今回は、2月上・中旬の日本公開作を中心に14作品を扱います。
(含再掲2作+短編5作)
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第82弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■2月1日公開作
『スリー・ビルボード』
娘を殺した犯人が未逮捕であることへの母の抗議を軸に、さびれた田舎町の閉塞社会を丸ごとスクリーンに映し出し、現代世界を覆う不寛容全体の風刺へ到る。劇作家でもあるマーティン・マクドナーの脚本がとにかく密で、多重性ある難役に応える名優たちも逐一見事。圧巻の秀作。
『スリー・ビルボード』は、「良い映画」という概念をあらゆる意味で体現する一作。実をいうと、劇場で観た #2017年映画ベスト10 入りを最後まで迷った作品で、『長江 愛の詩』が『パターソン』と密接に絡む印象を残さなければ、確実にこちらを入れていた。きのう日本公開。
2017年映画ベスト10 tweet: https://twitter.com/pherim/status/946547945523912707
■2月3日公開作
『THE PROMISE 君への誓い』
現トルコ政府もいまだ事実を認めない、第一次大戦時のアルメニア人大量虐殺を正面から扱う意欲作。そのシリアスさに沈着せずドラマとしても秀逸。事実上の処刑と変わらない砂漠への放逐を前に、無謀と知りつつ武装抵抗を試みる村民の一幕など『七人の侍』ばりの迫力展開。
『THE PROMISE 君への誓い』の他に、オスマン帝国によるアルメニア人大量虐殺を扱う傑作映画として
『消えた声が、その名を呼ぶ』がある。こちらでは軍による砂漠での虐待や、シリア経由での北中米への離散模様も描かれる。アルメニア人の現代に触れられる両作鑑賞ぜひお奨め。
『消えた声が、その名を呼ぶ』tweet: https://twitter.com/pherim/status/908641601286578176
『苦い銭』
ワン・ビン監督新作。雲南から沿岸部工業地帯へ出稼ぎに出る少女達に始まるこのドキュメンタリーは、縫製工場の周縁で生起退行する人間ドラマを質実に映しだす。沿岸部から先にはもう生き場がないそのどん詰まり感はしかし、今日の消費生活が作る翳りそのものとして誰しもの肌身に近しい。
『苦い銭』では、工場外の階段から見おろす同じアングルの映像が、何度もくり返し流される。画面右半分がトタン屋根と車道で区切られるその光景の執拗なくり返しは、やがて芋づる式に増える人物群を足枷の鎖で束ねるようなニュアンスを帯び始め、全編に通底するリズムとなる。日常の風景こそ恐ろしい。
『花咲くころ』
グルジア映画。誘拐された女性が強引な結婚を受け入れてしまう《略奪婚》のメンタリティが、都市化し荒廃したトビリシ郊外になお残る様に驚愕する。配給行列の凄惨など、90年代ソ連末期の社会描写も見どころ。また花嫁の親友役が超絶良く、終盤で見せる長回しの舞踊場面は忘れがたい。
アテネでの初見時連ツイ(『現代ヨーロッパ映画(その1)-移民・難民・越境・辺境・マイノリティ』企画上映):
https://twitter.com/pherim/status/763879482876768257
『アバウト・レイ 16歳の決断』
エル・ファニングが演じるトランスジェンダーの16歳とその母親の物語。性同一性障害を巡る無理解との格闘が克明に描かれ、磨き抜かれた脚本に驚嘆。傷を抱えつつ前に進む我が子を支える母をナオミ・ワッツが、ゲイの祖母をスーザン・サランドンが好演。きょう日本公開。
『アバウト・レイ 16歳の決断』は、LGBTテーマの良作として
『リリーのすべて』から
『ストーンウォール』への流れで昔つぶやいた。テーマ云々以前に映画として優れており、2016年バンコクにて鑑賞後、日本公開中止の報を目にしガッカリした。ようやくの国内お目見え、喜ばしい。
https://twitter.com/pherim/status/811873365132615680
■2月10日公開作
『アウトサイダーズ』
マイケル・ファスベンダー&ブレンダン・グリーソンによる父子3代のアウトロー物語。ダスティン・ホフマン&ショーン・コネリー名作
『ファミリービジネス』を、訛りの強い英国貧困層へ移植した感。生存環境が堅気になることを許さない、犯罪街道を行くしかない一家の矜持と壮絶。
■2月16日公開作
『グレイテスト・ショーマン』
テントによるサーカス巡業の起源を描くミュージカル。役者ヒュー・ジャックマンの底力に呆然。異形の者を集めた見世物小屋への迫害から巡業へ至る実在の興行師P.T.バーナムの道行きが、現代の見世物最先端たるハリウッドで再現される妙趣を堪能。ショーマン魂唸る一作。
昨年暮れ、バンコクでの『グレイテスト・ショーマン』公開時に出ていたVR体験ブース。本編の撮影現場を体験する内容で、今日の見世物小屋的何か。ヴィジュアル系娯楽産業VRシフトの必定を思わされる。VR booth of "The Greatest Showman" by HTC Vive, might be Oculus Rift, Siam Paragon, BKK, 2017.
