pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2018年
01月05日
23:45

ふぃるめも80 白い殺人

 
 
 今回は1月初週の日本公開作と、新文芸坐シネマテーク、フィンランド映画特集上映、日本公開未定作など10作品を扱います。

※《ふぃるめも》記事のみ[Web全体に公開]にしています。コメント書き込みの際はご注意くださいませ~。(“いいね”は外から見えません)

 タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第80弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)




■1月5日

『キングスマン:ゴールデン・サークル』

紳士的ヒーローのスーパーアクションがコメディ、ホラー、スパイ物ジャンルの壁を突き破って開幕ロケットから終幕へと一気呵成に着地する、前作同様に速度感ある爽快作。御大復活劇もジュリアン・ムーアのドロンジョ的ラスボスぶりもハマってて楽しめた。

『キングスマン:ゴールデン・サークル』日本公開は1/5。前作『キングスマン』の日本でのブームには正直不自然な過剰さ、作品に内在しない要因が先走る不気味さを覚えた。とはいえ結果として本作を観るためだけに海外へ弾丸渡航する人のツイートを複数散見するに至り、それもまたアリかなとも。

  『キングスマン』(前作): https://twitter.com/pherim/status/570921076177313794
   ※実は前作も原題では"Kingsman: The Secret Service"と副題がつき、続編は前提されていました。




■1月6日

『クイーン 旅立つわたしのハネムーン』

婚約を破棄されたインド人女性が、新婚旅行の予定地を一人で旅する。パリ&アムスでの予想外の出会いと体験が彼女を変えていく。ボリウッド映画の文法を踏まえつつ乗り越える試みと、ヒンディー的因習の外に新たな自己を見いだす軌跡が重なる、瑞々しい良作。

新婚旅行の計画を女性が一人実行する点で『クイーン 旅立つわたしのハネムーン』は、トム・リン(林書宇)の台湾映画秀作『百日告別』を想起させる。しかし深い喪失から再生の契機までを描く後者に対し、『クイーン』は初めて世界に触れる冒険成長譚の趣きがあり終始明るい。

  『百日告別』 https://twitter.com/pherim/status/832760993088278528




■特集上映「アキ・カウリスマキが愛するフィンランドの映画」@渋谷ユーロスペース
 http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000219

『夏の夜の人々』"Ihmiset suviyossa"
1948年作。フィンランドのノーベル賞作家Frans Eemil Sillanpaaによる同題作映画化。台詞回しや雰囲気は黄金期ハリウッドの名作群に寄せながら、どうしようもなく洩れ出る大地への畏怖のようなもの。あとイケメン木こりの溌剌とした謎の存在感。白夜の異容。

「夜も明るいままだと、時が止まったようだ」




『白いトナカイ』"Valkoinen peura"
サーミ神話における“白いトナカイ=魔女”伝説の映画化作。大自然への恐怖が勇壮なトナカイへの畏敬へと転化した、北極圏の民の世界観を描く。純白の雪原と、おどろおどろしい祭壇や呪いの歌曲との対照が鮮烈。あと魔女の化身役の立派なトナカイがふつうにかわいい。

『白いトナカイ』は1952年作だが、もっと古いサイレント映画特有の戯画調が、北国ゆえの強い白黒コントラストのため更に強調された感。モノクロ映画における雪原の生む陰影に『極北のナヌーク』が想起されたけれど、『白いトナカイ』は抜けるような空との対照のほうが印象的。

  『極北のナヌーク』 https://twitter.com/pherim/status/678697917910147072

『サーミの血』では、主役を含めたサーミ人の起用が謳い文句の一つながら、個人的にはその容貌の現代化にも強いインパクトを受けたけれど、『白いトナカイ』にそうした向きは感じず俳優も明らかにスオミ中心、むしろ自国文化的多様性を利用した映画大国への対抗心を感じる。

  『サーミの血』とヨイク動画: https://twitter.com/pherim/status/948090354955296768




■新文芸坐シネマテーク

『死んだってへっちゃらさ』"S'en fout la mort"

闘鶏で荒稼ぎする黒人二人、クレール・ドゥニ1990年作。パリ郊外の渇き荒んだ裏町の、移民入り乱れる賭場描写の鮮烈。アフリカ本土とカリブという二人の出自が気構えの差異となる構図を、フランツ・ファノン交え語る大寺眞輔講義にも感銘。新文芸坐シネマテーク企画上映。

くたびれた裏町に露出する崇高、とでも言うべきか『死んだってへっちゃらさ』の闘鶏場面に横溢する異様な生のエネルギーと、古いカラー映像特有の猥雑感の混濁具合に圧倒され通しの一時間半作品。ストレートにシンプルに駆け抜けさせるために仕組まれた網目の巧緻が余韻の内で解きほぐされゆく充足感。




