今回は、9月25日~10月3日開催のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭・国際コンペティション、および国内コンペティション短編部門上映作から11作品を扱います。(含短編2作)
※国内コンペティション長編部門上映作については前回ふぃるめもにて扱いました。↓
「ふぃるめも188 虹を越える夢」 https://tokinoma.pne.jp/diary/4334
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第189弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021 国際コンペティション
https://www.skipcity-dcf.jp/films/#i
『国境を越えてキスをして!』
ひたすら楽しいイスラエル国旗ラブコメ。
ユダヤ人♀の故郷へ恋人のドイツ人♀が訪れプロポーズ。ところがそこはホロコーストの話ばかりしてくる弟や次々湧く元カノ達など強敵揃い。
ラスボスお婆ちゃんとアラブ翁とのサブ進行する恋路が、イスラエル激動の歴史を感じさせ趣深い。
"Kiss Me Before It Blows Up" "Kiss Me Kosher" https://twitter.com/pherim/status/1441992325392044033
『国境を越えてキスをして!』、英題は"Kiss Me Kosher"と"Kiss Me Before It Blows Up"。というわけで
・ユダヤ教の食物規定コーシェがポイント
・ドイツから訪れる主人公
・同性愛と伝統的ユダヤ価値観の燃えているハート
の3点から『彼が愛したケーキ職人』の明るい変奏曲という感も(続
『彼が愛したケーキ職人』 https://twitter.com/pherim/status/1066850817888538624
父役 John Carroll Lynchと撮影監督Giora Bejachについて追記予定。
『運命は踊る』 https://twitter.com/pherim/status/1047436115370684417
『ライバル』“Rivale”
ウクライナから9歳の少年が、ドイツで不法労働中の母の元へ密入国するも、母を愛人とした雇い主のドイツ男が少年には受け入れ難い。
少年は森の奥で咆哮する。不意の和解を経た危機状況への陥入は不法移民の孤立を象徴し、意味を剥ぎ取られた叫びこそ少年のリアルを析出する。
"Rivale" "Rival" https://twitter.com/pherim/status/1444490184112807940
『宴の日』
病死した父の葬式代を工面できない兄妹が過ごす、葬儀の一日。
兄が生業とする土着化クラウンの目を通す祝宴場面と併せ、現代韓国の葬祭模様が興味深い。通夜からチンドン屋まで同じなんだねぇ。
さり気なくホアキン版『ジョーカー』や『おくりびと』に借材するなど韓国映画の巧さ安定。
"잔칫날" "Festival" https://twitter.com/pherim/status/1443194411005845509
『ルッツ』“Luzzu”
マルタ島の伝統漁船ルッツを愛する若パパ漁師、
生活のため裏稼業へ手を出しゆく。
漁業の終わり見据える魚市親分が悪事を仕切り、子分がインド移民で実はイイ奴という今日景。代々継いだ愛船を手放し魂見失う男の物語を、訥々と赤子へ呟く図に思わず泣く。不意に出逢う心の一作。
"Luzzu" https://twitter.com/pherim/status/1442451854303002630
『ルッツ』は珍しいマルタ映画。
島社会の諸々を映してくれる幸せ。
例えば舟を囲む漁師達が昔話に花咲かせる場面。遭難したお前の親父が昔これでチュニジア着いたんだぜとか語る翁の中に、陽に灼け皺深い本物の漁師顔が数人いたり。
以下、地中海漁師町映画スレッド始める。
“Il sud è niente” https://twitter.com/pherim/status/1260902528591355905
『海は燃えている』 https://twitter.com/pherim/status/829540157674057728
“Lu Tempu di li pisci spata” https://twitter.com/pherim/status/1277081784308490240
『メルテム 夏の嵐』 https://twitter.com/pherim/status/1275738861134471168
『この雨は止まない』
ひとりのクルド人青年が、シリア紛争で各地へ離散した一家を訪ねる。
紛争から逃れた先ウクライナでは、別の紛争が襲い来る。クルディスタンの現況を象徴するかのようなパッチワーク模様の11章構成。その写真集をめくるような静けさと、予想外の仕掛けにより締められる衝撃と。
"This Rain Will Never Stop" https://twitter.com/pherim/status/1448647570889211908
