今回は、3月18日~20日の日本上映開始作と、《未体験ゾーンの映画たち2022》上映作から11作品を扱います。(含再掲2作, 短篇1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第214弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■3月18日公開作
『ストレイ 犬が見た世界』
イスタンブールの野良犬たち。
路地ゆく人々のわんこ好きが半端ない。
犬たちが睡魔へ屈する場面の誘眠力に負けてはならない。そのあとの、アザーンの朗唱に遠吠えで応え歌いだす映像がとてつもないから。生涯1度でもこれを撮れたカメラマンは僥倖だろうというほどに。
"Stray" https://twitter.com/pherim/status/1500805260658429953
『ガンパウダー・ミルクシェイク』
女殺し屋たちの挽歌。パンダのスーツケースや、花柄レリーフの手斧で戦うハードボイルド&ファンシーアクションがひたすら楽しい。
図書館をアジトとし、フェミニズム文学の名作群に銃が隠されている設定を始め、乗っかる時流さえも換骨奪胎しゆく手際が諸々痛快。
"Gunpowder Milkshake" https://twitter.com/pherim/status/1503928265685168133
『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、時流へオシャレに乗っただけの作品に留まらない。
例えば東方三博士のごとき図書館の女三人衆は人種“多様”、でもミシェル・ヨーが勧める(凶器内蔵の)文学書はオースティン/ブロンテ/ウルフで全員女だけど全員白人。この浅さに篭る諧謔が処々で顔を覗かせる巧緻。
冒頭で母との別離の象徴となるミルクシェイクの、後半でのほんの一瞬の再登板場面もなかなか痛快。見逃しちゃうよっていう一瞬だからこそ、“克服”されたものゆえの軽さが切なくも可笑しかったり。
あと本作が高度に嗤う今日的“浅さ”の代表例としての『ドリーム』迷場面↓。主演俳優のギャラも最近話題になりましたね。
『ドリーム』 https://twitter.com/pherim/status/912833183695093760
『フォレスト・ガンプ/一期一会』4Kニューマスター版
驚いちゃうよな。トム・ハンクスの名作だけでも無数に思いだされる今でさえ、ガンプの鮮やかさは半端ない。
“Run! Forresrt! Run!!”ってね。
名台詞「人生はチョコレートの箱、開けてみるまでわからない」よりなぜか今回ぐっときた。なぜだろう
"Forrest Gump" https://twitter.com/pherim/status/1504725875148746754
『フォレスト・ガンプ』をつぶやいていて、ガンプの世界、あれガープの世界と似てない? とか思い、両作が自分の中ではとても近いと気がついた。
というのもどちらも、幼馴染のたっちゃんちで初めて観たからで、他にもグーニーズとか貴重な一期一会の場所だったんだなと知る。
『グーニーズ』 https://twitter.com/pherim/status/1403316303453065217
ガープの世界とり違えツイ https://twitter.com/pherim/status/1424111735829528576
『ベルファスト』
北アイルランドの町ベルファスト。
人情に厚い路地のコミュニティが、プロテスタント過激派の暴動が起きた日から一挙に分断、変貌しゆく。
品格と技巧のケネス・ブラナー監督による半自伝作。ベルファスト出身者を含む名優らの競演と、質実に研ぎ澄まされた構図の逐一で魅せる。
"Belfast" https://twitter.com/pherim/status/1503199766238285824
■3月19日公開作
『カウンセラー』
予約なしでヤバい患者が来ちゃったよ、って序盤からの三段ロケット式ヤバさの急加速がコワ楽しい。シンプルにベタを積み重ねた先に煌めく巧緻の乱反射。
あらかじめ短編作と知りつつ観始め、ああ面白かったなこの20分って確認したら42分作と知ってさらにホラー。後続作が楽しみすぎる。
"Psychology Counselor" https://twitter.com/pherim/status/1449936467829035010
『カウンセラー』、今週末3/19より公開。一切の余剰がないこの42分は、生半可な2時間映画よりよほど重量感に勝り、単独公開も納得の短篇です。
心理療法の場がサイコホラーそのものと化す、
聖邪のベクトル対立が回すとぐろのスピード感たるや。
(下記沼田先生へのリプ: https://twitter.com/pherim/status/1449952411250954243 )
はい。ラフな格好なのは帰り支度を済ませたニュアンスかと。
主役(by鈴木睦海)の、仕事終わりの穏やかな表情が錯乱進行のもと狂気そのものと化しゆくのに対し、のっけからヤバさ炸裂の訪問者(by西山真来)が、倒錯時空では崇高ささえ帯びだすあたり、沼田先生が閉鎖病棟で触れた何かに近接するのかも。
『階段の先には踊り場がある』
役者みな良いなか、植田雅の奥行き際立つ。