『35杯のラムショット』"35 rhums"
パリ郊外の労働者地区に暮らす黒人父娘。多くを望まない父の質実と、恋人に惹かれながら父想う娘の逡巡。炊飯器にも露わな小津リスペクトが、終幕でみせる優美な飛躍に息を呑む。要素の総合でなく全体が全体のまま素晴らしい。体感されるこの充実は、映画を観る幸福そのもの。



 

■日本公開中作品

『第三の殺人』

沸騰の役所広司。是枝裕和作品に固有の安定感を揺さぶるほど役所の演技が突出、最大の見せ場となる面会室での福山雅治との対峙場面も拮抗せず、魂魄込もる表情筋の数が桁違いで画として不均衡に見える。あと法務省へ出向中の『シン・ゴジラ』尾頭ヒロミ課長補佐、四角四面な魅力健在。





『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』
ストーリー進行の全体にはガチャガチャな印象を受けるも、中盤登場するイスラム圏のスークやカスバ調の異星街での逃走劇シークエンスなど各所に見応え。『ローグ・ワン』のような良スピンアウト路線だけでなく、大河の本流まで換骨奪胎が要請される局面なのねと。

『フォースの覚醒』2015年12月、『ローグ・ワン』16年12月、『最後のジェダイ』17年12月と、数年前の報道通りに年末恒例化したのでスター・ウォーズ紐付け。なお18年はローグ・ワンに続くハン・ソロと相棒チューバッカ主役のアンソロジー、19年はepisode9が予告されてますね。

  『フォースの覚醒』 https://twitter.com/pherim/status/682325136033345538
  『ローグ・ワン』 https://twitter.com/pherim/status/814019015727194112





『オリエント急行殺人事件』
序盤のイスタンブール駅周辺の街区描写と、登場人物の個別紹介が極私的にハイライト。ヴィクトリア朝衣装&車内装飾とともに、ウィレム・デフォーやジュディ・デンチなど名優の無駄遣い状態が贅沢に感じられ、もし次作『ナイルに死す』でも維持されるならこの豪華さこそシリーズの味になるのだろうなと。

ケネス・ブラナー版『オリエント急行殺人事件』、序盤のイスタンブール描写に感激したのは、アーケードに覆われる前のグランドバザールなど旧市街の過去再現+大胆なCG演出が楽しかったから。駅など至近のアヤ・ソフィアやスレイマニエ・モスクに匹敵する大ドームが数珠なりになってて思わずニヤけた。

厳寒、豪雪の断崖をゆく特別列車の構図は、ソン・ガンホ&ティルダ・スウィントン出演の『スノーピアサー』を思い起こさせた。『ナイルに死す』以降も続編制作が続くようなら、ティルダ・スウィントンは早い段階で出演しそうですね。

  『スノーピアサー』 https://twitter.com/pherim/status/410744527721230336




■日本公開未定作

"Wind River"

白銀の森に横たわる少女の死体。発見者のハンターを伴ったFBI女性捜査官による捜査は、土地の因習と閉鎖性を前に難航する。『ボーダーライン』脚本テイラー・シェリダンの初監督作。対峙する獣達や厳格な自然の淡々とした描写が全編で凄味を醸すクライムノワール秀作。沈黙する森の圧力。

ちなみに本作『ウィンド・リバー』、最近では『Marvel パニッシャー』主演で気を吐いたジョン・バーンサル(Jonathan E. "Jon" Bernthal)が出ている。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作『ボーダーライン』の脚本Taylor Sheridan機縁の客演だろうけど、短いながら非常に重要な役柄でファンには垂涎シーンも。

  垂涎の可能性→ https://twitter.com/pherim/status/945518692086947841






 余談。

 ほんのり北海道のおみやげ風味な本稿タイトル「白い殺人」。殺人、死をめぐるタイトルが並び、比喩的な冬や雪原そのものを舞台とする作品も目立ったことから、思いつきました。説明するほどのことでもないですね。

 ところでツイッターアカウント @pherim [https://twitter.com/pherim]、この2年ほどはすっかり映画アカウントとしてフォローしてくる人がメインになりました。さらには匿名の所業ゆえ、本名仕事とはまったく別口で、実は顔見知りのかたからツイッターアカウント宛てに試写のお誘いが来ることも。

 動画サイト興隆、マスメディア退潮の止まらないなか、映画館好きなSNSアカウントは、配給宣伝会社にとっては顧客としてのみならず口コミ的にも重要度が日々ずんずん上がっている、ということをこうしたあたりにも感じる次第。それが嗜好のソーシャル化、ポップなネタ化の意味であり、既成秩序再編の兆しでもあり、こうした媒介なしの直リンクが起こる頻度は今後しばらく上がる一方なのでしょうね。





おしまい。
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