『この雨は止まない』を観ながら幾度も脳裡をよぎったのは、アキ・カウリスマキ『希望のかなた』主人公でフィンランド語の話せない難民役を演じたクルド人俳優シェルワン・ハジへインタビューした記憶だった。彼自身は欧州へ“移民”する以前、ダマスカスへ“留学”していた。(続
インタビュー with シェルワン・ハジ: http://www.kirishin.com/2017/11/30/10088/
『シネマ・オブ・スリープ』
ナイジェリアの家族をアメリカへ呼び寄せる夢が、謎の女を匿うことから危うくなる男の無限夜。
銀幕に映りでる自身を観る自分、が警察に追われ銀幕へ映り込む。難民の寄る辺なさとモーテルの無個性が煽る永劫回帰ループの下、肉体性を恢復させゆく主人公の吐息と戸惑い。
"Cinema of Sleep" https://twitter.com/pherim/status/1447053364018049028
『野鳥観察員』 “De Vogelwachter”
大洋の孤島で半世紀もの間、ひとり野鳥を数え続ける老人。
無線連絡が外界との唯一の接点となる暮らしを彼は愛するが、支援打ち切りとなり撤収を要請される。
ひたすら和む淡々描写を楽しんでいると、後半の転調が予想外すぎて笑う。寓話的リアルの渇いた手触り。
"The Warden" "De Vogelwachter" https://twitter.com/pherim/status/1445582115978964999
『ミトラ』
80年代混迷期テヘランで娘を処刑された女性が、学者としてオランダで地位を築いたのち、娘を陥れた友の真実を知る。
燃え盛る執念を名優Jasmin Tabatabaiが演じ切る。イラン革命に翻弄されつつも貫き通す母の一魂。静謐な今日と騒擾の過去とのコントラスト下で進む真相解明は手に汗握る。
"Mitra" https://twitter.com/pherim/status/1452488032423084035
『ケンザの瞳』“Buladó”
カリブ海キュラソー島。母を失くし、警官の父と神秘家の祖父の間で少女の瞳は揺れる。
クレオールのパピアメント語で話す祖父を、オランダ語で教育したい父が咎める。重機がすべてを剥ぎ取りゆく。断末魔のように吹き抜ける霊性の風を、誰ひとり感じとれなくなる寸前の物語。
"Buladó" https://twitter.com/pherim/status/1442686182006013963
呪術的ギミックにザンビア映画"I Am Not a Witch"を想起。しかし対岸に現代都市マラカイボを控えるカリブ小国(オランダ構成国)のそれはブードゥーのPC的今日態というべきか、木や骨や貝でなく鉄パイプやトタンや車のマフラーで作られる。その頽落と哀愁。
"I Am Not a Witch" https://twitter.com/pherim/status/1105784373956116481
■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021 国内コンペティション 短編部門
https://www.skipcity-dcf.jp/films/#i
『カウンセラー』
予約なしでヤバい患者が来ちゃったよ、って序盤からの三段ロケット式ヤバさの急加速がコワ楽しい。シンプルにベタを積み重ねた先に煌めく巧緻の乱反射。
あらかじめ短編作と知りつつ観始め、ああ面白かったなこの20分って確認したら42分作と知ってさらにホラー。後続作が楽しみすぎる。
"Psychology Counselor" https://twitter.com/pherim/status/1449936467829035010
『リトルサーカス』
カンボジア西部バッタンバン。コロナ禍でサーカス学校が閉鎖したため、夢を諦め土木現場で働く少年の物語。
バンコクで観た“Diamond Island”も強く想起され、カンボジアの空気感が身に甦る。ウイルスの怖さをめぐる噂を、少年らが交換し合う光景に和む。
"A Little Circus" https://twitter.com/pherim/status/1449193053621682177
“Diamond Island” https://twitter.com/pherim/status/852136967055736832
余談。
日本国内の映画祭では基本、特殊な例外を除き海外非目玉作>海外目玉作>日本短編作>日本長編作という優先順位で観ることになる。これは個人の関心とか内容への興味とは関係なく、もう一度観られる機会可能性から必然的にそうなるという話。
三野龍一&半田周平『鬼が笑う』ほか気になる作品は幾つかあった。つづく山形、東京x2など控え、今月末の東京国際映画祭では記者パスとれたとしても、観たいけど観られない作品が数十出るのは確実なので、心理的ウォーミングアップになった鴨。
おしまい。
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