今回は、1月7日~14日の日本上映開始作と、第22回東京フィルメックス上映作から14作品を扱います。(含再掲4作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第204弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■1月7日公開作
『マークスマン』
メキシコ国境で牧場を営む元海兵隊翁と、
母をなくしたメキシコ人少年によるロードムービー。
トランプ以降の世情への風刺鋭く、終盤へ近づくにつれ単純な勧善懲悪に収まらない強度を帯びる良構成。マークスマン=選抜射手の名に相応しいリーアム・ニーソンの荒野スナイプが魅せる。
"The Marksman" https://twitter.com/pherim/status/1479075654239141890
『ユンヒへ』
小樽と韓国。国を隔て20年を過ごした女性2人の道行きが、不意のきっかけを経て再び交わろうとする。
核心へ飛びつかず歩を緩めるような語り口の懐深さと、その緩さへ重なる伯父や叔母とのほどよい距離感。
なるべく関連情報に触れず観るのをお奨めします。余韻が一層濃くなるので。
"윤희에게" "Moonlit Winter" https://twitter.com/pherim/status/1478937575566213122
■1月14日公開作
『クライ・マッチョ』
クリント・イーストウッド監督主演新作。
老カウボーイと誰も信じられない少年と雄鶏の、
メキシコ荒野二人 1羽旅。
奇跡の翁。91歳がロデオしカーチェイスしチンピラを拳でのす。でもすぐ昼寝するし早くは歩けない。91歳ですので。ぐっと穏やかなる『グラン・トリノ』更新版。
"Cry Macho" https://twitter.com/pherim/status/1454392686354440196
『MONSOON/モンスーン』
幼い頃ボート難民となりベトナムを離れた青年の遥かなる帰郷。急成長遂げるサイゴン摩天楼と、路地裏のハノイ情緒。
穏やかな演出が心地良い。クチへの地元会社ツアーや国鉄寝台列車での旅描写など、かつて自分が通った光景をヘンリー・ゴールディングが辿る摩訶不思議感。
"Monsoon" https://twitter.com/pherim/status/1480733605517467655
『MONSOON/モンスーン』では感情の起伏がかなり抑えられ、そのなだらかさの内にこそ過ぎ去った時間の苛烈さが充ちている。
それとは別に驚いたのが、ヘンリー・ゴールディングの魅せるベッドシーンの艶やかさ。男同士のラブシーンにここまでエロスを感じたのはたぶん初めて。
『ポプラン』
朝起きたら股間から“アレ”が逃げ出していたら。
『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督新作。ポプランなる飛行動物と化した男性器をとり戻すべく、虫取り網もち旅する男達。主人公のIT社長めぐる人間模様へ男性性の迷走が重ねられつつも、軽快さを損なわず笑わせ続ける巧さはさすが。
"" https://twitter.com/pherim/status/1481236498452484096
『カメラを止めるな!』 https://twitter.com/pherim/status/1029281534027608064
『イソップの思うツボ』 https://twitter.com/pherim/status/1161116616970473472
『無聲』 “The Silent Forest”
台湾の聾唖学校で連鎖した性暴力事件を映画化。少数者ゆえに限られた選択肢と、音無しの世界ゆえに倍加する苦境の心情表現が痛切。
陰惨な暴行にもまして、大人の善意で隠蔽された暴力そのものが命を得て受け継がれゆく描写のホラー味凄い。画作りに台湾映画の好趣濃縮。
"The Silent Forest" https://twitter.com/pherim/status/1482166721259933698
初見時ツイ(Filmex2020) https://twitter.com/pherim/status/1343760693158297600
『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』
《完成された人型AIロボットは、人生の伴侶たりうるか》を描く、ドイツ製近未来SF。
主人公の女性研究者が働くペルガモン博物館描写など諸々眼福。不気味の谷の此岸に留まるロボ演技が意外に和む。『希望の灯り』他の名優サンドラ・フラー出演も嬉しい。
"Ich bin dein Mensch" https://twitter.com/pherim/status/1481614277283020801
『希望の灯り』 https://twitter.com/pherim/status/1112225278086897665
『ありがとう、トニ・エルドマン』 https://twitter.com/pherim/status/867640917800370176
■第22回東京フィルメックス コンペティション
https://filmex.jp/2021/program/competition
『時の解剖学』(เวลา/Anatomy of Time)
一人の女性が暮らした時空の残滓、刻み込まれた傷の残響。
共産化への恐怖から暴力が暴力を生むタイ‘60年代と現代の交錯。アピチャッポンの拓いた領域を、アノーチャらと拡幅するジャッカワーン・ニンタムロン長編第3作。
明瞭なるタイ映画新潮流の幕開け感。
"เวลา" "Anatomy of Time" "光陰解剖學" https://twitter.com/pherim/status/1459498957151686656
『時の解剖学』、主人公女性の若い頃(だけでなく一人何役も)を演じるPrapamonton Eiamchan (ประภามณฑล เอี่ยมจันทร์)、タイ商業映画では観ないタイプだが既視感ある面影と思いきや、プラープダー・ユン “Motel Mist”の女子学生役だったっていうこの網目、この文脈は期待値大。
“Motel Mist” https://twitter.com/pherim/status/814292708793552896
『見上げた空に何が見える?』“What Do We See When We Look at the Sky?”
