pherim

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pherimさんの日記

(Web全体に公開)

2021年
09月18日
00:04

ふぃるめも186 アイダの天秤

 
 

 今回は、9月17日の日本上映開始作を中心に10作品を扱います。

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第186弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■9月17日公開作

『由宇子の天秤』
あるドキュメンタリー監督の、
生涯を賭けた決断。
日本社会の隘路、女性ゆえの困難、報道の闇。幾重にも凝縮された今日性と、思わぬ展開へ引き摺られ続ける緊張感。
世に突きつけてきた正義の矛先を、自らへ向けるとき人は。鋭利な実践哲学含み込む、今年の社会派劇作映画No.1。

"A Balance" https://twitter.com/pherim/status/1433268353943048193




『アイダよ、何処へ?』
“スレブレニツァの虐殺”を巡る、気骨の再現映画。
セルビア勢力の強圧を前に国連軍幹部が無能化、逃げ込んだ市民が続々殺されゆく。公私の狭間で究極の選択を為す主人公の目を通し、ボスニア紛争のリアルへ迫るヤスミラ・ジュバニッチ監督(『サラエボの花』他)の気魂に脱帽。

"Quo vadis, Aida?" https://twitter.com/pherim/status/1435101486556409856

『アイダよ、何処へ?』の原題“Quo vadis, Aida?”は、ヨハネ書“Quo vadis, Domine?”(主よ、どこへ?)由来。敢えて死地へと向かうイエスへの問いが、主人公アイダの選択に重なる。
アイダの決断は『由宇子の天秤』のそれを想起させ、両作に通底する問題提起の鋭さに唸らされる。




『シー・イズ・オーシャン』
海を舞台に命を燃やす9人の女たち。
プロサーファー目指すオアフ島の14歳少女から、
伝説的存在となった85歳の海洋生物学者まで。
クリフダイヴ、カヌーイスト、救急救命士、アーティスト、海洋保護活動家etc. 各々の立場で女性への偏見と闘い世界を牽引する姿は熱い。

"She Is the Ocean" https://twitter.com/pherim/status/1431960521083789323




『偽りの隣人 ある諜報員の告白』
1985年の軍政下韓国。公安に軟禁された野党政治家と、彼を監視する諜報部員との対峙と育まれゆく友情。
傑作揃いな韓国現代史映画の系譜に新たな一頁。しかもどの名作とも異なる目線の近しさで、監視国家の矛盾と怖さを描き切る。オ・ダルスの穏やかなる凄演に涙。

"이웃사촌" "BEST FRIEND" https://twitter.com/pherim/status/1431595587393122306

「傑作揃いな韓国現代史映画の系譜」に関し追記するかもー。




『MIRRORLIAR FILMS Season1』
変化をテーマとする短篇9本居並ぶ中、木村多江や山田孝之の存在感、武正晴や安藤政信の構成力がかえって際立つ。
一方漫画家や俳優らの初監督作群は、荒削り&尖り具合が清々しい。クレジットが99%日本人の点込みで、後続シーズン含め考えさせるものは多そうな注目企画。

"" https://twitter.com/pherim/status/1434054743630909442

この前ツイ、人名を1箇所間違えてるけど、これはこれでありな気もして放置した。コピペで楽するつもりがミスるやつ。

それはそうと、どの作も外国人名のクレジットが1,2%もないのは驚く。東京の業界が内輪ロジックで打ち上げる花火って未だ変化しないのねと。十年より退行感。

  『十年』 https://twitter.com/pherim/status/1056860832338857985




『マルジェラが語る “マルタン・マルジェラ”』
手が語り、声が描く孤高の軌跡。
エルメス抜擢後も匿名性を貫き51歳で引退したマルジェラが、顔を出さない条件で幼少からの全てを語り倒す稀有のドキュメンタリー。
川久保玲らのデザインへの熱狂を語る場面など、彼固有の創造的源泉を感じさせ面白い。

"Martin Margiela: In His Own Words" https://twitter.com/pherim/status/1436902233497497605

『マルジェラが語る “マルタン・マルジェラ”』監督Reiner Holzemer前作『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』よりも抑揚あり構成的に進化。

