今回は、9月3日~9月11日の日本上映開始作を中心に、10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第185弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■9月3日公開作
『アナザーラウンド』
酔いどれマッツの剣呑なる冒険。
《血中アルコール濃度の適度な維持は、人生を豊かにする》という仮説の検証を口実に、ダルい日常からの解放を夢見る中年教師4人組が道を踏み外しゆく。
デンマークの曇り空の下、ある瞬間滑るように踊りだすマッツ・ミケルセン、まさに至宝。
"Druk" "Another Round" https://twitter.com/pherim/status/1429433683530838023
『アナザーラウンド』にかこつけマッツ関連映画スレッド進行中。
『ザ・ドア 交差する世界』 https://twitter.com/pherim/status/1431257289671864320
“Herbert” https://twitter.com/pherim/status/1435228516715425804
『アダムズ・アップル』(たぶん近日)
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』
アクションの楽しさMCU随一でした。ビル建設の竹製足場ぐにゃりとか、香港電影の十八番てんこ盛り。
情報排除して観たらオークワフィナ出突っ張りで驚喜、中華MCUだけどシシ神さまにハクにカメハメ波で歓喜、脇役に燻し銀の香港名優揃い踏みで感涙。満の喫。
"Shang-Chi And the Legend of the 10 Rings" https://twitter.com/pherim/status/1434875383547977733
中盤から突入する地獄の際の桃源郷は『ブラックパンサー』に登場する架空首都ワカンダの中華版的絢爛世界なのだけど、アフリカベースと異なるのは香港電影のイメージ源泉を無限に汲み取れるところ。市場的にもバッチリだしこれは続編起動済みの予感。そして居並ぶ綺羅星のごときモブキャラ達。あの面子にどれだけ香港電影史が詰まっているか。このリスペクト具合もう最高。
『フェアウェル』スレッド https://twitter.com/pherim/status/1212219760630362112
『シャン・チー』にも他のMCU主人公数人が一瞬ずつ出るけれど、オークワフィナの越境力がもう凄い。
なんならアイアンマンにツッコミ入れつつアライグマ手懐けそうだし、イキってるサノスの脇でカラオケ始めそう。そも本職ラッパー&[Awkward=厄介者]名乗る時点で越境者とも。
『モンタナの目撃者』
アンジェリーナ・ジョリー主演新作。
超スケールの山火事に、殺し屋から逃げる孤児が絡む大自然スリラーというレア領域。
事前情報なしに観て傑作『ウィンド・リバー』の夏版だなと感覚、まさにそのテイラー・シェリダン監督作だった。荘厳なる映像&奥行きある音響が趣深い。
"Those Who Wish Me Dead" https://twitter.com/pherim/status/1430026323083231234
良題“Those Who Wish Me Dead”を訳し損ねて外見がB級化した『モンタナの目撃者』、しかし中身は『ボーダーライン』“Sicario”のシェリダンが、『ウィンド・リバー』でやり足りなかったことを詰め込んだ感あり。
燃える林を背に長銃ぶっ放つ妊婦の立ち回りとか見応え抜群。(続)
『ウィンド・リバー』 https://twitter.com/pherim/status/945493572815425538
なにげに充実の北米山火事映画。言うまでもなくハリウッド映画人が身近に感じる恐怖だからで、底には環境問題への訴求意識も。『オンリー・ザ・ブレイブ』など地味にDolby Atmos対応まで。
ということは中国市場の拡大後は、黄砂映画の新ジャンルとか。ヴィルヌーヴ獅子奮迅。
『オンリー・ザ・ブレイブ』 https://twitter.com/pherim/status/929939150752460801
『やすらぎの森』 https://twitter.com/pherim/status/1393025064585482240
『テーラー 人生の仕立て屋』
アテネで老舗の高級スーツ仕立て屋を営む2代目が、
不況下の活路を路上での屋台営業に求め、
嘲笑を浴びつつもウェディングドレスに開眼する。
ギリシャの街描写がEU全体の翳りをも象徴し、女性服への転回や、暗がりに希望と笑いを見いだす脚本の静かな熱さに目眩する。
"Raftis" "Tailor" https://twitter.com/pherim/status/1430878273534185472
『テーラー 人生の仕立て屋』
寡黙な仕立て屋のストーリーとは別に、
アテネ市街のリアル描写が見応えありました。
アクロポリスなど観光地は映らず、ギリシャ経済破綻後の街路はみるからに疲弊しきって落書きだらけ。そこをゆく、想い寄せる女性にさえ言葉少ない主人公。これは応援したくなります。
■9月4日公開作
『ミス・マルクス』
カール・マルクスの葬儀に始まる娘エリノアの生涯。
イプセン他の紹介者たる演劇人にして、社会主義とフェミニズムの両立を実践する女の果敢さと、相反して深まる心の孤立。
マルクス家の窮乏や、エンゲルス翁の鷹揚さなど印象深く、緻密な衣装と突き抜けたパンク演出が魅せる。
"Miss Marx" https://twitter.com/pherim/status/1432322543440982016
