pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
04月06日
23:50

ふぃるめも216 親愛なる森の絶滅危惧種たち

 
 

 今回は、4月2~8日の日本上映開始作と、『MEMORIA メモリア』公開記念上映作など11作品を扱います。(含再掲2作/短篇1作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第2弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■4月2日公開作

『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』

この人がいなければ、アメリカ映画史の顔ぶれは様変わり必至なマリオン・ドハティの一代記。
パチーノもホフマンもトラボルタも彼女に見いだされたのに、クレジットすらされない状況が長く続いた驚き。絢爛の影へ今なお立つ人々想う。

"Casting By" https://twitter.com/pherim/status/1507645224847216645

上記3名の出演はもちろん、スコセッシやグレン・クローズらハリウッド・セレブの面々が次々と本音で語る姿も本作の見どころ。キャスティングや撮影に“監督”を付けて呼ぶのは変だと主張する協会側監督や、クレジットに載せてというドハティの要求を跳ねのけた45年前の所業を懺悔する老監督も登場し色々楽しい。

  『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー 』 https://twitter.com/pherim/status/866204389379158017
    『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』 https://twitter.com/pherim/status/1346717004355444737



 
■4月8日公開作

『旧グッゲンハイム邸裏長屋』

神戸の洋館グッゲンハイム邸の裏にたつ長屋での、
若者たちの暮らし模様。
黒沢清+濱口竜介『スパイの妻』の舞台となった洋館敷地でくり広げられるまったり進行よき。
一瞬テラハ味醸したりするシェアハウス模様と、実際の住人たちがメイン参画する手作り感が楽しい。

"" https://twitter.com/pherim/status/1509794936467591168

  拙稿「不穏の残響、神戸の近代。」 http://www.kirishin.com/2020/10/16/45715/
  『スパイの妻』 https://twitter.com/pherim/status/1304949557998923776

 
 
 
 
『潜水艦クルスクの生存者たち』
原子力潜水艦クルスク沈没の映画化作、あの強面レア・セドゥが旦那の帰港待つ妊婦とか、救助能力あるのにロシア官僚制に助力を拒まれる米国司令官の苦渋顔をコリン・ファースが演じるとか、さすが製作リュック・ベッソンわかってる感しかない秀作。錆びた港湾都市や艦内の木製インテリアとか見どころ満載。

"Kursk" https://twitter.com/pherim/status/1509891776034738176

  “Kursk”初見時ツイ https://twitter.com/pherim/status/1083983926463361024


ソ連末期の困窮する港湾都市や艦内装備等の質感再現への気合の入れようが素晴らしい。子どもたちが野を駆けて丘に登り、出港するクルスクを誇らしく見送るシーンに『この世界の片隅に』の呉描写が想起されしんみり。 ※追記用メモ




『親愛なる同志たちへ』
ソ連1962年、黒海に近い工業街ノボチェルカッスクの労働者蜂起と虐殺劇。
市井の生活者にしてスターリン信奉者の主人公女性、コサック精神が気配として残る街など好設定。ソビエト街区のモノクロ哀愁美と、沸点へ徐々に近づく前半のタルさを怒涛の終盤へ活かす構成はアガる。

"Дорогие товарищи!" "Dorogie Tovarischi!" "Dear Comrades!" https://twitter.com/pherim/status/1475656925190627331

ウクライナ国境にほど近い工業都市ノボチェルカッスクに暮らすソ連期の人々への眼差しに、愛惜を感じてやまない巨匠アンドレイ・コンチャロフスキー84歳の2020年作。
主人公の頑なさは『金の糸』に登場する元ソヴィエト高官の女性をも想起させる。

  『金の糸』(ოქროს ძაფი) https://twitter.com/pherim/status/1497193264977301505
 



『クルーガー 絶滅危惧種』
ケニアへバカンスに来た白人一家が、サバンナを舐めきって嵌まるクライシス&サバイバル活劇。
窮地を救った密猟者を上辺のモラルで責める娘は、「石油で儲けてるお前の親父が世界へ与えるダメージは俺らの比じゃないぜ」と反駁されぐうの音も。
サイとヒョウとハイエナ大活躍。

"Endangered Species" https://twitter.com/pherim/status/1510595234815565828

 『サファリ』 https://twitter.com/pherim/status/956855821287043072
 『ローグ』 https://twitter.com/pherim/status/1387260595225829379
 

 


『今はちょっと、ついてないだけ』
俳優や舞台設定の醸す空気感が良いだけに、ひたすら中年男性の悔悟へ寄り添うだけの物語&演出の窮屈さが大変残念。とりわけ女性たちが、男性陣の自意識昇華への添え花に終始する様は観ていてキツく、この狭さが析出される因子こそ業界構造の澱みへ直結して感じられる。
(そのような連想なしに集中するのは難しい展開だった)

