今回は、1月21~22日の日本上映開始作と、《新文芸坐シネマテークVol.35ロベルト・ロッセリーニ特集》上映作から10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第205弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■1月21日公開作
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』
軍人マッツ・ミケルセンが、妻を奪った列車事故の裏に陰謀を嗅ぎつけ、ダメ男凸凹チームを率いていざ復讐へ。
寡黙さ、曇天、ブラックな笑いなど北欧ノワールの深趣充満。娘含む人物個々のトラウマ克服を裏テーマとする脚本が神懸かってる究極エンタメ。
"Retfaerdighedens ryttere" https://twitter.com/pherim/status/1482555580141441027
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』の主演マッツ・ミケルセン+監脚アナス・トマス・イェンセンによる’05年の神傑作、『アダムズ・アップル』。
マッツが両作で演じるのは、無宗教者の軍人パパx超狂信的な独身牧師と真逆ながら、言い訳無用の実践主義を採る点は相通じますね。
アナス・トマス・イェンセン監督過去傑作『アダムズ・アップル』
https://twitter.com/pherim/status/1183593953905373185
【映画評】敬虔と罪の深淵 『アダムズ・アップル』 http://www.kirishin.com/2019/11/16/38684/
『ブラックボックス:音声分析捜査』
旅客機墜落の原因を、回収されたボイスレコーダーから探る音声分析官が天才すぎたため、“不都合な真実”に気づいてしまう。
残された音から事故時の機内環境を立体的に組み上げる過程が極めてスリリングで、業界深部へ潜りゆく中盤以降のサスペンス展開は圧巻。
"Boîte noire" "Black Box" https://twitter.com/pherim/status/1481819323979419652
【映画評】 残りのものへ : http://www.kirishin.com/2022/01/22/52298/
自身が過感覚なので、聴覚過敏の描写は身につまされた。字幕では幻聴と簡略化されていたが、無自覚の解釈介入により感覚入力に偏差が起こるのは正味の幻聴とも異なって、事後的にも端的なリアルであり続ける。そこが明瞭に映像化されていた。
主演ピエール・ニネ『婚約者の友人』 https://twitter.com/pherim/status/921211563066908672
妻役ルー・ドゥ・ラージュ『夜明けの祈り』 https://twitter.com/pherim/status/877317356510265345
『声もなく』
のどかな韓国の田園で、言葉を話せない青年と足の悪い陽気な親父が淡々と請け負う死体処理と児童誘拐。
朴訥な青年と、弟より軽く扱われて育った富裕層の娘とが、ストックホルム症候群などはるかに超えた心の繋がりを結んだのち各々の決断へと至る、極めて抑制された日常的描写に唸る。
"소리도 없이" "Voice of Silence" https://twitter.com/pherim/status/1483270790842036227
【映画評】 残りのものへ : http://www.kirishin.com/2022/01/22/52298/
『バーニング 劇場版』 https://twitter.com/pherim/status/1086468613412814848
『ザ・ミスフィッツ』
最強セキュリティ完備の砂漠監獄に眠るテロリスト資金源の金塊を、“misfits=あぶれ者”義賊団が狙う大活劇。
アブダビ舞台で、ルーブル別館やシェイクザイード・グランドモスク等々に借景したアクションと、資本主義世界の一方の極たる私営監獄所長を怪演するティム・ロス眼福。
"The Misfits" https://twitter.com/pherim/status/1483408853882798080
『コーダ あいのうた』
家族でただひとり健聴者の少女が歌に目覚める。
聴こえることがつらさを生み、
この主題でしか不可能な感動を畳みかけてくる。
原題CODAはChild of deaf adultsの意。原作の農村を斜陽の港町へ置き換えた漁業描写も秀逸で、仏映画『エール!』のリメイクとして大成功の逸品。
"CODA" https://twitter.com/pherim/status/1483998314593144834
【映画評】 残りのものへ : http://www.kirishin.com/2022/01/22/52298/
『シルクロード.com 史上最大の闇サ イト』
世界的ダークウェブの創設者を、ネットもPCも不慣れな叩き上げ捜査官が追い詰めた実話ベースの追跡劇。
リバタリアニズムを信奉する天才青年ロス・ウルブリヒトの直面する泥沼と、歳下のサイバー刑事に舐められる中年の屈託とが衝突して散らす火花の鮮烈。
"Silk Road" https://twitter.com/pherim/status/1483074750809534465
『さがす』
行方知れずの父を探す娘役・伊東蒼、凄い役者になりゆく予感。
佐藤二朗扮する父との会話で醸す独特の間(ま)は秀逸だし、西成のひしめく路地で展開する連続殺人犯(清水尋也)との追跡劇がめっちゃ魅せる。
死にたい人の願いを請け負う殺人犯の、介護や移民が絡む今日性豊かな造形も良い。
"" https://twitter.com/pherim/status/1462405039406792710
『岬の兄妹』片山慎三監督2018年作 https://twitter.com/pherim/status/1099214692705136640
『湯を沸かすほどの熱い愛』伊東蒼出演2016年作 https://twitter.com/pherim/status/865430850002763776
『空白』伊東蒼出演2021年作 https://twitter.com/pherim/status/1437246594370314244
製作者による伊東蒼言及引用RT https://twitter.com/akira421/status/1462567098941509634
佐藤二朗ツイ/RT用メモ https://twitter.com/actor_satojiro/status/144352281797941...