  『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
   https://twitter.com/pherim/status/955965016447963136


あとジャン=ポール・ゴルチエが、熱を込めマルジェラの独創性を褒める姿はちょっとかわいい。
(初期のマルジェラを見いだし、アシスタントに採用したのがゴルチエだった)




『スイング・ステート』
トランプ当選で挫折した選挙参謀が、激戦州(Swing State:揺れる州)のひなびた町に着目して始まる政治コメディ。
天敵の美人選挙参謀を相手に、両陣営とも巨額を溶かし全米から注目を集めゆく様が、極めて戯画的だからこそ現実的に映る皮肉。終盤の仕掛けも見事なPlan B作品。

"Irresistible" https://twitter.com/pherim/status/1436520557235687426

『スイング・ステート』『ミッドナイト・トラベラー』をめぐり書きました。↓

  拙稿「20年後の、この世界で。」 http://www.kirishin.com/2021/09/16/50704/



 
■VOD配信/TV放映作(非劇場公開作)

『ケイト』

暗殺者乗るバニラカーが大阪を疾駆する導入部の画ヂカラ。
ウディ・ハレルソン&國村隼のピンポイント好演さすが。日本舞台+外国人監督作の、もったいないほうの典型ながら、説明台詞たれ流しの浅野忠信とか日本の映画人には今や不可能。あとマシンガン男を日本刀で斬る國村翁。画ヂカラ。

"Kate" https://twitter.com/pherim/status/1437408572481048576

あとLAにもNYにも日本人役者大量にいるんだから、非日本語話者の東洋系役者に変なセリフ読ませて日本語ネイティヴのフリさせるやつ、いい加減やめてほしい。

國村隼劇中に曰く「根こそぎ奪い取って何も残さない。それがあいつらのやり方だ。わかりもしないよその文化をむさぼり食っては世界中で糞撒き散らしてる。お前も可哀相なやつだ」本作の慎ましき自己批評。
This fake japanese speaking girl must not be the role which she really wanted to play, I suppose.
And what Kunimura said is the crucial humbling criticism for this film. Stop underestimating other languages.




『オッドタクシー』
ラジオにぼんやり耳を傾け、眠そうな瞳から世間を見つめ街を流す中年タクシー運転手。
哀愁帯びるネオンの色彩、人との微妙な距離感、短い客を拾い続けるように淡々と進む伏線回収。くたびれてスロウ&メロウな演出の全てが滅法良い。かつメタにせり出してくる終盤の静かな衝撃。

"Odd Taxi" https://twitter.com/pherim/status/1439562396381499392




『The Defeated 混沌のベルリン』
連合国に4分割された1946年ベルリンを舞台に、
行方不明の兄を探すNY市警刑事♂と、
夫を人質にソ連軍から諜報行為を強いられる刑事♀
を両軸に回るサスペンス全8話。
各々に思惑もつ人物群の錯綜絵図と、地図が無意味化するほど瓦礫化した街の再現描写が魅せる。

"The Defeated" "Shadowplay" https://twitter.com/pherim/status/1438695123789893633 
 
構想としては実在した《4カ国共同統治下の東京》を想像してしまう。ナチス残党狩るユダヤ旅団からドイツ市民大量殺戮謀るナカムへ深入りしてゆく中盤展開は、『復讐者たち』に重なる。

 『復讐者たち』 https://twitter.com/pherim/status/1418414158622511107

『The Defeated 混沌のベルリン』シーズン2製作進行中、コロナ禍で予定遅れ2022配信見込みとの由。
 
 
 
 

 余談。

 10作中3作が初見VOD視聴作。今回の場合Netflix+Amazon Primeだけれど、どちらも製作にも力を入れてるし、Disneyなど後発追い上げ組含め、この比率は今後も上がっていきそうです。となれば個人の視聴環境をテコ入れしたくなりますね。映画館クラスの映像音響部屋などもつ余裕は無論なく、実はそのあたりHMDに期待してたりします。VRやARもいいけど、もっと手前にも目指すべき方向性あるよなぁ、って。
 
 



おしまい。
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