pherim

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pherimさんの日記

(Web全体に公開)

2021年
09月26日
21:35

ふぃるめも187 ミナマタ、アメリカ。

 
 

 今回は、9月23~24日の日本上映開始作と、土本典昭特集上映、ケリー・ライカート特集上映から10作品を扱います。

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第187弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■9月23日公開作

『カラミティ』 “Calamity”

実在する女性ガンマンの子供時代を描く西部開拓アニメ。
父の負傷により家長の役割担うマーサは、
軋轢を生みつつも男性的なスタイルを貫く。
北極圏舞台の同監督前作『ロング・ウェイ・ノース』における色面主体の描写がさらに洗練、色光に生命力躍る異色の冒険成長譚。

"Calamity, une enfance de Martha Jane Cannary" "Calamity, a Childhood of Martha Jane Cannary" https://twitter.com/pherim/status/1438332715376406529

  『ロング・ウェイ・ノース』 https://twitter.com/pherim/status/1168361416757170176
 
 


『空白』
憎しみの鬼と化す漁師役・古田新太が凄まじい。
万引き未遂の女子中学生が、スーパーの店長に追われ交通事故死する。店長や学校、娘を轢いた運転手や報道陣へ全方位で感情の肉弾戦を仕掛ける不器用な父親に、ある瞬間訪れる変化の兆し。この一瞬へ、全編・全ベクトルが集約される構成の妙。

"Intolerance" https://twitter.com/pherim/status/1437246594370314244

『空白』で、松坂桃李ら他の役者達が、全編を支配する主人公の怒り爆発モードにのけぞる受け身演技を強いられる中、全く別個の意志をみせ主人公を浮上へ導く漁師青年演じる藤原季節の屹立感。
そして娘役伊東蒼の存在感。『湯を沸かすほどの熱い愛』から『さがす』の熱演へ。

  『湯を沸かすほどの熱い愛』 https://twitter.com/pherim/status/865430850002763776

このあと少女は放課後に母親と造花を同じ丁寧さで作り続ける。それで何が悪いんだろう。こういう生徒が1人いることは、この学年全体にとって恩寵じゃないか。という話。など追記するかもー。




『クーリエ:最高機密の運び屋』
カンバーバッチ主演新作は、密命を懐にモスクワへ単身乗り込む男を描く実録スパイ物。
セールスマンに過ぎなかった男が、ソ連軍大佐と利害を超え信頼関係を築く過程が熱い。ワトソンのいない策謀の都で、黙して独り奮闘するカンバーバッチの立ち姿にリリシズムさえ。

"Ironbark" "The Courier" https://twitter.com/pherim/status/1439066399440195597




『MINAMATAーミナマター』
本気のジョニー・デップが半端ない。
自ら製作を志願したジョニデの意気に、スタッフも真田広之/浅野忠信/國村隼/ビル・ナイら役者も100%超の力を引き出され、辛酸舐める水俣の人々とユージン・スミスの生き様に寄り添う坂本龍一楽曲が抜群に利く、全方位高次元の珠玉作。

"Minamata" https://twitter.com/pherim/status/1440145062990532614

ハリウッド勢が本気で日本を描くとここまで行くという水準で、スコセッシ『沈黙』やイーストウッド『硫黄島からの手紙』に比肩。
公開後には議論百出まったなしの面もあり後述するけれど、とりあえずヴィジュアルだけでも観る甲斐ありすぎました。
(画像断片→ https://twitter.com/pherim/status/1440249398437376006 )

『MINAMATA―ミナマタ―』を巡り書きました
石牟礼道子、土本典昭から本作へ。
不朽の傑作《入浴する智子と母》、ピエタ構図の神髄。
國村隼演じるチッソ社長の多重性、
ジョニー・デップと真田広之の人物造形。
表現と自由ほか。

  拙稿「水俣に命ながれる」 http://www.kirishin.com/2021/09/23/50829/




■9月24日公開作

『殺人鬼から逃げる夜』

サイコパスにひたすら追跡されるスリラーな夕べ。
追われる主人公とその母が聴覚障害者ゆえの制約と、犯人の背景描写が一切削がれた問答無用の殺意でメリハリ利かせて巧い。
一般人がもつ障害への偏見や無自覚の差別が、そのまま犯人を利する流れは辛辣。絶妙エンドに唸る。

