pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2018年
01月28日
18:50

ふぃるめも81 デトロイトは今夜死ぬ

 


 今回は、1月中下旬の日本公開(予定)作から12作品を扱います。[含再掲2作]


 タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第81弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)



■1月13日公開作

『5パーセントの奇跡 ~嘘から始める素敵な人生~』

インド系移民で弱視の病をもつ主人公が、視覚障害を隠しホテルマンへの道を歩む。圧倒的な暗記努力で試練を乗り越えたり、グラスの汚れを音で判別したりと実話ベースの描写が興味深い。多国籍で様々な事情を抱える同僚たちの相互扶助も見所の一作。





『わたしたちの家』
記憶喪失の女性が流れ着いた一軒の古民家で起こる、異なる二つの世界の呼応。その不穏さにはしかし、人を脅かす種の恐怖はない。建物本来の機能を心的に深く掘り下げるような手触りの中立性が、心地よい独特の余韻をもたらす。包み込まれるような、この変てこな感じはかなり好み。

『わたしたちの家』は、清原惟監督による東京藝術大学大学院修了作品。大学院で黒沢清に師事したらしいけれど、空虚さの充実とでも言うような独特の空気感に黒沢作品譲りのものを感じる。精神がひび割れそうなほど張りつめていながら音無しの解放感に充ちていて、そこでは人も空気も等価であるような。

あ、そうか。『わたしたちの家』に感受した黒沢清風味の過剰さを謎にも思っていたけれど、それは空気感の演出のみでなく映り込む町や家の醸す三浦~房総の港町っぽさ(実際にどこかは知らない)が、黒沢『岸辺の旅』の木更津の視覚記憶と呼応していたからだ、と唐突に今気がついた。そういう日もある。

  『岸辺の旅』画像並置: https://twitter.com/pherim/status/957556485503897600




『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
ずっとカメラを断ってきたファッションデザイナーへの密着ドキュメンタリー。私生活の研ぎ澄まされぶりに唖然としたり、専任スタッフを置くコルカタの刺繍工房に感心したりと見所多し。NYのメガネお婆ちゃんアイリス・アプフェルも出るよ。





『はじめてのおもてなし』
ミュンヘンに暮らす富裕な一家が、母の発案で難民を一人受け入れる。選ばれたナイジェリア青年は、偏見やボコハラムから受けた傷に苛まれつつ新生活への適応に務めるが。ドイツの世界の諸問題を反映させた膨大なテーマ群を、気楽に笑えるコメディへまとめ上げた巧さに感心。

『はじめてのおもてなし』、主人公であるナイジェリア青年の体験と心境変化を巡る描写もさることながら、率先して難民を受け入れるメルケル政治に対する一般ドイツ人の心情や、保守的でヒトラーの地盤ともなったミュンヘンの地域性まで諸々戯画化されており興味深い。#難民映画祭 オープニング作品。

  難民映画祭連ツイ by pherim:https://twitter.com/pherim/status/914722756356333568

『はじめてのおもてなし』“Willkommen bei den Hartmanns”は1月13日より全国順次公開。ドイツ語でミュンヘンの地域性もジョークネタとするため、ドメスティックな文脈への視線や配慮も多分に感じられ、ヴェンダース作など著名なドイツ映画とも異なる面白さのある作品でした。




■1月19日公開作

『マザー!』

ダーレン・アロノフスキー新作『マザー!』、客十人いなかったけど滅茶良くて笑った。一件の家を舞台とするほぼ室内劇。『ノア 約束の舟』で広げきった風呂敷を、『π』のミニマルな構築性へ閉じ込めた、アロノフスキー現時点での集大成とも言える珠玉作。バルデム好き必見。日本公開2018年1月。

『マザー!』の日本公開は中止に。しかし大変良い映画でしたので元の公開予定日に併せ再掲しました。

  "Mother!"日本公開中止関連ツイ: http://twitter.com/pherim/status/925559174024413184




『ジオストーム』
数寄屋橋交差点に直径2m大の雹が降り注ぎ、買い物中のお婆ちゃんが遁走する。『アルマゲドン』以降のディザスター物大作との違いは、凶暴化した自然災害を抑える気象統御衛星が人類に牙をむく点。とはいえ一周回ってHAL展開へ突き抜けない辺りも、娯楽作の立ち回りとしては上々かも。





■1月20日公開作

『ライオンは今夜死ぬ』

南仏を舞台とする諏訪敦彦監督新作は、ジャン=ピエール・レオ主演でポーリーヌ・エチエンヌが恋人の幻影を演じる物語の傍らで、子ども映画制作ワークショップの参加児童がそのまま登場し、老主人公を巻き込んで劇中劇を撮っていく。無自覚な期待値を子どもが突き破る面白さ。





■1月26日公開作

『デトロイト』

キャスリン・ビグロー監督新作。1967年のデトロイト暴動下、白人警官による黒人市民への拷問虐殺を描く。イラク舞台の爆弾処理場面で注目を浴びた同監督作『ハート・ロッカー』を彷彿とさせる生々しい臨場感、壁に立たされ背後で友が警官達に惨殺されていく狂気の再現描写が凄まじい。

重工業により隆盛を極めたデトロイトは、本作に描かれる67年暴動を境に衰退への道を辿りだす(これと相反して日本の高度経済成長が)。ビグロー監督の重点は勿論トランピーな現代米国批判にある。ちなみに77年舞台『ナイスガイズ』女ラスボス最後の台詞は「デトロイトは永遠よ!」