夜の交差点で邂逅する男女を、幼木と古い雨どいと監視カメラと風が助けようとするジョージア宇宙。
知ってた。深夜の交差点ってそういうとこだよねっていう序盤からフワリとした着地まで、映画ならではの遊び&心地良さ充満の不思議ロマンス。コーカサス版アメリだよ。
"Ras vkhedavt, rodesac cas vukurebt?" "What Do We See When We Look at the Sky?" https://twitter.com/pherim/status/1462615923907391489
『ホワイト・ビルディング』“White Building”
モリヴァン建築(V.Molyvann Lu Ban Hap)の終末SF的/九龍城的相貌に惹かれていたので、見応えある映像大漁。
ドラマパートでの監督の家族への焦点化は平板すぎた。もっと色んな住民いたろうに。現代プノンペン街区へ沈み込むような撮影が前作にない良趣。
"White Building" "Bodeng sar" https://twitter.com/pherim/status/1465885528683790343
本作舞台、通称「ホワイト・ビルディング」内部で撮られた2作。↓
同監督カヴィチ・ネアン前作『昨夜、あなたが微笑んでいた』"Last Night I Saw You Smiling"
https://twitter.com/pherim/status/1201711047377244160
リティ・パン『紙は余燼を包めない』“Paper Cannot Wrap Up Embers”
https://twitter.com/pherim/status/906849474672078849
リティ・パン
『紙は余燼を包めない』“Paper Cannot Wrap Up Embers”(’09)舞台の娼館も、『昨夜、あなたが微笑んでいた』主役の団地建築“ホワイトビルディング”に存在した。風通しに富むコンクリ意匠、壁の剥落具合や一部ツートンカラーのペンキに「あ、同じだなぁ」と何度も。
また若者男女のエネルギー爆発を撮る『ホワイト・ビルディング』前半部からは同じプノンペン舞台の“Diamond Island”を想起。
“Diamond Island” https://twitter.com/pherim/status/852136967055736832
『ユニ』
紫色に憑かれ、人の物でも盗んでしまう少女を描くカミラ・アンディニ長編第3作。
女の幸福を結婚にのみ見いだす世間、処女信仰を疑わない求婚者達、奨学金の条件などの狭間で揺れるユニの心は紫への執着を強め、やがて紫に囚われゆく。外見上の優美さや詩性の底で渦巻く激しさに眩暈する。
"Yuni" https://twitter.com/pherim/status/1482924398571327490
カミラ・アンディニ前作『見えるもの、見えざるもの』 https://twitter.com/pherim/status/1235760025169047552
■第22回東京フィルメックス 特別上映
https://filmex.jp/2021/program/specialscreenings
『時代革命』(Revolution of Our Times)
圧巻。
周冠威/Kiwi Chow監督の構成力、映像の圧力、情感迫る描写力、終幕後の止まない拍手。
2014雨傘運動描く『乱世備忘』から2019反送中の『理大囲城』まで、香港デモを撮る各々に素晴らしいドキュメンタリー秀作群のまさに極北。
“時代革命” “Revolution of Our Times” https://twitter.com/pherim/status/1457270313599660032
『理大囲城』(理大圍城 / Inside the Red Brick Wall)
https://twitter.com/pherim/status/1412285678801494029
『時代革命』で凄まじいのは構成のバランス感覚。
2019デモの特徴“Be Water”(流水革命)を空撮で捉える一幕とか脳が痺れた。終盤の中文大から理工大への移行で『理大囲城』が相対化されつつ接続する臨場感。
カンヌ映画祭サプライズ上映後としては、今日の東京フィルメックス上映が世界初となった由。
【映画評】香港の心のゆくえ
http://www.kirishin.com/2021/11/06/51385/
(『時代革命』『我が心の香港映画監督アン・ホイ』『理大囲城』『花椒の味』『リンボ』)
■第22回東京フィルメックスプレ・オンライン配信
https://www.online-filmex.jp/
『昨夜、あなたが微笑んでいた』 "Last Night I Saw You Smiling"
プノンペンの歴史的集合住宅の最期を見届ける。そこで育った監督による血肉化した目線が捉える団地風景は、どのカットにも愛情や追憶の奥行きが感じられる。風や光の通り具合がよく映し撮られており、記憶遺産的価値も高い。モリヴァン建築にを巡り後日連ツイ予定↓。
"Last Night I Saw You Smiling" https://twitter.com/pherim/status/1201711047377244160
※第20回東京フィルメックス学生審査員賞&スペシャル・メンション
『見えるもの、見えざるもの』
バリ島。双子の少女タントリと少年タントラ。脳障害で眠り続ける少年の近づく死を少女は感覚し、月夜に舞う。薄白い宵闇のなか少年は舞いに応じる。ねっとりとまとわりつく昼の空気。夜ごと深まる精霊の息遣い。'86年生まれの新進監督カミラ・アンディニが撮るこの現実。
"The Seen and Unseen" https://twitter.com/pherim/status/1235760025169047552
余談。
今年のフィルメックスは事前に運営まわりで起きた公私のゴタゴタから会期中の全スルーを決めたのだけど、会期終盤になって発表された『時代革命』サプライズ上映で、これは行くべきだろうと翻意。したがって『時代革命』以外はオンライン配信ないし、映画祭以外の場での鑑賞によります。
おしまい。
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