母校へ就職した大学事務員(細川岳)の醸す異次元同居感が巧い。それ自体ビミョーな小劇場演劇味ある日本映画の増加傾向下、演劇科を舞台に含むメタ性と、チャラ男がタイトル持ってく意外性とで一歩抜きん出る木村聡志監督作。
"" https://twitter.com/pherim/status/1504790190203699202
■3月20日公開作 3/20追記※昨年の公開日でした。(こういうミスは初めて><)
『夜明け前のうた 消された沖縄の障害者』
日本で戦前に法令運用された座敷牢“私宅監禁”の存在が、沖縄戦と米軍統治により沖縄でのみ戦後も残り続けた哀史。
竹富島の観光客ゆきかう穏やかな情景と、そこに住まうおばあの記憶語りとのギャップの烈しさ。拘禁性精神病という自家撞着、の今日性思う。
"" https://twitter.com/pherim/status/1488511461630816261
情緒へ訴えがちな演出に序盤からややクドさを感じたが、男女のナレーションのうち男の方は監督本人なのか、端的に内容と不調和で歪つな印象を与えこのクドさをいや増す。そのうえ謎の白仮面ダンスによる幻想演出や終盤の西アフリカ取材など、逆向きの偏見助長でさえあり得て奇妙に映る。
戦後の沖縄で、精神障害者の比率が日本の2倍、調べると戦時中子供であった世代に多いという。『オキナワ サントス』ではブラジルへ飛び火した琉球の八重山差別が描かれるが、知られざる歴史を周知させる意義は本当に大きい(からこそ問われる演出の巧緻)。
『オキナワ サントス』 https://twitter.com/pherim/status/1423124588846714880
■未体験ゾーンの映画たち2022
https://ttcg.jp/movie/0816900.html
『マーシー・ブラック』
信じる人々により現実化され受け継がれゆく、
悪魔崇拝系都市伝説型モンスターのマーシーさん。
作り込まれた驚かし演出もくり返されるうち慣れてしまい、なんなら呪術人形っぽいマーシーさんのチープな作りに和んでまう。
オーメン的に魅入られた少年の笑顔がサイコで良い。
"Mercy Black" https://twitter.com/pherim/status/1502980164568838144
同じ日にみた北マケドニア映画『柳』“Willow”に登場する養子にもらわれてきた少年と、役者は別人物だけど笑顔が同じで、同じすぎて夢にでそう。と感じたのが一番ホラーでした。
『柳』“Willow” https://twitter.com/pherim/status/1502856971292012544
『スターフィッシュ』“Starfish”2018
やっと、一人になれた。
世界にとり残された少女が、亡き親友宅へ引き篭る。内面のリアルを襲う怪物たちの彷徨は実存の直喩であり、手触りある現実こそ胡蝶の夢の裏側なのだと彼女は知る。
狼の毛皮で身を護り、煤けたカセットテープに導かれゆく、この宇宙。
"Starfish" https://twitter.com/pherim/status/1489219678991884295
『優しき罪人』
交通事故に両親を殺された姉弟が行き詰まり、
姉は身元を隠し加害者男性夫妻の店で働き始め、
優しい夫妻を心から慕いだすも弟に見つかりさあ困った。
役者と音と空気感が素晴らしい。ぶつ切りEndがやや惜しまれるほど、何時間でも浸りたい良趣。
にしてもユ・ジェミョンの演技力よ。
"영주" "Young-ju" https://twitter.com/pherim/status/1500464051519774730
『マザーズ』
自然志向な北欧夫妻の家で、家政婦として働きだすも代理母出産を頼まれ味わう地獄のマタニティライフ。
金のため幼な子を母国ルーマニアへ残し別の子を孕む苦渋が、雇い主の不妊の悩みともつれ堕ちゆく深層恐怖に慄える。
森の昏さと霧の冷温。赤ん坊の目ヂカラに魂抜かれる92分。
"Shelley" https://twitter.com/pherim/status/1499223885211844609
なおミッドサマー司祭役が注目された『ベニスに死す』の美少年Björn Andrésenも出演。
『マザーズ』“Shelley”は、『ボーダー 二つの世界』“Gräns”のアリ・アッバシ/Ali Abassi監督作。監督後続作にはゲーム傑作“The Last of Us”のドラマ化も控え、映像質感の点で期待値大。
『ミッドサマー ディレクターズカット版』 https://twitter.com/pherim/status/1238658264977440768
(未体験ゾーンの映画たち2022での邦題『マザーズ』はちょっとミスリード気味。片仮名シェリーは確かにイミフ、でも母2人が対峙するから複数形って軽さしか。Mary Shellyとか本来の含蓄潰す割に、ね)
余談。
『優しき罪人』と『マザーズ』はどちらか緑字強調しようと迷った挙げ句どちらも黒字で。
このぎりぎり惜しい感じこそ未体験ゾーンならでは感とも。
『スターフィッシュ』はちょっと衝撃的で、二度観て何に衝撃受けたかどこがそんなに面白いのかよくわからなかった《にもかかわらず》衝撃的に面白いって感想は揺るがないというこの不思議。アイコンをこの作品に変えようかとさえ思ったけど、一般公開されると知りともあれ保留といたし候。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh