今回は8月中旬の日本公開作と、
金子遊レトロスペクティヴ(@御茶ノ水)上映作品より計10作品を扱います。
※本記事は[Web全体に公開]にしています。コメント書き込みの際はご留意くださいませ~。2017/9/9追記。(“いいね”は外から見えません)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第69弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■8月11日公開作
『少女ファニーと運命の旅』
子供達がかくれんぼする、ユダヤ人と知られないように。野山を駆け巡る、銃口に狙われて。ホロコーストの惨劇下、13歳で逃避行を率いた少女ファニーの勇気と決断、命を張って彼らをかばう大人達。子供なりに機転を利かせ明るさを保つ努力の健気さ。中立国スイスの遠さ。
■8月12日公開作
『海底47m』
海底に落ちたケージ内で、人喰いザメにより孤立させられた姉妹の危機。潜水病を起こす急浮上はNGだし、救援隊はサメに阻まれ酸素残量は刻々と減り続けるし、陰気な姉は元気溌剌な妹へなぜか懺悔しだすしもう大変。B級パニック・サメ映画のお約束てんこ盛り超特急の90分。夏だよ。
『海の彼方』
石垣島への台湾移民、一家三代を描く。88歳の玉代おばあと、東京中心に活動する音楽家の孫・玉木慎吾との、生活感のズレたやり取りがユーモラス。八重山にパイン・バナナ農法を齎した移民一世、米軍統治以降における移民の処遇など背景描写も豊富。曾孫40人のゴッドマザーあっぱれ。
現在公開中の『台湾萬歳』では、薩摩から琉球台湾と伝播した漁法が登場する。『海の彼方』では、台湾から沖縄への農法導入の軌跡が移民史として描かれる。かつて農道を歩いた与那国島から屋久島までの島々の記憶が、観客席の暗がりで弧状に連環した夜。
『台湾萬歳』の漁師達: https://twitter.com/pherim/status/887855493728714752
■8月19日公開作
『パッション・フラメンコ』
傑出したバイラオーラ、サラ・バラスに迫る『パッション・フラメンコ』は、研ぎ澄まされた足捌きに宿る孤高の精神性を、舞台の制作過程を追う映像と彼女自身の信念を語る言葉により鮮明に析出する。また伝統に安住しない振付の一原点として、若き日の東京での生活経験が語られる。柔らかく鋭利な軌跡。
近年のフラメンコ映画の中では傑出する
『サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ』がヒターノ(スペインのジプシー)コミュニティの沸騰を描くのと対照的に、
『パッション・フラメンコ』は現代舞台芸術の最前衛で求道を続けるサラ・バラスの個へ肉薄する。
『サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ』tweet:
https://twitter.com/pherim/status/832193511852085249
『パッション・フラメンコ』は、サラ・バラスの舞台《ボセス フラメンコ組曲》制作を追う。本公演は彼女に影響を与えた6人の巨匠へ捧げられるが、うち一人がパコ・デ・ルシア。
『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』から連なる創造と破壊の系譜。
『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』tweet:
https://twitter.com/pherim/status/757219180781326337
『日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち』
特異な映像体験。『日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち』
は、戦前の日本語教育を受けモダニズム影響下にあった台湾詩人達の同人活動が、日本では海外文学として排除される苦渋を描く。そのシュルレアリスムそのものを体現する映像手法が、凡百の歴史ドキュメンタリーから本作を切り立たせる。
時代うつれど人は変わらず、なんかね。
「これは当事者たちには深刻なアイデンティティと向き合うテーマかもしれないが、日本人の読み手にとっては対岸の火事であって、同調しにくい。他人事を延々と読まされて退屈だった」(宮本輝・芥川賞選評)
温又柔tweet: https://twitter.com/WenYuju/status/896057759019302912
地域と時代を隔てて、詩人を扱う映画を短期間に幾つかまとめて観た。そうして感じたところを近いうちに書き出してみるつもり。詩について何の理解もない人間が他人をあざ笑う際によく「ポエマー」などとあげつらうが、これ本人は賢しげに女性性を語っている気でも実際には単に非男性性で括っている男に漂う恥ずかしさにも通じる。しかしでは詩を詩以外の形で語ることはどれほど可能でありまた困難なのかを考えるとき、詩人を描く映画は多くのヒントを提供してくれる、ように思う。と、とりあえず前置きしておく。
『ギフト 僕がきみに残せるもの』
アメフトの元スター選手がALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された6週間後、妻の妊娠を知らされる。わが子へ残すため始めたビデオ日記は、進む病状や当人の絶望、家族友人の助力を得ての再起へ至る全てを映し出す。彼を中心とするスティーブ・グリーソン法案の、オバマ大統領署名による結実への過程も描かれる。
試写メモ30「覚悟」(『ギフト 僕がきみに残せるもの』):
http://tokinoma.pne.jp/diary/2342
■《レトロスペクティブ 映像作家・金子遊》 イベント上映作
@アテネフランセ文化センター http://webneo.org/archives/42792
『ぬばたまの宇宙の闇に』
フィルムは記録している。私の見たかったものを。私の見なかったものを。群島から中東へ、風景が運動する。撮る/盗ることの闇の質感。息を潜める。気配が聴こえる。恋人の自殺、砂漠の戦争、吃として霜柱踏みて思うこと。
『ベオグラード1999』
一水会・木村三浩のセルビア訪問を撮るドキュメンタリーの体裁をとりつつ、一方で監督・金子遊の目である映像は元恋人の面影を追い続ける。自死した女性の溌剌とした笑顔の傍らでは、セルビアの政治家達が背負う苦渋も街宣車の威勢もどこか切ない。図と地の地が際立つ一編。
『ムネオイズム 愛と狂騒の13日間』
収監前の鈴木宗男を追う字幕・音響なしの淡々とした映像が、底なしのバイタリティを際立たせる。想田和弘
『選挙』の演歌節とは対照的な渇いた距離感。あと各々に存在感を放つ松山千春・佐藤優・石川知裕など宗男周辺人物中でも、ムルアカの黒光り感が凄かった。
『インペリアル 戦争のつくり方』
朝鮮紛争に米中が介入し日本壊滅へと至った2045年、16mmニュース映画等から「この百年」を検証する映像ドキュメントが作成された。戦争写真とトーク映像の並置などガチャガチャした感も強いが空気の抑圧から析出される《いい人》集団凶悪化への道程は説得的。
余談。
金子遊については、前回日記「よみめも34」2項で彼の新著を扱った。次回よみめもでも旧著を扱う。一定期間特定のテーマに関心を集中させる心理ブースト手法は、時によくいう“引き寄せの法則”みたいなものをも招来させる。こともある。
九州からアテネへ: https://twitter.com/pherim/status/891586658184736769
ともあれこの連続鑑賞により、妙な美学化を回避する手つきに映像作家・金子遊の芯をみた感。過去化した未来から現在を描く
『インペリアル 戦争のつくり方』への到達は、至近回の《試写めも》で言及した「人生や世界に対しての“異なる”感覚の提示であり、“異なる”態度への変更要請」を思わせる。
試写メモ30「覚悟」(『ギフト 僕がきみに残せるもの』):
http://tokinoma.pne.jp/diary/2342
また
『ぬばたまの宇宙の闇に』上映回は、金子遊本人による劇場内でのナレーション朗読が本編後半に重ねられた。活動弁士的でもあり、予想外の一回性を伴う試みとして楽しめた。
なお、金子遊監督新作の公開も近いとの由。
おしまい。
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