pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2017年
12月22日
09:08

ふぃるめも79 麗しきボスの花筐

 

 今回は、12月中下旬の日本公開作を中心に。


 タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第79弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■12月8日公開作

『否定と肯定』

ホロコースト否定論者とユダヤ人歴史学者の法廷闘争。アウシュビッツ生存者や被告の意向に反する弁護戦略が功を奏する過程や、抑制の効いた判事の裁定を追う描写が巧い。煽動家達の動機づけや事実否認の論理回路も説得的に描かれる。あとレイチェル・ワイズの法廷衣装こそ正義な一作。





■12月9日公開作

『女の一生』

地獄の日々へ射し込む一閃の陽光。モーパッサンの名作映画化という体裁から惹起される、優雅で退屈な予感とは真逆の鋭い今日性。ノルマンディーの荒々しい自然と造り込まれた美術衣装との対照は眼福。四季の巡りと記憶の温度が今を滲ませ息させる、その情感描写の鮮やかさと狂おしさ。

『女の一生』鑑賞後に『ティエリー・トグルドーの憂鬱』のステファヌ・ブリゼ監督&脚本による次作と知り余韻深まる。歴史物+社会派作の由来も納得。「こんなはずではなかった」という救いのない現実描写の極致にこそ、斜陽の時代を生き抜く手がかりは看取され得るのかもとか。

  『ティエリー・トグルドーの憂鬱』 tweet:
   https://twitter.com/pherim/status/768590487108235264




『ルージュの手紙』
奔放かつ豪胆に生きる義母と、堅実に生きたいが義母に振り回される助産師。カトリーヌ・ドヌーヴの貫禄凄まじく、老齢による全身の皺に凝縮された妖艶の反映をみる。数度挿入される出産場面は全て本物という演出がまたよく効いている。血と家族の物語。

フランス映画祭2017@アンスティチュ・フランセ上映作の一。




■12月15日公開作

『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』

ワルシャワを舞台とする、戦災下の動物園を襲う悲劇+ユダヤ人隠匿救出の物語。鼻柱の強い役柄が多いジェシカ・チャステイン演じる、華奢だがしなやかで芯の強い主人公が良い。ナチス侵攻下の凄惨場面とカワユスAV(Animal Video)の飽くなき往還。

『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』は、バンコクで今年春先に観た。そのしばらく後に観たシャマランの怪作『スプリット』も動物園のバックヤードが舞台。アクションシーンで登場する猛獣類の移動ゲート他、隠喩的メタモルフォーゼ感覚など通底するものあり。

  M・ナイト・シャマラン監督作『スプリット』ジェームズ・マカボイ主演 tweet:
  https://twitter.com/pherim/status/862930331124375553




■12月16日公開作

『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』

サルマン・ラシュディやオルハン・パムク、蔡國強やルネ・フレミングなど意外な人物たちによるボス(ボッシュ)《快楽の園》語りが楽しい。画質に頼り本質を逃す愚に陥らず、西洋美術史切っての奇作を巡る謎の探求が新たな謎を呼ぶ構成も巧い。贖罪と形の輪舞。





『アランフエスの麗しき日々』
夏の午後、木漏れ日のもと繰り広げられる男女の会話を主軸とするヴィム・ヴェンダース監督新作は、ペーター・ハントケの戯曲映画化。『ベルリン・天使の詩』以来となる二人のコラボ作品は、言葉と画による映画の再構築を志す意欲作。この抑制の内なる沸騰、まさに矍鑠。

『アランフエスの麗しき日々』の日本公開で惜しまれるのは、一般ロードショーで3D上映が見当たらない点。文芸的な楽しみは残るものの、ヴィム・ヴェンダースは『誰のせいでもない』の新機軸に則った挑戦を本作でも明確に試みており、それは3Dでしか味わえない。年末で娯楽大作目白押しのこの時期こうした実験的意欲作に3D館を充てるのが厳しいのはわかるが、今後の上映機会に期待。
  
  『誰のせいでもない』tweet:
  https://twitter.com/pherim/status/796638438246219776





『ヒトラーに屈しなかった国王』
現国王のお爺さん、ノルウェー国王ホーコン7世が主役の映画『ヒトラーに屈しなかった国王』が年末日本公開予定。ナチスの脅迫に対し抵抗を貫き、現ノルウェーの基礎を築いた人々の物語。舐め切ったナチスの巡洋艦を、老朽要塞の老司令官が新兵を率いて沈めてしまう冒頭部から圧巻の良作です。