"미드나이트" "Midnight" https://twitter.com/pherim/status/1439448088322588677




『ディナー・イン・アメリカ』
ムショ上がりのジャンキー青年と、冴えないオタク少女との運命的な出逢いが奏でるパンク&ロマンス。
各々の家族の食卓に“幸福なアメリカ”の虚像が凝縮され、日常の鬱屈から一直線に昇華しゆくオフビート展開はひたすら小気味よく、幕切れもクールで大変に好みな逸品。

"Dinner in America" https://twitter.com/pherim/status/1437609109335920646

『ディナー・イン・アメリカ』で主調となる劇中歌“Watermelon Song”がすっごい良いのだけど、どうやら本作監督と主演女優の共作らしい。音楽テーマの映画で劇中ヒットする曲がダサいと全てが色褪せるけど、オリジナルの良い曲を載せられる映画は実際稀有だし、しかも作詞作曲が監督&主役というあたりに本作の良趣が詰まってる。




『素晴らしき、きのこの世界』
多彩キノコの高精細タイムラプス楽しす。
深遠な生態をほむほむ鑑賞してると、キノコ覚醒巡る統治と自由の対立へ突入しゆく展開笑い茸。マジックマッシュ食べたら初めて好きな子と目合わせ話せたと熱く語る菌類学者ポール・スタメッツかわゆす。この先生きのこるには。

"Fantastic Fungi" https://twitter.com/pherim/status/1439784394084945931

きのこ映画ツリー始める。(後日スレッド化)↓

  『暗くなるまでには』(ดาวคะนอง) https://twitter.com/pherim/status/1089312170582564864
  “Olanda” https://twitter.com/pherim/status/1244200744804159489





■特集上映《ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ》 シアター・イメージフォーラム 2021/7/17-9/24ほか
 https://www.kelly2021.jp/
 
『リバー・オブ・グラス』
ギラッギラに見せつけてくるそれでなく、
散歩で毎日挨拶さえしてるのに気づかないやつ。
ダルくてだっさいこの日常から逃れられない、
25セントの高速代が払えない屈託とか思わせる罠。
興味もないのに目が離せないディティールの
無限連鎖へ宿るリアルの精髄。もう天才。

"River of Grass" https://twitter.com/pherim/status/1441027143895449610




■土本典昭監督作品特別上映 @ユーロスペース 2021/9/11-23 ほか
 http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000543

『水俣 患者さんとその世界』(完全版, 1971)
汗ばむ首筋や肩が陽を照り返しぬめり煌めく。皺深い顔面に切れ込む峡谷の翳りから烈しい虹彩がこちらを見射る。
公害の実相へ迫る名作中の名作との定評さえ、遥かに置き去る衝撃が体幹を重く貫いてゆく。観る前と後では、世界の確度が明瞭に変わる一篇。

"Minamata: The Victims and Their World" https://twitter.com/pherim/status/1440483971066843143




『水俣一揆 一生を問う人々』(1973)
机上へ座り込み、チッソ社長・嶋田賢一らを睥睨する自主交渉派のリーダー川本輝夫。社長を庇う経営陣へ詰め寄る母。
6派に分断された水俣患者の、ここを退けば帰る場もない覚悟の熱と、黙して将来の風化を期す冷えた企業論理との鋭くも普遍の対立構図に戦慄する。

"" https://twitter.com/pherim/status/1442074673768853504

それとは別に、日常よく通る東京駅南口の旧郵船ビル前が座り込みの主舞台となり、そのすぐそばで川本らの突入を拒むため鉄格子の溶接までしたチッソの拒絶現場があったのだという、唐突に体験された物理的な近しさに眩暈の心地。

  拙稿「水俣に命ながれる」 http://www.kirishin.com/2021/09/23/50829/


 
 

 余談。
 
 『MINAMATA―ミナマタ―』をめぐる文章「水俣に命ながれる」は、本文部で約6600字。文章量自体は1万字を超えることもあり多くはないものの、一気呵成に書いた勢いが文面に籠もった手応え含め、個人的には会心といえる達成感あり。
 
 もちろん映画評を期待するひとの中には、単に長いからとパスするひとも多いでしょうけど。でも映画について書く以上、【映画評】という枠でないと公的には居場所もなく。動機的には140字の拡張ではなく対極という位置づけだけれど、このあたり課題といえば課題なのだろうという気はします。当面は気にせず続ける所存、なのですけど。





おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh

コメント

2021年
10月04日
08:49

日曜日の朝日一面にでてました

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