pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
03月14日
23:46

ふぃるめも213 イスラーム映画祭7上映全作

 
 

 今回は、イスラーム映画祭7上映全14作品を扱います。(2/19-5/6 東京/名古屋/神戸, 含再掲4作)
 まずはイスラーム映画祭主催・藤本高之さんにお話を伺いました。↓

  拙稿「深化するイスラーム」 http://www.kirishin.com/2022/02/17/52776/
  (文末に長大なイスラーム映画過去記事Link集つき)

 イスラームと女性、マグリブ作品充実の意味、映画祭のゆくえ他。
 初期の連日大入り旋風から、コロナ禍の苦難へ。主催者インタビューも6回目に。
 独立独歩の歩み、すでに唯一無二ですね。
 本稿末尾に過去のイスラーム映画祭スレッドURL列記します。


 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第213弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■《イスラーム映画祭7》上映作 東京・名古屋・神戸 2022/2/19-5/6
 http://islamicff.com/

『ある歌い女の思い出』“صمت القصور”
チュニジア王宮最後の日々を女中として生きた母娘描く、トゥラートリ監督1994年作。
独立運動から反王制へのうねりを背景に、母娘は時を隔てて望まれぬ妊娠など同じ隘路へ嵌まりゆく。
世界へ抗う歌唱場面の強さは“USvsBillie”以上。

"صمت القصور" "Samt El Qusur" "The Silences of the Palace" https://twitter.com/pherim/status/1495008991197294593

 『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
  https://twitter.com/pherim/status/1490594486749057029

  
王宮内で苦難に斃れる母と、自立へ歩む娘。その物語自体が仏政府からの独立、王制廃止と共和制移行の’50年代チュニジアを象徴する。
厨房で下拵えをする女たちの描写が、返すがえすも良い。女の解放区、ここだけは笑いと活気に終始充ちる。  
  
今年も強力すぎた佐野光子さんトーク。
“アラブ女性監督のパイオニアは、劇映画のトゥラートリと、ドキュメンタリーのジョスリン・サアブ”
“イスラーム映画祭は、私にとってのカルタゴ!”
(カルタゴまで行って観る類の作品が、ここには続々到来する)
などパワーワード連発。

  ジョスリン・サアブ作品連ツイ https://twitter.com/pherim/status/1137243969115512832




『ヌーラは光を追う』نورا تحلم” 2019
暴力夫の収監中に、恋人と暮らすため離婚手続きを進めるヌーラ。ところが大統領恩赦で夫出獄、さあ大変。
狡賢いクズを極めた夫による、妻への追い込み強圧が凄まじい、超シリアス・ノワール展開。背景に横たわるチュニジア特有の法と倫理の障壁も興味深い。

"نورا تحلم" "Noura Rêve" "Noura's Dream" https://twitter.com/pherim/status/1496269035142590464

ちなみに『ヌーラは光を追う』(2019)と『ある歌い女の思い出』(1994前々ツイ)の主演は、同じヘンド・サブリ(
@HendSabry / هند صبري )。33年を隔てたノーラ・オノールの演技に受けた感銘など想起され。
和家麻子さんトーク、映画史概説の他アルジェのスーフィズム解説が新鮮。

 ノーラ・オノール1982年作『奇跡の女』 https://twitter.com/pherim/status/1237209232811765760
 ノーラ・オノール2015年作“Taklub”(Trap) https://twitter.com/pherim/status/1489094913211781121





『時の終わりまで』
アルジェリア西部の集団墓地で、墓守をして暮らすお爺さんが主人公という珍しの。
かつて聖廟詣での人々をもてなしていた姉を、娼婦と思い込んでいた妹の目に映るアジール/公界模様と、おくりびとによる老いらくの恋。彼岸祭りや葬礼起業企む青年etc、世界って広いなと。(小並)

"Ila Akher Ezaman" "Until the End of Time" https://twitter.com/pherim/status/1498864221102096386

『時の終わりまで』は、自分の中のイスラーム・イメージから外れるイスラームの諸相がみられた点も楽しかったのだけれど、

和家麻子さんトーク、映画史概説の他アルジェのスーフィズム解説が新鮮。

  『ガンジスに還る』 https://twitter.com/pherim/status/1053462547561496577




『ラシーダ』2002
アルジェ近郊の女性教師が、過激派の若者から学校への爆弾設置を強要される。
アルジェリア映画初の女性監督作で、爆弾の製造から凶行へ至る冒頭に始まり、村のハマーム(公衆浴場)や結婚式などディティール演出も目を惹く、『パピチャ』前史とも言える迫真作。