さてこの北海海戦における老将とはビルゲル・エリクセン。中立国の自国へ正体不明艦が侵入、これ以上は許容できないとなった時、彼は軍規に背いて全責を負い砲撃を命じます。結果として、彼の断行によりナチスのオスロ占領は4時間遅れたと言われ、その間に王室は首都脱出、ノルウェー史の転換点に。

そして今日の中国人民解放軍にも、現政権を営むタイ軍部にも、この老将と同じ種の内面規律・規範により動く軍人が恐らくいる。帝国陸軍の暴走を「あの時だけの愚行」と断じる風潮にむしろ愚かしさを感じるのは、彼らの理と決断を甘く見ている気がするからです。現実を決めるのはどちらか、明白ですね。

というわけで『ヒトラーに屈しなかった国王』、12月16日公開。軍事&戦史クラスタ森へ迷い込んだ昔のツイートRT。昭和天皇と立ち位置は違えど、連合国により生かされた王という共通項も連想されるなど。ちなみにホーコン7世の兄はデンマーク王で、ナチス従属の道を辿りました。




『わたしは、幸福(フェリシテ)』
幸福という名をもつ肝っ玉歌姫フェリシテの疾走。キンシャサを舞台に、息子の手術費のため奔走する物語の端々へ挿入される彼女の熱唱場面は圧倒的。夜空を焦がす歌声とねっとりとした空気の質感、街路をうずめる油の匂い、深い森に漂う夜の香り。コンゴ堪能の秀作。





『花筐 HANAGATAMI』
大林宣彦監督新作は、薄白い檀一雄原作を烈しく原色のみで染め上げる。主演・窪塚俊介だけが一貫して演技過剰。しかしこの過剰が重しとなり鍵となり、映像的にも情緒的にも終始アンバランスな作品内世界へ張り詰めた均衡をもたらす不思議。満島真之介&長塚圭史のコントラストも鮮明で良い。





■12月22日公開作

『フラットライナーズ』

医学生たちが臨死実験により超人的能力を獲得するも、襲い来る幻視が次第に彼らを追い詰める。早めのテンポに独特の味がある、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のニールス・アルデン・オプレヴ監督新作。コニー・ウィリスのSF秀作『航路』の映画化ホラー版という印象。

リメイクを謳いつつ1990年版『フラットライナーズ』主演のキーファー・サザーランドも出演するなど続編的側面も。オリジナルと共通する人物を異なる立場で登場させ、似て非なる同一時間軸上の物語を現出させるあたり細田守版『時をかける少女』の良演出を想わせる。心理学ギミック的にも、キーファー・サザーランドにもう少し《賢者》的メタゼリフがあれば良かったかなと。




 さて余談。

 まず、ノルウェー国王ハーラル5世演説を動画にてご紹介。↓





 「私の祖父母はデンマークと英国からの移民です。ノルウェー人は神様を、アッラーを、全てを信じます。何も信じない人もいます。私たちには違うところもありますが、私たちは一つです。ノルウェーとは、一つなのです」


 『ヒトラーに屈しなかった国王』は、上述のようにハーラル5世の父君ホーコン7世が主人公です。このツイート、公開3ヶ月前の9月にしたにも関わらず、かなりRT&favされました。いまのpherimアカウントのスケールだと、100はしばしば超えるけれど(ex.きのうの『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』tweet)、200を超えるのは珍しかったりします。いずれにしろ何がRT3桁超えの流れに乗るのか、いまだに全く読めません。

  『ヒトラーに屈しなかった国王』 tweet :
   https://twitter.com/pherim/status/910695087910162432

 移民、なんですよね。ある意味自分も。そして難民の悲壮感はないにしても、また非政治的非経済的ではあれ、潜在性精神的難民な可能性とか。そこはそれ、この流動する現代ではたぶん誰しも相応に。そのあたりけっこうふだんは無自覚だけれど、関心の傾斜には確実に影響してますね。

 本年ラストのふぃるめも更新になります。
 来年もどうぞよろしく。




おしまい。
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