VRブース画像→https://twitter.com/pherim/status/962979522432741377
■2月17日公開作
『長江 愛の詩』
傑作。上海沿岸部の工業廃水に黒ずむ川面から始まる本作は、詩を読む男と謎の女を軸に大河を遡る。弔いと黒魚の伝説、塔に響く僧の問答、三峡ダムの軋む痛切。果てはチベット源流域と東シナ海とを呼応させる撮影監督李屏賓の眼差しが、中国近代を深く突き放す。視覚芸術の精髄ここに。
ちなみに『長江 愛の詩』原題は"长江图"で、ここには南宋に始まる南部中近世の水墨画における主要テーマである長江図の最新映像技術による更新、という野心が読み取れる。これは楊超(ヤン・チャオ)監督へのインタビューにおいて直接確認したことで、李屏賓は本作のオファーを己の使命と感じたという。
『長江 愛の詩』は、侯孝賢やトラン・アン・ユン、是枝裕和ら世界の巨匠たちに協働を熱望されてきた撮影監督・李屏賓(リー・ピンビン)が撮ったと聞き、数の少ない4K試写へ昨年暮れ無理して行ったが見事に当たった。銀熊賞を獲ったベルリンでも2K上映で、4K上映実現自体が実は李屏賓の肝煎りという。
4Kマスコミ試写自体、客席は10人もおらず全く注目されていないが個人的には昨年ベストの『パターソン』に匹敵、というか《詩を綴るアメリカのバス運転手》から《詩を読む中国の運搬船主》への展開は自分のなかでシームレスに繋がっていて、ネルーダ、ディキンソン、尹東柱とポエトリー映画豊作だった2017年の印象を確定づける一作となった。
→https://twitter.com/pherim/status/898178727430864896
『ウイスキーと2人の花嫁』
第二次大戦中スコットランドの小島で起きたウイスキー騒動を巡るヒューマンコメディ。ウイスキーの配給が止められた島民達の心を、沖合の座礁貨物船が鷲づかむ。物語のリズムも小気味よく、島嶼部の荘厳な風景とスコティッシュ訛りの強い島民達の戦時生活描写が目に楽しい。
■企画上映《東京国際映画祭CROSSCUT ASIA「ネクスト!東南アジア」提携企画 東南アジア、巨匠から新鋭まで》@アテネフランセ文化センター http://www.athenee.net/culturalcenter/program/to/tounanas...
『母親』
タイ短編、
『孤島の葬列』のピムパカー・トーウィラ監督作。とり返しのつかなさに対する母の情念が、男達の表象する社会関係を軽く突き抜け空虚の闇と呼応する風景に孕まれる無輪郭の鮮烈。それにしても縦に設置された蛍光灯が夜闇に光る様を切りとる映像の醸すアピチャッポン色の強さとか。
『おばあちゃん』
シンガポール短編。ボート転覆により小島へ迷い込んだロヒンギャ難民の少女と、彼女の世話を焼きつつ警察へ連絡をとる老婆の一日。若手女性監督カーステン・タンによる2012年にあった実話ベースの本作は、そこに起こり得る交流と葛藤を個の心情に即して描く。声高でない分だけ深い。
『ラブ・ストーリー・ノット』
インドネシア短編。二人の娼婦を巡る陰陽の対照が色鮮やかで、彼女らを繋ぐ男(ヨセプ・アンギ・ノエンYosep Anggi Noen監督自身が好演)の醸す空虚さも効果的。裸身もキスも伴わない性描写の艶やかさに驚かされる。画に不思議な力あり’83生まれのこの監督、今後来るかと。
『ラブ・ストーリー・ノット』、意外にRTファボあったのでyoutubeの良予告編もご紹介。(ヨセプ・アンギ・ノエン監督→@angginoen) 本作はアテネフランセ文化センター 国際交流基金アジアセンター『東南アジア、巨匠から新鋭まで』企画上映の一。他作も以下紐づけ連ツイします。
『アナザー・シティ』
ベトナム短編。各々に屈託を抱えつつ前に進もうとする人々の群像劇、の醸す若さと言い知れないダルさがいかにも今日のベトナムで、そこにドラマとか作為とか余計だしいらないなと思わせてしまう力こそこの監督ファン・ゴック・ランの強みなのかも。
『月間最優秀労働者』
フィリピン短編、1987年生まれのカルロ・フランシスコ・マナタッド監督作。ガソリンスタンドで働く二人の男女とやって来る客の各々が少しずつ日常のルーティンを脱臼させ、積み重なった脱臼がやがて不条理を驀進させる。不穏と暴発の気配を孕むガソリンスタンドの場所性は現代の普遍だなとか。
いつもよりだいぶ作品数多いので、恒例の余談はおやすみです。
おはようございます。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh