今回は、3月25日~4月1日の日本公開作と、公開中止作など10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第215弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■3月25日公開作
『ヴォイジャー』
片道86年の旅へ出た探査船。乗員第1世代の若者たちは薬物により管理され、衝動や感性が抑えられている事実に気づく。
船内の閉鎖空間スリラーがベースながら、若手スター競演で恋あり衝突ありの学園物風味溢れる、いかにもニール・バーガー監督作。星間航行物特有の孤立感好き。
"Voyagers" https://twitter.com/pherim/status/1502614790505607171
『パッセンジャー』 https://twitter.com/pherim/status/843627602401087488
『ニトラム NITRAM』
いじめられっ子が、成人して死者35人の銃乱射事件を起こすまで。
タスマニア島の自然を背景に、本人の内なる必然へ徹底的に寄り添う姿勢が固有のテンポを生み、『エレファント』の重い衝撃を更新する。
Martinを逆さ読みする蔑称Nitramの題採用が孕む風刺の鋭き余韻。
"Nitram" https://twitter.com/pherim/status/1505020829750362117
『エレファント』 https://twitter.com/pherim/status/832460964398133250
『静かなる叫び』 https://twitter.com/pherim/status/829130027644002307
『ウトヤ島、7月22日』 https://twitter.com/pherim/status/1101327030509957120
『オートクチュール』“Haute couture”
ディオールで働く引退間近のお針子が、
バッグを盗んだ不良少女の指先に才能を見いだす。
よくある天才発掘譚と異なるのは、ファッション界の地味な裏方へ光を当て、パリ郊外団地の移民差別文脈との対照で物語を転がす点で趣深い。各々の生活描写が鮮やか。
"Haute couture" https://twitter.com/pherim/status/1506241261744771077
『オートクチュール』は、なにより主演2人の演技が素晴らしい。
燻し銀の名優ナタリー・バイはもとより、貶されても暖かいからと量販店のフリースを着続ける率直な不良少女役リナ・クードリなどすでに、“パリ郊外映画(Le cinéma de banlieue)”の新世代ミューズと化してる感。
“パリ郊外映画(Le cinéma de banlieue)”スレッド https://twitter.com/pherim/status/1234164785815515136
リナ・クードリ準主演『ガガーリン』評 http://www.kirishin.com/2022/02/25/52929/
■4月1日公開作
『アネット』
やみがたく壊れゆく、アダム・ドライバー&マリオン・コティヤール夫妻の絆。
全編ミュージカルなのに歌やダンスの巧さで魅せる定型からずんずんズレゆく怖さこそ、レオス・カラックスへの無意識の期待だったと知る。ゆえの愉悦満点。
古舘寛治の歌う出産場面は意外すぎたし熱かった。
"Annette" https://twitter.com/pherim/status/1505154409432420353
レオス・カラックスDommune出演連ツイ with 黒沢清, 諏訪敦彦
https://twitter.com/pherim/status/1509136430743781377
『最初の恋、最後の恋人』
高校時代に恋を実らせかけた男女が、大人となり再び出逢う、キム・ドンジュン&キム・ジェギョンW主演作。惹かれ合いつつも、各々の秘密が2人を隔てる。
韓国田舎の若者描写が新鮮ながら物語は凡庸、と思いきや中盤から“そう来たか”という急展開。ED曲含めパッケージングの巧さは流石の韓流。
"간이역" "Way Station"
ちな原題"간이역"は直訳で「簡易駅」、英題は"Way Station"。田舎にこじんまりたつ無人駅とか、人生の通過駅というあたりのニュアンスっぽい。
『スピリットウォーカー』
記憶喪失青年の心と身体が、12時間ごとに刑事からマフィア、浮浪者から宅配業者へとガンガン移り変わりゆく。
顔も歳も変わり続け、恋人にも認識されない苦渋。その混沌を冒頭10分で描き切る勢いそのままに、白熱のアクション絡め終盤へ一気に雪崩れる展開がひたすら熱い。
"유체이탈자" "Spiritwalker" https://twitter.com/pherim/status/1509518264677793798
『英雄の証明』
落とし物の金貨を返済へ充てれば出所できる男の葛藤。持ち主へ返した男の行動を、涙ながらに息子が語る動画はバズり新たな葛藤へ。
善意と虚構、欲望と躊躇が渦巻く名匠アスガー・ファルハディ新作。美談が孕む小さな嘘の連鎖を人間不信とSNSとが増幅する悪循環のもと正義を問う。
"Ghahreman" "A Hero" https://twitter.com/pherim/status/1509375272084070400
ファルハディ2018年作『誰もがそれを知っている』 https://twitter.com/pherim/status/1135378251222700033
ファルハディ2013年作 『ある過去の行方』 https://twitter.com/pherim/status/1236906451559272448
『TITAN チタン』
父の運転ミスにより、金属板を頭蓋へ埋め込まれた少女はやがて、車に犯され受胎する。
閃光放つ胎児のうめき、内耳を貫く鉄針の煌めき。殺意の焔、痙攣する快楽。愛の臨界がそれらを象り、鋼鉄の亡霊がそこへ息づく。あらゆる毛穴から冷たい蒸気が吐き出されゆく余韻の稀有。
"Titane" https://twitter.com/pherim/status/1508448526883192833
『RAW 少女のめざめ』 https://twitter.com/pherim/status/1508053978432479238
追記/映画評執筆可能性あり。(その場合後日当該URL等追記)
■国内過去公開作
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』
“音を立てたら即死”の終末スリラー快作続編。
華奢で気弱な母が肝っ玉おかんへ覚醒する第1作から、
聾者の娘が信念貫く本作への継承 成長冒険テーマが麗しい。
不運すぎてメンタルやられてるけど根はイイ奴
を演じさせたらキリアン・マーフィ、比類なき。
"A Quiet Place: Part II" https://twitter.com/pherim/status/1501176987934547968
『クワイエット・プレイス』 https://twitter.com/pherim/status/1045499581914464257
■公開中止作
『蜜月』 ※監督・榊英雄セクハラ騒動により公開中止。
狂いゆく母役・筒井真理子の怪演に戦慄。
娘役・佐津川愛美、二人に翻弄される新夫役・板尾創路、義弟・濱田龍臣とその恋人・森田想、娘の陶芸師匠にして恋人役・永瀬正敏いずれも好演するだけに、終盤の演出ぶん投げじみた長尺説明台詞が残念。終盤の再構成なしには、一般上映どころかDVD/配信スルーもないように思われる。
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『蜜月』は3/14への公開前倒しが告知されたあと、3/9~10頃の本作監督・榊英雄をめぐる文春砲に始まるセクハラ騒動が起きて公開延期発表へ。3/8の制作発表会で主演・佐津川愛美が涙をみせる一幕なども報道され、これらのタイミングに諸々想うなど。
本件をめぐっては、『蜜月』の撮影監督・早坂伸さんによるブログ記事が読ませる。↓
https://shin1973.hatenablog.com/entry/2022/03/10/025155
※“加害者の作品”をめぐる言及自体が、被害者への二次加害になるという批判がしばしばあるけれど、一方で映画ほど多人数が協働するジャンルで、個人の罪過ゆえにすべてがキャンセルされるのが当然とする流れには正直違和感が拭えない。とりあえずツイートはせずこちらへ残すことにしたのは、この場が「TLへ流れ落ちることで不特定多数の目に入る」のではなく、主体的選択(クリック)を要する場ゆえ。
とはいえ個別に言えば、『蜜月』の公開中止は順当な決定で、同監督作でほぼ同時期(3/25)公開予定だった『ハザードランプ』がきょうに至るまでゴリ押し公開の流れだったのは見当識を違える帰結というしかない。
では当該人物以外の、本作へ真剣に関わったであろう無数のスタッフが受ける心理的圧力/被害への責任を負うとすれば誰なのか、この場合であれば監督個人にのみ帰することはできない問題が、その「圧力/被害」の中身次第で問われてくる。(余談へつづく)
余談。
「アクターズ・ヴィジョンによる榊英雄ワークショップ」に関する責任者の声明(↓)で、『蜜月』に関し「即座に見て傑作と確信」と言及があり、ちょっとモヤったので書き留めておく。
http://actorsvision.jp/?page_id=2300
個人の感想といえば全てそれまでなので、どんな駄作を傑作と評するひとがいても普段なら驚かないし何か言及する気にもならない。また『蜜月』はたしかに中盤まで、傑作と言い得る要素を含んでいたと自分にも思える。
ただ、文春報道以前に試写を観た人間の多くがだんまりを決め込んでいる(これ自体はごくふつうの行動。特にコロナ禍以降、関係者/マスコミ試写まで行ったのに公開延期/中止した多くの作品と同じ)なかで、その沈黙を利用した自己正当化の欲望を当該の文面には感じざるを得なかった。終盤の佐津川愛美のひとり語りに延々沈痛な面持ちで耳を傾け続ける永瀬正敏の遊離/無駄遣い感、説明台詞へ依存しきった演出の(稚拙さというより)不在、性暴力を記号として扱う軽薄さのいずれをとっても「傑作」の評価を無効化するに余りある。
ちなみに自分が観たかぎり、本編でくり返されるのは合意に基づく性愛描写と母から娘への暴力描写であり、巷で言われている「性暴力を描く『蜜月』」に該当するのは、終盤の台詞上でのみ登場する義父からのそれのみであった。先述の「性暴力を記号として扱う軽薄さ」とはこのこと。
本作に関する言及が少ない現状下では、以上のようなニュアンスからも相対的に意味をもつ局面はあり得ると考え、ひっそりここに書き残しておくことにする。それが提供者との信頼関係に基づいて行われる部類の試写を通じてである場合にしても、本当の意味で「信頼」に値する行動をとっているのが誰で、誰がそうではなかったかは言うまでもなくいずれ明らかになる。
おしまい。
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