"رشيدة" "Rachida" https://twitter.com/pherim/status/1388497137755856898

  『パピチャ 未来へのランウェイ』 https://twitter.com/pherim/status/1320682389299867648

独立戦争下のカスバ市街戦を英雄的に描く名作『アルジェの戦い』(’66)に対し、90年代に始まる内戦下で撮影開始、軍部への批判交える気骨の本作監督は、上述『時の終わりまで』監督の母ヤミーナ・バシール=シューイフ。今回アンコール上映。(本国上映禁止)

  『アルジェの戦い』 https://twitter.com/pherim/status/784158915780980736




『ソフィアの願い』モロッコ2018
主人公ソフィアが予期せず破水、
病院へ駆け込むが婚外子出産は収監対象。
そこで繰り出す彼女の狡知が凄まじく、
二転三転する真相に家族親族続々卒倒。
カサブランカの格差/下町描写も興味深く、
各々の立場で機転利かせる女達の逞しさ、
演じる役者の巧さに惚れ惚れする。

"Sofia" https://twitter.com/pherim/status/1501794736423665664

『ソフィアの願い』に出ずっぱりのふたり。
親世代を演じる役者は他の中東映画や仏西映画で見る顔が揃うことから気になり調べると、不敵さ漂わせる面構えが印象深い主演Maha Alemi↙の他出演作見当たらず。いとこ役@SarahPerles↘は、“Homeland”始め長大な履歴があり今後も度々見かけそうな方でした。
(画像ツイ:https://twitter.com/pherim/status/1503281201599049730 )




『ジハード・フォー・ラブ』
信仰心の篤い同性愛者のムスリムたち。
各国で亡命や流浪の困難を抱えつつ、聖典で認められていないと思い込む人々へクルアーンを繙き理解を求める姿勢に唸る。信仰を真に貫く者は誰なのか。軽視の根拠に“生産性”を語る議員のいる日本や、他宗教の国との差異など想う。

"" "A Jihad for Love" https://twitter.com/pherim/status/1504103691434938371




あと今回新たに感心したのがスケジュール。初日4作は全てマグリブ女性監督作、からの2日目ゲイ男性&傷ついた男性性描く『ジハード・フォ~』↑『泣けない男』↓へ。
現場でないと味わえない話としてでなく、こういう深趣を密かに具える企画の存続が、一般の国内配給模様へ与えてきた影響込みで素敵だなと。




『泣けない男たち』2017
20年前のボスニア紛争で心に傷を負った男たちが、閑散期のホテルで集団セラピーを受ける。
クロアチア人、セルビア人、ボシュニャク人。癒えない傷、鮮やかに蘇る凄惨な記憶。それらと向き合うことの困難が、居合わせる面々への敵愾心克服と重なる構成、各々の深い演技が魅せる。

"" "Muškarci ne plaču" "Men Don't Cry" https://twitter.com/pherim/status/1506875812259139588

『泣けない男たち』は、役者と役柄の民族性を揃える点も特徴的。例えばボスニア人演じるボスニア人俳優Emir Hadzihafizbegovicは、『アイダよ、何処へ?』では国連施設へ押し入るセルビア軍の鬼軍曹を怪演。ちな本作はアイダ監督Jasmila Zbanic製作、アイダ役Jasna Djuricicも夫Boris Isakovicと共に出演。

  『アイダよ、何処へ?』 https://twitter.com/pherim/status/1435101486556409856




『青い空、碧の海、真っ赤な大地』
インド西南端ケーララ州から、
北東州ナガランドへの男2人のバイク旅。
突如姿を消した恋人を追う旅なのに、
途上で出逢う女性達が激しく魅力的。
マラヤーラム語を軸に9言語登場という豊穣。正しく継承された『モーターサイクル・ダイアリーズ』インド小宇宙版。

"നീലാകാശം പച്ചക്കടൽ ചുവന്ന ഭൂമി" "Neelakasham Pachakadal Chuvanna Bhoomi" "Blue Sky, Green Sea, Red Earth" https://twitter.com/pherim/status/1457905900820185090




『天国と大地の間で』2019
パレスチナ人夫妻が離婚手続き上の必要から、
夫の父の来歴を確定させる旅へ。
ヨルダン川西岸からナザレ、ゴラン高原への良景ロードムービー展開の下、イスラエル領内での夫妻間の権利格差や、過去の歴史に由来する親族間の分断状況など複雑模様を物語化する手際に感服。

"" "Between Heaven and Earth" https://twitter.com/pherim/status/1512685049149153280

