今回は、7月末~8月初旬の日本公開作を中心に。
※本記事は[Web全体に公開]にしています。コメント書き込みの際はご留意くださいませ~。2017/9/9追記。(“いいね”は外から見えません)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第68弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■7月29日公開作
『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
50年代米国都市近郊を描くギミック達の古色と鈍光が映える良作。マクドナルド成功の裏に潜む創業者と革新者の対立、アメリカンドリームの光と影。マイケル・キートン、ジョン・キャロル・リンチら熱演。トランプ系「ポジティヴ」アメリカの原形ここに。
『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』
“声高に戦うのはとても勇敢、けれど最も勇ましいのは悲痛の内に突撃する騎兵。その勝利を誰も認めず、その落馬を誰一人目撃することはない” 19世紀北米舞台の『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』が描くのは、生前10編の詩のみを発表し、1800の詩を遺した天才の圧倒的孤独と克己の物語。
『ローサは密告された』
マニラのスラムで麻薬を商う雑貨屋のおかんと家族、賄賂で釈放を売る警官達。そこにはただ生活の必要だけがあり、彼らの瞳はスラム社会の構造と秩序を各々に映しだす。携帯とスマホやオート三輪とタクシーの対照など、日々変容するスラム街習俗の今を捕らえる、臭い立つ傑作。
■8月5日公開作
『ロスト・イン・パリ』
道化師出身のアベル&ゴードン夫妻による『ロスト・イン・パリ』の、台詞よりもパントマイムの指先が示す方角へ場面が進むこの感覚は、ユーモラスな往年のサイレント映画を観るようで、しかし多彩色の現代パリが舞台という眩暈。極北からの旅人と浮浪者、共に放浪する男女が束の間魅せるタンゴの躍動。
『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』
私事ながら院生の頃、オラファーの作品の中で数日間仕事したことがある。というかそれが彼に関する知識の大半だったので、プロジェクトベースで行政と渡り合う本作の過程描写は新鮮だった。光の反映、霧の共鳴。感覚を造形する作家の貫徹、その対峙と変容。
『スターシップ 9』
馴染みのないスパニッシュ宇宙SF。スペイン・コロンビア合作とあって、現代ハリウッドにはない手作りB級感も期待通りと楽しんでいると中盤から「こう来たか」の超展開。あと中南米の街風景を異化するため平仮名やタイ文字が使用されるレトロ既視感。ローテクSFという妙趣。
『夜明けの祈り』
大戦末期ソ連兵に蹂躙されたポーランドの修道院を舞台とする実話劇。フランス赤十字医師の「ポーランド人は救えない」と切り捨てる台詞から始まる、信仰と合理精神との鋭い対立。治療を拒絶する堅信に医師の矜持が試される。雪原と柔らかな光の醸す静謐と内面の壮絶との眩しい相克。
試写メモ29.1 「治療と敬虔」:
http://tokinoma.pne.jp/diary/2317
試写メモ29.2 「夜明けの帝国」:
http://tokinoma.pne.jp/diary/2324
『リベリアの白い血』
内戦の傷痕色濃いリベリアのゴム農園から、アメリカNYの雑踏へ。一人の移民の目に映る騒擾と混沌の生活世界。夢の国で夢崩れるさなかに襲い来る暴虐の記憶。物欲の権化となった元兵士の後背に現代の亡霊を呼び起こし、手作業の工程を力強く描きあげる福永壮志の確かな手つき。
■日本公開中作品
『ゴールド 金塊の行方』
マシュー・マコノヒー主演新作は、
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』先輩ニキのその後を描くようなマネーゲーム&転落浮上バッチ来いの冒険譚。金鉱脈眠るインドネシアの密林と米国金融界の騒擾との隔絶が良い。ラストで起こる原題“Gold”が孕むニュアンスの重層化も面白かった。
■イベント上映作・新文芸坐シネマテーク
『嵐が丘』
ジャック・リヴェット監督作『嵐が丘』は、エミリー・ブロンテ原作のもんどり打つ情念を抑制し、淡い光と渇いた空気へ晒すことで野生の性をむき出しにする。敢えて余韻を断つような素っ気ない転換の連続が、言い知れない何かの痕をかえって心に深く刻みつける。賢しげに仄めかさず透徹する。その潔さ。
余談。
ジャック・リヴェット『嵐が丘』鑑賞は、池袋・新文芸坐にて。会場で友人牧師に遭遇、偶然彼の教会への言及込みの文章脱稿後だったので、その白スーツの立ち姿を一瞬幻覚かと。大寺眞輔さん講義、相変わらずの名調子でこれは満席にもなるよねと。良い夜。
「彼の教会への言及込みの文章」(前回日記):
http://tokinoma.pne.jp/diary/2329
※というかあれです、zubi_gdさんなのでした。
にしてもジャック・リヴェット版『嵐が丘』の妹役(準主役)候補に、ファビエンヌ・バーブと共に残ったラスト2人のもう1人がエマニュエル・ベアールで、オーディションにはジュリエット・ビノシュも実は来ていたけどリヴェットはたぶん気づかず、後年ビノシュは別の『嵐が丘』に主演ってなんだその濃さは。
という元ツイートに、大寺眞輔さんご本人より訂正リプいただくの巻。
→ https://twitter.com/one_quus_one/status/89112658520126259...
わいわい。
おしまい。
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