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『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』
サルマ・ハエックの出突っ張りが嬉しく、後続作へWife'sを付ける韜晦ムーブも笑える、ライアン・レイノルズ&サミュエル・L・ジャクソン凸凹コンビ再臨。
ギリシア破綻を背景に、義父役モーガン・フリーマン、悪役アントニオ・バンデラスを配置する良構成。

"The Hitman's Wife's Bodyguard" https://twitter.com/pherim/status/1510951504353529859

 
 

■国内過去公開作(含映画祭上映作)

『ヒットマンズ・ボディガード』

ゲイリー・オールドマン演じる悪役が、なんとベラルーシ大統領の座を放逐され、毒をもられ顔が凸凹化した野心家という。
初見はタイのシネコンで深夜に観て、軽妙な主演2人に笑ってた。それから5年経たウクライナ侵攻下、妙なラインで今日性を獲得してしまった一作。

"The Hitman's Bodyguard" https://twitter.com/pherim/status/1510532915687395332

(ウクライナ現大統領とゲイリー・オールドマン演じる独裁者とでは、旧共産圏民主化の段階/世代こそ異なる政治家ながら右傾化潮流の帰結という点では親しく、ゼレンスキーがもし早々に亡命するキャラだったら、今のように正義ヒーロー化せずこの表象に近くなったかもしれない、などおもう。)




■国内公開中作品

『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』

幼な心にオーウェル“1984”の監視国家像を刻印された1985年版リトルスターウォーズからの、36年越しリバイバル。今風改変が諸々良趣。
他人想えず苦しむスネ夫が戦車改造へ心血注ぐ姿とか、ジャイアン以上に信念だけで突出するしずかちゃんとかガチ熱い。

"" https://twitter.com/pherim/status/1502487576904540160

『ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』、1985年版は心の1作なだけに、観て落胆したくないなという不安もあったけど開始2分で霧散。
前席の女児や左後方でうろうろしてた男児があげる嬌声&悲鳴と心が完全同期してた。これで“少年期”が流れたら号泣してた恐れさえ。

武田鉄矢 "少年期" 『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』1985

  #私を構成する9本 https://twitter.com/pherim/status/1072464388794318850




『森のムラブリ』
互いに敵愾心さえ宿してきたタイ~ラオス森奥の狩猟採集民3集団を、若い言語学者が結びつける道行き映す金子遊監督作。
その楕円的二重焦点が孕む、単なる人類学的映像資料の連なりや学問/ドキュメンタリーの矩さえ超えゆく身振りの豊穣と抜けの良さ、これは予想できなかった。

"" https://twitter.com/pherim/status/1511312531553366016


 

■アピチャッポン・ウィーラセタクン監督『MEMORIA メモリア』公開記念上映 @東京都写真美術館
 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/movie-4247.html

『A.W.アピチャッポンの素顔』2018
カナダ人俳優コナー・ジェサップがアピチャッポンとの小旅行を撮る、ひたすら心地よい映画。
「これから撮る映画」として語られる“Memoria”の片鱗や、挿し込まれる過去作カットや常連の素人出演陣の語りも興味深いけれど、本作自体の快適ムードがすべてを凌駕してた。
https://vimeo.com/296887155
"A.W. A Portrait of Apichatpong Weerasethakul"

 『MEMORIA メモリア』 https://twitter.com/pherim/status/1491968334459404289
 【映画評】 明滅するリアル 『MEMORIA メモリア』
  http://www.kirishin.com/2022/03/04/53173/

 
 
 
 

 余談。4/8公開『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』は、試写状にあるオンライン試写案内へ従うもメール返信なし。
 
 コロナ禍初期、都下へ独自に試写室をもつタイプの海外メジャー系配給から試写状が来なくなった。これは試写席半減に伴う弱小メディア切りだと思われるが、のちオンライン試写が一般化して以降も復活せず。これは同時期に宣伝対応そのものが、ようやくマスのメディア+SNSへ切り替わった結果、マスではない弱小メディアが抜け落ちたものと憶測する。
 
 しかしここ半年ほど顕著に増えた返信なし対応は、それとも異なる。端的に言えば限界状況の現れの一端で、ハガキの郵送など含む従来型宣伝様態の終わりとともに、結果として非メジャー系配給の一部からも切られる流れにあるのだろうと推測される。ここで興味深いのは、意図的な排除ではない点だ。実際には、メールアプリの迷惑フォルダに入って対応しそこねたとかいうレベルさえ含むような、些末な仕方でこうした選別/再編は音もなく為されゆく。ちょっとおもしろい。

 ソニーやディズニー、ワーナーの試写室へはもう丸2年行っておらず、MCUなり話題のハリウッド大作なりの案内が来なくなったのは寂しいかぎりだが、一方で細いながらも自らの文章が起点となった関係性の網目は着実に育まれている。外的状況の先細り模様にあまり悲観を覚えず面白味さえ感じてしまうのはおそらく、このささやかな網目こそを大事にできていれば良いと思えるからだ。(むしろそこさえおざなりになってる観が拭えないことのほうを、個人的課題としてもっと重視すべきなのだろう)





おしまい。
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