『天国と大地の間で』の物語を転がす夫の父の来歴。

パレスチナ難民の帰還活動に関わり暗殺された1932年生まれのジャーナリストである“父”の名はガッサンという設定。つまりモサドに爆殺された、かのガッサン・カナファーニがモデル。本当に濃い映画、しかもここで繋がるとは。

  ガッサン・カナファーニ関連ツイ: https://twitter.com/pherim/status/919148800605765633




『ミナは歩いてゆく』
アフガニスタンの今を生きるミナ12歳の溌溂。
母をタリバンに殺され、父は麻薬中毒。アルツハイマーの祖父を世話し路上で物売りする日々のせわしさの先で待つ、身を売られるか全てを捨てるかの究極選択。ミナ役少女の佇まいが放つガッツと生命力に終始魅入られる怒涛の珠玉作。

"" "" https://twitter.com/pherim/status/1389575963424428032

『ミナは歩いてゆく』トークは西垣敬子さん。還暦近くの主婦が突如アフガニスタン支援を始め、募金を募り物資を整え現地へ通う、をくり返すうち86歳ばり現役!
イスラーム映画祭がなければ出逢わなかったろうこの傑作、昨夏の米軍撤退で一層深味を帯びましたね。




『アジムの母、ロナ』
母と弟一家の欧州密航を手配する兄アジムは、母を置き去りにする弟の意図を知り激怒する。
糖尿病を患う母の寝息は苦しげで、受難に次ぐ受難を堪える兄の苦渋と併せアフガニスタンの現状を象徴する。にしても難民はイラン人の臓器提供を受けられないとする法律の冷たさよ。

"" "Rona, Madar-e Azim" "Rona, Azim's Mother" https://twitter.com/pherim/status/1518936926786822145




『子供の情景』
爆破後のバーミヤン石仏を前に繰り広げられる、
子供たちによる容赦なき大人の世界政治風刺劇。
不良少年たちの蛮行による陰惨なタリバン描写のみへ留まらない懐深さに父モフセンの影も色濃い、ハナ・マフマルバフ19歳時の初監督作。

"" "Le Cahier" "Buddha Collapsed out of Shame" https://twitter.com/pherim/status/1520013830117502976

『子供の情景』の画なごむ。https://twitter.com/pherim/status/1520614637125140480
脚本は母マルズィエ/Marzieh Makhmalbaf。(姉の母とは別人で、wiki��には義母とあるが疑問)
父モフセンは、キアロスタミ『クローズ・アップ』tw4枚目画↓でバイクを運転してる親父。英題"Buddha Collapsed out of Shame"=2001年秋の父著作題。

  父モフセン・マフマルバフのアフガン言及著作 https://twitter.com/pherim/status/1470168693854576640
  モフセン・マフマルバフ『独裁者と小さな孫』 https://twitter.com/pherim/status/686833749376413696
  父モフセン出演、キアロスタミ『クローズ・アップ』 https://twitter.com/pherim/status/1469954159583830019
  姉サミラ・マフマルバフ言及ツイ https://twitter.com/pherim/status/1236832342561312769





『花嫁と角砂糖』
ペルシャ伝統文化の色彩をあらんばかりにつめ込んだ、煌めく宝石のような傑作。豊かな中庭をもち絨毯が敷き詰められたイランの伝統的邸宅を舞台に展開する、婚礼の手順のもとほのかに盛り上がっていく花嫁周辺の関係性や、哀悼から葬儀へ至る人間模様に心を奪われる。至上の眼福作。
https://www.dailymotion.com/video/xtvt6y
"" "Yek Habbeh Qand" https://twitter.com/pherim/status/976265014465110016

極私的生涯ベストの一、精巧な宝箱のような珠玉作。
こうした隠れた名作が、配給ラインに乗らずとも個の手で運ばれてくることの幸福。神戸・元町映画館にて明日上映あり。

  本作監督他作『こんなに遠く、こんなに近い』
  https://twitter.com/pherim/status/1303563378586079234
  本作主演他作『ペインティングプール』
  https://twitter.com/pherim/status/1303159740277555200




『二つのロザリオ』
モスクで礼拝を呼びかける職(ムアッズィン)に就いた男が、新居の隣に住むカトリック女性に心惹かれる。
奥手の主人公と、修道女を志す女性との心の距離の静かな接近が切なくも麗しい。古文書泥棒が物語を転がす古都イスタンブルならではの筋立ては楽しく、路地裏描写が目に和む。

"Uzak Ihtimal" ""



 

 余談。名古屋今週末から、神戸はGW。お近くのかたなど、ぜひ。
 
 現時点では2,3しか触れてない上映後トークに関し、後日ツイートの際追記する可能性大です。





おしまい。
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