『ミス・マルクス』、本筋とは無縁ながらエンゲルス翁が臨終際に、カール・マルクスの重大な秘密を打ち明けエリノアが絶叫する場面に笑った。バイタリティ過剰の偉人にありがちな。
青年期描く『マルクス・エンゲルス』(Amazon P, U-NEXT等あり)とセットで観るのも良いかと。
『マルクス・エンゲルス』 https://twitter.com/pherim/status/998404183450705920
■9月10日公開作
『ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません!』
黄泉がえりし前妻と気位高い新妻が、前妻の才気にすがる“書けない作家”の夫を巡り火花散らす。
霊媒師役ジュディ・デンチ荒ぶる、1941年の英国戯曲“Blithe Spirit”2度目の映画化。暗雲はねのける明るさが映す時代の翳りと今との対照想う。
"Blithe Spirit" https://twitter.com/pherim/status/1435933840606781448
■9月11日公開作
『ミッドナイト・トラベラー』
ある家族によるタリバンからの逃避行。
子どもがスマホで自撮りする難民暮らしの、既存映画や報道にはあり得なかった近しさと温度が新鮮。
アフガニスタンからタジク、ブルガリアへ。EU圏で浴びるヘイトや、監督である父親のエゴと娘の危機が衝突する終盤は心底恐い。
"Midnight Traveler" https://twitter.com/pherim/status/1429633508310274048
『ミッドナイト・トラベラー』きょう9月11日、日本公開。
2001年アメリカ同時多発テロ直後からの大統領府権限強化と急加熱する愛国気運、3週間後のアフガニスタン侵攻。20年前に起動した《不朽の自由》作戦と、その失敗により無数の家族が今この瞬間にも強いられている不自由と。
収容所化する現在。
中東難民行映画めぐり追記するかも。
■特集上映《恐ろしい映画》@シネマヴェーラ渋谷 2021/7/31~9/3
『怒りの日』
魔女裁判と覚醒する牧師妻。ナチス下のデンマーク1943年、魔女狩りに母国の苦渋重ねたカール・T・ドライヤ―真正の気骨作。
壁面に揺らぐ焔、湖水にかすむ霧さえも計算し尽くされたモノクロームの鬼気迫る様式美。生半可なホラー表現よりこの精神極限は恐ろしい。
#シネマヴェーラ渋谷
"Vredens Dag" "Day of Wrath" https://twitter.com/pherim/status/1432536495101911049
■VOD配信/TV放映作(非劇場公開作)
『東京マグニチュード8.0』
震度7の直下型地震が東京を襲う日から始まる、
お台場で孤立したある姉弟の物語。
2009年製作で首都高や高層建築の倒壊など阪神淡路大震災に基づく演出が施され、帰宅困難者の大量発生など2011年に現出した描写に目を見張る。制作陣の覚悟が感じとられるノイタミナ秀作。
"Tokyo Magnitude 8.0" https://twitter.com/pherim/status/1436160228651778067
なぜか2012年製作と思い込んで観てしまい、観終えて2009年と知り色々納得、かえって諸々感心するなど。東京タワーの崩落模様だけ、むしろ非現実的に描かれてるように見えたのは不思議。そこから先はリアリティラインが変わるよう設計されてたらと妄想したり。
『クリックベイト』
誘拐動画の拡散に始まる、
愛と殺人とネットを巡る秀作サスペンス全8話。
ゾーイ・カザン(エリア孫)主演の冒頭に惹かれ観だすと、各回で視点が切り換わるごと意表を突く方向へ。映画に不可能な良構成。
スマホの向こう側で息潜める真実の底知れなさ、信じたいものの壊れやすさ。
"Clickbait" https://twitter.com/pherim/status/1434398625589645318
『クリックベイト』主演のゾーイ・カザンは、初期の『告発のとき』から『バスターのバラード』へ至るまで出演作をかなり選ぶ役者のように見え、今後も注目していきたい一人ですね。ちな彼氏は長年ポール・ダノ。
ゾーイ&父エリア・カザンめぐる、インプット戴きつつの連ツイ↓
https://twitter.com/pherim/status/935316030242504705
『ビッグ・シック』 https://twitter.com/pherim/status/935316030242504705
『ニューヨーク 親切なロシア料理店』 https://twitter.com/pherim/status/1335783973792825345
余談。2年に及ぶ“緊急事態”の常態化はすでに街の風景を変え、都市生活の文化自体に影響するでしょう。個人的に気になるのは、外圧がなければ変われない日本社会にとって決定的な好機となるはずだった東京五輪を中途半端な延期で消化してしまったことによる、今後一層のガラパゴス化だったりします。
映画についてもこれは同様。もはや日本の映画業界構造が露出する“カイシャ文化”の醜さは、配給面での陳腐すぎる邦題や鈍感すぎる翻訳文体、歪な収益還元構造や代理店の製作関与がもたらす中身の袋小路化などなどのすべてを温存する方向性さえ見せ始め、その一部を問題提起をする意味さえ感じられないほど相対的な劣化をみせてます。是枝裕和監督も東京国際映画祭関連などを通じ色々提言してますが、各々の現実界面における当人無自覚の醜悪さに触れると、これはもう加速主義でいくしかないのでは、ってやっぱり思ってしまう。とはいえ当事者ムーヴをする資格があるとも感じないので、当面思うのみに留め置くつもりですけれど。
おしまい。
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