今回は、7月中旬の日本公開作と、
メコン流域に伝わる民話『12人姉妹』映画化作2編の計10作品を扱います。
※本記事は[Web全体に公開]にしています。コメント書き込みの際はご留意くださいませ~。2017/9/9追記。(“いいね”は外から見えません)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第67弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■7月22日公開作
『ウィッチ』
17世紀米大陸へ入植した清教徒たちの畏怖する夜の昏さ。村落から放逐された一家が信仰を恃みに森の潜勢力と向き合う。疑念と恐怖の対象が森奥の魔女から家族の内へと移る描写の戦慄。本作出演をシャマラン『スプリット』ヒロイン役へとつなげた主演アニヤ・テイラー=ジョイ、感服。
『十年』
香港の低予算秀作オムニバス。大陸中国による統制が強化された十年後の香港を描く。紅衛兵のような息子の同級生から、香港産の卵の「本地(地元産)」表記を糾弾される
『地元産の卵』の良構成と演出の抑制が際立つ。鋭い切迫感が通底する他作も、運転手の家族劇や終末SF調など各々に見応えあり。
映画
『十年』の香港における評価は極めて高く、昨春の香港・深圳滞在時も映画といえば方々でこの作品の評判ばかりを耳にした。来たる7月1日で、香港は英国から中国への返還後20周年を迎える。50年維持を約束された一国二制度も残り30年となる。
身辺に物理トラブルがあり少し前に帰国していたのだけれど、きのう本来の一時帰国予定もこれより本番と、楽しみにしていた
『十年』の試写室へ向かう。と、試写後に至近の東大駒場で雨傘学生リーダーの黄之鋒Joshua Wongと周庭Agnes Chowが喋るという。参加。驚愕。凄かった。 以下、続きは下記ツイッターツリーにて。
『十年』 と雨傘運動講演@東大:
https://twitter.com/pherim/status/875160251636383745
『空と風と星の詩人〜尹東柱の生涯』
韓国の国民的詩人ユン・ドンジュの道行き。特高の尋問や親友・宋夢奎の状況認識等に歴史考証の浅さが目立つも、東柱の詩が響かせる痛切に寄り添うようなモノクロームの柔和さが全編を覆う抒情作。治安維持法により獄死した詩人の放つ、深く内省的な叫びの熾烈。
人生は生きがたいものだというのに
詩がこれほどもたやすく書けるのは
恥ずかしいことだ
↑尹東柱「たやすく書かれた詩」抜粋。創氏改名を受け入れ日本留学を志すも京都帝大に落ち、クリスチャンであったゆえ立教大へ進むが、戦時体制下の東京に居難くなる。六畳間の下宿に流れる逼塞の時の重たさ。
『空と風と星の詩人〜尹東柱の生涯〜』は本日より東京・大阪、追って名古屋・京都にて開催の
《ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク》 http://koreanfilmweek.com/ 上映作の一。他
『春と夢』『あの人に逢えるまで』など4作。
『バッカス・レディ』とても良かったです。
(↓)
『バッカス・レディ』
60代の売春婦を主人公とする韓国映画。のっけから笑わせつつ移民、格差、高齢者の困窮など現代韓国が直面する社会問題の諸相を盛り込む社会派秀作。観光や韓流ドラマからは見えないソウル裏町描写が目に楽しく、苦境を生き抜く様を飄々と演じ切るユン・ヨジョンに脱帽の一編。
『ダイ・ビューティフル』
トランスジェンダーのミスコン女王トリシャ・エチェバリアが残した驚きの遺言をめぐる実話劇。時系列ではない形で展開する、厳格な父親との対立から女王への道を歩み出すまでの物語と遺言実行の顛末を描くドタバタとの往還のリズムが良い。死化粧が放つ生き切った女の証。
『台湾萬歳』
アミ族のオヤウは、日本移民が伝えたカジキの突きん棒漁をなお守る。ブヌン族のカトゥは伝統猟をしに山へわけ入る。台湾、台東縣。登場する誰もが、片言ないし流暢な日本語を話す。日帝統治下の強制移住、国共内戦を生き抜いた彼らの暮らしを象る歌と祈りの、穏やかさが生む静かな迫力。
『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』
エトワール旧世代から新世代への継承が日々なされる、創立356年に及ぶ殿堂の舞台裏。そこではバレエ・エリート達の日常が、そのまま伝統全体の更新となる。個人的にはコンテンポラリーダンス文脈で馴染みある振付家フォーサイスやイリ・キリアンの登場に感銘。
■7月15日公開作
『甘き人生』
母の死が受け入れられずに長じた少年は敏腕記者となり、サラエボ内戦を取材中パニック障害に襲われる。家政婦、友人の母、父の愛人、叔母と現れる女性各々に母を探す主人公の眼差し。巧みな情景描写により、個人の物語の内にイタリア現代史を体現させる名匠マルコ・ベロッキオ珠玉の作。
『甘き人生』中盤の、老神父と少年との対峙は印象的だ。「もしも」を繰り返す日常ではなく、「にも関わらず」現実へ立ち向かう大切さを説く神父の教えは、少年の心をすぐには捉えない。しかし煉獄の焔をくぐり抜け中年となった彼の背を、神父の言葉は優しく推しだす。「星も人も、存在はみな光なのだ」
試写メモ28 「落下する面影 」: http://tokinoma.pne.jp/diary/2288
■イベント:東南アジアの民話と映画 女夜叉と空駆ける馬「12人姉妹」が映す風土・王・民
@国際交流基金アジアセンター
http://jfac.jp/culture/events/e-12-sisters-symposium/
『プラロットとメーリ』 "พระรถ เมรี นางสิบสอง"
円谷英二に特撮を学んだ
『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』のソムポートによるメコン民話『12人姉妹』、1981年作。夜叉の巨体化&荒ぶる場面が幼い頃みたウルトラマンそのもの、神話伝播と変容の現場をみるようで眩暈の心地。
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https://twitter.com/pherim/status/881405215622156288
『12人姉妹』 "12 Sisters"
カンボジア映画黄金期1968年作、監督リー・ブン・イム。VHSで残されたクメール語版音声とタイ語版フィルムを合成。古いフランス映画をみるような俳優の台詞回しやシーン構成が、損なわれた映画文化の厚みを想わせる。悲劇により為政者を失い沈黙する人々を映すラストの荘重さ。
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https://twitter.com/pherim/status/881429228218077185
余談。以下『12人姉妹』補足を。
カンボジアのリー・ブン・イム版
『12人姉妹』では、末娘がヒロインとなるタイのソムポート版と異なり、女夜叉の娘コンライの悲恋に重点がある。東の国=夜叉の国へ旅する悲運の王子が、夜叉の国の姫と夫婦となるが母のため帰還するインドシナ版オイディプス冒険譚の、異境同士を繋げる《森》の魔力。
かつて悠久の時間をかけメコン伝い街道伝いに広がり、土地土地に適った変奏の施された民話伝承が、国家/国境/国語の枠組みを嵌められたとたん王国教育的になったり(ラーマ5世下)、危機に瀕しつつも密かに受け継がれたり(ポルポト下)する果てに、ウルトラ展開、初音ミク展開など遂げゆく面白さ。
一篇の民話を通しメコン流域三国の文化状況を見渡す興味深い発表&上映。会場にいた四方田犬彦さんの質問に形式を借りたレクも唸らされた。
おしまい。
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