今回は、第35回東京国際映画祭(2022年10月24日~11月2日開催)アジアの未来部門とツァイ・ミンリャン監督デビュー30周年記念特集上映作などから10作品を扱います。(含短篇2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第263弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■アジアの未来部門
『消えゆく燈火』“燈火闌珊”
ネオン看板職人の夫が遺した未完の夢。
シルビア・チャン出突っ張りの熱演が魅せる。
かつて香港城市の夜を極彩色に煌めかせたネオンサイン。そこへ宿る記憶と技術の蓄積にレトロ風趣を超え鋭い現代諷刺を忍ばせる、1982年生まれ曾憲寧/Anastasia Tsang監督初長編。(続
"燈火闌珊" https://twitter.com/pherim/status/1584903811399028739
『消えゆく燈火』“燈火闌珊”は、今夜の上映がワールドプレミア(世界初上映)でした。上映後Q&A最初の質問と監督の応答について、少し補足の要を感じる書き込みを目にしたので解説します。質問者本人です。
が、眠気が臨界突破したため起きてからします。監督は首部劇情電影計劃から話しだしましたね。
『消えゆく燈火』で印象に残る台詞を2つ。
夫の遺作を撤去しようとする役人に、妻は身を挺して抗う。「後から作った法律が間違いなら、法律の方が違法よ!」
母に危険な真似を許した亡父の弟子に憤る娘(蔡思韵)は一方でこう話す。「豪州へ移民するのは、自由にものを創るため」
これらを起点にQ&Aでは、ネオン違法化に留まらない香港や香港電影の現状を巡る暗喩意図の有無を質問しました。
監督の答えは、「あくまで失われつつあるものへの哀悼がテーマ」と強調。ただ冒頭に「政府の支援」へ言及した点が肝要で、これは香港中国の表現者が近年よく用いる話法かなと感覚されました。
曾監督が触れた若手脚本の公金支援とは首部劇情電影計劃を指し、実は↓スレッド中で取材した黃進(一念無明)や陳小娟(淪落人)も同賞の先輩。
台湾移住した黃秋生が『淪落の人』で浴びた脚光と『消えゆく燈火』を考え合わせる契機を戴けたゆえ、野暮を承知で尋ねて良かったと。
『淪落人』“Still Human”https://twitter.com/pherim/status/1162193534453088256
『クローブとカーネーション』
亡妻の故郷埋葬の遺志を叶えるため、棺桶を引きずり旅する老人と孫娘の心の距離。
遺骨や遺体を運ぶロードムービーは一大ジャンルを成す感さえあるが、本作は主人公らがシリア戦争下の難民であり、性差と意識の世代格差を読み込む点で新奇。
静謐描写が状況の苛烈さを輪郭づける。
"Cloves & Carnations" https://twitter.com/pherim/status/1646112332073037828
運ばれる遺骸たち:
『箱』 “La Caja” https://twitter.com/pherim/status/1508640528694341633
『オマールの父』https://twitter.com/pherim/status/1330123595297722370
『ヴァタ ~箱あるいは体~』https://twitter.com/pherim/status/1612063171774394369
『蝶の命は一日限り』Iran
ダム建設で立入り禁止の島となった丘の上に残る息子の墓。入島を願うが長年許可は降りず、老女がついに強行へ出る実話ベースの奇想譚。
息子を失い、心を閉ざすきっかけとなったイラン・イラク戦争の影がなお残る社会の昏い側面を、孤独な老女の重苦しい日常描写が体現する。
[動画見当たらず]
"Parvaneha Faqat Yek Rouz Zendegi Mikonand" "Butterflies Live Only One Day" https://twitter.com/pherim/status/1602265127474311169
『へその緒』“脐带”
内蒙古大草原を認知症の母が闊歩する。
団地内の檻部屋で暮らす母を、音楽家の次男が草原の家へ還す試み。
母役に『大地と白い雲』(RT↓)の妻役が歳を重ねたような面影を感じ、切ない続編という心象さえ。乔思雪監督♀は1990年自治区生まれとあって、王瑞より近しく生々しい。
"脐带" "The Cord of Life" https://twitter.com/pherim/status/1585269235319640065
『へその緒』中盤で家の壁に大穴が開くと、折り畳まれたゲルが運び出される。サイドカー老母の粋。団地=都市化現代/草原の家=定住政策/ゲル=母の原景という構図。
キルギス映画『樹の詩』でのゲル設営の描写と、天蓋の扱いなど同じで和む。
↓図出典wiki。3枚目宇宙っぽい。
『樹の詩』(2018)https://twitter.com/pherim/status/1261203968341848065
『私たちの場所』
住居立ち退きに遭ったトランスジェンダーのカップルが家探しに奔走するも、世間の目は険しく難航する。
TIFF2022で観た、最も高濃度の隠れた力作。
性的少数者の生活実態を描く映画は数多いが、事実上の不可触民の位置へ押し込められる描写がインドならでは。
"A Place of Our Own" https://twitter.com/pherim/status/1650337583686352896
■ツァイ・ミンリャン監督デビュー30周年記念特集(ワールドフォーカス部門内)
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&...
『水の上を歩く』“行在水上”蔡明亮2013
一歩に十秒以上をかけ進む托鉢僧と、庶民の日常景。
クチンの熱帯風情すら空しくさせる行者の対象化力。
主演/李康生「一番の苦労は蚊」とQ&Aにて。イサーンでお世話になったプラユキ和尚の逸話で最も強烈だった、蚊に囲まれた瞑想夜の覚醒話が連想され。
https://www.dailymotion.com/video/x1way2z [全編]
"行在水上" "Walking on Water" https://twitter.com/pherim/status/1643365277537800193
プラユキ和尚&歩行瞑想路ツイ https://twitter.com/pherim/status/703054291569803264
『西遊』“Journey to the West”2014
なんとドニ・ラヴァンが、超スローで歩行瞑想する李康生/リー・カンションに四肢を同期させ後を追う。
各々の日常に忙しいパリ移民区の人々はしかしドニ・ラヴァンだと気づかない。都心なら李すら放ってはおかれないだろう光景の、ダブルの異化力に目を瞠る。
"西遊" "Journey to the West"
『楽日』“不散”2003
古い名画座の上映最終回、ほぼ無人の観客席を瞬かせる銀幕の薄青い光と闇。
劇中上映作『血斗竜門の宿』(1967)主演の老俳優に語らせる哀愁台詞へ込めた蔡明亮の、若き憂鬱を想う。
他に誰もいないのに間近へ座ってくる人あるある。映り込む映画館バックヤードの諸々見入る。
"不散" "Goodbye Dragon Inn"
■ワールドフォーカス部門特別上映
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&...
『フリーダム・オン・ファイヤー』
Winter on Fireの監督新作。ロシア侵攻後ウクライナ東部のリアル。
時系列の極度に研ぎ澄まされた構成、TIFF公式日程にも非掲載の緊急上映作、終幕後の鳴り止まない拍手等々から、前回FILMeXの“時代革命”上映が想起される。局地的リアルから普遍へ迫る、本物の強度たち。
"Freedom on Fire: Ukraine's Fight for Freedom" https://twitter.com/pherim/status/1587454928804802561
『時代革命』https://twitter.com/pherim/status/1457270313599660032
■エドワード・ヤン4Kレストア作(ワールドフォーカス部門内)
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&...
『エドワード・ヤンの恋愛時代』“獨立時代”4Kレストア版
アラサー男女の華やかにして孤独な時間。
1994年作で、日本のトレンディドラマを想わせる賑わいと派手さにも関わらず、終盤へ近づくほど光と影で語るエドワード・ヤン/楊德昌の画になりゆく。
「この邦題はない」by濱口竜介 at TIFF talk笑う。
"獨立時代" "A Confucian Confusion" https://twitter.com/pherim/status/1649381067189784576
『恐怖分子』’86 https://twitter.com/pherim/status/633103405246869504
『台北ストーリー』『恐怖分子』他台北画 https://twitter.com/pherim/status/969891189712338945
『台北ストーリー』’85 https://twitter.com/pherim/status/861035049210097664
余談。アジアの未来部門『アルトマン・メソッド』も劇場にはいたのだけど、核心部を含めかなりの時間を寝てしまい、書けないことはないけどまぁ再見の機会を待とうかと。緊密な演出は確認したので、一定以上の良作なのは確定。というわけで今回は短編含む十作更新にて。
おしまい。
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