  『ナイスガイズ』tw: https://twitter.com/pherim/status/842315469021306880




■1月27日公開作

『殺人者の記憶法』

アルツハイマーの元連続殺人犯をソル・ギョングが演じる、というだけで胸熱のクライムサスペンス。ライバル殺人犯登場による『羅生門』展開が期待値以上に楽しめた。ユーモアとシリアスの切り換え自在な名脇役オ・ダルスがまた凄まじく良い。忘れたふりを忘れた果てに覗ける真実。





『サファリ』
娯楽的に野生動物を狩るトロフィー・ハンティングに迫るドキュメンタリー。監督ウルリッヒ・ザイドルの鋭い視線はハンター達の醸す欺瞞傲慢を軽く突き抜け、偽善と隠蔽の坩堝たる現代の全体をアフリカの荒野へ映しだす。一皮剥けばなおグロテスクに現れる、形を変えた植民地支配の息吹。

白人ハンター達には過剰なほど語らせ、黒人の地元民は労働姿か無言の立ち画のみという、『サファリ』の登場人物を巡る扱いの差は観る者を困惑させる。しかしそれが無自覚な差別意識の露出でなく、意図された露悪的演出だという推察もまた、場面が進むごとその徹底ぶりゆえ強まっていく。このどぎつさ。

『サファリ』を観てハンター客と自身との間にまず境界線を引く種の反応は当然あるだろう。けれど己の欲望が生む犠牲と面と向かう彼らの方が幾分かマシではとも少し思う。実のところ合わせ鏡に映りでる影姿ほどにも両者に違いはなくて、狂っているとすれば人間の全体がという有り体の。きょう日本公開。

自らの誠実さを言い募る人の薄っぺらさを思わずにいられない。この意味では「動物を殺すのかわいそう」と言いつつスーパーでパック肉を選ぶことには疑いがない向きにこそ『サファリ』はお奨めかもしれない。ハントを楽しむ家族が狂ったように映るとして、屠殺を視野外へ置く己との差は実際どれほどか。




『ダークタワー』
マシュー・マコノヒーvsイドリス・エルバ対決を堪能できる終末ファンタジー。スティーブン・キング原作の映画化で起こりがちな、設定を盛り込み過ぎて飽和するパターン再来気味も、肉弾系ジョン・ウィック風or勝新風ガンアクションが小気味良く、ツルっとイケる立喰いそば的娯楽作。

スティーブン・キング原作からの映像化作は、一枚絵として印象に強く残る物が多い。それは『キャリー』『シャイニング』から『IT』『グリーンマイル』まで通して言えることだけど、アクションに特化する『ダークタワー』の塔は書き割り風味でこの点惜しい。ちな暗黒塔の検索画はどれも基本ゴシック調。

このことはスティーブン・キング原作の世界設定における明暗付けやハイライト強調の巧さを反映していて、そういえばストーリーを映像化しながら読み進めるタイプの小説は、映画化されずとも一枚絵で記憶しているものが多いなとも。RT>『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』https://twitter.com/pherim/status/926393177627488257



『デヴィッド・リンチ:アートライフ』で語られる言葉がとても瑞々しく響くのは、カメラのフォーカスが言葉ではなく日々の営みに当てられた結果にじみ出る“言い知れないもの”と彼の口から放たれる言葉とが、奇跡的にぴったり重なる心象を描くからで、これほど幸福なインタビュー作品はなかなかないよ。

若き美術作家となる日までの回顧も興味深く、『デヴィッド・リンチ:アートライフ』は今後何度も観るだろう良作だった。国内外の美術展で思いがけなく彼の絵画やシルクスクリーンに出会う事があるけれど、それらと『ツイン・ピークス』や『マルホランド・ドライブ』など映像作とがで初めて繋がった感。





おしまい。
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コメント

2018年
01月28日
21:51

「殺人者の記憶方」
原作小説が結構、実験的な作品らしく(?自分は未読)色々と比較で話題になってます。
それはそれとして自分はソルギョングの老けメイクが明石家さんまにしか見えなくて、ちょっと困りました。

2018年
01月28日
22:24

そう、さんまがシリアスになってる感でまくりでしたw
ところでこれ、ソン・ガンホ主演の『殺人の記憶』に、たぶん原題でもそっくりなのではと思うんですが、そこについては世評あまり突っ込まれてないんですかね。日本のパブリッシャー的感覚だと、なんかマイナー配給とかがよくやる二流感も出ちゃってこの作品の質的にちょっと惜しい気がしたんですよね。

2018年
01月29日
03:29

もともと映画になる前の原作小説の時点で評価の高かった作品ですし、タイトルが内容をよく表してたせいか、あまりそういう話は聞かないですね。ひょっとしたらどこかで出てるのかもしれないけど、自分は目にしてないです。

2018年
01月29日
09:38

なるほど、感謝です。原作からの期待値のほうが、10年前の映画タイトルの印象を凌いでいるということですね。にしても韓国映画は製作の体制だけでなく、役所広司が群として生息する感じも素晴らしいですね。

2018年
01月30日
13:59

ソン・ガンホに続く、マ・ドンソク、ユ・ヘジンみたいな2枚目に程遠い俳優の怪演を見てると、なんか不思議な、してやったり感を感じます。なぜだ?

2018年
01月31日
10:03

マ・ドンソク、かなり好みです。演技力よりボリュームで勝負みたいなw 日本だとピエール瀧かなぁ。

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