■1月22日公開作
『三度目の、正直』
子を失くした女性が、記憶喪失の青年にわが子の面影を重ねる。音もなく泡立ちだす日常のもろさ危うさ。
穏やかに暮らす人々が平凡さの底で抱える生々しい狂気への、鋭き直視。監督・野原位の脚本担当作『ハッピーアワー』の時間感覚再び。同作で好演した川村りら主演&脚本参加。
"Third Time Lucky" https://twitter.com/pherim/status/1484357831327649795
『ハッピーアワー』 https://twitter.com/pherim/status/870658555543670784
■新文芸坐シネマテークVol.35 ロベルト・ロッセリーニ特集
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#l1119
『自由は何処に』“Dov'è la libertà...?”
22年間牢獄につながれた男が娑婆へ出ると、街は様変わりして人も社会も世知辛く、檻の中への“帰還”を試みる。
ムッソリーニ期を経た同時代への風刺鋭きロッセリーニ1952年作。脱獄ならぬ入獄に挑む男演じるイタリアの喜劇王トトの豊かな表情演技に惚れる。
"Dov'è la libertà...?" https://twitter.com/pherim/status/1463340812075356171
上映後講義by大寺眞輔メモ
・夜のアウグストゥス廟場面、ムッソリーニの台頭→整備→失脚をまたぐ入出獄の時間軸
・リアリズムとファンタジーをつなぐ宗教性、重視されるカトリシズム“隣人の愛”(非当事者のまなざし)
・ロッセリーニ・スタイルの3側面:合唱性colalita、即興性(主演Totoとの乖離)、挿話性(断片の集積)
「彼/彼女のファンタジーを描いてこそのリアリズム」宗教的動機づけ/歓びのリアル
『ローマで夜だった』
ナチス傀儡下ローマで、元気溌剌娘が連合国兵士を匿うロッセリーニ1960年作。
困る人は放っておけない娘、収容所から逃げてきた英米露兵士、良心覗くナチ将校から野心的神父まで抜群の人物造形。言葉を超えた理解、ファシズム期イタリアへの狂おしい眼差し、本物の名作でした。
"Era notte a Roma" https://twitter.com/pherim/status/1464563277267042311
上映後講義by大寺眞輔メモ。
・逃走の幾何学、身体的レッテル貼りのわかりやすさ(甘粕役坂本龍一)
・イングリット・バーグマンとの熱愛W不倫
・アーキテクチャとしての歴史(思考が変容する過程を追いかけ、自身の現在位置を判断する)
→“新しい映画”としてのTVへの取り組み
・純粋なイメージ(徴、カトリック的)を拾いあげる。ヒッチコックやラングのロマネスク/幻想/スペクタクルではもうダメ。
→感情的に圧倒されるもの、ではないもの。パンシナ/ズームレンズ使用、新たな映像言語
余談。『声もなく』と『コーダ あいのうた』はいずれも主要人物に聾唖者を置く秀作で、個人的に昨年のベスト作だった『ドライブ・マイ・カー』の突出ぶりを想起させる場面などもあり。対して『ブラックボックス:音声分析捜査』は聴覚過敏の描写が秀逸で、そのあたり記事化トライしてみたいかも。
と思い立つのが公開日に間に合ってない感じはことしこそ克服したい、のですけれど。(-_-;)
(翌日注:トライしました。)
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh