるホラー。
“JeruZalem”連ツイ https://twitter.com/pherim/status/1380771001286324224
対ナチス、逆襲のユダヤ作品ツイ後日
拙稿「アウシュヴィッツの此岸」 http://www.kirishin.com/2018/09/06/16812/
■7月24日公開作
『太陽と踊らせて』
イビサ島サリナスビーチの伝説的DJ翁、ジョン・サ・トリンサ。
活動時間は主に日中、ローカルに四半世紀を超えプレイする彼の音を聴くため世界から人が集う。
飄々とした物腰と、バレアリック(バレアレス諸島の)と呼ばれるジャンルレスの選曲醸す軽快さが吹かせる風は心地良い。
"Born Balearic" https://twitter.com/pherim/status/1418736934558392329
『夕霧花園』
大戦直後のマレーシア。主人公ユンリンは、日本軍に殺された妹の夢を継ぐため元皇室庭師へ弟子入りする。
阿部寛、国策級の秘密を背負う役作りの深さが圧巻。戦争の悲惨を味わった主人公が、作庭の日々を経て女性初の連邦判事を目指す時系列演出の色鮮やかさはトム・リン監督ならでは。
"夕霧花園" "The Garden of Evening Mists" https://twitter.com/pherim/status/1418912927952764928
トム・リン(林書宇)『百日告別』[2015]
https://twitter.com/pherim/status/832760993088278528
トム・リン『百日告別』公開時拙インタビュー記事
http://www.kirishin.com/2017/03/11/8575/
トム・リン『星空』[2011]
https://twitter.com/pherim/status/922962102519709697
余談。『夕霧花園』、実は監督+阿部寛さんへのインタビューの打診をしたのですが、叶いませんでした。阿部寛さんのほうはそもスケジュール上難しそうだったのだけれど、監督インタビューのほうは切られたというより失念された可能性を高く感じており(なにしろ口頭のみで話を通したきりだったので)、その後こちらからも諸々あって確認の連絡をとらないまま公開日へ至るなど。
今となっては、惜しいといえば惜しい機会だった気もしますね。継続的なインタビューができるチャンスでもあったので。と書いておくことで、次こうした機会があった際には惜しさのリマインドブーストかかるような置き書きを試みるなど。こういうちょっと迷いが出た時ってほとんどの場合、やって損はないんですよね。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh